インタビュー
2018.10.25
住空間の中のオーディオ Vol.5

日本に洋楽ポップスを広めた先駆者、湯川れい子の音楽人生

ご登場いただく湯川れい子さんは、日本に洋楽ポップスを広めた先駆者。音楽活動は約60年に及ぶ。現在の肩書きは、音楽評論家、作詞家、ラジオDJ、翻訳家、ノンフィクション作家と多才で、日本作詩家協会顧問、日本音楽療法学会理事など重職にも就いており、現在も八面六臂の活躍をしている。

今回は貴重な時間をもらい、湯川さんの長い音楽人生の一端を紹介したいとの思いで取材を敢行した。それは弊社刊行の月刊誌「Stereo」が長年にわたり紹介してきたデンソーテン(旧富士通テン)のイクリプス CDR1を湯川さんに使ってもらうのがきっかけとなった。この機会を逃すまいと、日本の音楽文化に多大な貢献を残し、なおも精力的に活躍している彼女の姿に迫ってみた。

試聴した人
湯川れい子
試聴した人
湯川れい子 音楽評論家、作詞家、ラジオDJ

日本作詩家協会顧問、日本音楽療法学会理事。東京都目黒で生まれ、山形県米沢で育つ。昭和35年、ジャズ専門誌 『スウィング・ジャーナル』 への投稿が認められ、ジャズ評論家...

聞き手・文
大谷隆夫
聞き手・文
大谷隆夫 音楽之友社 編集部担当常務取締役

東京生まれの東京育ち。田舎に憧れ、自給自足を夢見るオジサン(多分無理)。中近東の転勤を命ぜられ広告会社を退社し、現在の出版社に就く。FM誌の編集を経験した後休刊と同時...

写真:高橋慎一

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日本に洋楽ポップスを広めた音楽人生

湯川 「私は夢をとっても大切にします。そのときは時間の制約などがあってできなくても、それを夢貯金として大切に貯めこんで、70歳になってからは、それを実現してゆくことを楽しみとしています」

現在82歳。その言葉通り、スケジュールを聞いただけでも、そのすごさがわかる。

その一端を披露すると、高山広のワンマン・プレイ“劇励”-ルーサー・ヴァンドロス/アレサ・フランクリン物語観賞、梅沢富美男 劇団創立80周年公演鑑賞、2018年で芸名ピーター終了の池畑新之助ラストディナーショウ、玉置浩二のTVスペシャル番組での対談、世界で輝く女性プロジェクトで話題の女性指揮者・西本智美の推薦者としての対談、カナダ・エドモントンでのポール・マッカートニー取材、来年に向けて小林幸子からの詞の依頼……等々。

湯川 「私のところに情報は山のように来ます。自薦他薦でくるので、そこから選別していきます。ツイッターで、そんなにたくさんいろいろ行けて羨ましいですねと言われますよ。その通りで、すみません、って感じています(笑)」

正直であることを大切に、音楽評論を

湯川 「取材する側とされる側のどちらがいい? と聞かれれば、される側のほうがいいです。だって、自分が歩んできた人生を、心の引き出しからひっぱりだして話すことが中心だから。でも、する側になったら大変。相手のことをもっと知らないといけない、きちんと事前に下調べして、勉強をして、できるだけのことをしないと相手にも失礼ですから」

湯川さんの肩書きの中で、ご当人がメインに挙げるのは、洋楽の音楽評論家。多くのアーティスト、特に海外のアーティストや作品で、その手にかかわった数は枚挙にいとまがない。海外のポップス評論の草分け的存在でもあるので、言葉には重みがある。

湯川 「私は評論というか、解説やコメントをするときに大切にしていることは正直であること。ダメと思うものはお断りするし、魅力が見いだせないなら語ることはできません」

