インタビュー
2025.02.22
2025年4月6日開催 浜離宮ベルカント・シリーズ第2弾 山下裕賀、小堀勇介、池内 響、矢野雄太が出演!

ロッシーニの傑作 《セビリャの理髪師》と《ラ・チェネレントラ》を一度で満喫! 息の合った4人が届けるベルカントの世界

イタリア語で「美しい歌」を意味するベルカントは、19世紀前半の歌が圧倒的な主役であった時代の歌唱法。浜離宮朝日ホールで、ベルカント・オペラの魅力に迫るシリーズの第2弾が開催されます。出演する山下裕賀(メゾソプラノ)、小堀勇介(テノール)、池内 響(バリトン)、矢野雄太(ピアノ)の4名に、公演の聴きどころや今回とりあげるロッシーニ作品について、詳しくうかがいました。

取材・文
井内美香
取材・文
井内美香 音楽ライター/オペラ・キュレーター

学習院大学哲学科卒業、同大学院人文科学研究科博士前期課程修了。ミラノ国立大学で音楽学を学ぶ。ミラノ在住のフリーランスとして20年以上の間、オペラに関する執筆、通訳、来...

写真:ヒダキトモコ

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演技をつけたハイライトでオペラを観た気持ちに

——昨年1月に続く浜離宮朝日ホールのベルカント・シリーズ。大好評を受けての第2弾ですが、今回はロッシーニのオペラを2本。選曲は小堀さんが担当されたそうですね。

小堀 メンバーがまず決まり、今、この4人でベルカントをお届けするなら何が一番ふさわしいか? ということで、まずはロッシーニのもっとも有名なオペラ《セビリャの理髪師》を選びました。メゾソプラノ、テノール、バリトンそれぞれに大きなアリアがあり、重唱も賑やかで楽しいので、この作品を中核に置くことに。もう1本は悩みましたが《ラ・チェネレントラ》に。アンジェリーナが歌う「むかしむかしある王様が」という耳と心に残る旋律をテーマにすれば、ハイライトでもオペラを観た気持ちになっていただけるのではと思ったのです。

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——今回の演奏会は演技もつけるのですか?

小堀 もちろんです! 今回はオペラのハイライトという形なので、アリアや重唱の前のレチタティーヴォを少し長めに歌い、シーンを作り出していこうと思っています。

——ロッシーニ・オペラの魅力を教えてください。

小堀 ロッシーニの魅力は軽やかさの中にある熱量。「ああ楽しいな、今、ロッシーニを歌っているな」と感じます。レガートで歌うことも大好きなんですが、「軽やかに、情熱的に」というのが僕のロッシーニのテーマなんです。ロッシーニの良さが伝わったときの客席の皆さんからの拍手の圧、というのでしょうか、それは他のオペラを歌っているときとはまた違った、格別なものです。

右:小堀勇介(テノール)
国立音楽大学声楽専攻ならびに同大学院声楽専修オペラ・コースを首席で修了。第16回東京音楽コンクール声楽部門第2位、第88回日本音楽コンクール声楽部門第1位など入賞多数。2016年、文化庁新進芸術家海外研修制度研修員としてイタリアに留学。チロル祝祭歌劇場にて《アルジェのイタリア女》のリンドーロでヨーロッパ・デビュー。帰国後はびわ湖ホール《連隊の娘》トニオを皮切りに、日生劇場《愛の妙薬》ネモリーノ、《セビーリャの理髪師》アルマヴィーヴァ伯爵などベルカント・オペラ作品に次々と出演。
2024年は藤原歌劇団創立90周年記念《ラ・チェネレントラ》ドン・ラミーロ、日生劇場《連隊の娘》トニオ、神戸文化ホール開館50周年記念事業《ファルスタッフ》フェントンなどのオペラ作品や演奏会への出演を予定している。日本ロッシーニ協会会員。

