インタビュー
2023.09.07
2023年9月12日からは来日公演も!

ファジル・サイが語る《ゴルトベルク変奏曲》〜「音楽は最終的には人々を幸せにするためにある」

ピアニスト・作曲家として世界的に活躍するファジル・サイ。2022年にはアルバム『バッハ:ゴルトベルク変奏曲』が発売されましたが、サイはこの名曲にどのように取り組んだのでしょうか。独自の分析方法などについてお話しいただきました!

取材・文
飯田有抄
取材・文
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

写真:飯田耕治

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この秋、シューベルトの後期ソナタや、多彩な自作品での来日公演を行なうファジル・サイ。2023年1月に来日した際に、最新アルバム『ゴルトベルク変奏曲』についてたっぷりと伺った。

《ゴルトベルク変奏曲》を色分けして徹底的に分析

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——モーツァルトやベートーヴェンのソナタ全集を作られてきたサイさんにとって、J.S.バッハの大作《ゴルトベルク変奏曲》は、どのような作品として捉えていますか?

サイ 《ゴルトベルク変奏曲》は、高い演奏技術を要する曲であると同時に、対位法についての深い分析が必要な作品です。もともと2段鍵盤のチェンバロのために書かれているので、現代のピアノで演奏するためには、ピアニストは何らかのアレンジをしなければなりません。これが実は、かなり大変な仕事でした。まずは作品を深く分析する必要があります。

ファジル・サイ(ピアニスト、作曲家)
1970年、トルコのアンカラに生まれ、アンカラ国立音楽院でピアノと作曲を学ぶ。
17歳で奨学金を得て、デュッセルドルフのシューマン音楽院に留学し、デイヴィッド・レヴァインに師事。その後1992年から1995年までベルリン音楽院で学び、1994年ヤング・コンサート・アーティスト国際オーディションで優勝、国際的な演奏活動を開始。
世界各地の主要オーケストラとの共演や音楽祭への出演などの演奏活動に加えて、作曲も手掛け、16歳で作曲した《Black Hymns》はベルリン建都750周年記念行事で演奏された。

——アルバムのライナーノートには、カラフルな色鉛筆を使って、スコアを入念に、美しく分析されている様子が写真に収められていますね。

サイ 色を使って分析譜を作るのはとても便利です。実際に鍵盤に触らずとも、楽譜を見ることで分析的になれますし、視覚的な情報がインスピレーションを与えてくれます。

変奏曲の分析は、比較的「楽」ではあります。基本的な構造は、テーマに沿っていますから。ゴルトベルク変奏曲のテーマ「アリア」は32小節あります。16小節目で反復しますが。冒頭の8小節は、私の中では青のイメージです。次の8小節は喜びあふれる春のイメージ。

後半はホ短調になって悲しみがやってきます。秋・冬のイメージです。でも最後の8小節で再び、喜びの地へと戻ってくる。鍵となるのは短調から最後の8小節で希望が再び戻ってくるところ。このパターンがとても重要です。ただし、テンポやメロディやリズムは、すべての変奏で異なります。だからこそ、「アリア」でバッハが何を言いたかったのか、そこを深く分析することが重要ですね。

ライナーノーツに掲載されている色鉛筆で色分けして分析したスコア

サイ 各変奏ごとに、「音楽はこう流れるべき」というのを詳細に突き詰めていますから、分析の段階でほとんど暗譜もしてしまいます。鍵盤に向かって「弾く」というのは別の行為ではありますが、3回か4回弾き通すと、かなりのところまで仕上がります。

——30の変奏が、サイさんの演奏ではそれぞれのキャラクターが鮮やかに異なり、とても楽しく聴かせてもらいました。

サイ バッハの楽譜には、アダージョやアレグロといったテンポ指定がありません。先ほどもお伝えしたとおり、もともとがチェンバロのための作品ですから、フォルテやクレッシェンドといった強弱記号もありません。でも、彼の《パルティータ》や《フランス組曲》などを弾いてきましたし、管弦楽組曲やブランデンブルク協奏曲を知っていると、「アルマンド」「メヌエット」「ガヴォット」「ジーグ」といった古典組曲の舞曲形式から、バッハがそれぞれの変奏で、どのようなテンポをイメージしていたかがわかります。

やはり経験を積むと、作曲家のことがよくわかってきます。彼がどういうテンポを求めているのか、感覚的に掴めてくる部分と、知識の蓄積でわかる部分がありますね。

音楽は聴衆と自分とのコミュニケーション

——もとはチェンバロのために書かれた作品ということですが、サイさんは現代のピアノで演奏をされています。最近では当時の楽器を使って演奏したり、当時の演奏法についての研究も盛んですが、モダンピアノでバッハを演奏することについては、どのような意義を感じていますか?