スケールの大きい、非常に興味深い話をもうひとつ。

湯川 「私は日本で一番エルビス・プレスリーを知っているつもりでいます。ロックンロールが生まれる頃から体感してきたから。けれど、ビートルズがエルビス・プレスリーに影響を受けたということが、ここにきてやっと理解されるようになりました。それまではエルビスのヒット曲にしか注目されていなかったのが、やっと社会的にも彼の存在の偉大さや影響力が認識されるようになってきた。ジョン・レノンが唯一プロデュースしたいアーティストはエルビスだと、私は直接聞いています」

歴史の証人として、解説者として、湯川さんの確かなメッセージが伝わってくる。

新刊情報
『女ですもの泣きはしない』

著者: 湯川れい子

これまで語られなかった個人的な思い出も赤裸々に明かした、著者初の自伝!
日本の洋楽界をリードする本質をついた評論、心を揺さぶられる切ない作詞。その裏側にはいつも身を切る恋があった――。

許嫁がいながら落ちた本気の恋、成功を助けてくれた男たち、結婚、出産、離婚――。音楽業界の第一線を駆け抜けてきた著者の波瀾万丈の人生を、大好評を博した日本経済新聞、「私の履歴書」に大幅加筆して著した初めての自伝。
「六本木心中」「恋におちて-Fall in love-」「ランナウェイ」などを生み出した半生を、すべて告白!

定価:1,728円(本体1,600円+税)
発売日:2018年10月19日
発行:KADOKAWA

聴く人を虜にする作詞は初めの2行で決まる

作詞家としての立ち位置はどうだろうか。その質問に面白い答えが返ってきた。

湯川 「作詞家はオートクチュールですね。つまり、服に例えればオーダーメイド、すべてに注文がつくの。私が手掛けたほとんどの作品には、こうしてくれ、こうでなきゃいけない、これが必要と細かく指示・要望がありました」

最初に手がけたのは、1965年ラジオ関東の「ゴールデン・ヒット・パレード」のアシスタントをしていたときに、エミー・ジャクソンに書いた英語での作詞、「クライング・イン・ア・ストーム」(涙の太陽)。その時代、作詞・作曲家はレコード会社の専属であり、湯川さんは自分の名前をR.H.Riversとしてリリース、青山ミチが日本語でカバーして大ヒットとなる(後に安西マリアでリバイバルヒットにもなった)。

音楽業界の古い体質としがらみの中で作詞家としてスタートした湯川さんは、1980年、100万枚を超すビックヒットとなるシャネルズの「ランナウェイ」、そしてアン・ルイスの’84年「六本木心中」、小林明子の’85年「恋におちて」など、数々の話題作を手掛ける。

インタビュアの私は、湯川さんが書いた稲垣潤一の「ロング・バージョン」が好きで、カラオケで良く歌いますと話を向けると「あら! チャリンと4円(印税)、私に入るわね!」と笑った。

コマーシャルソングやドラマの主題歌など、依頼者からの容赦ない(?)注文を受けながらの仕事もあり、心労もあったのではと勝手に想像してしまう。そんな過酷(?)な中にあって、氏が唯一自分の意志で自分が作りたいものを世に送り出すことができた作品があるそうだ。

それはクミコの「うまれてきてくれてありがとう」(2015年)。作曲はつんく♂。3人の子をもつ親でもある彼と、長年携わっている日本子守歌協会の15周年記念で、歌い継がれる曲を作りたいという思いが叶った作品である。

湯川さんにはつねに注目している書き手がいる。長渕剛であり桑田佳佑だ。

湯川 「詞が面白いとか面白くないとかじゃなく、その人にしか書けないものを書くのがシンガーソングライター。桑田さんは、歌が知的で、遊び心も反骨心もある。それを陽気に知らん顔して鋭く歌う本当に勇気ある人。音楽的にもハーモニーも素晴らしい。きっとヘッド・アレンジが音に影響しているんでしょうね。

