2020.06.01
林田直樹のミニ音楽雑記帳 No.14
オペラを通して歴史を読む本〜加藤浩子著『オペラで楽しむヨーロッパ史』
林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
これは、よくある網羅的なオペラ入門とはまったく違う。
本書のテーマは、ヨーロッパにおける「歴史の転換点」のいくつかを知ることである。
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たとえば、モーツァルトの《フィガロの結婚》《ドン・ジョヴァンニ》《魔笛》を扱った章。そこで重点的に語られているのは、フランス革命という激動のさなかにあった18世紀末のヨーロッパ社会のさまざまな事象であり、そのオペラを成立させている状況を生き生きと捉えなおすことである。
イタリア統一運動とヴェルディの関係、ドイツ統一とワーグナーの関係については、政治的な問題を検証しながら興味深くまとめられているし、プッチーニ《蝶々夫人》とジャポニスムの流れ、ジャンヌ・ダルクやシェイクスピアといったテーマも、オペラを切り口にしながら、歴史についての多くの気づきをもたらしてくれる。
ヴェルディの《マクベス》に焦点を当てた章では、オペラのみならず原作のシェイクスピア戯曲とその成立事情、そして中世スコットランド史にまで遡っていく。
実際の歴史上の人物としてのマクベスは、残忍で小心な武将というよりは、むしろ治世の長い立派な王様だったとか、シェイクスピアがこの戯曲を書いたきっかけとなったイングランド国王ジェームズ1世(エリザベス1世の後継者、メアリー・スチュアートの遺子)は、魔女や悪魔が大好きだった話とか——歴史オタクには垂涎の逸話も豊富に盛り込まれている。
オペラ好きと歴史好きはとても相性がいい。
本書はこの2つを結び付け、好奇心を高め、考えるきっかけを作ってくれる一冊である。
林田直樹のミニ音楽雑記帳
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