左:池内 響(バリトン)
東京藝術大学大学院オペラ科修了。2015年、日生劇場《ドン・ジョヴァンニ》タイトルロールでオペラ・デビュー。2017年に渡伊。ミラノで研鑽を積み、2018年に第56回ヴェルディの声国際コンクール入選。2019年には、第20回リヴィエラ・エトゥルスカコンクール、第5回G. B.ルビーニ国際コンクール、第10回サルヴァトーレ・リチートラ声楽コンクールにそれぞれ優勝。これまでに宮崎国際音楽祭《仮面舞踏会》レナート、日本フィル《道化師》シルヴィオなどで出演。2024年は、びわ湖ホール《ばらの騎士》ファーニナル、全国共同制作オペラ《ラ・ボエーム》マルチェッロ、都響スペシャル「第九」公演などに出演。第37回姫路市芸術文化奨励賞、第25回坂井時忠音楽賞、2020年兵庫県芸術奨励賞の各賞を受賞。

—— 池内さんはロッシーニの音楽とどのように出会いましたか?

池内 僕のロッシーニとの出会いは学生の頃。大学院を卒業するときの修士演奏で《セビリャの理髪師》のフィガロを歌っています。だからオペラの入り口がロッシーニ。ただ、卒業してからオペラの舞台で歌っているのはもっと後の時代のものです。

僕からすれば小堀さんも山下さんもロッシーニのイメージがしっかりあって、彼らを聴いていると、ロッシーニはこういう人たちのためにあるんだな、と思わせられる瞬間があるんです。二人に比べたら僕はまだロッシーニ素人。ですから、どんな刺激をもらって、どのような化学反応が起こるのかが楽しみです。僕はロッシーニ担当、というよりはBaccanale!!(イタリア語で「どんちゃん騒ぎ」。今回のリサイタルのタイトル)担当だと思っています(笑)。

——池内さんは普段から騒がしい性格なんですか?

池内 いえ、根暗です(きっぱり)。僕はオペラにハマった理由というのは、普段できないことを舞台上ではできる、という感覚があるんです。大学の後輩である山下さんや、もう3、4年もピアノの伴奏をしてくれている矢野君はよく知っています。

“ベルカント”で大切なのは歌と言葉の親和性

—— 山下さんにとってロッシーニの歌唱とは?

山下 ロッシーニといえば技巧やアジリタ(細かく速い音符を敏捷に歌うこと)と言われて、たしかに技巧的なことも難しいのですが、やっぱりオリジナリティが大事な気がしています。歌に装飾をつけるのにもいろいろなパターンがあり、その人に合ったやり方があります。ベストの歌いやすいテクニックは、年齢や歌うタイミングでも少しずつ変わってくるんです。プロダクションや共演者で間合いも変わりますし、レチタティーヴォのやりとりも、私は関西人なのでボケとツッコミみたいな部分を感じるんですね。そこに予定調和ではない面白さがあるように思います。

今回歌う2つの役はキャラクターが全然違って、私はどちらも大好きです。ロジーナは賢くて、テンション高めというか、情熱的で気が強く、運命を自分で切り開いていくところがとても好きですし、チェネレントラの強みは、善良さと純粋なところでしょうか。

右:山下 裕賀(メゾソプラノ)
東京藝術大学卒業、同大学院修士課程を首席修了。同大学院博士後期課程単位取得。第92回日本音楽コンクール声楽部門第1位および聴衆賞、第9回静岡国際オペラコンクール三浦環特別賞を受賞。2024年4月に開催された藤原歌劇団創立90周年記念公演《ラ・チェネレントラ》でタイトルロールを務め、卓越したテクニックと表現力で聴衆を魅了した。6月には英国バーミンガム市交響楽団《蝶々夫人》スズキ、2025年8月には新国立劇場による創作委嘱作品 細川俊夫《ナターシャ》(世界初演)アラトに抜擢され出演を予定している。これまでに《ヘンゼルとグレーテル》ヘンゼル、《セビリアの理髪師》ロジーナなどで出演。コンサートでは、ベートーヴェン「第九」、ヴェルディ「レクイエム」などでソリストを務める。日本声楽アカデミー会員。令和6年京都市文化芸術きらめき賞受賞。

