35周年のキーメッセージは「夢を奏でる場所」〜サントリーホールは新たな時代へ
昨年はいち早く有料・無料の配信を取り入れたり、ウィーン・フィルの来日公演を成功に導いたりと、活動の継続に尽力していたサントリーホール。10月に開館35周年を迎える2021年は、さらにデジタル活用を加速させるとともに、アニバーサリーらしい大きな企画をいくつも控えている。総支配人の折井雅子さんに話を伺った。
1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...
80年代を象徴するように誕生したサントリーホール
東京オリンピック開催に向けて変貌する東京。先日、サントリーホールへ出かけた帰り、虎ノ門まで歩いてみた。歴史と伝統あるホテルオークラも新しいタワーとなり、時代の変化をしみじみと感じてしまった。サントリーホールがアークヒルズの一角に開館したのは1986年で、今年で35周年となる。
そのアークヒルズが完成する前、よくこの付近を歩いたものだった。地上波で「伝説のコンサート 山口百恵 1980.10.5 日本武道館」が放送され話題となったが、彼女はその年の暮れ、三浦友和と霊南坂教会で結婚式をあげた。霊南坂教会が一時期、若い女性の憧れの場所となっていたのを記憶している人は少ないだろう。披露宴は東京プリンスホテルで行われたが、披露宴の山口百恵側の主賓は当時CBSソニー会長で音楽家でもある大賀典雄であった。
その「伝説のコンサート」から6年後の1986年10月12日に、かつて霊南坂教会のあった場所にサントリーホールが開館した訳だ。東京で初めてのコンサート専用ホールとして、あのヘルベルト・フォン・カラヤンのアドバイスも受けながら建設されたサントリーホールは、初代館長となった佐治敬三の夢を具現化したコンサートホールでもあった。
落成記念コンサートは、ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮 NHK交響楽団によるベートーヴェンの交響曲「第9番」だった。35年ということは、生まれたときから「クラシック音楽を聴くのはサントリーホール」と当然のように思っている世代もきっと多いだろうし、サントリーホールでのコンサートがクラシック音楽初体験という方も多いに違いない。
その開館35周年シーズンを迎えるにあたって、開館当時から採用されているロゴマーク「響」(デザイン:五十嵐威暢)に、「夢を奏でる場所 The Home of Applause」というメッセージと、「35」という数字を加えた、記念イヤーのロゴマークを作った。
「“夢”という言葉は、佐治敬三がとても大事にしていた言葉でした。日本にクラシック音楽を本当の意味で生活文化として根付かせたい、という佐治の夢を具体化したのがサントリーホール。その志は、常に私たちの目標でもあります」
と語るのは、現在のサントリーホール総支配人・折井雅子さん。35周年を迎えるいまは、新型コロナウイルスの流行によって、クラシック音楽、コンサートホールの状況が大きく変わった1年だった。
終演後の拍手に音楽を通しての触れ合いを感じる
「お客さまに入場時の検温、手指の消毒をお願いするだけでなく、ドリンクコーナーなどの閉鎖、そして客席、バックステージでの密の回避、清掃などを徹底して行なってきました。感染対策を常にアップデートすることで、安心して音楽が奏でられる場所にしたいと努力しています」
コロナ禍の中で、ホール内でも会話を慎み、演奏終了後のブラボーなどのかけ声は出せない状況だ。
「それでも、お客様をお迎えしたとき、終演後の拍手の中に声には出せない感動、感謝の気持ち、音楽を通しての温かい触れ合いをより強く感じることがあり、改めて音楽の力を感じています」
昨シーズンは多くのコンサートが中止・延期となるなか、サントリーホールの主催公演の大きな軸となっている「チェンバーミュージック・ガーデン2020」は、無観客での演奏をオンライン配信するという試みも行なった。
秋には、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演も実現し、世界的な話題となった。
2021シーズンのオススメは?
さて、35周年にはどんな公演が待っているのだろうか。クラシック音楽がちょっと縁遠いと感じている方には、日本フィルとサントリーホールが協力して開催している平日午後の「とっておきアフタヌーン」はいかがだろう。
今シーズンは3公演が予定されていて、6月7日に「Vol.16」が開催されるが、高橋克典のナビゲート、神奈川フィルでも活躍する若手の川瀬賢太郎の指揮、そしてこちらも注目のヴァイオリニスト・岡本誠司が出演して、バッハの「ヴァイオリン協奏曲」、ホルストの《惑星》から「木星(ジュピター)」などを演奏する。シリーズ券もあるが、1回券もB席3300円からとリーズナブルな設定だ。
6月6日から27日には、10回目を迎える「チェンバーミュージック・ガーデン」が開催される。サントリーホールのブルーローズ(小ホール)を使った公演で、横長のステージを客席が取り囲むように配置され、とても演奏家と楽器が身近に感じられるセッティング。
室内楽ばかりだが、編成は弦楽四重奏から、もう少し大きめの編成までさまざまで、フォルテピアノが中心となった「フォルテピアノ・カレイドスコープ」というユニークな企画もある。ベートーヴェン好きには欠かせないベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏会「ベートーヴェン・サイクル」も毎年話題となり、今年はエルサレム弦楽四重奏団(イスラエル)が出演する。
11月には、サントリーホールとは深い関係を持つウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の公演が予定されているが、そのタクトをとるのは、2021年のウィーンでの「ニューイヤー・コンサート」でも指揮をした巨匠リッカルド・ムーティ。彼にとっても80歳の記念すべき歳での来日となる。
「ちょっと日常から離れ、お洒落をしてコンサートに出かけたいという方には、クリスマス・コンサートが良いかもしれません」(折井さん)
12月24日には日本を代表する古楽グループであるバッハ・コレギウム・ジャパンによる「聖夜のメサイア」が開催され、翌25日にも「サントリーホールのクリスマス 2021」と題した楽しいコンサートが予定されている。
そして、注目したいのが「デジタルサントリーホール」。これはデジタル空間にサントリーホールを再現して、そこでオンライン・イベント、動画配信、オンライン・ショッピングなどを楽しむことができる新しい試みだ。4月の開設を目指して、いまコンテンツなどを準備中というから、オープンしたら、またじっくりと探索してみたい。
新型コロナウイルスの流行は、まだ続くだろう。withコロナ時代のクラシック音楽の新しい楽しみ方を模索する、そんなサントリーホールの挑戦は始まったばかりだ。
[運営](公財)サントリー芸術財団
[座席数] 大ホール2006席(車いす専用スペース6席)
ブルーローズ(小ホール)380~432席(可動式)
[オープン] 1986年
[住所] 〒107-8403 東京都港区赤坂1-13-1
[問い合わせ]Tel. 0570-55-0017
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