池袋の野外と劇場を行き来する

ヴァーチャルとリアルでファンを創出! 英国フィルハーモニア管弦楽団のデジタル活用の実態とは?

イベント
2020.01.15

リアルとヴァーチャルとを行き来しながら、名門オーケストラの最高のサウンドを立体的に楽しむ。そんな斬新な体験をもたらしてくれるビッグ・プロジェクトが、いよいよ池袋で始動!

体験した人
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター
飯田有抄
体験した人
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター
1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

リアル&ヴァーチャルで立体的な音楽像を結ぶ

英国ロンドンに本拠地を構えるフィルハーモニア管弦楽団が、まもなく来日する。フィンランド出身の指揮者、エサ=ペッカ・サロネンは、首席指揮者としてのみならず、アーティスティック・アドヴァイザーとしても、このオーケストラを統率してきた。彼はこの2020年をもって首席指揮者を退任するため、今回が彼らのタッグを目の当たりにできる最後の機会となる。

サロネンとフィルハーモニア管は、来日のたびに必ず池袋の東京芸術劇場で公演している唯一の海外オーケストラで、今回は日本での5公演のうち3公演が池袋の東京芸術劇場で行なわれる。ホールの響きを知り尽くした彼らが、今回のために肝入りのプログラムを引っさげて登場する(曲目については後述)。

目次

VRで目の前に指揮者! オーケストラに囲まれる!

そんな公演と併せてぜひとも体感しておきたいのが、フィルハーモニア管弦楽団が最新のデジタル技術を駆使して実現させた「VRサウンド・ステージTokyo」である(予約制・無料)。このバーチャル・リアリティの世界を実際に体験してみたが、驚くほどの臨場感だった!

会場は、東京芸術劇場の地下1階アトリエウエスト。椅子が15脚並んでいる。回転するので、自由に向きが変えられる。VRゴーグルは、レノボのスタンドアローンVRヘッドセット Mirage Solo with Daydream、ヘッドフォンはソニーのワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン WH-1000XM3。

VRヘッドセットヘッドフォンを装着すると、たちまちそこは、フィルハーモニア管弦楽団の本拠地、ロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールに早変わり

しかも、自分はステージ上にいる。目の前には指揮棒を振るサロネン、オーケストラにぐるりと囲まれているという状況。演奏は、マーラーの究極的に美しい交響曲第3番第6楽章の終盤へと、まさに差し掛かろうとしている。

上下左右、360度どの方角を見渡しても、3D映像が見えてくる。サロネンも弦楽器セクションもすぐそばに感じられ、手を伸ばせば届きそうだ。

担当編集(中央)がチェロのほうを向いているときに、筆者は天井かパイプオルガンのあたりを見上げているのか……?

真剣な表情で演奏する奏者たちと目が合いそうな気がしてドキドキしてしまう。サロネンの指揮棒の先端が、チェロ奏者に当たってしまうのではないかと心配になるほど近い。なんだか直視できないような、でもふつう絶対に味わえない光景に、瞬きするのも惜しいような、不思議な気分になる。

一緒に体感した取材チームの中には「ヴァイオリンの人と目が合ってしまった」とか「ヴィオラに素敵な人(日本人でメンバーの小倉幸子さん)がいて、ずっと見てしまった」という者もいた。ご贔屓プレイヤー発掘という、思わぬ出会いもありそうだ。

耳からは、オーケストラに取り囲まれているかのような臨場感あふれる響きが流れ込んでくる。指揮者の目の前は、ありえないほどの特等席である。すぐ近くにいる弦楽器群の聴こえ方は、客席で聴くそれとはまったく違う印象だった。とにかく近い。またそれだけでなく、ステージの床から反響してくる音も関係しているようだし、天井からの反響音もあるのだろう、下からも上からも、まさに全方位から豊かな響きで包まれるようだった。

おそらく聴覚から受ける音楽的情報は、視覚からの情報と相まって、自分の中でさらに何倍にも膨れ上がって印象付けられるのかもしれないが、自分もオーケストラのメンバーとなって、彼らと同じ響きを共有しているような感覚になれた。

