フィギュアスケート界のスキャンダル女王が映画『アイ, トーニャ』で再注目!
フィギュアスケート界を揺るがした「ナンシー・ケリガン襲撃事件」を覚えているだろうか。当時ライバルだったトーニャ・ハーディングが容疑者として浮上し、人生の頂点からどん底までを経験する。壮絶かつワイルドかつ笑える半生を描いた作品の見どころを、世代もどんぴしゃなよしひろまさみち氏が、やや興奮気味に解説します!
音楽誌、女性誌、情報誌などの編集部を経てフリーに。『sweet』『otona MUSE』で編集・執筆のほか、『SPA!』『oz magazine』など連載多数。日本テ...
才能あるトーニャがスキャンダラスでロックな女になったワケ
トーニャ・ハーディング、という名前を聞いてピクッと反応するのは、アラフォー世代。ピクリとも動かないのはそれより下。と、これほど90年代のフィギュアスケート界を騒がせた人はいない、と言い切ってもいいスキャンダルの女王が彼女。
そのトーニャの伝記映画が『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』。でも、彼女がタダの人だったらスキャンダルになるわけもなく、才能と実力があったからスタースケーターになったってことも忘れちゃいけませんよ。公式戦で難しいジャンプを飛んで記録に残すことが難しいことは、トーニャを知らない人でもわかるはず。アルベールビル・オリンピックで伊藤みどりが女子スケーターで初めて成功させたトリプルアクセルを、その後の世界選手権でキメたのが彼女。当時も大騒ぎだったし、スケート界から永久追放された今でもトーニャの功績は残っているんだから、その快挙は大きなこと。
だのに~な~ぜ~♪ なのですよ! そこまでの才能があったスケーターが、ダメダメのダメ女になってしまったかが、この映画で描かれているのですよ!
トリプルアクセルに成功し、人生の絶頂を迎えるトーニャ
ストーリーとか解説は省いちゃう。だって、もう公開しているし、なんならググってちょーだい。要はマスコミでさんざんたたかれまくっていたトーニャのイメージは、その一面だけで語られるべきではなかったってこと。
あの当時、トーニャは「ライバルを襲ってケガさせてまで五輪に出たがった性悪女」というレッテルを張られていたけど、じつはそうじゃなかったってこと。彼女の育った環境がそのイメージを作り出した、という偏見を浮き彫りにしているのね。
しかもこの映画、ブラックコメディなのよ。本人全面協力の上で、とてもじゃないけど笑うに笑えないエピソードを重ねているけど、それを笑いにしちゃってるの。そこがこの映画が傑作たるゆえん。
特に、毒母ラヴォナ(アリソン・ジャネイ)は強烈。ラヴォナがワーキングクラスの毒母じゃなかったら、トーニャがダメンズに走らなかっただろうし、フィギュアスケート界でも可愛がられたんじゃないか、って思うほど。それだけ子の育つ環境とか教育って大事よね~っていうお話になっているの。
しかも、トーニャはスキャンダラスだからこそ、ロックな女! っていうことを改めて感じさせる演出なのよ。
毒母ラヴォナを憎たらしく演じたアリソン・ジャネイ
その味付けになっているのがサントラ。オリジナルスコアもあるけど、70年代ロックを中心とした選曲で、アゲアゲのロック女を演出してるのよ~。これがトーニャが活躍した90年代に合わせた当時流行の楽曲で構成したら全然説得力ないわ。その判断を下したクレイグ・ギレスピー監督と音楽スーパーバイザーのスーザン・ジェイコブスはエライ!
特にスーザンの人選は、この手のサントラ選曲に関してはプロ中のプロ。なんせ、デヴィッド・O・ラッセル監督が手がけた『世界に一つのプレイブック』、『アメリカン・ハッスル』、『ジョイ』という「このシーンのために書かれた曲じゃないかって錯覚するくらいにハマる選曲」とどれも評されている作品群でその才能を発揮している人(ちなみに彼女、最近では似たような評価を受けているドラマ『ビッグ・リトル・ライズ』も手がけてます)。
たとえば、予告編(http://tonya-movie.jp)で使われているシカゴの「長い夜」なんて、どうしてトーニャでこの曲? と思いつつも、ブラスロックのドライブ感が異色フィギュアスケーターだった彼女にはジャストミートしていると思わない?
忘れちゃいけないのは、そもそもトーニャ自身の演技選曲もロックだったこと。劇中でも出てくるんだけど、Z.Z.Topの「Sleeping Bag」やLa Tourの「People Are Still Having Sex」などは、当時の彼女が本当に演技で使っていたんですよ(ヴォーカル入りの楽曲使用が禁じられていたから、インストバージョンだったけど)。トーニャが生きた時代は70~80年代だったから、好きな楽曲もそっちってわけで、それに合わせて、とにかくアゲアゲでパワフルなクラシックなロックを中心に選曲をしているのよね。
プラスして、ガールズ・ソウルの伝説的ユニット、アン・ヴォーグやローラ・ブラニガンのユーロビートなど、いわゆるガールズパワーを象徴するようなダンサブルチューンまで使っているから、観ている側の高揚感もハンパないんですわ。これぞゴシッピーでロックな人生を歩んだトーニャらしい! と、トーニャを知る世代だったら納得してくれると思うわ~。
トーニャもこの楽曲も知らん、という若い方。百聞は一見にしかず。何の予習もしないでいいから、とにかく観て。知らなくても、トーニャのトンデモ人生とロックの名曲群で妙な高揚感に包まれることを保証! そこから掘り下げて下さればOKよ。
トップスケーターとして世界中から愛されたはずだったが……
1994年の1月6日。リレハンメルオリンピックの代表選考会となる全米選手権の会場で、優勝候補とされていたナンシー・ケリガンが、練習後に何者かに右ひざを殴打され怪我を負う。当然、彼女はこの大会の欠場を余儀なくされ、トーニャ・ハーディングが優勝を飾る。ところが、事件発生から約2週間後に、トーニャの元夫らが襲撃事件の犯人として逮捕され、トーニャの関与も疑われる。全米スケート協会とアメリカオリンピック委員会は聴聞会を開き、トーニャのオリンピック出場権をはく奪しようとするが、彼女は聴聞会を妨害するために訴訟を提起。泥沼に陥りながらも、最終的にトーニャの主張が通り、リレハンメルオリンピックに出場する。しかし、オリンピックではトリプルアクセルの失敗や靴ひもの不具合などでふるわず8位入賞に終わる。一方、特例で出場したナンシー・ケリガンは銀メダルを獲得し、悲劇のヒロインとして大きく取り沙汰されることに。
悲劇のヒロインとして脚光を浴びたナンシー役を演じたケイトリン・カーヴァー
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