【Q&A】リコーダーの若き匠・井上玲さん~唯一無二の音色を究める
月刊誌『音楽の友』で、若手演奏家を紹介している連載「フレッシュ・アーティスト・ファイル」。当記事は雑誌のインタビューとはひと味ちがう切り口で、演奏家たちの素顔を紹介していきます。第5回は期待の若手演奏家によるリサイタル・シリーズ「紀尾井ホール 明日への扉」に出演のリコーダー奏者・井上玲さんにご登場いただきました。
1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
1998年生まれ。幼少期から古楽に親しみ育った井上さん。8歳からリコーダー、11歳からフラウト・トラヴェルソをはじめ、2019年第32回国際古楽コンクール〈山梨〉旋律楽器部門で第3位(第1位なし)、2021年ドイツ・マクデブルクでの第11回テレマン国際古楽コンクール第2位および聴衆賞など、これまで国内外の数々のコンクールで入賞されています。
気分転換は、美しい空を眺めること
Q1 自己紹介をお願いします。
リコーダー奏者の井上玲(いのうえ・れい)です。周りからは「れいくん」「れいさん」と呼ばれています。出身は、大阪府・交野(かたの)市です。大阪・京都・奈良の境目に位置する地域ですね。
Q2 リコーダーをはじめたきっかけは?
母親がチェンバロ奏者で、その知り合いのリコーダー奏者のかたに教わってリコーダーをはじめました。小学校のときは吹奏楽部に入り、クラリネットを吹いていたこともあります。
Q3 小さいころの将来の夢は?
幼稚園のころは恐竜博士、小学校低学年のころは昆虫博士でした。植物にも興味がありました。でもリコーダーを吹いていたら、自然と音楽家への道を進んでいましたね。
Q4 自身をどんな性格だと思う?
よくも悪くも不器用だと思います(苦笑)。没頭すると、周りが見えなくなるというか…… 集中して取り組んでいるとあっという間に時間が過ぎてしまっています。
Q5 好きな食べ物は?
トマトです。なにも味付けをせず、シンプルにいただくのが好きです。フルーツトマトも大好きですが、青臭いくらいのトマトがいちばん好きかもしれません(笑)。
Q6 本番前の勝負飯は?
おにぎり。リコーダーは息を吹き込む楽器なので、油分が多いものを摂るとコンディションが変わってしまう気がして。梅干しや、おこわなどを選んでいますね。
Q7 気分転換はどのようにしてる?
友達と話すこと。あとは道を歩いていてふと空を見上げた瞬間、綺麗な景色が広がっていたときに心が癒されます。
衝撃を受けたフランス・ブリュッヘンの演奏
Q8 好きな作曲家は?
モンテヴェルディ、クープラン、コレッリ、ヘンデル、テレマンです。いちばん好きな作曲家を一人に絞るのは難しいですね……。
Q9 いつか演奏してみたい作品は?
テレマン「リコーダー、弦楽と通奏低音のための組曲」です。30分ほどの協奏曲のような作品で、リコーダーのソロがかっこいい! いつか絶対吹きたいです。あと、J.S.バッハの大好きな2曲のカンタータ――華やかな技を披露できる「第103番」と、アルトの歌とリコーダーによるメランコリックな雰囲気のアリアが美しい「同第182番」。そしていつかヴィヴァルディの「リコーダー協奏曲」も全曲制覇したいです。
Q10 憧れのリコーダー奏者、演奏は?
フランス・ブリュッヘン(1934~2014)です。幼いころからブリュッヘンの演奏は聴いていたのですが、大学生のときに初めて出合ったオトテール「組曲第2番」作品5の録音に衝撃を受けました。気がついたら涙が流れていたほどです。魂を燃やしているような、リコーダーという枠を超えた音楽そのものがそこにあるという演奏でした。通奏低音を弾いているヴィーラント・クイケン(ヴィオラ・ダ・ガンバ)、グスタフ・レオンハルト(チェンバロ)とのかけ合いも熱い! テクニックを超えた次元の違う演奏だと感じ、こんな演奏をしたいと思いを新たにしました。
そしてペドロ・メメルスドルフ(1959~ )。とくに17世紀イングランドの音楽を集めたアンドレアス・シュタイアー(チェンバロ)とのデュオ録音は、何度も何度も聴きました。謎の多い中世後期の音楽を得意としている音楽家で、独自の世界観に基づく演奏会プログラムの構築がとにかくすばらしい。正確無比で繊細なテクニックに裏づけられた、まるでリコーダーで歌っているかのような自由自在な演奏には、耳を奪われます。
Q11 練習にルーティンはある?