音と映像は、2017年10月1日にロイヤル・フェスティバル・ホールで行なわれた実際のコンサートのもの。

サロネン指揮フィルハーモニア管のマーラー「交響曲第3番」第6楽章

フィルハーモニア管のデジタル・チームのプロデューサー、ダン・マンスローさんによれば、指揮台の正面に16個の小型カメラを360度の円形状に並べて設置し、オーケストラの各所には147本のマイクを設置して収録したという。このVRによる音楽体験は正味8分ほどなのだが、インパクトはかなり大きい。

デジタル・チームでは、VRプログラムの研究開発をさらに進めているとのこと。ダンさんは「今後は視聴者がオーケストラの中を歩き回れたり、耳を近づけた楽器の音が大きく聴こえる、といったことも体感できるようにしたい」と語った。

フィルハーモニア管のデジタル・チームのプロデューサー、ダン・マンスローさん。楽団員たちも、自分が演奏しているポジションと異なる視点で見ることができるので面白がっているそうだ。

本拠地ロンドンでのVR体験の様子

野外劇場でもサラウンドの響きを

フィルハーモニア管による体感型デジタル・プログラムはもう一つある。

会場は、東京芸術劇場の目の前にオープンしたばかりの池袋西口公園野外劇場「GLOBAL RING THEATRE(グローバルリング シアター)」だ。VRでは8分のみ体感できたマーラーの交響曲第3番第6楽章だが、野外ではおよそ30分にわたる楽章全体を通して聴くことができる。これは、豊島区が展開している野外クラシックコンサート「Tokyo Music Evening “Yūbe(夕べ)”」の一貫として行なわれるものだ。屋外のパブリック・スペースなので、仕事帰りなどにふらりと立ち寄ることもできる。

無料の催しであるが、映像や音響は格別だ。グローバルリング シアターには長方形の巨大スクリーンと、6本の柱に優れたスピーカーが設置されている。

池袋西口公園に2019年11月にオープンしたグローバルリング シアター。周りのイルミネーションも1月末まで点灯。フィルハーモニア管の演奏映像は、1月11〜31日まで毎日19時と20時半から流れる。

スクリーンには2Dで撮影された、極めて鮮明な映像が映し出される。サロネンの正面には、VR収録用に円形に並ぶ16台のカメラが見えるのも興味深い。

そして、グローバルリング シアターが誇る全方位からの音響は、柔らかく美しく、そして立体的にオーケストラの響きを届けてくれる。

屋外でありながらも、リングの中心部に立つと、街の喧騒が聞こえてこないから不思議だ(円の外側に近づくと、車の音や大手家電店のアナウンスが耳に入ってきた)。

期間中は、美しいイルミネーションも周囲に彩りを添え、グローバルリング カフェではホットワインも用意されるとのこと。凛とした冬の夜空の下で、フィルハーモニア管弦楽団の洗練された音と映像の世界に浸りたい。

グローバルリング シアターでは、8チャンネルのサラウンド・スピーカーからの響きに包まれる。

最新テクノロジーへの取り組みは、フィルハーモニア管のDNA

それにしても、なぜフィルハーモニア管は、内部にチームを結成するほどデジタル・プログラムに力を入れているのだろうか。実はこの姿勢は、同オーケストラの設立当初から続くひとつの「伝統」なのである。

フィルハーモニア管弦楽団は、1945年、オーディオ機器やLPレコードが家庭で使われることがブームとなりつつあった時代に、レコーディング・オーケストラとして創設された。20世紀を通じて優れた録音の数々を残してきた同楽団は、最新のデジタル・テクノロジーに対しても、常に先進的な取り組みを行なっている。音と映像のインスタレーションやVRプログラム、iPad用の音楽アプリ「オーケストラ」などの多様なコンテンツにおける感度の高さは、いわばフィルハーモニア管弦楽団のDNAなのである。

さらに、作曲家としての創意工夫のスピリットにもあふれるエサ=ペッカ・サロネンが首席指揮者/アーティスティック・アドヴァイザーに就任してからは、この取り組みはさらに加速したという。

