2/11~3/1 東京芸術劇場

村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』舞台化——音楽出身の俳優・渡辺大知、「芝居でしかできないこと」を追求する

インタビュー
2020.01.22

2020年2月11日より東京芸術劇場にて上演が始まる『ねじまき鳥クロニクル』は、村上春樹の同名小説を舞台化した作品。成河、渡辺大知がダブル主演を務め、2人で1人の人間を演じるという斬新な試みが見どころだ。稽古が始まったばかりの2019年12月、渡辺大知にインタビューを行なった。

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写真:各務あゆみ
取材・文
高橋彩子 舞踊・演劇ライター
高橋彩子
取材・文
高橋彩子 舞踊・演劇ライター
早稲田大学大学院文学研究科(演劇学 舞踊)修士課程修了。現代劇、伝統芸能、バレエ、ダンス、ミュージカル、オペラなどを中心に執筆。『The Japan Times』『E...

エネルギーを共有しながら動くということ

――東京芸術劇場の『かもめ』以来、久々の舞台ですね。

渡辺 3年半ぶりです。『かもめ』は、皆でトンカチと釘を持ってカンカンと少しずつ家を建てていくような、刺激的で素敵な体験でした。だからこそ、軽はずみには舞台はできないなとも思っていたのですが、今回、この題材だったら、今まで自分がやってきたことすべてを捧げるつもりで覚悟をもってできそうだなと思い、挑戦させてもらうことにしました。

渡辺大知(わたなべ だいち)
高校在学中の2007年にロックバンド「黒猫チェルシー」を結成。ボーカルを務める。2010年にミニアルバム『猫Pack』にてメジャーデビュー(2018年10月に黒猫チェルシーは活動休止)。
音楽活動と並行して俳優としても活動を拡げる。デビュー作となる映画『色即ぜねれいしょん』(2009年公開)では日本アカデミー賞新人俳優賞授賞を受賞、数々の映画やドラマに出演。また、初映画監督作品『モーターズ』(2014)でPFFアワード・審査員特別賞を授賞するなど多彩な才能を開花させている。

――今回、渡辺さんは「演じ、歌い、踊る」とか。

渡辺 僕がどこまで歌うかはまだわかりませんが、踊りは今回のために1年間レッスンに通いました。本稽古に入る前に、3日間の“事前稽古”があり、今回の演出家のうち、アミール(・クリガー)さんとインバルさんがいらして、皆で実験を楽しむような雰囲気でいろいろと動いてみたんです。インバルさんは少女のような純粋なところがあって、キレイだと思ったら「わあキレイ」、違うなと思ったら「つまんない」。それが逆に信頼できるというか、「これがつまんないってことなんだな」「これは確かに面白い。じゃあ、その感覚をもっと共有できたら楽しいだろうな」と、こちらも切り替えられます。アミールさんはめちゃくちゃアイデアマンで、出演者に無理がないように、こういうタイプの人ならこんなことをやってみたらどうかというふうに、最大限楽しめるよう柔軟に作ってくださるので、こちらもあれこれアイデアを出したくなりましたね。

――どのようなアイデアを出したのですか?

渡辺 例えば、ダンサーさんたちが大勢で自分に絡んで来るときに「わーっと声を出そうか」と言われたのですが、「逆に、声が出ない、みたいな感じでやってもいいですか」と聞いて、試してみました。

――声が出るか出ないか、ギリギリのところでの身体表現をしてみたかったということでしょうか?

渡辺 ん~…。普段、音楽をやっていて思うのは、どれだけわけのわからない言葉を使っても、意味やストーリーは勝手に生まれちゃう、考えさせちゃう、ということ。もちろん、そういう意味やストーリー、歌詞の構造なども大事なんですけど、僕は言葉をまず音として楽しみたいと考えています。例えば「ねじまき鳥クロニクル」という語感を楽しむとか、「ね、じま、きどり」っていうふうにどこで切るかによってリズムや間合いを楽しむとか、いろいろな楽しみ方ができる。今回の舞台でも、声や言葉を含め、身体を使って何ができるかを試したいし、自分が当たり前だと思い込んでたことをどんどん壊していきたいんです。

最近、「なんで俺はこう思うのか、思い込んでいただけで勘違いなんじゃないか」「いや、勘違いじゃなかった」「それは本当か?」と繰り返し疑っていくことこそが、信じるということなんじゃないかと思うようになりました。だから「コンテンポラリー・ダンスってこういうことでしょ」と自分が勝手に考えていたことをどんどん壊していきたいし、どうやったら言葉を音として気持ちよくできるかとか、台詞を台詞としてだけじゃなくて違う使い方ができないかとか、たくさん感じつつ、考えまくりたいです。

――事前稽古では、ほかにどんなことを?

