新生デスノートに挑むキャスト3名、村井良大、甲斐翔真、髙橋颯に訊く
2020年1月20日~2月9日まで、東京建物 Brillia HALLで上演される『デスノート THE MUSICAL』。12月中旬、いよいよ本格的な稽古が始まろうとする中、主演を務める3名の俳優、村井良大、甲斐翔真、髙橋颯にインタビューを行なった。ONTOMOならではの音楽方面に切り込んだ内容にも注目。
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...
『DEATH NOTE』は集英社「週刊少年ジャンプ」に連載され、日本累計発行部数3000万部を超え、世界でも注目を集めた漫画(原作 大場つぐみ/漫画 小畑健)。連載終了後も、映画にアニメ、小説やドラマなど幅広いメディア展開が続いている。
2015年にはブロードウェイの作曲家であるフランク・ワイルドホーンの楽曲と、ジェイソン・ハウランドというグラミー賞受賞経験を持つ音楽スーパーバイザー、そして演出に日本を代表する演出家・栗山民也を迎えたミュージカル『デスノート THE MUSICAL』が登場。熱狂的なファンを集め、2017年の再演では、日本国内を飛び出して海外公演(台中公演)でも大成功を収めている。そして2020年1月、オール新キャストによる上演が決定した。
そこで今回は夜神月を演じる村井良大と甲斐翔真、そしてエルを演じる高橋颯の3名にインタビューを行なった。
自分の中から呼び起こしたもので役を作り込む
――注目作の主役を演じるにあたり、どんな役作りを行なったのでしょう?
甲斐 先日、本読みの稽古をしたときに、自分の気持ちの変化を早くしていかないと物語に追いつかないということに気がついたんですよね。
村井 そう、ほんのひとことが大事になってくる。
甲斐 何気ないセリフに意味をもたせるように演じる必要があるんです。
村井 今回の『デスノート THE MUSICAL』は、それまでの台本が改訂されて、説明的なセリフが少し減っているんです。だから書かれているものの重要性が強くなっています。月(ライト)の場合は、普通の高校生から“キラ”へと内面が変わっていく瞬間を早めに作っていく必要があります。
髙橋 そのためには自分が変化した部分や重要なセリフはもちろん、その前の場面をよく理解していないとダメなんです。
――台本が変わったということは、音楽も変わったのでしょうか?
甲斐 音楽は変わっていません。ただ、「デスノート」(M-4)が全音上がりました。
村井 カラオケでいうと、2つキーが上がりました。
甲斐 それだけでも印象が違うんですよ。イントロからもう違う!
村井 全音上がったことで、より“神”の雰囲気が出てきたかなと。しかも神々しさの中に狂気があって、時には賛歌のようにも聴こえたり……。
甲斐 あと少年っぽさも感じます。実はもともとワイルドホーンさんはこの高いキーで作っていたんですよ。
村井 そうそう。初演ではキーを下げて“命の重み”を強く出そうとしていたんですよね。ただ自分はもともと音源でずっと高いキーのほうを聴いていたので、こちらのほうが歌いやすくて。
――甲斐さんはいかがですか?
甲斐 村井さんと僕でキーが違ってもいいよ、というご提案はいただいたんです。ただ実際歌ってみると、高いキーのほうがいいなと僕も思いました。そのほうが少年の“揺れる”感じが出るかなと。
村井 デスノートを普通の人間がもったら変わってしまう……という感じが、高いキーのほうが表現しやすいんですよね。原作だと月は超天才という描かれ方をしていますが、ミュージカルの彼は優秀な生徒という感じで描かれています。もちろん学年トップの頭脳はもっているけれど、もっと身近な、頭のいい青年なんですよね。だからこそ“命の重み”を重視した低いキーよりもこちらのほうが自分なりの表現がしやすかったんです。
――いろいろな音楽の要素がつまったミュージカルになっていますよね。
甲斐 ロックな感じで物凄くカッコイイ曲ばかりです!! ただそのぶん日本語の平坦な響きをのせるのが大変です。歌詞をとどけるためには、こちらが言葉をしっかりと発しないといけません。
――MVを拝見しましたが、高橋さん演じるエルとの掛け合いもかなりスピード感がありますよね。言葉の処理が大変だったのでは?