その狙いとはもちろん、オーケストラという極めて情報量の多い音楽メディアが作り上げる、壮大かつ繊細な音楽の素晴らしさを、多様な人々のもとへと「届ける」ことにある。

「私たちが拠点としているロイヤル・フェスティバル・ホールがある建物内にも、人通りの多い公共スペースがあって、そこにスピーカーやスクリーンを設置したインスタレーションなどを無料で行なっているんです。

今回池袋に来てみたら、屋外にこんなに優れた音響設備の整った、さらに公共性の高い野外劇場ができているじゃありませんか。私たちのデジタル・コンテンツはサラウンドで録音していますし、これはもうぜひグローバルリングでも上演したいと思ったのです」

プロデューサーのダンさんはこう語ってくれた。

ダンさんと、イギリス・ルックで取材に臨んだ筆者。フィルハーモニア管は内部に8名のデジタル・チームを抱え、2DとVRに分かれて、音響メーカーなどとも協働して制作しているそうだ。

3日間の公演は、きっと歴史に刻まれる

そして究極は、なんといってもコンサートホールで生の音に触れる公演である。ヴァーチャルとリアルの掛け算の効力は、実際の空気振動からもたらされる生演奏の感動を知ってこそ、でもある。

東京芸術劇場でのサロネン&フィルハーモニア管は、今回の練りに練られた3日間のプログラムで集大成となる。それはこれまでの彼らの歴史を振り返る作品と、サロネン自身の最新作によって織りなされるのだ。

1月23日(木)19:00開演のプログラム

  • ラヴェル/組曲『クープランの墓』
  • J.シベリウス/ヴァイオリン協奏曲 (ヴァイオリン:庄司紗矢香)
  • ストラヴィンスキー/バレエ音楽『春の祭典』

 

※予定していたサロネン/チェロ協奏曲は、ソリストのトゥルルス・モルク(チェロ)が肺炎で来日できなくなったため変更となった。代わって、庄司紗矢香(ヴァイオリン)が出演し、J.シベリウス/ヴァイオリン協奏曲を演奏する

サロネンが作曲したチェロ協奏曲は、ヨーヨー・マに捧げられた作品であるが、ここにもデジタル技術が活用される。第2楽章では、客席に複数台設置されたスピーカーから、ソリストの発する音がこだまのように幾重にも響き渡る場面がある。呼応し合うかのような不思議なサウンドに包まれたとき、あなたは何をイメージするだろうか。

ヨーヨー・マとサロネンがチェロ協奏曲について対談

サロネン作曲のチェロ協奏曲(チェロ:ヨーヨー・マ)

1月28日(火)19:00開演のプログラム

  • シベリウス/交響詩『大洋の女神』op.73
  • ショスタコーヴィチ/ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 op.77 ※庄司紗矢香(ヴァイオリン)
  • ストラヴィンスキー/バレエ音楽『火の鳥』(1910年原典版)

ヴァイオリニストの庄司紗矢香 ©️Kishin Shinoyama

昨年11月のフィルハーモニア管との共演が絶賛されたばかりの庄司紗矢香。ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番については、「一瞬も聴き逃せない名曲」と語る。鋭くも深淵な響きを届けてくれることだろう。

ストラヴィンスキーの没後30周年(2001年)に、サロネンはフィルハーモニア管弦楽団とストラヴィンスキー・ツィクルスを録音している。鮮烈なかつ繊細な響きは名盤として愛され続けているが、23日の『春の祭典』とともに『火の鳥』も必聴だ。

1月29日(水)19:00開演のプログラム

  • サロネン/『ジェミニ』:「カストル」、「ポルックス」 ※日本初演
  • マーラー/交響曲第9番 ニ長調

双子座を意味するサロネンの作品『ジェミニ』。1等星の「ポルックス」と書き上げられたばかりの2等星「カストル」、今回は2曲を揃えての日本初演となる。

そして、サロネン自身の強い希望のもと、休憩を挟むことなく、マーラーの交響曲第9番が演奏される。マーラーの交響曲を取り上げることは、サロネンにとって特別な意味を持っている

