インタビュー
2020.09.03
9月11日開幕ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』

主人公の将来像を演じる大貫勇輔×永野亮比己が語る──コロナ禍で奮闘する再演版『ビリー・エリオット』カンパニー

2017年に日本初演され、再演が待ち望まれていたミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』が9月11日に幕を開ける。変声前の貴重な年齢でビリーを演じる子役たち4人と向き合い、主人公ビリーの将来像を演じる大貫勇輔さんと永野亮比己さんにお話を伺った。

取材・文
岡山朋代
取材・文
岡山朋代 ライター

1984年生まれ、千葉県佐倉市出身。明治大学文学部卒業後、東進ハイスクールの校舎運営、朝日新聞夕刊の執筆・編集、ステージナタリー記者を経て現職へ。『ぴあ』、『ウートピ...

写真:ataca maki photography

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1984年のサッチャー政権下、労働者のストライキに揺れるイングランド北部の炭鉱町を舞台に、バレエに活路を見出した少年が夢に向かって突き進む姿を描いた『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』。エルトン・ジョンの音楽が加わり、映画からミュージカルへ進化を遂げた本作は2017年に日本で初演され、菊田一夫演劇賞大賞、読売演劇大賞選考委員特別賞などを獲得した。

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ところが、待ち望まれた3年ぶりの再演版は、新型コロナウイルス感染症の影響で9月に公演延期となる。ビリー少年の将来像であるオールダー・ビリー役をWキャストで務める大貫勇輔と永野亮比己はこの事態をどのように受け止め、作品と向き合っているのか──。心の内に耳を傾けた。

Billy Elliot/オリジナル・キャストによるレコーディング

ビリーの将来像として少年と邂逅する「Dream Ballet」は責任重大

──お二人が登場し、ビリー少年と一緒にパドドゥを繰り広げたり、彼をリフトしたりして支える「Dream Ballet」は、幻想的で抽象度が高いシーンですよね。作品の中でどんな役割をもった場面だと感じていらっしゃいますか?

大貫 ビリー少年が、僕らの演じる成長したビリーと邂逅するようなイメージをもっています。ステップを踏みながらの椅子回しは、時計の針が進んでいるのを表しているんじゃないかな。

永野 観客の皆さんに「ビリーの将来はこうなっていくんだよ」って未来の姿を明確に提示しているシーンだと思うから、オールダー・ビリーとして責任重大だよね。でもまだそこまで感じられる余裕もなく、日々の稽古に取り組んでいるんだけれど。

大貫勇輔(おおぬき・ゆうすけ)
1988年、神奈川県座間市出身。17歳からプロダンサーとして活動し、バレエ・ジャズ・コンテンポラリー・モダン・ストリート・アクロバットなど多岐にわたるダンスを踊りこなす。2011年、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』で演出家・小池修一郎に見いだされ、死のダンサー役としてキャスティング。以降、世界的に名高いイスラエルの振付家インバル・ピント、コンテンポラリーダンスの巨匠マシュー・ボーンといった演出家にも抜擢されるなど高い評価を受けている。近年は、TVドラマ『ルパンの娘』『グランメゾン東京』など映像にも進出。アニメ「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」では主人公のCVを務めるなど、声の仕事も。
永野亮比己(ながの・あきひこ)
1986年、神奈川県平塚市出身。ジャズダンスとバレエの習得を機に、高校2年でベジャール・バレエ・ローザンヌのオーディションに合格し、スイスへ留学する。その後、オーストリア・グラーツのバレエ団などで活動して帰国。2005年、オーディション経由で劇団四季へ入団し、『キャッツ』のランパスキャット役でミュージカルデビューを果たした。2008年の退団後は、りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館を拠点に活動する日本初の公共劇場専属舞踊団・Noismへの所属を経て、2010年に劇団四季へ再入団した。復帰後は『キャッツ』『ウィキッド』などに出演し、2018年に退団。現在はフリーのダンサー・振付師として活動している。

──開幕まであと1ヵ月弱ですが、「Dream Ballet」シーンの進み具合は?

