ブゾーニ国際ピアノコンクール芸術監督が語る 若者が世界にアクセスする場の理想形
ブゾーニの死後25年を記念して1949年にイタリア、ボルツァーノで始まったブゾーニ国際ピアノコンクールは、世界でもっとも古いコンクールの一つ。これまでデームス、アルゲリッチ、オールソン、コブリンといった世界的なピアニストたちが優勝を飾り、歴代の審査員にはアラウ、バックハウス、コルトー、リパッティ、ルービンシュタイン、ミケランジェリ等、錚々たる名前が並ぶ。
その第64回が8月23日からスタートし、日本人も2名がエントリー、室内楽とファイナルの協奏曲ラウンドは、ドイツ・グラモフォンの配信サービス「ステージプラス」で無料生中継が予定されている。このコンクールの芸術監督であり、国際コンクール世界連盟の会長も務めるペーター・パウル・カインラート氏に、ブゾーニ・コンクールが掲げる高い理想や聴きどころ、そして現在の国際コンクールが抱える問題についても伺った。
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...
ピアノの専門家だけでなく、聴衆や音楽市場のプロも審査に参加するコンクール
——ブゾーニ国際ピアノコンクールの特徴を教えてください。
ペーター・パウル・カインラート(以下、K)このコンクールは隔年開催で、予備審査にはじまり18か月ほどをかける特別な審査過程をとっています。
今回は610名の応募があり、そこから選ばれた100名が「グローカル・ピアノ・プロジェクト」に進み、12都市の聴衆の前で演奏しました。その録画*を審査員が視聴し、27名を選びました。ここまでの審査員はピアノの専門家です。
この録画は全世界にも配信し、一般聴衆が審査に参加してさらに3名を選びました。ここに規定で参加資格がある国際コンクール世界連盟加盟コンクールの第1位&2位が3名加わって、計33名の本大会出場者が決定しました。
このあとは、ソロ(33名)、ソロ(12名)、室内楽(6名)、協奏曲(3名)とステージが進みます。こちらの審査員には、現役ピアニストを中心に、ドイツ・グラモフォン社長のクレメンス・トラウトマン氏など、音楽市場のプロも招きます。専門的な部分は序盤にピアノの専門家が審査し、後半はより現実の音楽生活に近い感性を取り入れる審査プロセスです。
*録画を同じ条件で録るため、出場者間の録画技術の差異の問題が解消される
1964年、イタリア、ボルツァーノ生まれ。プロのピアニストとしての教育を受け、モスクワ音楽院を卒業。演奏家として15年活躍した後、マネジメント業に移り、オーストリアやイタリアで音楽祭の開催に従事。現在はクラングフォルム・ウィーンの芸術監督、およびブゾーニ国際ピアノコンクールの芸術監督を務める。2021年に、3年間の任期で国際コンクール世界連盟の会長に選出された
若者が世界にアクセスする場が権力に支配されてはならない
——20年ほど前までのコンクールでは入賞者だけが注目されましたが、近年は配信のおかげでコンクールの意義も変わり、聴衆も結果にかかわらず良い演奏家と出会える機会になりました。とはいえ今もコンクールは必要悪という見方もあります。
K はい、私は国際コンクール世界連盟の会長をしていますから、その問題は十分理解しています。ただ、コンクールが若者にとって世界にアクセスするもっとも効果的な方法の一つだということは事実です。
ブゾーニ・コンクールも、今後の音楽市場を予測しながら改良を続ける必要があります。それこそが若者への私たちの責任です。限られた教育者が世界への扉をコントロールすることは、許されません。誰かの権力のため、音楽市場の価値観から離れた、閉ざされたコミュニティの活動になることは防ぐべきです。
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