左:矢野 雄太(ピアノ)
東京藝術大学ピアノ科卒業後、同大学大学院修士課程修了。その後渡伊、ミラノ市立クラウディオ・アッバード音楽院指揮科を経て、ミラノ・スカラ座研修所を修了。第13回アントニオ・ナポリターノ国際ピアノコンクール第1位をはじめ、国内外のコンクールにおいて、優勝、入賞多数。ヨーロッパ、アジア、日本各地でリサイタル、室内楽、コンチェルトソリストとして演奏を行い、著名な楽器奏者、歌手とも多くの演奏会、音楽祭にて共演する。指揮者としては《カヴァレリア・ルスティカーナ》等を指揮、また、ミラノ・スカラ座《ジャンニ・スキッキ》、《リゴレット》、上海・上音オペラハウス《魔笛》などでアシスタントを務める。東京文化会館主催〈現代人形劇×クラシック音楽〉では音楽監督を務め、活動の幅を広げている。東京藝術大学非常勤講師。

—— 演奏家にとって“ベルカント”の意味することは?

小堀 ロッシーニ、ベッリーニ、ドニゼッティなどのベルカント・オペラを歌うときに一番意識しているのは、イタリア語として客席に届くかということです。イタリア語には母音が7つあって、その違いによって声の色も変わってくるんです。ベルカントの作品は、歌が言葉としてちゃんと伝わることを一番、歌手に求めているのだと思っています。

山下 ベルカントにはごまかしの効かないところがあり、自分の中に確固としたものを持っていないと歌えないですね。

池内 ベルカントだけではありませんが、歌を歌うという行為に必ずついてくるのが声と言葉。その二つの親和性はどうしても必要になってきます。

一度好きになったらやめられない! ロッシーニの魅力

——矢野さんはオペラとの出会いが遅かったとうかがいました。

矢野 大学院までピアノ科で勉強をし、師事する先生の関係でミラノに留学したところ、スカラ座アカデミーを受けるよう言われました。それでオペラをまったく知らないのにスカラ座に通うことになってしまい。仕方がないので日々猛勉強したら、オペラが大好きになりこの仕事をしています。

今回聴いていただく《セビーリャの理髪師》と《ラ・チェネレントラ》は、イタリア語の音とロッシーニがそこにつけている音楽が、いちばんわかりやすく素晴らしい作品だと思います。ロッシーニの人間性から出ている、とくに「自由」「遊び」といったものが見事に音楽に反映されていて、聴衆はどんどん引き込まれていく。そして気づいたら好きになっている。

小堀 今回せっかく矢野君が出演してくれるので、《ラ・チェネレントラ》の「テンポラーレ-嵐-」の場面を弾いてもらいます。

4人 楽しいロッシーニのオペラを聴きに、ぜひお越しください!

浜離宮ベルカント・シリーズ第2弾
山下裕賀&小堀勇介&池内 響 with 矢野雄太  ~ Baccanale!! ~

日時: 2025年4月6日(日)15:00開演

会場: 浜離宮朝日ホール

出演: 山下裕賀(メゾソプラノ)、小堀勇介(テノール)、池内 響(バリトン)、矢野雄太(ピアノ)

曲目: G.ロッシーニ/歌劇《セビリャの理髪師》より
私は街の何でも屋 (池内)
私の名前を知りたいのなら (小堀)
金貨を見れば知恵が湧く (小堀・池内)
今の歌声は (山下)
それじゃ、私なのね! (山下・池内)
思いがけないこの衝撃に (山下・小堀・池内)
もう逆らうのをやめよ (小堀)

G.ロッシーニ/歌劇《ラ・チェネレントラ》より
むかしむかしある王様が (山下)
何か分からぬ甘美なものが (山下・小堀)
静かに!声をひそめて! (小堀・池内)
あの美しい面影は (山下・小堀・池内)
必ず彼女を見つけ出すと誓う (小堀)
むかしむかしある王様が (山下)
テンポラーレ -嵐- (ピアノ独奏)
哀しみの涙から生まれて (山下・小堀・池内)

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取材・文
井内美香
取材・文
井内美香 音楽ライター/オペラ・キュレーター

学習院大学哲学科卒業、同大学院人文科学研究科博士前期課程修了。ミラノ国立大学で音楽学を学ぶ。ミラノ在住のフリーランスとして20年以上の間、オペラに関する執筆、通訳、来...

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