大貫 フライングは特別な機構がないとできないシーンなので、実際に使用するTBS赤坂ACTシアターですでに何度か稽古をやらせてもらいました。4人のビリーとも何度かレッスンを重ねていて。

永野 僕は初めて経験するシーンなので……とにかく必死ですね!  一度(2017年に)オールダー・ビリーを演じている勇輔からアドバイスをもらって、日々の稽古に取り組んでいます。特にこの場面は、ビリーと僕、それにスタッフが三位一体となって、阿吽の呼吸で揃えていかなきゃいけないから大変。

大貫 でも椅子回しは、稽古初日にすぐできたよね!   僕は初演のときにできなかったから衝撃だったよ。

永野 「Dream Ballet」のシーンを見たときに、椅子回しがいちばんネックになるだろうと踏んでいたからね。でも意外とスムーズにできちゃって。というか、勇輔は一度経験しているから……どこかで「俺も早く追いつかなきゃ」みたいな焦りが背中を押したんだと思う。

──大貫さんは2度目の「Dream Ballet」ですね。

大貫 僕、初演が終わった時点で「これ、絶対に再演するだろうな」って確信したんですね。で、「やるならもう一度出たい!」と思っていたので、そのために密かにずっとバレエの準備をしていました。前回、自分が思うようにできなかったところを記憶していたので、3年間そこを重点的にトレーニングして。だから初演より落ち着いてできるようになったと思う。

永野 さすがだね!

コロナショックの逆境を「熱量」に変えたビリー4人を、表現者として尊重

──4人のビリーから、どんな刺激を受けていらっしゃいますか?

永野 みんな、めちゃくちゃ吸収早いよね?

大貫 うん、今回は特に早い気がする。新型コロナで2ヵ月も公演延期になったことが影響しているのかもしれないね。

──そうか。仮に幕が開かなかったとしても、4人は「別の機会に出演すれば」ってわけにいきませんからね。

永野 声変わりして身長が伸びたら、ビリーは二度と演じられない。それに加えてコロナの影響もあって、無事に開幕するかどうかもわからない。僕ら以上に不安でしょうね。

大貫 でもさ、彼らにはそういった不安や焦りがいい風に働いているというか。今まで積み上げてきた時間を大切にして、ものすごく「いい作品にしよう」「絶対にやってやる」「舞台に立ちたい」って熱量を感じるんだよ!

永野 そう、食らいつき方がすごいよね!  子どもたちだけじゃなくて、キャスト・スタッフもその意識で一致団結している。「いい作品を届けたい」って想いが、日々の稽古から伝わってくるんです。いいカンパニーだよね。

大貫 本当に。僕らも負けていられません!

──4人のビリーから受ける刺激に対して、お二人は彼らに何を与えたいと考えていらっしゃいますか?

永野 4人とも役者として自立しているから、「対大人」として意見交換するように心がけています。子どもだからといって特別視するのではなく、大人キャストに接する態度と一緒ですね。

大貫 僕もそう。教えるというより、この作品を・あのシーンを「どうやったらよりよくできるか一緒に考えようか」ってスタンス。いち表現者・パフォーマーとして、彼らと対等に向き合っています。

今こそ上演すべき『ビリー・エリオット』の魅力

──大貫さんは『ビリー』をロンドンで初めてご覧になって「幕が下りても立ち上がれないほど圧倒された」とおっしゃっていましたよね。初演を経て再演に向けて努力されている今、改めてこの作品の魅力を挙げるとしたら?

大貫 僕はいつでも、ビリーのお父さんが変わっていく描写にグッと来てしまいます。それが結実するのが、僕たちの登場する「Dream Ballet」のシーン。バレエダンサーになりたいというビリーの夢を知りながら反対するお父さんが、成長したビリーと舞い踊る息子の姿を目の当たりにして……気持ちを翻す。

永野 それでビリーのために、何十年も一緒に汗を流してきた炭鉱のストライキ仲間を裏切るんだよね。

大貫 そう!  ビリーに対するお父さんの愛情深さに胸が打たれる。自分のすべてを犠牲にしてまで「才能を伸ばしてやりたい」「息子にチャンスを」と訴える切実な姿って、おそらく誰でも共感・理解できると思うから。

──永野さんはミュージカルライブ版をご覧になっていらっしゃるとか。そこから受けた印象や、オールダー・ビリーとして携わり始めて感じた作品の魅力を教えてください。

永野 すごく愛に包まれた作品ですよね。家族、友情、同志といろんな「愛」の形が表現され、ひとつの作品に凝縮されていると感じました。

大貫 ビリーの兄トニーや、友人マイケルの存在感にも注目してほしいですね。

永野 これに加えて、作品のもつメッセージ性がコロナ禍の社会を鼓舞する側面もある気がして。不況にあえぐ炭鉱町の人々が、ビリーの夢を実現しようと想いをひとつにする様子は……コロナショックに立ち向かう僕たちに少なからず何かを投げかけてくれると思う。こんな時代だからこそ必要で、観るべき・上演すべき作品なんじゃないかな。

