読みもの
2020.08.31
週刊「ベートーヴェンと〇〇」vol.28

ベートーヴェンとピアノ(その3:エラール)

年間を通してお送りする連載「週刊 ベートーヴェンと〇〇」。ONTOMOナビゲーターのみなさんが、さまざまなキーワードからベートーヴェン像に迫ります。
第28回も、ピアノの話。「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いた翌年、フランスのピアノ「エラール」を得て、ベートーヴェンはどんなソナタを書いたのでしょうか。

飯田有抄
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

写真:オーストリアのオーバーエスターライヒ州立博物館(リンツ城博物館)にある、ベートーヴェンの弟によって寄贈されたエラールのピアノ。
https://www.ooelkg.at/de/video-news/videos-detail/hammerfluegel.html

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エラールで可能な表現を《ヴァルトシュタイン》や《熱情》に活用!

1802年、ベートーヴェンは難聴に悩む自信の苦しみを吐露する手紙をふたりの弟たちに宛てて書いた。手紙は実際に送られることはなく、ベートーヴェンの死後に見つかったもので、そこには苦悩の末に自らの芸術家としての使命を語る熱い思いも綴られていた。「ハイリゲンシュタットの遺書」と呼ばれるこの文書を書いた翌1803年、ベートーヴェンは真新しいピアノを手にする。

フランスのエラール社から贈られた最新型のピアノである。

鍵盤は5オクターブ半(68鍵)に広がり、ダンパーは現代のピアノと同様に足で踏むペダルで上がる。弱音機能や音色変化をつけることのできるペダルも付いている。ヴァルター(その2参照)が軽やかでクリアな音質が特徴だったのに対し、このエラールは力強くドラマティックな響きがした。その秘密は、「突き上げ式」と呼ばれる機構のアクションにあった。

オーケストラのようにダイナミックな表現を可能にするエラールのピアノを得たベートーヴェンは、その響きに大いに触発されて、ピアノ・ソナタ第21番《ヴァルトシュタイン》を書いた。第1楽章の冒頭は、和音の連打で開始し、第3楽章ではペダルの指示を細かく楽譜に書きつけている。新しいピアノでやれることを、嬉々として取り入れているベートーヴェンの姿が目に浮かぶ。

1802年製のエラール (レプリカ)を使用した《ヴァルトシュタイン》の演奏。(ピアノ:アレクセイ・リュビモフ)

また、ピアノ・ソナタ第23番《熱情》では、エラール の最高音のド(c4)を登場させ、最新型の鍵盤をフル活用した。

残念ながらこのピアノは3年ほどで具合が悪くなってしまったようだ。新製品の造りが今ひとつだったのか、ベートーヴェンがよっぽどタフに扱ったのか……後者の可能性も高いかも?

飯田有抄
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

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