読みもの
2019.06.15
【絶賛公開中】映画『氷上の王、ジョン・カリー』

フィギュアスケートを芸術に高めた孤高のスケーターを描く映画『氷上の王、ジョン・カリー』

高橋大輔選手、羽生結弦選手の活躍もあってフィギュアスケートはスポーツであると同時に、アートであるという認識が浸透しました。そんな「芸術としてのフィギュア」に先鞭をつけたレジェンドがスクリーンで蘇ります。

同じ時代を駆け抜けた天才バレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフの生涯と、どこかオーバーラップする孤高のスケーターを描いた『氷上の王、ジョン・カリー』を舞踏評論家の渡辺真弓さんが紹介してくれました。

ナビゲーター
渡辺真弓
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渡辺真弓 舞踊評論家、共立女子大学非常勤講師

お茶の水女子大学及び同大学院で舞踊学を専攻。週刊オン・ステージ新聞社(音楽記者)を経てフリー。1990年『毎日新聞』で舞踊評論家としてデビューし、季刊『バレエの本』(...

© New Black Films Skating Limited 2018/© Dogwoof 2018

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世紀の天才舞踊手ルドルフ・ヌレエフの伝説の亡命劇にスポットを当てた映画『ホワイト・クロウ』が今話題になっているが、同時上映中の『氷上の王、ジョン・カリー』も音楽、ダンス・ファンにぜひ見てほしい映画である。

1970年代に活躍した英国出身の天才スケーターの栄光と孤独に迫ったドキュメンタリーである。これが、驚くほどヌレエフの人生とオーバーラップしていて、あのヌレエフが氷上で踊っているのではないかと錯覚させられる。それほどこの2人の伝説のスターには共通点が多い。

フィギュア・スケートに「美」を持ち込んだ男、ジョン・カリー

カリーは1949年英国バーミンガム生まれ。バレエを習いたかったが、厳格な父親がそれを許さず、アイススケートのレッスンを始める。厳しい父親がバレエを習うことに反対したのはヌレエフも同じだった。

カリーが16歳のとき、父親が自殺。その後、ロンドンを拠点に研鑽を積み、1970年代、全英チャンピオンに輝く。1973年、アメリカ人のスポンサーの援助を得て、アメリカに移住、著名なカルロ・ファッシらの指導を受ける。キャリアが頂点に達したのは、1976年のインスブルック冬季五輪で金メダルを獲得したときである。それまで、上位を占めていたのは、ジャンプや回転に強いロシア勢で、カリーのような美を優先したスケーティングは、国際大会で理解を得られなかったのだ。

収集された記録映像をもとに、カリーの周辺の人々の証言を交えて構成した映像には説得力がある。天才スケーターとしての至芸に迫るとともに、同性愛者として反対運動の標的になり、やがて20世紀の難病エイズの犠牲者になった、キャリアの光と影をクローズアップ。カリーは、1994年4月、44歳の生涯を閉じる。ヌレエフが同じ病に倒れた翌年のことだった。

芸術的なスケーティングは「氷上のバレエ」

カリーの最大の功績は、フィギュアスケートというスポーツをバレエのような芸術の域に高めたことだろう。ヌレエフもまたロシアの古典バレエに新たな息吹を吹き込んだ改革者であった。

そのスケーティングの特徴は、背筋がピンと伸びた美しいライン、技を誇示しない優雅な身のこなし等にある。もし彼がダンサーの道を歩んでいたならば、どれほど素晴らしいスターとなったことだろう。スケートの利点は、ポーズをとったまま場所を移動できること。彼は、スケートとダンスを結合させたカンパニーを作るという夢を実現させた。

監督のジェイムス・エルスキンのコメントをご紹介しよう。

「私のねらいは孤高のジョン・カリーの演技をスクリーンに蘇らせ、彼の魂を呼び起すことだった。映画館に来てくれた観客がライブを見ているようなものにしたかったんだ。音楽を入れたとき、スケートの滑走音と観客の歓声が混ざって体がゾクッと震えたよ」

本作監督のジェイムス・エルスキン。

美しい音楽も注目ポイント! 往年の名演技とともに心を震わせて

収集された映像を通して、カリーの輝かしいキャリアの片鱗を偲ぶことができるのは貴重だ。主な曲目は次の通り。

リムスキー=コルサコフ:《シェヘラザード》

カリーの自作自演のソロで、バレエを見るよう。

ドビュッシー:《牧神の午後》

ノーマン・マアンの振付で、牧神のカリーとニンフのキャシー・フォルクスのデュエットはこの上なく官能的だ。

『ムーンスケート』ラヴェル:ピアノ協奏曲

エリオット・フェルドがラヴェルの『ピアノ協奏曲ト長調』に振り付けたソロ。「追求」をテーマに、カリー自身のメランコリックな内面を表現。

『タンゴ、タンゴ』

ストラヴィンスキーとゲーゼの音楽に、NYCBのピーター・マーティンスが振付けた小粋なデュエットである。カリーとアリシア・スターバックの共演。

ヨハン・シュトラウスⅡ世:《美しく青きドナウ》

ヨハン・シュトラウスⅡ世の名曲にカリーが振り付け。カリーと3人の仲間たちが、「友情」をテーマに一緒に踊るカルテットは、流れるように美しく、映画の最後を締めくくるにふさわしい。

カリーの妙技に重ねて、ガリーナ・ウラーノワの『白鳥の湖』や『ジゼル』、ウラジーミル・ワシーリエフの『ドン・キホーテ』などの歴史的なバレエ映像が断片的に登場するのも嬉しい。スケート=バレエという監督の美意識が伝わってくる。

映画で使われているすべての音楽は、この映画のためにブラチスラバ交響楽団による演奏で再録音されたもの。
映画『氷上の王、ジョン・カリー』
イベント情報
映画『氷上の王、ジョン・カリー』

新宿ピカデリー、東劇、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか公開中

© New Black Films Skating Limited 2018/© Dogwoof 2018

監督:ジェイムス・エルスキン
出演:ジョン・カリー、ディック・バトン、ロビン・カズンズ、ジョニー・ウィアー、イアン・ロレッロ
ナレーション:フレディ・フォックス
(2018年/イギリス/89分/英語/DCP/16:9/原題:The Ice King)
字幕翻訳:牧野琴子
字幕監修・学術協力:町田樹
配給・宣伝:アップリンク

ナビゲーター
渡辺真弓
ナビゲーター
渡辺真弓 舞踊評論家、共立女子大学非常勤講師

お茶の水女子大学及び同大学院で舞踊学を専攻。週刊オン・ステージ新聞社(音楽記者)を経てフリー。1990年『毎日新聞』で舞踊評論家としてデビューし、季刊『バレエの本』(...

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