大貫 そうだね。コロナショックを機に、芸術やエンタメの必要性が問われる新しい時代が訪れたよね。潮目が変わろうとしているこのタイミングに、どれだけ確かなものを届けられるか。そういった意味でも、この『ビリー・エリオット』は絶対に上演しなければならない作品だと思います。携わることができて、本当に嬉しい。

大好きな「Grandma’s Song」、アンサンブル参加シーンもお楽しみに

──お二人が好きな『ビリー』のミュージカルナンバーは?

大貫 ビリーのおばあちゃんが、夫との日々や自分の人生を振り返る「Grandma’s Song」ですね。全体というか、構成・振付。何とも形容しがたい、あの雰囲気が大好きで!

永野 僕もちょうどこの間、稽古している時に「Grandma’s Song」いいなって思ったの!煙草をくゆらせる仕草だったり、ひとつひとつの動きがサマになるというか。やっていても観ていても、あの構成やつくり方がダンサー目線で好きだなって。

Grandma’s Song/オリジナル・キャストによるレコーディング

──あのナンバーって、根岸季衣さんと阿知波悟美さんがWキャストで演じるおばあちゃんの歌ですよね?  お二人もあのシーンに参加されているんでしょうか?

大貫 そうなんですよ。「Grandma’s Song」のシーンになると、上手からゆっくりおばあちゃんの旦那の幻……みたいな男たちが出てくるんですけど、その中の一人にいますので。

永野 これ以外にもいろんなシーンにアンサンブルとして登場しているので、もしよかったら探してみてください!

音楽との向き合い方が変わってきた

──ちなみに「ONTOMO」は音楽のメディアですので、いつも取材にご協力いただく方にお答えいただいている質問がありまして。ご自身は日ごろ、どのように「音楽」と関わっていらっしゃいますか?

永野 ジャンルにこだわらず、いいなと思った楽曲は何でも聴く雑食ですね。中でもラテン音楽がすごい好きで、キューバ、チリ、プエルトリコ……いろんな国の曲に親しんでいます。クラシックも好きで、バッハをよく聴きますよ。コンテンポラリーな作品ではクラシックを使うことが意外と多かったりしますしね。

──ラテン音楽にバッハだと……だいぶ毛色が異なりますね。

永野 心境によって聴く音楽は選びますよ?  でも僕からすると……クラシックの中に、ロックやラテンを見出す瞬間があるんですよね。

大貫 僕は昔ほど音楽を聴かなくなってしまったかも。いま関わっている仕事に関する楽曲は耳にするようにしていますけど。

──じゃあ今だったら『ビリー』の楽曲を?

大貫 いや、今は……よくニュースを見ているなぁ。

永野 何で昔より聴かなくなったんだろう? 

大貫 おそらく、これまで主戦場としていたダンサーから今は少し離れているって認識なのかもしれないですね。ダンスと音楽って密接に関係していて、踊りがあったからこそいろいろ聴いていたので。

永野 なるほど!  映像や声の仕事もするようになって、役者サイドの思考になってきたのかもしれないね。

大貫 うん。映像でお芝居を観るとか、ニュースで世の中の状況を知るとか、役者としての耳にシフトしているかもしれない。

永野 そうか、おもしろい変化だね!

公演情報
オープニング公演

日時 2020年9月11日(金)~14日(月)
会場 TBS赤坂ACTシアター
チケット S席:14,000円/A席:10,000円(全席指定・消費税込)

東京公演

日時 2020年9月16日(水)~10月17日(土)
会場 TBS赤坂ACTシアター
チケット S席:14,000円/A席:10,000円(全席指定・消費税込)

大阪公演

日時 2020年10月30日(金)~11月14日(土)
会場 梅田芸術劇場メインホール
チケット S席:14,000円/A席:10,000円/B席:5,500円(全席指定・消費税込)

 

取材・文
岡山朋代
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岡山朋代 ライター

1984年生まれ、千葉県佐倉市出身。明治大学文学部卒業後、東進ハイスクールの校舎運営、朝日新聞夕刊の執筆・編集、ステージナタリー記者を経て現職へ。『ぴあ』、『ウートピ...

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