インタビュー
2024.04.02

龍角散社長でフルート奏者の藤井隆太氏が語る 企業の「オーケストラ型経営」とは?

株式会社龍角散の代表取締役社長を務める藤井隆太氏(隆は正しくは生のうえに一の字)は、就任時の累積大赤字を一掃し、経営を再建した経営者として注目を集めた。また氏は音楽大学で学び、パリに留学したプロのフルート奏者でもある。藤井氏が常に提唱している「オーケストラ型経営」とは?「音大での教えが経営に生かされている」と語る氏に、詳しくお話を伺った。

取材・文
池田卓夫
取材・文
池田卓夫 音楽ジャーナリスト@いけたく本舗

1958年東京都生まれ。81年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業、(株)日本経済新聞社へ記者として入社。企業や株式相場の取材を担当、88~91年のフランクフルト支...

フルートを持った藤井氏(右)と聞き手の池田卓夫氏(左)
写真=ヒダキトモコ

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藤井社長の 「オーケストラ型経営」

——藤井さんは桐朋学園大学音楽学部を卒業後さらに研究科へ進み、在学中にパリのエコール・ノルマル音楽院に留学されたプロのフルート奏者でありながら1995年、龍角散の社長に就きました。企業トップの立場からも「オーケストラ型経営」を標榜していますが、どのような概念なのでしょうか?

藤井 当社は大企業ではありません。正社員に限ると100人以下の専門メーカーで、4管編成のオーケストラと似た規模です。オーケストラのメンバーは、普段は独立したプレーヤーですが、オーケストラのメンバーとして参加した瞬間に、指揮者に対して1対100で全員がつながるのです。

唯一、全体の音を平均的に聴けるポジションにいて総譜を持っているのは指揮者であり、結果責任を伴った全体最適化が指揮者の役割です。各プレーヤーももちろん意見は言えるのでしょうが、仮に全員の意見を聞いて回る「御用聞き」をやっても、決してよい演奏にはならないのではないでしょうか。

当社の場合、中間管理職はいますが、新規事業や非常事態の場合は私が直轄するオーケストラ型の組織運営に移行し、私が現場で経営判断を下します。これをトップダウンではなくトップドゥーイングと呼んでいます。もちろん現場の意見は聞きますが、聞いたからといって、その通りにするとは限りません。

当社はベルリン・フィルハーモニー管弦楽団2023年日本ツアーのスポンサーを務めました。確かにすばらしいオーケストラですが、改めて感じたのは、そもそも体格からして日本人とは違いすぎるので、日本人が真似をすることは困難であろう、ということです。当社は大企業に憧れる「大企業になりたい病」ではないのです。

藤井隆太(ふじい りゅうた)
1959 年生まれ、東京都出身。3歳から故久保田良作にヴァイオリンを師事。11 歳から故林りり子にフルートを師事。桐朋学園大学音楽学部および研究科修了。故小出信也に師事。研究科在学中に渡仏。エコール・ノルマル音楽院で故クリスチャン・ラルデに師事。レオポルド・ベラン国際コンクールで第1位入賞。小林製薬、三菱化成工業(現 三菱ケミカル)を経て1994 年龍角散入社、1995 年代表取締役社長に就任。就任時の累積大赤字を一掃し、経営を再建。就任時の売上の6倍以上の240億円を達成の見込み

——そうした考えかたの原点はどこにあるのでしょうか。

藤井 桐朋学園の時代です。もともとはヴァイオリンで「子供のための音楽教室」に通い、附属中学からオーケストラに所属、古澤巌さんらと同じ世代に当たります。齋藤秀雄*先生は噂通りに厳しく「お前ら、親の死に目に会えない覚悟でやれ。自信がないやつはいますぐにやめろ!」と。

ソロの演奏が気に食わないと何十回も弾かせ、それでもダメなら即刻交代は当たり前でした。齋藤先生が学生の指揮者にがまんできず、「どけ!」と言って振り出した瞬間、音が一変したのに驚き、音楽の力を知ったのです。最後は車椅子に座り、目だけの指揮でも同じでした。オーケストラが指揮者によってこうも変化するのであれば経営者も同じ、だから企業はオーケストラなのです。

*斎藤秀雄(さいとう・ひでお、1902-1974)
指揮者、チェロ奏者。「子供のための音楽教室」、桐朋学園短期大学、桐朋学園大学の設立に尽力した。チェロ、合奏指導のほか斎藤指揮法とよばれるメソッドを確立、門下に小澤征爾、秋山和慶、飯守泰次郎、井上道義、尾高忠明などがいる。多くの弦楽器奏者を育てた功績も大きい。

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