サイ ピリオド研究に対しては、とてもリスペクトしています。当時の楽器で演奏することにも大きな意味があると思います。ただ、現代のピアノは、当時のチェンバロに比べて、音色が多彩で、ペダルの効果も用いることができます。ダンパーペダルを使用するとカンタービレ、つまり歌うような奏法で演奏することができますし、ソフトペダルによって、豊かな音色の変化も作れます。

現代のピアノで古典舞曲を演奏すると、可能性とイマジネーションがさらに豊かに広がると感じています。より自由度の高い演奏が、現代のピアノで可能になると感じています。

——分析をとことん突き詰めたうえで演奏されるとのことですが、実際に鍵盤で演奏していて、音楽の方向性が変わることはありますか? たとえば聴衆の反応で音楽が変わるといったことはありますか?

サイ 分析によって決めた方向性と実際の演奏はかなり近いですし、大きくは変化しません。ただ、私は自分の感情を楽器で表現しています。それは、聴いてくださっている聴衆のために行なっていることです。音楽は聴衆と自分とのコミュニケーションであると思うので、演奏は「完璧」よりさらに良いものにしたい。音楽とは、最終的には人々を幸せにするためにあると思っています。

ファジル・サイ『バッハ:ゴルトベルク変奏曲』
2022年11月25日ワーナーミュージック・ジャパンより発売

作曲家兼ピアニストのファジル・サイが、まったく新しい視点で見たバッハの傑作!
ファジル・サイ/Morning-Evening

ファジル・サイのデジタル・シングル発売プロジェクト。2022年3月から3週に1曲のペースで第1次シリーズ(8曲)が発売済。第2次シリーズ(17曲)が現在継続発売中、2024年1月12日の「自作:イスタンブールの冬の朝」をもって全25曲の発売が完結予定。サイが選曲した朝と夕べに相応しい楽曲で、朝では「スカルラッティ:ソナタ ヘ短調K.466」、夕べでは「ドビュッシー:月の光」がストリーミングの人気曲。「Morning-Evening」プロジェクトの楽曲を含む、朝と夜それぞれにぴったりのピアノ曲を集めたプレイリストがワーナークラシックスから好評配信中。

 

Piano Music for the Morning | Focus, Concentrate and Study: https://w.lnk.to/pmm 
Piano Music for the Evening | Relax and Sleep : https://w.lnk.to/pme
ファジル・サイ ディスコグラフィー https://wmg.jp/fazil-say/discography/

 

公演情報
ファジル・サイ《ゴルトベルク》

日時: 2023年9月12日(火)19:00開演

会場: 住友生命いずみホール

曲目: バッハ/ゴルトベルク変奏曲 BWV988(全曲)

料金: 全席指定7,000円

問い合わせ: ABCチケットインフォメーション
06-6453-6000

詳しくはこちら

SAY PLAYS SCHUBERT

日時: 2023年9月13日(水)19:00開演

会場: 紀尾井ホール

曲目: シューベルト/ピアノ・ソナタ 第19番 ハ短調 D.958、ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D.960

料金: 全席指定8,000円(9月14日公演とのセット券15,000円)

問い合わせ: チケットスペース
03-3234-9999

詳しくはこちら

SAY PLAYS SAY

日時: 2023年9月14日(木)19:00開演

会場: 紀尾井ホール

曲目: ファジル・サイ/ヴァイオリン・ソナタ 第2番 Op.82《イダ山》(ヴァイオリン:服部百音)[日本初演]、クレオパトラ Op.34(ヴァイオリン・ソロ:服部百音)、ニューライフ・ソナタ/3つのバラード、パガニーニ・ジャズ・ファンタジー、サマータイム・ヴァリエーションズ、トルコ行進曲“ジャズ”

料金: 全席指定8,000円(9月13日公演とのセット券15,000円)

問い合わせ: チケットスペース
03-3234-9999

詳しくはこちら

富士山河口湖ピアノフェスティバル 辻井伸行/ファジル・サイ/レ・フレール ザ・ピアニスト GALA

日時: 2023年9月16日(土)15:00開演

会場: 河口湖ステラシアター

出演: 辻井伸行、ファジル・サイ、レ・フレール

曲目: 

1st stage レ・フレール 《ベスト・オブ・レ・フレール》
Boogie Back to YOKOSUKA
On y va!
映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』より 「彼こそが海賊」
Victory 他

2nd stage 辻井伸行 《リスト!リスト!! リスト!!!》
巡礼の年 第2年への追加《ヴェネツィアとナポリ》
コンソレーション 第2番
メフィスト・ワルツ 第1番

(20分休憩)

3rd stage ファジル・サイ 《サイ・プレイズ・サイ》
ニューライフ・ソナタ
3つのバラード
パガニーニ・ジャズ・ファンタジー
トルコ行進曲 “ジャズ”

料金: 7,700円

問い合わせ: 富士山河口湖ピアノフェスティバル事務局(河口湖ステラシアター内)
0555-72-5588

詳しくはこちら

取材・文
飯田有抄
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飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

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