甲斐 そうですね、音楽性と言葉によるメッセージ性のバランスを取るのが難しかったですね。
髙橋 そうなんです。音楽はすごくリズム感があるので、言葉をしっかりと立てて発しないと何を言ってるかよくわからなくなってしまいます。かといってやりすぎると不自然なので……バランスが難しいですね。
――MVを拝見して思ったのですが、髙橋さんの演技、エルの天才性がすごく表現されているなと感じました。目線とかちょっとした仕草とか……
甲斐 ずっとエルの動画見て研究してたよね。
髙橋 ずっと研究はしてるんですが、彼のように頭が良くなることはないし、難しいです(笑)。
――こうしてお話しているときと動画での“眼”が全然違うので驚きました。
髙橋 エルは達観した感じがありますし、ものすごく洞察力もありますから、初対面でその人のことをいろいろわかってしまう。経歴だったり家族構成まで……。だからこそその鋭さを表すために目線にはかなり気を使っています。
――『DEATH NOTE』は映画にアニメなど、さまざまなメディア展開がありましたが、原作以外のものをご覧になって参考にされたりしたのでしょうか?
甲斐 他のものを見てそこから学ぶ、というよりは、原作を読み込んで、自分をそこに置く、ということを大切にしています。自分の中にあるものを呼び起こして、夜神月になれるように……。
村井 自分の中にあるものに正直に……は自分も気をつけています。というのもミュージカル版はほかのバージョンとは全然違う作りになっているんですよね。あくまでも舞台のライヴ感を大切にしたいので、アニメや映画はもちろんですが、原作も最近では敢えて見ないようにしています。どうしても引っ張られてしまうので。あくまでも今回のミュージカルの台本に集中するようにしています。
髙橋 今回エルを演じることが決まったとき、最初の頃は特に他のバージョンの演技をいろいろと参考にしようとしていました。俳優歴が短いですし、まずは形から入ったほうがいいかなと思って。特に映画のエルは参考にしましたね。でも、映画のバージョンもあくまでも俳優さんのオリジナルで演じていらっしゃるんだ、ということに気がついて。
なので今では、僕も自分の中から呼び起こすことを重視しています。キャラクターの個性の強さに負けないようにしたいですね。あくまでも一人の人間としてのエルを演じられたら。なので、今ではエルっぽい動きとかをあえて全部やめてみようかなとも思ったり、いろいろ試してみようと思っているところなんです。
村井 それいいんじゃないかな。原作読んでみると実はエルって最初はかなり普通だしね。特徴的なあの前のめりの姿勢とかは後からなんだよ。目の下のクマもうすいし(笑)。
髙橋 そういえばそうだ!!
村井 ミュージカルの韓国バージョンも見てみると、結構直立不動で演技していたりもしたし、ポーズや動きだけじゃない部分でエルを出せるといいよね。
甲斐 動きや姿勢の一つひとつにも意味を持たせる感じ?
髙橋 なるほど……でもエルの場合、ああいう格好や動きにあまり理由はなさそう(笑)。自然体でああなってるんだろうなと。だからこそいろいろと試して自分の中から沸き起こるものを出していきたいなと思っているんです。
――ふと思ったのですが、月とエルって、対照的なようでいて、実は表裏一体の存在のようにも思えるんですが、どうでしょう?
