2020.06.08
林田直樹のミニ音楽雑記帳 No.15
すぐれた芸術作品は〈孤独〉に連れ去ってくれる~木村元『音楽が本になるとき』
林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
音楽と聴き手との関係について書かれた、これは稀に見るような美しい本である。
なぜ私たちは音楽を聴くのだろう?
そして私たちが音楽を愛すれば愛するほど、なぜそれが必要だという感覚に強くとらわれるのだろう?
それは、有用性などという表面的な次元に置き換えられるものではなく、もっと深い、生きることの本質にかかわる何かだから、である。
芸術をわたしたちが愛するのは、それがひとりにしてくれるからである。数百人、数千人が一堂に会する演奏会、何時間も行列待ちをしなければ中に入れない美術展……どんなに多くの人が集う場所であっても、ほんとうにすぐれた芸術作品は、聴いた途端、観た途端にわたしたちを〈孤独〉へと連れ去ってくれる。痛いほどの孤独を心に感じながら、わたしたちは同時に、周囲の、自分と同じように孤独を感じているであろう多くの人々と共にある。(25ページより)
本書では、この友愛なる孤独を基礎に置きながら、さまざまな興味深い問題提起がなされている。
近代以降「〈神に代わって奇跡を起こす者〉を自認する」ようになった芸術家と聴衆との関係について。
インターネットにおける「音楽を見ることへのささやかな抵抗」。
いま改めて考える「古典」とは何か。それは「わかりやすさ、有益さ、生きやすさ」などとは対極にある「謎」であり「森」のようなものであるということ。
あたかも哲学の道をゆっくりと散歩するかのような、充実した思考の時間を、やさしく誠実な言葉によって、もたらしてくれる一冊である。
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