読みもの
2024.10.31
聴く耳と演奏力が育つ

「第九」で学ぶ!楽典・ソルフェージュ 第2回 音名

音大受験生や音大生はもとより、楽器や歌、音楽鑑賞を楽しむ人までを対象にした、楽典とソルフェージュの連載。国民的人気曲「第九」を題材に、楽しみながら耳を育て、スコア・リーディングにも挑戦! 楽典の学びを実践するエクササイズで、表現力やアンサンブル能力を磨きましょう。

今村央子
今村央子

東京藝術大学作曲科卒業、同大学院ソルフェージュ科修了。パリ国立高等音楽院エクリチュール科、ピアノ伴奏科卒業。帰国後は作曲家・ピアニストとして活動を展開。近年は、特に協...

イラスト:駿高泰子

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みなさま、こんにちは。

今回は音名を学びます。日本でクラシック音楽について説明するときには、日本語(ハ-ニ-ホ-ヘ-ト-イ-ロ)とドイツ語(C-D-E-F-G-A-H)がよく用いられます。

もっとも馴染みがあるのはイタリア語(ドレミファソラシ)ですが、これは階名として用いられ、音名と区別されます。階名とは、ある音が音階のなかでどのような相対的位置を占めるかを示す名前です。

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【楽典】

1、 音名

まず、おもにクラシック音楽で使われる言語で、幹音(ピアノの白鍵を音階として考えた音)がどのような音名表記になるか、ドイツ語、日本語、イタリア語、フランス語、英・米語で見てみましょう。

音の名前については、イタリアのグイード・ダレッツォGuido d’Arezzo(991/2頃〜1033以降)の著書『音楽小論Micrologus』に触れる必要があるでしょう。

そこには、当時、音名をもっとも低い音からアルファベットを用いて記していたことが書かれています。

そしてグイードは、中世の聖歌である「聖ヨハネの賛歌 Ut queant laxis」の6つの小句の最初のシラブル(音節)が、異なる音から始まることを指摘しました。そこから歌をやさしく教える方法として、「ヘクサコルド」というut re mi fa sol laの6音からなる音組織を普及させました。

▼グイード「聖ヨハネの賛歌 Ut queant laxis」

グイード・ダレッツォ
「聖ヨハネの賛歌」の楽譜

ヘクサコルドは、ut re miとfa sol laがそれぞれ2つの全音、中央にmi fa の半音をはさむ音程からなっています。

utから始まるものを「自然」faから始まるものを「柔らかい」sol から始まるものを「固い」ヘクサコルドと呼びました。

ヘクサコルドを使って歌の練習をすることを「ソルミゼーション」と呼び、「ソルフェージュ」の語源となりました。

utがdoに変わり、siが加わって、現在の7音の音階が定着したのは17世紀になってからのことです。

現在、「音の名前」を表すのに、日本語、英語、ドイツ語ではAの音を基準にした「音名」の考え方をします。

ドイツ語では、「シ」をH、「シ♭」をBとしますが、これはヘクサコルドでを「固い」、b を柔らかい「シ」と区別したことに由来します。「固い」はドイツ語で “hart” と書きます。

日本語は、真言宗の開祖である弘法大師が伝えたとされる「いろは歌」(かな47文字をすべて1度ずつ用いた手習い歌)の最初の7文字を、Aから順に当てはめています。

2、階名

一方、ふだんの音楽生活の中ではドを基準にしたイタリア語の読み方、いわゆる「階名」を使うことが多いです。小学校に入学して最初に触れる鍵盤ハーモニカでも「ドレミ」から学びますし、ピアノの真ん中の「ド」と言うこともありますね。

そもそも、グイードが歌の練習のために「歌詞ではなく階名で音を取る練習をする」ことを普及させたことを思い起こせば、「ドレミ唱」は千年も昔に考案された方法を今でも受け継いでいるわけです。とても感慨深いですね。

音域を指定して音高を表す場合は、一般的にアメリカ式の表記を使うことが多いようです。日本の楽典の問題などでは、日本の表記を使うこともあります。

例として、「第九」第1楽章主要主題の最初の音(16小節の最後の16分音符D)の実音を、音域に応じた表記で大譜表に書き起こしてみます。

高さが違う4つのD音をどのように楽器に配分しているか、よく分かります。

3、ドイツ音名

さらに、日本でクラシック音楽の話をする時には、よくドイツ音名を使います。音楽大学では日常的に使います。読み方を確認しましょう。

幹音ではAを「アー」と読み、Eを「エー」と読むのが混乱しやすいところです。

幹音を♯で半音上げるにはis(イス)を加え、(ダブルシャープ)はさらにis(イス)を加えます。

♭で半音下げるには、es(エス)を加えます。Es、As、Bは例外です。(ダブルフラット)はさらにes(エス)を足します。

エクササイズ

1、音域を音名で表してみよう

「第九」の第1楽章はAとEの音だけで始まります。

 

冒頭ページのそれぞれの楽器がどの音域で演奏されるか、アメリカ式表記で記してみましょう。

(答え)

オーケストラのチューニングのAは、A4ですね。日本語だと一点イ音です。

コントラバスは、記譜音ではE3A2ですが、実音は1オクターヴ低いE2A1です。

 

2、ドイツ音名で読んでみよう

「第九」第3楽章は、最初に提示されるコラールのような旋律が印象的です。

 

91小節からは、フルートが変形したコラールの旋律を変ハ長調で演奏します。91~92小節2拍目までのフルート・パートに出てくる音を、順番にドイツ音名で読んでみましょう。

(答え:Ces Ges Fes Es)

次に、99小節からは冒頭のコラールが第1ヴァイオリンで装飾されて演奏されます。

 

109小節3~4拍目(8分音符7~12拍目)の半音階を、ドイツ音名で言ってみましょう。

(答え:F B H C Cis D Es E F Fis G F)

今回のまとめ

最後に、第3楽章冒頭のコラールの旋律と、83小節~114小節を聴いてみましょう。

(30:20~)

(36:45~)

変奏している様子が聴き取れましたか?

次回(第3回)は「音程」について学びます。お楽しみに。

今村央子
今村央子

東京藝術大学作曲科卒業、同大学院ソルフェージュ科修了。パリ国立高等音楽院エクリチュール科、ピアノ伴奏科卒業。帰国後は作曲家・ピアニストとして活動を展開。近年は、特に協...

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