甲斐 そうですね。エルがデスノート拾ってたら、月とエルの立場が逆転していたかも……。
髙橋 エルって突拍子もなかったり、先を考えすぎた発言をするので、つかめないときがあるんです。そんなときは月のセリフを読むんですが、そうすると、エルと月って考え方そのものはほとんど一緒なんですよね。月の考え方があった上で、もっと倫理的な哲学とか正義感が入ってくるので違って見えているだけで……。
村井 あとエルは自分の意志がしっかりあって、もっと感情の起伏があるよね。
甲斐 月はデスノートや周りに影響されて変わっていく感じ。
髙橋 エルは月という存在に同情というか、自分を重ねている部分があるんじゃないかな。昔の自分をみているような気持ちというか。
村井 おっ、それ面白い解釈だね。
髙橋 エルは孤児院でひたすらゲームばかりしていたけれど、メディアなどを通して情報を得る中で、いろいろな感情を覚えていたはず。例えば、理不尽に対する怒りとか。だから実はかなり“平和”というものを強く望んでいて、月の感情や、犯罪者を殺すことで新世界を創り出そうとする考え方をわかる部分もあるんじゃないかなと。
日本語で歌うミュージカルの難しさ
――これまでいろいろとみなさんの役に対する向き合い方を伺ってきましたが、演技を歌にのせる……というのはまた違う難しさがありますよね。
村井 例えば、あえて声色を変えて……といったようなことはしていません。なるべく自然に感情がのるように歌っています。「デスノート」は一番月の心情の変化がわかりやすいと思います。デスノートを拾ってしまったことへの恐怖、使うことへの不安といったところから、“これが正義だ”と、自分の精神をズタズタにしながら犯罪者の名前を書き始める……という豹変ぶりが細かく表現された曲なので。
――歌唱指導ではどんなことを言われたりするのでしょうか? 特に甲斐さんと高橋さんはミュージカルが初めてということですが。
甲斐 言葉を届ける、ということの難しさを常に感じています。特に日本語は母音が多くリズムに合わせづらいのですが、合わせようとしすぎると言葉が伝わらなくなります。この悩みは日本語のミュージカルならではだと思います。
――村井さんは舞台経験が豊富ですが、お二人にアドバイスなさったりすることはあるのでしょうか?
村井 とんでもないです! そんなことはしません(笑)。
髙橋 確かに直接何か仰る、ということはないですが、それでも背中で教えてくれる感じはありますよ! “あたたかい横目”を感じます(笑)。
村井&甲斐 なんだそれ!?
髙橋 なかなかタイミングが合わなくてお話できるチャンスがあまりないのですが、それでも稽古中、村井さんのあたたかい横目と背中からのアドバイスを受けてる感じがしてるんです。
村井 ふーん……とりあえず冷たくなくてよかったよ(笑)。
――そっと見守ってくれているような感じ……ということでしょうか。いずれにしても村井さんの存在はとても高橋さんとって大きなものだということが伝わってきます!
ところで、高橋さんはアーティスト活動もされていましたが、今回ミュージカルで歌われるにあたって、歌い方の違いで苦労することはありますか?
髙橋 心から沸き起こってきたものを音にする、と言う点では一緒なのですが、もちろん発声法は違いますね。想いや言葉を伝えようとすればするほど、それを旋律に乗せるのがすごく難しいです。
村井 日本語にはリズムやアクセントがないから曲に乗せづらい、というのはあるよね。
甲斐 歌唱指導の先生から伺ったのですが、以前、全世界のヴォーカルトレーナーが集まる会議のようなものがあったらしいんです。そこで歌唱指導の先生が“日本人はどうして下手なのか”と言われたらしくて……。そこで「じゃあ、『アラジン』の“I can show you the world”という歌詞を“見せてあげよう”と歌ってみてよ」と仰ったらしいんですね。そしたらみんな「なんて難しいんだ!」と。
日本人が下手、なんじゃなくて、日本語で歌う、というのが本当に難しいということがわかったそうです。
――クラシックでも、日本歌曲は独特の難しさがあるので、オペラ歌手の方やリート歌手の方も苦労されています。母音の扱いなど、いろいろと難しいところがあるんですよね。
村井 しかも日本語で歌うのって、のどを痛めやすいんです。あと歌うときにとても重要なのは、日本語を楽曲のリズムにのせるために、普段話すときのようにさらっと流れてしまうとダメなんです。言葉が走ってしまって曲と合わなくなってしまう。きちんと拍に言葉をのせていくことを意識しないと。
リセットするためにクラシックを聴く
――『デスノート THE MUSICAL』はいろいろな音楽の要素が入ったミュージカルですが、みなさんは普段どんなものを聴かれるんでしょうか?
