室内楽に取り組むにあたって考えること。そして梅雨に始めた新しい趣味
人気実力ともに若手を代表するピアニストの一人、牛田智大さんが、さまざまな音楽作品とともに過ごす日々のなかで感じていることや考えていること、聴き手と共有したいと思っていることなどを、大切な思い出やエピソードとともに綴ります。
ワルシャワは初夏になりました。私はいま、6月から始まる初めての室内楽公演に向けて準備に取り組んでいます。これまでにもお話をいただくことは少なからずあったのですが、なぜかいつもタイミングがうまく合わず、今回ようやく念願がかなうことになりました。年齢からすれば遅すぎるくらいと思ったりしますが、とても楽しみにしているところです。
私が本格的に室内楽を勉強しはじめたのは、チェロの故桑田歩先生の室内楽クラスでのことでした。先生の室内楽クラスでは当時グループレッスン形式がとられていて、自分が演奏しないときには見学できるのですが、いつも参加する学生のレベルの高さに圧倒され、楽譜いっぱいにたくさんの書き込みをして帰ったことをいまでも思い出します。
室内楽を演奏するのに重要な2つの要素
よく言われるのは、室内楽を演奏するためには、複数の奏者が、
①お互いに歩み寄ることで「ひとつの音楽をつくろうとする」
②それぞれが最大限に主張することで「複数の独立した音楽を同時並行で存在させる」
という2つの(ある意味で)矛盾する要素が必要だということです(このほかに「一方の奏者がもう一方に完全に合わせる」=主従関係のようなケースもありますが、少なくとも理想として掲げることは避けたいものです)。
当然ながら①と②のどちらの要素も重要で、つねに存在していなければならないのですが、②の要素が強いほうが音楽としては複雑さが増してだんぜん魅力的になります。ただ(どちらかが経験不足だったりして)奏者間でうまく落としどころが見つけられないと、作品の中にある大事な要素が崩れてしまう危険性があり、良いバランスを見つけるのが本当に難しいです。①の要素が強くなるとアンサンブルとしては安全になりますが(練習ではもちろん①が大切です)、いくらか生命力が薄れたような音楽になる危険があるのです。
そんな難しさを前提に、はじめて桑田先生に教えていただいたのは、なんとショパンの晩年のチェロ・ソナタの第3楽章でした。見学のつもりで伺ったクラスで突然「聴いたことくらいあるでしょ? 初見でいいから弾いてみようよ」とご指名をいただいて、はじめて見た楽譜の(聴いた時のシンプルな印象に反する)難しさに慌てふためいた思い出があります(この作品は6月に上村文乃さんと演奏します)。その後もベートーヴェンのチェロ・ソナタやモーツァルトのカルテット(実はこれも浜松国際ピアノコンクールで演奏した思い出の作品です)、ショパンのトリオなどを教えていただきました。
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