読みもの
2021.01.21
週刊「ベートーヴェンと〇〇」特別編

ベートーヴェンと宇宙〜カントから「第九」へ

年間を通してONTOMOナビゲーターのみなさんが、さまざまなキーワードからベートーヴェン像に迫る連載「週刊 ベートーヴェンと〇〇」。特集「宇宙」と聞いて、天文好きの大井駿さんが黙っていられず、特別編が登場!

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

ジーベンゲビルゲ山脈の後ろに広がる星空
©︎Sternwarte Siebengebirge(ジーベンゲビルゲ天文台)

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昨年はベートーヴェンイヤーに合わせて、ONTOMOのさまざまなナビゲーターの方が、ベートーヴェンにまつわることを紹介されました。まるで宇宙のように広がるベートーヴェンの世界をお楽しみいただけたかと思いますが、この記事では「ベートーヴェンと宇宙」に関してご紹介いたします!

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好奇心旺盛なベートーヴェン

ベートーヴェンは、若い頃から色々なことに興味を寄せていました。文学作品はホメロスに始まり、同時代のゲーテまでを片っぱしから読み、哲学にも目を向け、ピアノの新機種には目がなく、はたまたワインにも凝ってみたり……このように強い好奇心は、晩年まで尽きることがありませんでした。

そんなベートーヴェンは、宇宙にも興味を寄せていました。

少年時代、屋根裏部屋から望遠鏡で遠くを見ることが好きで、日中は遠くのジーベンゲビルゲ山脈を眺め、暗くなると夜空を眺めていたそう。

このことはドイツ観光局のポッドキャスト紹介記事でも触れていますので、若かりしベートーヴェン少年に興味のある方は、ぜひこちらの記事も読んでみてください。

カントを通して宇宙を知る

ベートーヴェンが読んだ本の記録に、イマヌエル・カントの『天界の一般自然史と理論』(1755年)という本があります。カントはドイツの哲学者ですが、実は天文学においても名を残しています。

この本では、「宇宙から太陽系が生まれたのは必然なのか偶然なのか」などの問いを追求し、それが必然であることを述べています。

ベートーヴェンはこの本を読み、1816年には自分のノートにこのような書き抜きもしています。

原子の偶然の集合が世界を形作っているのではない。(中略)世界秩序は偶然ではなく、必然性をもって理性に源を発しなければならぬ。

ベートーヴェン著、小松雄一郎訳編『音楽ノート』(岩波文庫)より

音楽家としての成功を志し、希望に燃えるなか、難聴を患ってしまったベートーヴェン。1816年ごろのベートーヴェンは、公の場で演奏活動ができなくなるほど難聴が悪化していました。宇宙に想いを馳せるだけでなく、「音楽家である自分が難聴になったのは偶然ではない」と言い聞かせるように読んでいたのかもしれません。

イマヌエル・カント(1724〜1804年)
形而上学という、「人間とは何か」「何のために生きているのか」のような本質を追い求める分野で有名な哲学者です。そしてもう一人、当時同じく形而上学で有名だった哲学者がモーゼス・メンデルスゾーン、作曲家のフェリックス・メンデルスゾーンのおじいさんです。カントはモーゼスを「ドイツの天才の筆頭」と呼び、尊敬していたそうです。

さらに4年後の1820年、ベートーヴェンは、当時ウィーン天文台の新しい台長となった天文学者ヨゼフ・ヨハン・リットローが新聞に書く宇宙に関するコラムを読むようになります。

ヨゼフ・ヨハン・リットロー(1781〜1840年)

そのコラムのなかでカントについて紹介された回があり、ベートーヴェンはそこで紹介された文章を書き抜きます。

私たちの中にある道徳法則、そして私たちの上に輝く星空!カント!!!

大井駿 訳

これはカントの代表作、『実践理性批判』の最後の部分(結論部分)に書かれた言葉を、リットローが言い換えた文です(原文が「私」としている部分を「私たち」に言い換えるなど)。

ここで用いられている星空という言葉には、ちょっとスピリチュアルな意味も含まれますが、そういった部分にもベートーヴェンは惹かれたのかもしれません。

ベートーヴェンによるカントの書き抜き。
ドイツ語で「Das moralische Gesetz in unß und der gestirnte Himmel über unß! Kant!!!」と書かれています。
ベートーヴェンが所持していたカント『実践理性批判』
ベートーヴェン博物館(ハイリゲンシュタット)蔵
(撮影・大井駿)

「第九」第4楽章の詩と宇宙

ベートーヴェンの書き抜きからも、星空だけではなく、宇宙という存在そのものにも興味を抱いていたことがわかりました。さて、これらの書き抜きがされたのが1816年と1820年ですが、この期間に作曲されていた曲……そう、交響曲第9番です。

実は歌詞を読んでみると、「太陽や星々が空を飛び交うような喜び」や「星空の彼方まで探し求めよう」など、宇宙を連想させる部分が数多く登場します。

ベートーヴェンはこの期間、宇宙にまつわる著作や記事を読むことによって感化されたに違いありません。新しい作品をどんな音楽にしようか、はたまたどんな詩を使おうかなど、色々と思いを巡らせた結果、交響曲第9番が完成したのでしょう。

ベートーヴェン:交響曲第9番《合唱付き》第4楽章より

交響曲第9番第4楽章の自筆譜

交響曲第9番の歌詞は、シラーの詩の一部を用いて書かれました。

原作の詩全体に目を通すと、「喜びこそが巨大な宇宙時計の歯車を回すんだ。そして空から恒星を集めて、それらをクルクル回転させよう」など、宇宙を舞台にした壮大な世界が広がっているのです。

ベートーヴェンが少年時代に出会ったこの詩。きっと当時のベートーヴェン少年も、夜中にベッドから這い出て望遠鏡で星々を覗き、こんな想像をしながらワクワクしていたかもしれませんね!

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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