福間洸太朗を変えた 現代音楽との出会い「音楽世界の水先案内人でありたい」
今年日本デビュー20周年を迎えるピアニストの福間洸太朗さんは、現代音楽の演奏を一つのミッションとされ、多くの新曲の紹介に力を注いでいます。去る6月4日と5日、パリ日本文化会館で行なわれたリサイタルは『煌めく水』をテーマとし、邦人作品のみによるプログラムが披露されました。当夜は、日本を知ることに意欲的なフランス人の聴衆が集まり、熱心に耳を傾ける子どもの姿も。進化し続ける福間さんのインタビューがパリで実現しました。
岡山市出身。京都市立堀川音楽高校卒業後渡仏。リヨン国立高等音楽院卒。長年日本とヨーロッパで演奏活動を行ない、現在は「音楽の友」「ムジカノーヴァ」等に定期的に寄稿。多く...
留学先のパリで、現代音楽への関心の高さに衝撃を受けた
――福間さんが現代音楽に興味を持ったきっかけは?
福間 留学したパリ国立高等音楽院で、私よりも若いフランス人の学生たちが現代音楽に関心を持ち、武満徹の作品なども当たり前のように弾いている様子を目にして、衝撃を受けました。最初に夢中になった作曲家はリゲティです。ピエール=ロラン・エマールのCDを聴き「なんだ、これは?」と。自分の前に未知の扉が開いたように感じ、その後、武満徹の作品を勉強しました。
海外で生活していると、自分のアイデンティティについて、より深く考えるようになりますよね。外国の人が日本の文化を知ろうとしているのに、自分は日本について語れない。これはひじょうに恥ずかしいことではないか、と。以来、邦人作品を取り上げるだけでなく、作曲家の方々にも自発的にアプローチするようになりました。私がずっと日本で活動していたら、このような気づきは得られなかったかもしれません。
パリで邦人作品のみのコンサート「煌めく水」を開催
――先日のパリ日本文化会館でのリサイタルのテーマ『煌めく水』は、お名前の「洸」の字のイメージに由来し、ライフワークとして取り組まれていると伺いました。
福間 このコンサートは、指揮者 ・ピアニストの阿部加奈子さんが代表を務める「日仏現代音楽協会」との共催事業として行なわれました。邦人作品のみからなるプログラムを披露できたこと、また日仏の文化交流にも力を注がれている野平一郎さんの作品を世界初演させていただけたことを、たいへん嬉しく思っています。
近藤浩平:海辺の祈り ― 震災と原子炉の犠牲者への追悼 Op. 121-f (2011年)
田中カレン: Water Dance (2008年)
雨の樹素描 II ―オリヴィエ・メシアンの 追憶に―(1992年)
武智由香:ピアノのための 俳句による印象 冬より (2016年/福間さんの委嘱作品) “ 冬日 / 蜉蝣(かげろふ)”
野平一郎:水と地の色彩(2024年/日仏現代音楽協会委嘱作品 世界初演)
坂本龍一:AQUA (1998年)
アンコール ティエリ・ユイエ「水の主題による7つの俳句」より(2012年/福間さんの委嘱作品)
福間 田中カレンさんの描く水しぶきや水面のさざめき、武智由香さんの凍りついて輝く冬の情景、また野平一郎さんの作品がたたえる底知れない自然界の厳しさ……人間世界にとってなくてはならない「水」のテーマには、無限の可能性があります。
プログラムは調性音楽から少しずつ抽象的な音楽へと流れ進みますが、最初に近藤浩平さんの《海辺の祈り》を、最後に、私が世界への祈りと捉える坂本龍一さんの《Aqua》を配置することで、平和を願っていた坂本さんのメッセージがより強く伝わったのではないでしょうか。
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