イベント
2020.05.21
いまサントリーホールが伝える

困難な時代だからこそ心に響く、アーティストからのメッセージと動画配信

新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、世界中で演奏会や舞台上演が中止され、生の音楽に触れる場が失われている。そうしたなか、ネットでの動画配信はアーティストや音楽団体にとって、もはや欠かせない。
サントリーホールでは、自宅で音楽を楽しむためのコンテンツ「ENJOY! MUSIC プログラム【2020特別編】ご家庭で音楽を楽しもう!」を、公式サイト上で積極的に展開している。その主な内容をご紹介する。

林田直樹
林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

メイン写真:ウィーン・フィルがサントリーホールに送ったオリジナル動画より

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♪映像の追加情報♪

(2020年8月更新 編集部)

サントリーホールのWebサイトで展開中のENJOY! MUSIC プログラム【2020特別編】に、アーティストのメッセージが追加されている。そのうち、演奏が含まれる映像をここに紹介する。

そのほかのメッセージ動画は公式サイトにて。

 

ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団が、6月、しばらくぶりにフォルクスオーパー劇場前で演奏した映像

 

作曲家・指揮者のタン・ドゥンが、哲学者・老子に深い感銘を受けて “Prayer and Blessing”(祈りと祝福)を作曲し、4月にニューヨークと上海の音楽家がリモートで演奏した映像

ウィーン・フィルから日本のファンへのオリジナル動画

さすが、ウィーン・フィルが本気で動画を作ると、こんなにも芸術的に高いクオリティのものになるのか……。

いま、世界中の音楽家たちによっておびただしい数の無料動画が配信されているなか、サントリーホールがアップしたこの動画には、目を見張らされた。

オーストリアから、日本のクラシック・ファンに向けて送られてきた、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のダニエル・フロシャウワー楽団長(第1ヴァイオリン)と、ミヒャエル・ブラーデラー事務局長(コントラバス)からのメッセージと演奏

演奏曲目

グリエール:ヴァイオリンとコントラバスのための組曲(フロシャウワー、ブラーデラー)

J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調 BWV 1001(フロシャウワー)

ボッテジーニ:メロディ(ブラーデラー)

場所は、ウィーン・ムジークフェラインのブラームス・ホール。ニューイヤーコンサートの会場としても有名な大ホールではなく、もうひとつの、室内楽の伝統ある会場である。

カメラはステージ奥に置かれ、誰もいない客席をバックにしながら、フロシャウワーとブラーデラーが演奏する。音楽の展開に応じてのカメラの切り替え、二人の真剣な表情の捉え方、歴史の刻まれた内装の美しさ、そして何よりも、響きの豊かさ。

オーケストラとしての演奏ではないけれど、私はこの室内楽の動画に、ウィーン・フィルの魂を見る思いがした。激動の時代を生き抜いてきた歴史の重み。神秘的なまでに高みにある響き。自己への厳しさと責任感。アンサンブルをすることに対する命がけの情熱と愛。

たった二人だけれど、これは間違いなくウィーン・フィルだ。

 

それにしても、誰もいないホールの、何と美しく、静かであることか。

このブラームス・ホールの格調高い内装を映し出す映像を見ているうちに、私はたまらなくサントリーホールに、また行きたくなった。

わたしたちの、あのサントリーホールは、いまどうしているのだろう。

誰もいないときでも、ホールは、訪れる人を待ちかねて、生きて、呼吸している。

いまの、その様子が見てみたい。

サントリーホールの館長、堤剛より

アーティストからのメッセージとして、現在もうひとつ挙がっているのが、堤剛(チェリスト、サントリーホール館長)のものである。

自宅で収録されている分、かえって親近感があり、言葉にも演奏にも、感謝と、ともに痛みを感じる優しさと、希望と未来を信じようとする、祈りにも似た思いが感じられる。

堤 剛(チェロ/サントリーホール館長)演奏/2020年4月
シューベルト:『ロザムンデ、キプロスの女王』D. 797より バレエ音楽第2番 ト長調

アーティストからのメッセージと演奏は、今後もサントリーホールのオリジナル・コンテンツとして、次々とアップされる予定である。

子どもも楽しめる動画を

そして、サントリーホールの動画コンテンツのもうひとつの大きな特徴が「ご家庭で音楽を楽しもう!」というプログラム名に表れているように、特に青少年向けのものを重視し、対象年齢ごと(中学生以上/小学生以上/4才以上/3~6才)に適した内容の動画をアップしていることである。

特に個人的に面白かったのは、ウィーン・フォルクスオーパー管弦楽団とバレエ団が、在宅でリモート収録した、「美しく青きドナウ」2分18秒短縮版である。ステイアットホームを余儀なくされている彼らが、いかにユーモアを忘れずに音楽しているかが伝わってきて、こちら側も楽しさでうきうきしてしまう。子どもと一緒に視聴するのに、お勧めである。

2014年からの貴重なアーカイブ動画も

過去のアーカイブ動画も充実している。たとえば、ヴァイオリンのアンネ・ゾフィー・ムターによる公開マスタークラス(2020年2月)も、ヴィヴァルディ「四季」が題材なだけに、見ていて親しみやすく、多くの人が興味を持てるに違いない。

響きの美しさと臨場感という点では、3月19日に無観客ライブ配信された、オルガン・プロムナード・コンサートの一部も、聴きごたえがあった。

 「サントリーホール オルガン プロムナード コンサート」2020年3月19日の無観客公演のライブ配信より(オルガン:冨田真希/曲目:ミッデルシュルテ「パッサカリア」ニ短調)

演奏家やオーケストラが、ばらばらに発信している動画をネットの海で探すのは大変である。けれど、こうしてサントリーホールというひとつの磁場の中で、クオリティの高い、家族で一緒に楽しめるような音楽動画がまとまっているのは、ぜひ知っておきたい。

この困難な時代、コンサートホールの役割は、生演奏の場を提供するだけにとどまらず、広い意味で、人と音楽、人と人とのつながりを保ち、深めること全般へと拡大しつつある。

そうしたなか、サントリーホールのネット・コンテンツは、特に目が離せない。

※サントリーホールの公式サイトでは、多くの動画が見やすくまとめられています。ぜひご覧ください

林田直樹
林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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