長渕さんの反骨心は真逆で、自分の弱さ、不安、コンプレックスを筋肉に変えて、歌の力で表現している。素晴らしい説得力と普遍性の作家であり、努力の人です。個人的なお付き合いもあり、苦しむ姿も見ているから、余計のことシンパシーが湧きますね」

優れた詞というのは初めの2行で聴く人を虜にし、人に力を与えるもの。2行で勝負は決まる、が持論で、「上を向いてあるこう 涙がこぼれないように」や「いまはもう秋 だれもいない海」などは、「それだけで全体の情景やドラマがしっかりと伝わってくる。一生に1曲でもそんな名曲を作れたらいい」と話してくれた。

生活空間ではライブの雰囲気に浸りたい

今回の試聴CDは、ポール・マッカートニー『エジプト・ステーション』。
ユニバーサルミュージックUICC10040

 

湯川さんは音に対してどのような考えをもっていて、普段どんな環境で音楽を聴いているのだろうか。

湯川 オーディオに女性の評論家はいませんよね。どうしてか? 機械に弱いこともあるかもしれませんが、それよりも女性は、どんな音が良くて低音がどうこうよりも、音楽そのものに反応するのだと思います。

音楽を聴くときは、書斎とリビングルームが主です。原稿を執筆するときは書斎で。作品について評論する立場だから、1対1というか、ある意味閉ざされた空間で聴きます。そうでないときはリビングルーム。生活空間の中で聴く音楽は、一番自然で心地よく、その世界にゆったり浸ることが好きです。

基本として、音楽はライブですね。だって音楽はコミュニケーションですから、周りの歓声や感動の声があったり、一緒に歌ったりといった連帯感が生まれる、その空間がとても自然な雰囲気で大好きです」

湯川さんのリビングルームにイクリプス CDR1 508PACKをセット。自然な空間の中で部屋全体を満たすように音楽を聴くのが好きだと語る。

CDR1を聴いた感想は?

湯川 「次から次へと新譜がくるので、時間さえあればイクリプスで聴いていますよ。

イクリプスは低音、高音など微調整をする必要がないし、非常に心地よく聴けて、包み込まれるような柔らかい音が気持ちいいです。音の一つひとつがよくわかって、音にのめり込んでしまいます。声の質感が実際のライブで聴いたときと変わらなくて、そこで当人が歌っているような雰囲気を享受できて嬉しいですね。

ポール・マッカートニーの新作『エジプト・ステーション』を聴いてみましょうか。ポールの声がライブで歌っているのと変わらない。楽器一つひとつがとってもクリアに聴こえてくるのが嬉しいですね。

使い慣れてきて、すごく楽に手軽に扱えるのが便利。スペースをとらない大きさだし、豊かな音量を楽しめるのがありがたいですね。キッチンからリモコン操作ができるのも申し分ありません」

ラジオ番組情報
Music Rumble

FMヨコハマ 84.7

毎週木曜日24:00~25:00

リリース前の超プレミア新曲を中心に、話題のニュー・アルバム、さらに懐かしのビッグ・ヒットやその時代背景など、洋楽の魅力満載で綴る1時間。キャリア半世紀の「賢人」とともに、魅惑の時空へ……。

試聴した人
湯川れい子
試聴した人
湯川れい子 音楽評論家、作詞家、ラジオDJ

日本作詩家協会顧問、日本音楽療法学会理事。東京都目黒で生まれ、山形県米沢で育つ。昭和35年、ジャズ専門誌 『スウィング・ジャーナル』 への投稿が認められ、ジャズ評論家...

聞き手・文
大谷隆夫
聞き手・文
大谷隆夫 音楽之友社 編集部担当常務取締役

東京生まれの東京育ち。田舎に憧れ、自給自足を夢見るオジサン(多分無理)。中近東の転勤を命ぜられ広告会社を退社し、現在の出版社に就く。FM誌の編集を経験した後休刊と同時...

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