読みもの
2020.11.02
週刊「ベートーヴェンと〇〇」vol. 37

ベートーヴェンとフランス語

年間を通してお送りする連載「週刊 ベートーヴェンと〇〇」。ONTOMOナビゲーターのみなさんが、さまざまなキーワードからベートーヴェン像に迫ります。
第37回は、ベートーヴェンとフランス語。ドイツ語圏のボンで生まれ、ドイツ語圏のウィーンで暮らしたベートーヴェンですが、実はフランス語も堪能だった?!

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

ベートーヴェンがジョージ・トムソンへ宛てて書いたフランス語の手紙(1818年3月11日)の表面。
©Beethoven-haus Bonn

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

ベートーヴェンが生まれたのはケルン大司教領のボン。現在のドイツで、当時もドイツ語圏でした。そして22歳から56歳で亡くなるまで過ごしたウィーンは、オーストリアの首都でした。オーストリアもドイツ語圏です。活動した場所からも、ベートーヴェンというとドイツ的な印象が強いかと思います。

さて、ベートーヴェンとフランス語……一体どういうことなのでしょう。

続きを読む

フランス語、それは貴族の言葉

1066年、フランス北西部のノルマンディー公ギョームがイングランド(イギリスの一部)に攻め込み、そのままイングランド王になりました。簡単に言えば、フランス人がイギリスの王様になったということです。それまでイングランドでは、ゲルマン民族の移住などによりゲルマン語(ドイツ語系統の言葉)が話されていました。しかし、この出来事以降、イギリスの王家をはじめ上流階級の人もフランス語を話すようになります(ノルマン・コンクエスト)。

やはり上流階級の人たちは、社交の場を大切にします。そこではさまざまな国の人と交流することが多く、その際の共通語としてフランス語が話されました。

それまでの共通の言葉はラテン語でしたが、次第にフランス語が優位となりました。その結果、論文もフランス語でも書かれるようになり、ドイツやイタリアの学者や文化人も、当たり前のようにフランス語を習得しました。

ベートーヴェンとフランス語

前置きが長くなりましたが、本題のベートーヴェンへ移りましょう。

ベートーヴェンは、幼少期よりボンの宮廷に仕えていました。宮廷ではフランス語が優勢だったので、ここである程度のフランス語力は問われたはずです。ベートーヴェンの時代の公文書もフランス語で書かれることがほとんどでした。さらに、彼が拠点としたウィーンはまさに貴族社会。パトロンと話をするにも、上流階級のなかで一目置かれるためにも、フランス語ができるというのは重要なことでした。

英語は今のような共通語としての地位はなく、ベートーヴェンも英語は話せませんでした(モーツァルトは英語を話せたものの、そこまで上手ではなかったそうです)。

英語が話せないベートーヴェンが、イギリス人とやりとりをする際に使用したのは……そう、フランス語です。特に、イギリスで出版業を営んでいたジョージ・トムソンから、民謡編曲の依頼を引き受けた際のやり取りは、フランス語で行なわれました。読んでみると、きれいなフランス語で書かれています。

左:フランス語でやりとりをしていたジョージ・トムソン。元スコットランド官吏のトムソンは、1790年ころから30年間にわたってイギリス各地の民謡を収集し、その旋律集を出版していました。
下:ベートーヴェンがジョージ・トムソンへ宛てて書いたフランス語の手紙(1818年3月11日)の裏面。©Beethoven-haus Bonn

どこまでフランス語が流暢だったかはわかりませんが、少なくともベートーヴェンがフランス語を問題なく操れたことは、当時の貴族社会を生き抜くなかで大きな手助けとなったことでしょう。

ベートーヴェンの先生であるF.J.ハイドンもフランス語が堪能で、イグナツ・プレイエル(ハイドンの弟子)とのやり取りのなかでは、同じオーストリア人にもかかわらず、フランス語でやりとりをしていました。

こうして当時のヨーロッパの歴史や、国同士の関係を紐解いてみると、作曲家の意外な一面が垣間見られます。フランス語を話すベートーヴェン……見てみたいです!

ジョージ・トムソンとのフランス語のやりとりで生まれた作品
スコットランド民謡集 作品108より第1番「音楽、愛、そしてワイン」

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