渡辺 共演者の成河さんと、触れ合ったりお互いの身体を使ってエネルギーを共有したりする“コンタクト”というものをさせてもらったのですが、ただ引っ張り合うとかだけでもこんな難しいんだなって。頭ではもっと簡単にできると思っていたけれど、成河さんは成河さんの人生の中での筋肉のつき方をしていて、自分とは背丈も体重も、重心の位置も違うから、ぱっと引っ張りあうともっていかれちゃう。2人のちょうどいいところでぴーんと糸が張るように静止するには、相手はこういう感じなんだっていうのを感じ、自分はこういう感じですよっていうのを伝える必要があるんです。それも、言葉や理屈ではなく、手を握って伝える。動物的なエネルギーの共有というか。相手がどういう状態なのかも込みで運動するなんて、人生で初めてでしたね。こんな世界があったんだと知ることができただけでもよかったなあ、と感じています。

主人公を2人1役で演じる

――その成河さんと渡辺さんは今回、主人公の岡田トオルを2人で1役で演じますね。

渡辺 まったく違うのに同じ人物をやるところが、僕も成河さんも面白くて。でも、人それぞれ、さまざまな面があると思うんですよ。相反する気持ちが共存していて、そのどちらかが強いこともあれば、グレーゾーンになっていることもある。だから、1人の人間を2人で演じる際も、僕と成河さんも、お互いのことを知って、その違いを面白がれば面白がるほど、グラデーションが豊かになる気がするんです。

例えば表面上は笑っているけど、内心はくそーって思ってて、笑ってるときにそれがちょっと出ちゃうことってあるじゃないですか。そういうふうに、成河さんと僕も、単なる表と裏、ではなく、一方がビュルっと出てきたり逆転したりするかもしれない。僕が岡田トオルAとBを演じて成河さんがCとDとかでもいいくらいで、1人の人間を多角的に、枝分かれしていく進化の図みたいに2人で見せられたら素敵なんじゃないかと、個人的に思っています。具体的にどうなっていくかはまだこれからなのですが。

――現時点で、『ねじまき鳥クロニクル』という作品およびトオルという人物について感じていることを教えてください。

渡辺 人って、例えば今こうやってお会いしたとき、全然違う場所で育って全然違う生活をしているけれど、「こう思うんですよね」「ああ、なるほど」って、わかり合えたり何かを共有できた感じがしたりしますよね。そういう、人生はどこか繋がっていると思わせてくれる体験を、時間を超越したところでやっているのが、この作品の凄さだと思うんです。奥さんがいなくなるという出来事から、近所の井戸の中に入って、遠く50年前の戦争に繋がっていく。家からほとんど出ない男なのに、時間を超越して人と心を通わせて、下手したら宇宙とも繋がっているような感覚にさせてくれる。この、近所の話っていうところも、いいですよね。

――世田谷の住宅地の。

渡辺 そうです。世田谷の、家のすぐ裏の、路地を通ってみつけた空家の井戸で、夢の中で人と出会って、でも単なる夢と言えなくて、夢から醒めても同じあざが残ったりと、時空も精神も超越するところが、魅力であり難しさでもあります。この物語の岡田トオルは、“近所”“世田谷”“日本”“世界”と、いろいろな輪の中心に、たまたまいる人。周りの星が動くことによって動かされるから、自分で何か起こすことももちろんやっていきたいけれど、まずはきちんと存在し、周りの動きにしっかり対応したいと思うんです。まあ、それが一番難しそうな気もするんですけど。ふわふわしている人物だけどふわふわしている“軸”というか、ちょっと宙から浮いている状態で、でも周囲のすごいパワーの渦の中にちゃんといることを心がけたいです。

