反対されても指揮にも挑む!三浦文彰のARKシンフォニエッタや辻井伸行への思い
秋の涼しい季節に開催される東京・赤坂のARK Hills Music Week 2021。サントリーホールでは、「ARKクラシックス」と題して10月8日(金)から11日(月)の4日間、全8公演が予定されている。
この音楽祭のステージでは、ファミリーのような親密な雰囲気が漂うARKシンフォニエッタや室内楽が上演。アーティスティック・リーダーであるヴァイオリニストの三浦文彰さんとピアニストの辻井伸行さんが率いて、プログラムも決めている。
ここにかける思いやお二人の関係、将来の活動のことまで、三浦さんにインタビューした。
1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...
4回目となる「サントリーホール ARKクラシックス」では指揮も披露
ARK Hills Music Weekの一環として開催されている「サントリーホール ARKクラシックス」のアーティスティック・リーダーをピアニストの辻井伸行とともに務める、ヴァイオリニストの三浦文彰に、2021年秋の公演について訊いた。
今年の三浦は、ヴァイオリンの演奏だけでなく、交響曲の指揮も披露する。
——サントリーホール ARKクラシックスとはどのような音楽祭ですか?
三浦 この音楽祭は、今年で4回目になります。僕は、すごく前から室内楽中心の音楽祭をやりたいと思っていました。それをピアニストの辻井さんに言ったら、賛同してくれて、それで始めました。
——辻井伸行さんとともにこの音楽祭のアーティスティック・リーダーを務めていますね。
三浦 僕たちがプログラムや出演者を考えたりしています。室内楽を大事にしていますが、その延長でオーケストラ(ARKシンフォニエッタ)もできました。
——辻井伸行さんとはどのようなことを話し合っていますか?
三浦 辻井さんとはプログラムについて話し合うことが多いですね。彼はもっと室内楽をやりたい、レパートリーを増やしたいと言っています。
今回は、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番《春》を共演しますが、彼にとっては初めての演奏で、どうなるのかとても楽しみにしています。また、彼は新たにシューベルトのピアノ五重奏曲《ます》にも取り組みます。
最初から特別な体験だった辻井伸行との共演
——共演者としての辻井さんはどのようなピアニストですか?
三浦 彼は唯一無二のピュアな響きを持つピアニスト。一緒に演奏していて、普通の人とは違う研ぎ澄まされた感覚があるように感じます。ですから、共演のたび、毎回、少しずつ演奏が変わっていきます。
彼とはごく自然に合わせることができます。最初にフランクのヴァイオリン・ソナタを共演したときから特別だと思いました。そのとき彼はヴァイオリンとの二重奏はほとんど初めてで、最初は音のバランスがコンチェルトのようでしたが(笑)、それを直しただけで、あとは何も問題がなかったです。
——音楽を離れたとき、辻井さんとはどのように過ごしていますか?
三浦 食べることが好きなのが共通しているので、一緒においしいものを食べに行ったり、彼もお酒が強かったりするので、一緒にお酒を飲んだりしています。
三浦文彰、辻井伸行の共演アルバム『フランク:ヴァイオリン・ソナタ/ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番《雨の歌》』(2019年)
指揮をすることは自分のヴァイオリンにも良い影響がある
——ARKシンフォニエッタについて教えてください。
三浦 メンバーは、ご一緒した音楽家の中から、僕が直接声をかけて、集めました。宮崎のアカデミーで僕が教えた優秀な若い人たちも参加しています。管楽器では、フルートの高木綾子さんのようなソリストとして活躍している人にも参加していただくことができました。
このオーケストラのいいところは、父(東京フィルハーモニー交響楽団・コンサートマスターの三浦章宏)や髙橋和貴さん(山形交響楽団コンサートマスター)、松浦奈々さん(日本センチュリー交響楽団コンサートマスター)のような経験の豊かな人と、若い人たちとが良い反応をしていること。
若い人たちが経験のある人の背中を見て、リハーサルですごく変わっていくのがわかって、これはいいなと思いました。
——どうして指揮を始めたのですか?
