ムソルグスキーらがピアノに編曲していた(!)ベートーヴェンの弦楽四重奏曲
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
これまでベートーヴェンのピアノ・ソナタやピアノ協奏曲を全曲録音してきた、国際的に活躍するピアニスト児玉麻里が、その補巻ともいうべき、驚きの内容のアルバムを発表した。
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲より
- サン=サーンス編:第7番「ラズモフスキー第1番」op.59-1 ~第2楽章
- サン=サーンス編:第6番op.18-6 ~第2楽章
- バラキレフ編:第8番「ラズモフスキー第2番」op.59-2 ~第3楽章
- バラキレフ編:第13番op.130 ~第5楽章
- ムソルグスキー編:第16番op.135 ~第2、3楽章
モーツァルト(ベートーヴェン編):クラリネット五重奏曲K.581 ~第4楽章
これだけの超レアな編曲をよく集めたものである。
それにしても、ここから聴こえてくる音の何とフレッシュなことか。どの編曲も、単に弦楽四重奏をピアノに翻訳しただけではなく、演奏の見事さもあって、最初からピアノのための作品であるかのように、たっぷりと豊かに鳴り響くのだ。
とりわけ注目されるのが、ムソルグスキー編曲による、弦楽四重奏曲第16番からの2つの楽章。
第2楽章は、左手の執拗な低音の繰り返しとその変容が、「展覧会の絵」を彷彿とさせるようだし、第3楽章のゆったりとした瞑想は、宇宙的なまでの広がりを持っている。
国内盤ライナーノート(マリーナ・チュルチュワ)によれば、ロシア五人組の作曲家たちはみな、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲が大のお気に入りだったそうだ。
なかでもムソルグスキーは、ベートーヴェンのこの作品に取り組んだことによって、精神的危機から脱し、オペラ《ボリス・ゴドゥノフ》の作曲に向かうことができたという。
ちなみに《ボリス・ゴドゥノフ》の戴冠式の場では、ロシア民謡「天は神に感謝し」が使われているが、これはもともとベートーヴェンが弦楽四重奏曲第8番「ラズモフスキー第2番」第3楽章に引用していたものである。
生前のベートーヴェンのパトロンにはロシア貴族が何人かいたが、改めてベートーヴェンとロシアという結びつきについて、多くの示唆を与えてくれるアルバムである。
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