甲斐 最近は『デスノート』のことが24時間頭から離れないので、自分をリセットしたり、リラックスしたいときにはアロマを入れた風呂にゆっくり浸かりながらバッハの《無伴奏チェロ組曲》を聴いています。そうやって頭の中を“ゼロ”にするようにしているんです。
髙橋 僕はもともと米津玄師さんの音楽が大好きなんです。それで米津さんの《アイネクライネ》という曲があって、そのつながりで最近モーツァルトの《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》も聴いたりしています。これからもっとクラシックも聴きたいなと思っているところなんです。
村井 僕は映画音楽をよく聴きます。聴いていると映画のシーンや登場人物の心情が思い浮かぶので楽しいんですよね。そんなこともあってオーケストラのサウンドがすごく好きで。あと、最近は行けていないのですが、ジャズライブに出かけたりもしますよ。
――甲斐さんはクラシック以外にお好きな音楽はありますか?
甲斐 最近はもう完全に『デスノート THE MUSICAL』の音楽かクラシックしか聴いてません(笑)。
村井 へぇー! いつからクラシックは聴いてるの?
甲斐 昔から好きでよく聴いてるんですよ。オーケストラのコンサートとかもよく行きますし。詳しいわけでもないし、どの曲が……という感じではないのですが、とにかくクラシックが好き。だから「作業用クラシック」とかも聴いたりします。「バッハ2時間」とか「モーツァルト2時間」みたいなやつ。
髙橋 僕はあと玉置浩二さんが好きなんです。《カリント工場の煙突の上に》とか特に。
村井&甲斐 渋いね!!(笑)
――年齢とのギャップが凄い! ご両親の影響とかでしょうか?
髙橋 いや、高校のときの友だちの影響で聴き始めました。玉置さんが悩んでいた時期の作品なのですが、僕も学生時代に悩んだり反発心を持ったりしていた時期があったので、それを聴いて救われたりしていました。
――玉木さんの歌、素晴らしいですよね。そういえばオーケストラと共演したり、クラシックのアプローチもされていますね。ミュージカルは語りに歌、そして動き……とまさに総合芸術ですが、皆さんはどんなことを心がけて演技や歌唱をされていますか?
甲斐 自分は今回ミュージカルをやるにあたって、真っ先に出た課題が芝居のときの発声だったんです。ずっと映像の世界で生きてきたので、舞台に出たときに、映像の中でやっていた表現ではまったく足りないんですよね。もともと声がそんなに大きいわけじゃないし、ギアをチェンジしていくような感覚をもってやるようにしています。
髙橋 舞台の上でお芝居をすることは非日常ですよね。だから普通に話したり歌ったりするんじゃ、作品のもっているエネルギーに負けてしまう。それでいろいろ考えて、セリフとかを歌舞伎調に読む、ということを試したりしてます。
村井 素晴らしい……! それってすごく原点に返っている感じがあると思う。颯くんっていろんなアプローチしてて偉いよね。
*
大きくリニューアルした『デスノート THE MUSICAL』。“新生デスノート”の新たな主人公3名は、それぞれにこれまでの経験や新しい発見を活かして役柄に対峙している。さまざまな音楽体験や日々の鍛錬によって構築される新しい夜神月とエルに期待が膨らむ。
- 期間 2020年1月20日(月)~2月9日(日)
会場 東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
料金 S席:13,500円/A席:9,000円/B席:6,000円/Yシート:2,000円(※20歳以下対象・当日引換券・要証明書)
全席指定・税込
※未就学児入場不可
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