三浦 オーケストラ生活が長い父からは、僕が指揮を始めるにあたって、厳しいことも言われました。「ヴァイオリンが弾けることが(指揮者への)パスポートではない」と。また、僕の師匠のピンカス・ズッカーマンからも「指揮はやめろ」と言われました。
でも、いろんな作曲家の作品を演奏するにつれて、ヴァイオリン以外の音楽も知りたくなった、そして、指揮をすることによって自分のヴァイオリンにも良い影響があると感じる、と説得して、指揮を始めました。
三浦 僕が指揮をするときは、弦楽器のパート譜に、僕自身が書き込みをした楽譜を持ち込みます。スコアの勉強では、まずは弦楽器のすべてのパートをヴァイオリンで弾いてみて、ベストのボウイングを考えます。なので、準備にとても時間がかかるのですよね。
僕のメンターである、ズッカーマンや下野竜也さんにも質問して、教えてもらっています。下野さんからは、振り方などを細かく教わりましたし、リハーサルでの伝え方など指揮者としての鉄則的なことも学びました。
僕は、オーケストラのリハーサルでは細かく指示をしますが、本番ではあまり強制せず、奏者のみなさんを解放することを大事にしています。
——お父様とは、どんなお話をしますか?
三浦 僕が質問することが多いですね。わからないことをきくと、アドバイスをくれたりします。父は、このオーケストラに対して、親身に、良くしようという感じで臨んでくれています。
ヴァイオリンの活動をベースに、じっくりと指揮に取り組む
——今年のARKクラシックスでは、バッハの二重協奏曲の父子共演がありますね。
三浦 バッハの2つのヴァイオリンのための協奏曲は、父と共演したことはあるのですが、久々なので楽しみですね。バッハの協奏曲は弾き振りです。弾き振りは、動きとしてはたいへんですが、自分で音を鳴らすぶん、オーケストラのメンバーが僕の音楽の方向性を感じてくれるし、リハーサルのときに言葉で説明することも少なくてすみます。
——今年のサントリーホール ARKクラシックスのプログラムについて教えてください。
三浦 チェロのヨナタン・ローゼマン以外は、今年も海外のアーティストを呼べなくて残念です。でも、内容は盛りだくさんです。
まずは10月8日(金)、先ほども言った、辻井さんとのシューベルトの《ます》がすごく楽しみです。10月9日(土)のショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番は、辻井さんの希望です。彼は何度か演奏していると思います。
ピアニストの髙木竜馬くんとは、今年リサイタル・ツアーをご一緒して、音楽的に気持ちが合い、声をかけました。10月9日(土)のお昼の公演でラヴェルを取り上げます。
10月10日(日)のモーツァルトの交響曲第29番は、何度か指揮していますが、ARKクラシックスでは初めてです。指揮の最初のエクササイズとして始めましたが、素晴らしい曲で、勉強するのに1年かけました。後半の辻井さんのピアノ協奏曲は、ベートーヴェンの《皇帝》です。
最終日10月11日(月)のモーツァルトの交響曲第41番《ジュピター》は、今年1年かけて取り組みます。今年の指揮はこれだけで精一杯ですね。第4楽章は勉強しているだけでも感動します。後半のピアノ協奏曲はベートーヴェンの第4番です。
そして、今回初めてのARK BRASSも楽しみです。トップの奏者に集まっていただき、2回公演を行ないます。
——ご自身の今後についてお話ししていただけますか? 指揮とヴァイオリンの活動のバランスは?
三浦 ヴァイオリンは楽器を弾くこと自体が難しいので、練習に時間が必要です。今より指揮が少し増えるかもしれませんが、基本はヴァイオリンを弾いていきたいと思います。
指揮者としては、モーツァルトから始めました。いつかチャイコフスキーやブラームスもレパートリーにしたいとは思いますが、次は、シューベルトの交響曲第5番か、メンデルスゾーンの交響曲第4番《イタリア》あたりでしょうか。ベートーヴェンは、もうちょっとあとになりますね。
日程: 2021年10月8日(金)〜11日(月)
会場: サントリーホール 大ホール、ブルーローズ(小ホール)
アーティスティック・リーダー: 三浦文彰、辻井伸行
ゲスト・アーティスト: 髙木竜馬(ピアノ)、曽根麻矢子(チェンバロ)、三浦章宏(ヴァイオリン)、ヨナタン・ローゼマン(チェロ)、高木綾子(フルート)、辻本憲一(トランペット)
レジデント・アーティスト:
ARK BRASS(アーク・ブラス)※コアメンバー:佐藤友紀(トランペット)、福川伸陽(ホルン)、青木 昂(トロンボーン)、次田心平(テューバ)
ARKシンフォニエッタ
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