ねじまき鳥クロニクル/村上春樹

文庫: 312ページ
出版社: 新潮社

「人が死ぬのって、素敵よね」彼女は僕のすぐ耳もとでしゃべっていたので、その言葉はあたたかい湿った息と一緒に僕の体内にそっともぐりこんできた。「どうして?」と僕は訊いた。娘はまるで封をするように僕の唇の上に指を一本置いた。「質問はしないで」と彼女は言った。「それから目も開けないでね。わかった?」僕は彼女の声と同じくらい小さくうなずいた。(本文より)

内容(「BOOK」データベースより)
僕とクミコの家から猫が消え、世界は闇にのみ込まれてゆく。―長い年代記の始まり。

なぜ音楽なのか、なぜ芝居なのか、自問自答を続けて

――先程、「最近、疑い続けることが信じることだと思うようになった」とおっしゃいましたが、それはいつからなのですか?

渡辺 ロックバンド(黒猫チェルシー)を昨年、活動休止したんです。改めて、ソロで音楽を作ろうとしたときに、今までのやり方を続けるだけでは、自分が今やる意味を感じないなと思って、「じゃあ、そもそも音楽をなんでやっているんだっけ」などと、原点に立ち返ったところがありました。そもそも、そういう自問自答は、小さい頃から続けていたことで……。

――小さい頃から、というと。

渡辺 小学生の頃は作家になりたくて、ずっと小説を書いていました。でも、自分は字が好きなのか、お話が好きなのか、その気になっている自分が好きなのか、みたいな自問自答を経て、ちょっと違うのかもしれないと思ったときに音楽と出会って。ああ、自分はページをめくってもらうんじゃなくて、時間芸術というか、始まりから終わりまでの変化を、空気を使って変えていくことを描きたいんだと思ったんです。例えば、小説で気まずいシーンが好きだったんですけど、それも空気が変わることに興味があったんだなあって。

そうやって、自分はどうして音楽を選んだのか、そこから音楽だけではなく芝居もやりたくなったのはなぜか、じゃあ、音楽ではできずに芝居でしかできないことは何だろうか? と、ずっと自分に問うてきました。

――では、渡辺さんにとって、音楽ではなく芝居でできることとは何でしょう?

渡辺 音楽の場合は、自分の心地いいリズムみたいなものを皆にも知ってほしくて、「これ、気持ちよくない?」「このリズムで踊ったら最高でしょ?」と提案している感じ。まずは人のことではなくて、自分がいいと思うものについてめちゃくちゃ考えるんです。誰か特定の届けたい人がいる場合にはその人のことを思い浮かべますけど、それも言ってみれば自分のエゴですよね。

一方、演技では、自分がどうしたいかとかどう映るかなんてどうでもよくて、自分の役と、目の前にいる人がどういう人なのかを、とことん知る時間。だけど面白いのは、自分なんてどこかに行ってくれ、と思えば思うほど、自分らしさが出ちゃったり、自分についての思いがけない発見があったりもする。

だから音楽とお芝居は全然違うし、それが楽しいなと思うんです。今回も、初めは自分がやってきたことすべてを捧げるつもりだったと言いましたが、今は知らなかったことをたくさん学んで、もらった分、自分からも自然に出てくると考えています。だから、この機会を大事に、いっぱい勉強して本番を迎えたいですね。

公演情報
ねじまき鳥クロニクル
日程 2020年02月11日(火・祝)~2020年03月01日 (日)
会場 東京芸術劇場プレイハウス
チケット S席:11,000円/サイドシート:8,500円/Yシート:2,000円(※20歳以下対象・当日引換券・要証明書)/U-25(25歳以下当日引換券):6,500円

詳細はこちら https://horipro-stage.jp/stage/nejimaki2020/

3月、大阪公演、名古屋公演あり

作・演出
原作:村上春樹 演出・振付・美術:インバル・ピント
脚本・演出:アミール・クリガー
脚本・演出:藤田貴大
音楽:大友良英
出演
<演じる・歌う・踊る>
成河 渡辺大知 門脇麦 大貫勇輔 徳永えり 松岡広大 成田亜佑美 さとうこうじ 吹越満 銀粉蝶

<特に踊る>
大宮大奨 加賀谷一肇 川合ロン 笹本龍史 東海林靖志 鈴木美奈子 西山友貴 皆川まゆむ (50音順)

<演奏>
大友良英 イトケン 江川良子

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