ファジル・サイが語る《ゴルトベルク変奏曲》〜「音楽は最終的には人々を幸せにするためにある」
ピアニスト・作曲家として世界的に活躍するファジル・サイ。2022年にはアルバム『バッハ:ゴルトベルク変奏曲』が発売されましたが、サイはこの名曲にどのように取り組んだのでしょうか。独自の分析方法などについてお話しいただきました!
1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...
この秋、シューベルトの後期ソナタや、多彩な自作品での来日公演を行なうファジル・サイ。2023年1月に来日した際に、最新アルバム『ゴルトベルク変奏曲』についてたっぷりと伺った。
《ゴルトベルク変奏曲》を色分けして徹底的に分析
——モーツァルトやベートーヴェンのソナタ全集を作られてきたサイさんにとって、J.S.バッハの大作《ゴルトベルク変奏曲》は、どのような作品として捉えていますか?
サイ 《ゴルトベルク変奏曲》は、高い演奏技術を要する曲であると同時に、対位法についての深い分析が必要な作品です。もともと2段鍵盤のチェンバロのために書かれているので、現代のピアノで演奏するためには、ピアニストは何らかのアレンジをしなければなりません。これが実は、かなり大変な仕事でした。まずは作品を深く分析する必要があります。
1970年、トルコのアンカラに生まれ、アンカラ国立音楽院でピアノと作曲を学ぶ。
17歳で奨学金を得て、デュッセルドルフのシューマン音楽院に留学し、デイヴィッド・レヴァインに師事。その後1992年から1995年までベルリン音楽院で学び、1994年ヤング・コンサート・アーティスト国際オーディションで優勝、国際的な演奏活動を開始。
世界各地の主要オーケストラとの共演や音楽祭への出演などの演奏活動に加えて、作曲も手掛け、16歳で作曲した《Black Hymns》はベルリン建都750周年記念行事で演奏された。
——アルバムのライナーノートには、カラフルな色鉛筆を使って、スコアを入念に、美しく分析されている様子が写真に収められていますね。
サイ 色を使って分析譜を作るのはとても便利です。実際に鍵盤に触らずとも、楽譜を見ることで分析的になれますし、視覚的な情報がインスピレーションを与えてくれます。
変奏曲の分析は、比較的「楽」ではあります。基本的な構造は、テーマに沿っていますから。ゴルトベルク変奏曲のテーマ「アリア」は32小節あります。16小節目で反復しますが。冒頭の8小節は、私の中では青のイメージです。次の8小節は喜びあふれる春のイメージ。
後半はホ短調になって悲しみがやってきます。秋・冬のイメージです。でも最後の8小節で再び、喜びの地へと戻ってくる。鍵となるのは短調から最後の8小節で希望が再び戻ってくるところ。このパターンがとても重要です。ただし、テンポやメロディやリズムは、すべての変奏で異なります。だからこそ、「アリア」でバッハが何を言いたかったのか、そこを深く分析することが重要ですね。
サイ 各変奏ごとに、「音楽はこう流れるべき」というのを詳細に突き詰めていますから、分析の段階でほとんど暗譜もしてしまいます。鍵盤に向かって「弾く」というのは別の行為ではありますが、3回か4回弾き通すと、かなりのところまで仕上がります。
——30の変奏が、サイさんの演奏ではそれぞれのキャラクターが鮮やかに異なり、とても楽しく聴かせてもらいました。
サイ バッハの楽譜には、アダージョやアレグロといったテンポ指定がありません。先ほどもお伝えしたとおり、もともとがチェンバロのための作品ですから、フォルテやクレッシェンドといった強弱記号もありません。でも、彼の《パルティータ》や《フランス組曲》などを弾いてきましたし、管弦楽組曲やブランデンブルク協奏曲を知っていると、「アルマンド」「メヌエット」「ガヴォット」「ジーグ」といった古典組曲の舞曲形式から、バッハがそれぞれの変奏で、どのようなテンポをイメージしていたかがわかります。
やはり経験を積むと、作曲家のことがよくわかってきます。彼がどういうテンポを求めているのか、感覚的に掴めてくる部分と、知識の蓄積でわかる部分がありますね。
音楽は聴衆と自分とのコミュニケーション
——もとはチェンバロのために書かれた作品ということですが、サイさんは現代のピアノで演奏をされています。最近では当時の楽器を使って演奏したり、当時の演奏法についての研究も盛んですが、モダンピアノでバッハを演奏することについては、どのような意義を感じていますか?