彼がフィルハーモニア管弦楽団を初めて指揮したのは1983年。25歳という若さであったが、突如代演で引き受けることになったのが、マーラーの交響曲第3番だった(「VRサウンド・ステージTokyo」、グローバルリング シアターでの「Tokyo Music Evening “Yūbe” with Philharmonia」で最終楽章を取り上げている作品)

それまでサロネンは、この作品のスコアを見たことがなかったにも関わらず、本番では集中度の高い演奏を聴かせ、絶賛された。以来、同楽団と強い絆を結ぶことになったのだ。

回の来日公演で、マーラーが完成させた最後の交響曲第9番をプログラムの終わりに配置したサロネン。集大成の演奏は、最後の一音とその余韻まで、しっかりと味わいたい。

イベント情報
VRサウンド・ステージTokyo マーラー/交響曲第3番

VRヘッドセットとヘッドフォンを装着するだけで、フィルハーモニア管弦楽団のオーケストラの一員になったような没入感をサラウンド音響で体感!

日時: 2020年1月11日(土)~19日(日)、22日(水)~29日(水)

平日11:00~14:00、16:00~20:00、土・日・祝11:00~18:00

※プログラムは毎時00分と30分から開始(約20分間)

※各日最終プログラムは終了時間の30分前

会場: 東京芸術劇場 アトリエウエスト(地下1階)

料金: 無料

曲目: マーラー/交響曲第3番 第6楽章(終盤の約5分間)

指揮: エサ=ペッカ・サロネン

演奏: フィルハーモニア管弦楽団

収録日: 2017年10月1日

収録場所: ロイヤル・フェスティバル・ホール(ロンドン、サウスバンクセンター)

詳しくはこちら

前日までの予約申し込みはこちら

※当日受付は、各プログラム開始時間の60分前より、会場受付にて参加整理券を配布

Tokyo Music Evening “Yūbe” with Philharmonia

サロネンがもっとも美しいエンディングと語るマーラーの交響曲第3番の終楽章を、公園内ビジョンでの映像とサラウンド・スピーカーで。

日時: 2020年1月11日(土)〜1月31日(金)各日19:00~/20:30~

※同一プログラム、各回30分程度

会場: 池袋西口公園野外劇場「GLOBAL RING THEATRE」

料金: 無料

詳しくはこちら

東京芸術劇場 海外オーケストラシリーズ フィルハーモニア管弦楽団

1983年の伝説的なデビュー以来、30年以上ともに歩んできた、エサ=ペッカ・サロネンと英国フィルハーモニア管の集大成ともいえる3公演!

日時: 2020年1月23日(木)・28日(火)・29日(水)19:00 開演

会場: 東京芸術劇場 コンサートホール

曲目:

1月23日(木)19:00開演

  • ラヴェル/組曲『クープランの墓』
  • サロネン/チェロ協奏曲 ※日本初演 ※トゥルルス・モルク(チェロ)
  • ストラヴィンスキー/バレエ音楽『春の祭典』

 

1月28日(火)19:00開演

  • シベリウス/交響詩『大洋の女神』op.73
  • ショスタコーヴィチ/ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 op.77 ※庄司紗矢香(ヴァイオリン)
  • ストラヴィンスキー/バレエ音楽『火の鳥』(1910年原典版)

 

1月29日(水)19:00開演

  • サロネン/『ジェミニ』:「カストル」、「ポルックス」 ※日本初演
  • マーラー/交響曲第9番 ニ長調
    ※休憩なし

 

出演:

指揮:エサ=ペッカ・サロネン(首席指揮者&アーティスティック・アドヴァイザー)

チェロ:トゥルルス・モルク(1月23日)

ヴァイオリン:庄司紗矢香(1月28日)

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

 

チケット料金:

1月23日(木)・28日(火)公演 全席指定(税込)

S席 24,000円、A席 20,000円、B席 16,000円、C席 12,000円、D席 8,000円【23日・28日とも完売】、高校生以下 1,000円【23日・28日とも完売】

 

1月29日(水)公演 全席指定(税込)

S席 23,000円、A席 19,000円、B席 15,000円、C席 11,000円【完売】、D席 7,000円【完売】、高校生以下 1,000円【完売】

 

問い合わせ: 東京芸術劇場ボックスオフィス Tel.0570-010-296

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