ユーゴ・マルシャン〜音楽という地図に導かれて、僕らは旅をする
パリ・オペラ座バレエ団の若きエトワール、ユーゴ・マルシャン。どこまでも音楽的で自然体でありながら、ダンスへの真摯な情熱を感じさせる彼の舞台は、観る人を魅了せずにはおきません。今年の夏に開催される世界のトップダンサーたちが一堂に会するバレエの祭典「第17回世界バレエフェスティバル」への出演も決定しています。2月の来日公演『マノン』を数日後に控えた稽古場にお邪魔し、バレエと音楽についてうかがいました。
ライター・編集者。東京都八王子市在住。早稲田大学第一文学部美術史専修卒、(株)ベネッセコーポレーションを経てフリーに。ダンス関係を中心に執筆。盆踊りからフラメンコまで...
リスト、バッハ、ドビュッシー…… ダンサーをつき動かす、音楽の“色彩”
——今日はお目にかかれて本当に嬉しいです。まずは、好きな作曲家について教えていただけますか?
ユーゴ・マルシャン チャイコフスキーやラフマニノフなど、ロマンティックな音楽が好きです。シューベルトやマーラーもいいですね。リストは、すべてのレパートリーに詳しいわけではないのですが、全幕リストの楽曲に振り付けられた『うたかたの恋——マイヤーリング』(以下マイヤーリング)を踊ったとき、《超絶技巧練習曲》の素晴らしさを身に沁みて感じました。
ユーゴ バロック音楽も好きです。『ダンス組曲』はジェローム・ロビンスがバッハの「無伴奏チェロ組曲」に振り付けた作品ですが、これをオフェリー・ガイヤールの生演奏で踊ったのは夢のような体験でした。
J.S.バッハ「無伴奏チェロ組曲」
ユーゴ コロナ明けの舞台で踊ったローラン・プティ振付の『若者と死』は、音楽がバッハの「パッサカリアとフーガ」で、子どもの頃から踊りたかった作品でした。
ユーゴ ドビュッシーやラヴェルの音楽も興味深いですね。印象派と呼ばれる彼らの音楽は、僕らダンサーの頭の中に、さまざまな色彩やイメージを呼び起こしてくれる。そのイメージが、表現の可能性を与えてくれます。
——昨年夏に『マイヤーリング』の中の「寝室のパ・ド・ドゥ」を踊られましたね。オーストリア皇太子ルドルフのもとに、17歳の少女マリー・ヴェッツェラが一人で訪れるシーンですが、ルドルフがマリーに手荒くキスをする、マリーが拳銃を構えるといったドラマと音楽がぴたりとシンクロしていて、二人の動きから音楽が聞こえているような、不思議な感覚を味わいました。
ユーゴ ケネス・マクミランの振付は、ダンサーをより演技の方向に押し出してくれる。それと音楽の強さですね。あのシーンで使われているのが、リストの《超絶技巧練習曲》第3番「風景」なんですけれど、非常に特殊な色彩を感じます。
リスト《超絶技巧練習曲》第3番「風景」
ユーゴ 実をいうと、この曲はとても難しくて、最初に取り組んだときは理解が追いつかず、動きにぎこちなさもあったと思います。でも、練習を重ねるにつれてだんだんと音楽の理解が進み、さまざまなことを発見していきました。
この『マイヤーリング』は9月にまたオペラ座で上演する予定なので、さらにたくさんの発見ができるでしょう。全幕にわたって、管弦楽曲からピアノ曲、歌曲まで実にさまざまな曲が使われているのですが、リストの音楽がまるで地図のように、踊り手を導いてくれるんです。
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