毛利文香が奏でる感謝と挑戦のヴァイオリン〜出会いの10年、そして未来へ
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
——デビュー10周年おめでとうございます! 振り返るとどんな10年になりましたか?
毛利 ありがとうございます!ドイツ留学と日本での演奏活動を両立しながら、あっという間に過ぎた10年でした。とくに最初の留学先・クロンベルクアカデミーでは、師匠のミハエラ・マルティン先生はもちろん、国際的なアーティストたち、そして世界から集う同年代の個性豊かな音楽家たちからたくさんの刺激を受けました。出会いを通して視野が広がったと同時に、音楽をする上で自分が大事にすべきことを常に見つめ直す時間でもあったと思います。
そんなドイツでの勉強の成果を活かすことに努めながら演奏活動も続け、気づけばとくにここ数年でだいぶレパートリーが広がりました。振り返ってみて改めて、国内外で支えてくれた友人や家族、関係者の方々への感謝の思いでいっぱいです。
毛利 文香 Fumika Mohri
2012年に第8回ソウル国際音楽コンクールにて、日本人として初めて最年少で優勝。2015年に第54回パガニーニ国際ヴァイオリンコンクールにて第2位およびエリザベート王妃国際音楽コンクールにて第6位入賞。2019年にモントリオール国際音楽コンクールにて第3位入賞。これまでに、川崎市アゼリア輝賞、横浜文化賞文化・芸術奨励賞、京都・青山音楽賞新人賞、ホテルオークラ音楽賞を受賞。
ソリストとして、読売日響、東京響、東京フィル、東京シティフィル、神奈川フィル、群馬響、大阪フィル、韓国響、ベルギー国立管、クレメラータ・バルティカ、ヨーロッパ室内管など、国内外の主要なオーケストラと共演を重ねるほか、サー・アンドラーシュ・シフ、アブデル・ラーマン・エル=バシャ、タベア・ツィンマーマン、イリヤ・グリンゴルツ、堤剛、今井信子、伊藤恵などの著名なアーティストとの共演も数多い。また、宮崎国際音楽祭、武生国際音楽祭、イタリア・チェルヴォ音楽祭、クロンベルクアカデミー・フェスティバル、ラ・フォル・ジュルネ、シャネル・ピグマリオン・デイズ等に出演。
録音はナクソスより「サン=ジョルジュ:ヴァイオリン協奏曲」を2023年6月にインターナショナル・リリース。
ヴァイオリンを田尻かをり、水野佐知香、原田幸一郎、ミハエラ・マーティンに師事。桐朋学園大学音楽学部ソリストディプロマコース、及び洗足学園音楽大学アンサンブルアカデミー修了。慶應義塾大学文学部卒業。ドイツ・クロンベルクアカデミーを経て、ケルン音楽大学を最高点で修了。
トリオ・リズル(弦楽三重奏)、エール弦楽四重奏団、ラ・ルーチェ弦楽八重奏団のメンバーとしても活躍している。
楽器は日本音楽財団より、1717年製のストラディヴァリウス「サセルノ」を貸与されている。
——デビュー10周年リサイタル·シリーズの第1回は恩師マルティン先生との共演です。毛利さんからみて彼女はどのような音楽家で、どんな影響を受けましたか?
毛利 マルティン先生は揺るがぬ強い芯を持つ音楽家で、それが音色、奏法、指導すべてに表れている方だと思います。留学当初、先生のもとで基礎的なことも改めて学び直しました。
わたしは先生の美しく豊かで、唯一無二の音色が大好きで、いつも感銘を受けます。先生の音に対するこだわりは特別で、つねに自分の音に注意深く耳を傾ける姿勢を求められました。また一度、本番前のレッスンでおっしゃった「演奏では自分のすべてをさらけ出すことをためらってはいけない」という言葉は、ずっと心に留めています。
——ヴァイオリン・デュオによる比較的珍しいプログラム。聴きどころを教えてください。
毛利 難曲イザイを中心に、ヴァイオリンらしい華やかさと、作品ごとの多彩な表情が楽しめるプログラムです。たった2本のヴァイオリンで、豊かな色彩と歌心、ユーモアにあふれた世界が広がると思います。先生と二人きりの共演は今回が初めてですが、スリリングでワクワクする音楽の会話になる予感がしています。
——第2回では巨匠ピアニスト、エル=バシャさんと共演します。
毛利 彼とは10年前に入賞したエリザベート王妃国際音楽コンクールをご縁に、何度か共演してきました。彼の深い音作りと、作曲家としての一面を垣間見るようなバランス感覚はいつも印象深く、インスピレーション溢れる時間が今から楽しみです。
——そして第3回には大作、イザイの無伴奏ソナタ全曲も控えていますね。
毛利 いつか必ず挑戦したいと夢見ていたことがついに実現しました。正直とても恐ろしいことを決断してしまったという思いもありますが、演奏することを想像すると、言葉にしがたい興奮が体の中に沸き起こります。各曲にじっくり向き合い、技巧的な華やかさだけではないイザイの魅力をお届けできればと思います。
——最後に、これからの10年の展望やチャレンジしたいことを教えてください。
毛利 必ず実現したいことは、自分の音楽祭を持つことです。留学先で出会った多くの友人が自分の地元で室内楽の音楽祭を主宰しており、そこに招待してもらった経験があるのですが、それがとても温かく素敵な時間だったので、今度は自分が友人たちを招待したいと強く思っています。人と人の関わりが薄れてきている今の時代、室内楽を通して国境や年代を超えて音楽の素晴らしさを共有し、聴衆に広げていくことができる音楽祭を作りたいです。
そしてもちろん、着々と広げてきたコンチェルトやリサイタルのレパートリーもしっかり掘り下げながら、これからの10年も国内外でますます多くの充実した演奏機会を重ねていきたいです。
会場: Hakuju Hall
共演: ミハエラ・マルティン (ヴァイオリン)
4500円(全席指定)*消費税込
【プログラム】
ルクレール:2つのヴァイオリンのためのソナタ ホ短調 op. 3-5
バツェヴィチ: 2つのヴァイオリンのための組曲
プロコフィエフ: 2つのヴァイオリンのためのソナタ ハ長調 op. 56
イザイ: 2つのヴァイオリンのためのソナタ イ短調
詳しくはこちらから
第2回 「巨匠と共演。多彩なるデュオ・リサイタル」
共演: アブデル・ラーマン・エル=バシャ (ピアノ)
日時: 2025年10月10日(金)19時開演
モーツァルト: ヴァイオリン・ソナタ ホ短調 K. 304
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第10番 ト長調op. 96
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ短調 op. 105
シューベルト: ヴァイオリンとピアノのための幻想曲 ハ長調 D934
第3回 「無伴奏の挑戦。イザイのソナタ全6曲」
日時: 2026年3月25日(水)19時開演
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