空間の演出にクラシックを! 企業と協業して無料コンサートを開催する「朝♪クラ」
カフェや街中で無料コンサートを開催している「朝♪クラ」。仕掛けているのはKATO MUSIC & CREATIVE ENTERTAINMENT 株式会社の代表、加藤夏裕さんだ。企業に企画提案してスポンサーになってもらい成立しているというこの事業、どのように展開しているのか、インタビューした。
1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...
Q1 カフェや街中で、だれもが気楽にクラシック音楽を楽しめる無料コンサートをプロデュースしている「朝♪クラ」。加藤さんは、なぜ朝♪クラを立ち上げたのですか?
「朝♪クラ」代表・加藤夏裕 そもそもはクラシック音楽の普及というよりも、「日本を優雅にしたい」という思いからスタートしました。
なぜかというと、日本はヨーロッパと比較すると、優雅な場所が少ないと感じるからです。日本にはヨーロッパほど「優雅を楽しむ」みたいな文化が少ない。僕の考える「優雅」とは、満足感やセルフブランディングにつながる空間と、「そこにいる私、素敵だよね」と思える心の豊かさです。
日本にいても優雅な世界を味わえるのが、クラシック音楽のコンサートだと思います。優雅な場作りのフックとしてクラシック音楽を据えることで、日本を豊かにできるのではないかと思い、2013年に朝♪クラを立ち上げました。
Q2 クラシックの無料コンサートを、オープンスペースで行なおうと考えたのは、なぜですか?
加藤 多くの人にコンサートホールに出かけてほしいという思いはあるんです。ただし、一般的にはハードルがある。高いチケット代、服装、マナーなど、敷居の高さがいろいろあって、行きにくい。だから、そこへの橋渡しをしたいというマインドが、設立当初からずっとありました。
クラシック音楽というと、「夜」「正装して」「高いお金を払って」「音楽ホールで」……といったイメージがある。僕はすべてその反対を行き、「朝」「気楽に」「誰もが無料で」「カフェや街の導線で」音楽をお届けしようと考えました。「朝♪クラ」というポップな名称にしたのも、クラシックのコアな年配のファンではなく、一般の若い人を呼び込みたいと考えたからです。
カフェで朝ごはんを食べながらクラシックの生演奏を楽しんでいただく、というコンサートから始めたことも、「朝」を名称に入れた由来です。日本橋三越前にあったワイヤードカフェでの第2回のコンサートは、オープン前の朝7時台にお店の前に行列ができ、130人が来てしまった。それまでにないことだったので、当時話題になりましたよ。
2015年にアップされた告知動画
コンセプトとして、「毎日に、もっと音楽を。」を掲げています。「毎日」=「日常」です。飲食店、商業施設、マンションの共有スペース、音楽祭の屋外イベントなど一般の人たちのいる日常的な導線で、雰囲気をよくできる音楽の生演奏を提供しています。
基本的には、僕らはホールに足を運ぶコアなファン層ではないところに向けて、音楽をお届けする。これをポリシーにしています。
Q3 「朝♪クラ」が無料でコンサートを行なえるのは、なぜですか?
加藤 スポンサーとなっていただいている企業からお金をいただいているので、お客様からはお金をいただかなくてよいのです。有料の公演は、1年に1回やるかやらないかです。昨年行なった約100公演のうち、有料は1公演だけでした。カフェ・コンサートのお食事代としていただいた3,000円です。
Q4 どんな企業がスポンサーとなっていますか? またそれぞれのコンサートはどのような内容ですか?
加藤 楽器メーカーやおもちゃメーカーなど、さまざまな企業にいろいろな形で協力をいただいていますが、メインのイベントでコアなスポンサーとなっていただいているのは大手の不動産会社です。不動産会社が、街や商業施設やマンションなどの「日常の場」を持っているからです。
たとえば、不動産会社が主催する地域のお祭りなどがあります。「桜祭り」があるとしたら、桜というテーマに合わせたコンセプトの音楽コンテンツを提供するのが僕らの仕事です。
「ROSE WEEK」というイベントがあるのですが、駅中のスポットで「ROSE PARTY」をテーマに、薔薇のパネルを背景にして、元東京バレエ団のプリンシパルたちとのコラボで音楽と踊りのコンサートを提供しました。
加藤 白金のマンションでは、住民のためだけの無料ロビーコンサートをプロデュース。ピアノ演奏に合わせて、社交ダンスの日本チャンピオンの方に踊っていただきました。優雅な空間でしたよ。
加藤 きれいなイルミネーションで知られる「東京ミチテラス」では、サプライズで大規模な仕掛けを展開しています。
オーケストラのフラッシュモブなどを行なっており、2017年には東京ミチテラスのテーマであった「花とひかりのシンフォニー」に合わせて、「花のワルツ」をプログラミングしました。2019年は「ひかりのアンセム」というテーマや年末のイベントということを踏まえて、第九のフラッシュモブを提供しました。
Q5 加藤さんが現在、多くの企業とお仕事を実現できているのは、なぜなのでしょうか?
