狂気か、天才か? チリー・ゴンザレスの音楽活動に迫ったドキュメント
唯一無二の音楽性で知られる天才ピアニスト、チリー・ゴンザレス。クラシックとジャズで培ったピアノ技術とラッパースタイルでアンダーグラウンドシーンから頭角を現し、異端の天才として時代の寵児となる彼のバイオグラフィーと現在に追ったドキュメンタリーが9月29日(土)から公開される。彼を知っている人もまだ知らない人も、黙って、ゴンゾに魅せられろ!
〈狂気の音楽家〉〈挑発の天才〉そして〈真の芸術家〉。さまざまな異名をとる音楽家チリー・ゴンザレス。
彼の活動を追ったドキュメンタリー映画『黙ってピアノを弾いてくれ』を見ると、ビョーク、ダフト・パンク、ジェーン・バーキンら一流のアーティストが、なぜ彼への賛辞を惜しまないかが理解できる。
そして今まで彼の名前を知らなかった人でも、たちまちにその魅力にとりつかれてしまうだろう。
彼はいったい何者か!?
チリー・ゴンザレス。
カナダ・モントリオール出身の作曲家であり、ピアニストである。
ダフト・パンクのグラミー受賞アルバム『Random Access Memories』に参加し、作曲家としてファイストを世界的アーティストに引き上げ、ジャーヴィス・コッカー、ピーチズらとのコラボレーションでは彼らにインスピレーションを与え続けている。
ピアノファンには彼の名は、2004年からの傑作シリーズ『Solo Piano』のアーティストとして記憶に新しいのではないだろうか?
この9月7日にも三部作の最終章『Solo Piano III』が世界同時リリースされ、話題を集めている。
このシリーズでのピアノの音は、素朴で優しく、心の奥にしまった古い記憶に触れるような風景を見せてくれるが、彼自身はこの最新作に対してこうコメントしている。
「この作品の純潔さは現代への解毒的役割ではなく、私たちの周りにある美しさと醜さを反映したものです」
確かにハ長調中心の穏やかな楽曲の中に、不協和音や非和声音が過去作品に比べて増え、より奥深い感情を大事にしているように思える。
そんな多彩な活躍を続けるゴンザレス(親しい者は彼のことを愛情を込め“ゴンゾ”と呼ぶ)の人物像を探索すべく、映画は過去の映像も用い、彼の活動を追っていく。
母国カナダから90年台後半のベルリンの混沌。そしてパリを経て世界の名だたるフィルハーモニーホールでの公演。
母国カナダでは、映画音楽作曲家の兄との音楽的ルーツに触れ、ベルリンではピーチズとのあまりにアバンギャルドな活動を。
そして現在のゴンゾの孤独に触れるようなピアノ演奏。
作曲家、ピアニスト、パフォーマンスアーティスト、ラッパー、シンガー、プロデューサー、コンポーザー、ポップアイコン。そして徹底したエンターテイナー(27時間を超える演奏時間でギネス記録を保持している)
一体彼は何者なのか? 変化し続ける彼を追いかけるたびに、ゴンゾは姿を変え観客の手をするりと抜けていく。
その裏切りが心地よく、僕ら観客はますますゴンゾに魅了されていく。
美しく、醜く、常に挑発的であるチリー・ゴンザレス。
天才ゆえの魅力がたっぷり
そういえばこの映画の原題『SHUT UP AND PLAY THE PIANO』は、同じく挑発的だった天才的音楽家、フランク・ザッパの1981年作品『Shut Up ‘n Play Yer Guitar』(邦題 黙ってギターを弾いてくれ)を思い出させる。
ともかく彼の魅力が詰まったこの映画、プレミア上映を果たしたベルリン映画祭では会場を爆笑と感動で包み込み、満員の劇場をスタンディングオベーションの拍手で満たされたそうだ。
ところで映画の終盤、楽譜の読み方をピアノの前で独り勉強し直すゴンゾが出てくるが、現在の彼は音楽教育者として優れた功績を残している。
2015年にリリースされたピアノ練習曲集『Re-Introduction Etudes』では初心者に向けて演奏のコツと無料ダウンロードで楽譜まで提供している。
初心者向きでありながら、音楽的情緒に富む素晴らしい作品である。
こちらもぜひチェックしてみて欲しい。
チリー・ゴンザレス。
同時代に生きる天才の活躍を、ぜひスクリーンで確認してみて欲しい。
監督:フィリップ・ジェディック
製作:スティーヴン・ホール、アントワネット・コスター
出演:チリー・ゴンザレス、ピーチズ、トーマ・バンガルテル(ダフト・パンク)、ファイスト、ジャーヴィス・コッカー、ウィーン放送交響楽団ほか
9月29日(土)より渋谷・シネクイント他にて全国順次公開
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