リコーダーは楽器によって穴(音孔/トーンホール)の間隔が違うので、楽器ごとに吹く前に鏡を見て、手の角度や感覚を掴んでから演奏するようにしています。あと、チューナーを流しながら曲を吹き、音程チェックをすることも楽器ごとに行なっています。リコーダーは音程を合わせるのがものすごく難しくて、繊細な楽器なのです。
Q12 リコーダーは何本くらい持っている?
たくさんあります……本数は内緒です(笑)。
Q13 いちばんお気に入りのリコーダーは?
私の演奏の師匠でもある、リコーダー製作家の平尾重治先生(演奏家名:山岡重治)に作っていただいたイギリスのタイプのリコーダーです。ヘンデルのオーケストラの木管楽器を手がけたとも推測されるリコーダー界のストラディヴァリのような人物、トーマス・ステインズビー・ジュニア(Thomas Stanesby Jr.)による銘器・アルトリコーダーのコピーとなります。オリジナルの銘器はスイスにあって、奇跡的な状態で保管されています。先生は精密な図面をもとに、ご自身で現物を実奏された印象もふくめて、オリジナルを見事に再現してくださいました。健康的で明るくて、みずみずしい音色がする楽器です。12月の紀尾井ホールのリサイタルでも使う予定です。
Q14 楽器の練習を「辛い」と感じたこと、時期はある?
あまりないですね。それがいいのか、悪いのかわかりませんが……。好きな曲を好きな笛で吹いているときがいちばん幸せです。
お気に入りの音色を探す旅
Q15 マイブームは?
夜に眠るときに、川の音や雨の音、自然の音を小さく流すことです。楽音ではなく、無秩序な音を聴くとリセットされるような気がして、リラックスします。
Q16 お気に入りの本は?
『増補改訂 【原色】 木材加工面がわかる樹種事典』(著者:河村寿昌、西川栄明/誠文堂新光社)です。国内外の樹木の木目や色、匂いの情報がおもしろい表現で載っています。「木目」を見るのがとても好きで、いろいろな木材を知るのが楽しいのです。ちなみに私の所有する楽器のなかでは、メープルの木で作られたルネサンス・リコーダーの虎杢(とらもく)が派手で美しく、お気に入りです。
Q17 最近感動した美術作品は?
この夏、あべのハルカス美術館でみた歌川広重展(広重 ―摺の極―)がおもしろかったです。広重の若いころの作品は優等生のようですが、年齢を重ねるごとにだんだんと構図が大胆になっていく。とくに画面いっぱいに日本橋の欄干の柱が描かれている構図には、その斬新な発想に驚きました。
Q18 (全国の小・中学生にむけて)リコーダーの上達方法を教えて!
指づかいや音のミスなどは気にせずに、まずは強い or 弱い、温かい or 冷たい、幅広い or 狭い…… など、いろいろなイメージを持って楽器に息を吹きこんでみてください。お気に入りの音色を探すことが大切なのです。それが見つかったら、吹き手だけの音、あなただけの声になります。
Q19 これまで音楽、リコーダーを続けてこられた理由は?
リコーダーのもつ、唯一無二の音色の美しさに気づけたことだと思います。中高生のころは勢いでテクニックを披露することが好きだったのですが、ブリュッヘンの演奏の影響もあり、大学生のころには、リコーダーのよさはなによりも「音色」だと気づきました。だからこそ、自分の演奏でもいちばん大切にしたい。リコーダーは楽器ごとに個性がまったく異なるので、「楽器に鳴ってもらう」気持ちで、謙虚な姿勢で向き合おうと思います。正解は存在しないので、はてしない道のりを歩んでいるところです。
Q20 20年後、どうなっていたい?
リコーダーを続けられている現在の日々、いつも周りで支えてくださるたくさんの方々に感謝しつつ、どんなかたちであれ20年後もそれを続けられていればいいなと思います。さらに、ほかの誰かにとっての「音楽」を支えられる一人になれていればもっといいだろうな、とも願っています。
HP:https://reiinoue.wordpress.com/
X(旧Twitter):@rei_inoue_rec
YouTube:Rei Inoue – YouTube
『音楽の友』11月号(10月18日発売)の連載「フレッシュ・アーティスト・ファイル」では、井上玲さんのインタヴュー記事を掲載。ぜひ併せてご覧ください!
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