サイ ピリオド研究に対しては、とてもリスペクトしています。当時の楽器で演奏することにも大きな意味があると思います。ただ、現代のピアノは、当時のチェンバロに比べて、音色が多彩で、ペダルの効果も用いることができます。ダンパーペダルを使用するとカンタービレ、つまり歌うような奏法で演奏することができますし、ソフトペダルによって、豊かな音色の変化も作れます。
現代のピアノで古典舞曲を演奏すると、可能性とイマジネーションがさらに豊かに広がると感じています。より自由度の高い演奏が、現代のピアノで可能になると感じています。
——分析をとことん突き詰めたうえで演奏されるとのことですが、実際に鍵盤で演奏していて、音楽の方向性が変わることはありますか? たとえば聴衆の反応で音楽が変わるといったことはありますか?
サイ 分析によって決めた方向性と実際の演奏はかなり近いですし、大きくは変化しません。ただ、私は自分の感情を楽器で表現しています。それは、聴いてくださっている聴衆のために行なっていることです。音楽は聴衆と自分とのコミュニケーションであると思うので、演奏は「完璧」よりさらに良いものにしたい。音楽とは、最終的には人々を幸せにするためにあると思っています。
ファジル・サイのデジタル・シングル発売プロジェクト。2022年3月から3週に1曲のペースで第1次シリーズ(8曲)が発売済。第2次シリーズ(17曲)が現在継続発売中、2024年1月12日の「自作:イスタンブールの冬の朝」をもって全25曲の発売が完結予定。サイが選曲した朝と夕べに相応しい楽曲で、朝では「スカルラッティ:ソナタ ヘ短調K.466」、夕べでは「ドビュッシー:月の光」がストリーミングの人気曲。「Morning-Evening」プロジェクトの楽曲を含む、
Piano Music for the Morning | Focus, Concentrate and Study: https://w.lnk.to/pmm
Piano Music for the Evening | Relax and Sleep : https://w.lnk.to/pme
ファジル・サイ ディスコグラフィー https://wmg.jp/fazil-say/discography/
日時: 2023年9月12日(火)19:00開演
会場: 住友生命いずみホール
曲目: バッハ/ゴルトベルク変奏曲 BWV988(全曲)
料金: 全席指定7,000円
問い合わせ: ABCチケットインフォメーション
06-6453-6000
詳しくはこちら
日時: 2023年9月13日(水)19:00開演
会場: 紀尾井ホール
曲目: シューベルト/ピアノ・ソナタ 第19番 ハ短調 D.958、ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D.960
料金: 全席指定8,000円(9月14日公演とのセット券15,000円)
問い合わせ: チケットスペース
03-3234-9999
詳しくはこちら
日時: 2023年9月14日(木)19:00開演
会場: 紀尾井ホール
曲目: ファジル・サイ/ヴァイオリン・ソナタ 第2番 Op.82《イダ山》(ヴァイオリン:服部百音)[日本初演]、クレオパトラ Op.34(ヴァイオリン・ソロ:服部百音)、ニューライフ・ソナタ/3つのバラード、パガニーニ・ジャズ・ファンタジー、サマータイム・ヴァリエーションズ、トルコ行進曲“ジャズ”
料金: 全席指定8,000円(9月13日公演とのセット券15,000円)
問い合わせ: チケットスペース
03-3234-9999
詳しくはこちら
日時: 2023年9月16日(土)15:00開演
会場: 河口湖ステラシアター
出演: 辻井伸行、ファジル・サイ、レ・フレール
曲目:
1st stage レ・フレール 《ベスト・オブ・レ・フレール》
Boogie Back to YOKOSUKA
On y va!
映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』より 「彼こそが海賊」
Victory 他
2nd stage 辻井伸行 《リスト!リスト!! リスト!!!》
巡礼の年 第2年への追加《ヴェネツィアとナポリ》
コンソレーション 第2番
メフィスト・ワルツ 第1番
(20分休憩)
3rd stage ファジル・サイ 《サイ・プレイズ・サイ》
ニューライフ・ソナタ
3つのバラード
パガニーニ・ジャズ・ファンタジー
トルコ行進曲 “ジャズ”
料金: 7,700円
問い合わせ: 富士山河口湖ピアノフェスティバル事務局(河口湖ステラシアター内)
0555-72-5588
詳しくはこちら
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