加藤 僕は会社員時代の仕事を通じて、マーケティングや広報・PRなど、企業サイドの立場でものごとを見ながら長く仕事をしてきました。企業のプロモーションなどにも深く関わってきたので、音楽家とはかなり違ったアプローチができるんですよね。ビジネス的な、というか。
通常クラシック音楽への協賛といったら、プログラムに掲載します、という程度かもしれないけれど、僕の場合はマーケティングサイドを知っているので、企業のために一緒にキャンペーンを考えたり、実利的に寄り添ったこともできるのは強みだと思ってます。取引先さんは大手や有名な企業ばかりですし、それは朝♪クラのブランディングのひとつとして、僕らの付加価値=絶対価値であり、信用いただいている特徴の一つだと思います。
僕らはボランティアではなくて、事業として無料のコンサートを、プライドをもってやっています。今のところ競合はいないです。
Q6 バレエやダンスとのコラボレーション、フラッシュモブなど、多彩な内容が多いですが、発想の原点はどのようなところにあるのでしょうか?
加藤 僕が子どもの頃から通い詰めていた東京ディズニーランドからの影響は大きいと思います。家が近かったので、家族で年間パスポートを持って毎週末出かけていたんです。それだけ行くと、アトラクションは飽きてしまうんですね。
でも、ショーやパレードは、毎回少しずつ演出や出演者が変わるんです。王子様とお姫様が登場するダンスショーを毎週見ていたわけですから、エンターテインメント的な引き出しがすごく増えました。僕の思う優雅な世界観に完全にフィットする世界(笑)。ディズニーからの影響はとても大きいと思います。
また、母が自宅でピアノ教室を、祖母が琴・三弦教室を開いていたので、音楽が身近にある家庭でした。
ピアノはもちろん、箏が登場するコンサートも企画
Q7 出演されるアーティストはどのような方々ですか?
加藤 こだわりは、年齢の若さです。学生さんを起用することも多いです。当初は人脈もゼロだったので、僕が出演してほしいという方にSNSなどを通じて直接連絡していました。オーケストラは、まず指揮者の方に相談し、セクションごとにメンバーを固めています。今では若いアーティストからの出演希望もたくさんいただいています。
アーティスト個人の特性を考慮しつつも、プロデュースしたい世界観重視で依頼しています。特定のアーティストに継続依頼することもせず、毎回出演者を変えています。〇〇音大だから、みたいな大学による壁も作りたくないですし、特別扱いもしません。誰も贔屓せず、平等というのは常に意識しています。
毎回のコンサートでは、アーティストの方々にご自身のコンサートやライブの告知や宣伝もしてもらっています。僕らの無料公演は、長くても30~40分程度。もっとこの人の演奏を聴いてみたい!と思ってもらうところで終えるのも、一つの仕掛けなんです。
コンサートは敷居が高いと感じる人が多いと言いましたが、ファンになったらお金を払う、という文化は日本にもあります。朝♪クラがその入り口になれればと思っています。さまざまな場所で人を集められるような内容のコンサートを開きますから、演奏家からは楽しいと言ってもらっています。スポンサー、奏者、お客様、そして僕らのみんながWinになる関係性です。
Q8 今後、朝♪クラとして力を入れていきたいのはどんなことですか?
加藤 コロナ禍ということもあり、今後はオンラインも積極的に取り入れたいです。僕らはYouTubeというプラットフォームは2014年から利用していますが、今後はオンラインで受けた感動をもとにオフラインへ、という人の流れも作りたいです。
「PIANOIA!」というプロジェクトも開始しました。ハノンやブルクミュラーのような練習曲を、超絶技巧の曲に編曲していくプロジェクトです。編曲作品の楽譜も販売していきます。小さい頃にピアノを習っていた層にも、クラシック音楽の世界に戻ってきてもらおうというのが狙いです。
ブルクミュラー(PIANOIA!編):貴婦人の乗馬
加藤 若手には世界で活躍される優秀な奏者もどんどん出ていますし、野外フェスなどクラシックのさまざまなイベントも生まれています。クラシックの未来は暗くないな、と僕は思っています。ゆくゆくは、音楽祭のプロデュースや、音楽による街興しなどもできたらいいなと思っています。自治体などともパイプを作っていけたらいいですね。
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