インタビュー
2024.11.03
2024年はアニバーサリー・イヤー

ゴジラ生誕70年&伊福部昭生誕110年 いまこそ伊福部昭の音楽世界を堪能しよう!

日本が誇る大作曲家・伊福部昭(1914.5.31-2006.2.8)。
ほぼ独学で作曲を始め、生まれ故郷の北海道、アイヌ文化からの影響を起点に、自身の民族的アイデンティティを追求する数々の楽曲を遺しました。それらは明治以降日本に「輸入」され普及した西洋の音楽芸術とは一線を画したことで、とくに生前は日本におけるクラシック音楽シーンから距離を置かれていたものの、『ゴジラ』を筆頭とする多数の印象的な映画音楽を皮切りに、その力感漲る唯一無二の作風が次第に知られることとなり、熱狂的なファンを今日まで生み出し続けています。

そんな伊福部作品を録音メディアに残し、その再評価をうながした二人の音楽プロデューサー、岩瀬政雄さん(元・東宝ミュージック代表取締役社長)と松下久昭さん(キングレコード ディレクター/プロデューサー)の貴重な対談をお送りします。
岩瀬さんは『日本の映画音楽』シリーズ(東宝レコード)を1976年にスタート、1978年に同シリーズ『伊福部 昭の世界』と『ゴジラ』の2枚のLPを手がけ、大ヒットを記録。伊福部音楽の魅力を世に知らしめた、いわば「第一次伊福部ルネサンス」の立役者。
いっぽう松下さんは、1995年から作曲者本人の立ち会いによる全曲セッション新録音『伊福部昭の芸術』シリーズを企画・制作し、映画音楽にとどまらない伊福部芸術の真価を知らしめ、大きな話題に。同シリーズは全12作制作され、伊福部作品の録音の金字塔としていまもファンを獲得し続ける、「第二次伊福部ルネサンス」を生みました。

岩永昇三
岩永昇三

北海道出身。早稲田大学を経て、2006年音楽之友社入社。『レコード芸術』『音楽の友』各編集部を経て、現在『音楽の友』編集長。一方でヴィオラ弾きとして、オーケストラから...

写真=堀田力丸
TM&© TOHO CO., LTD. ©2007 TOHO CO., LTD.

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映画音楽からはじまる伊福部昭伝説

岩瀬 私が入社したころの東宝レコードは「タレントのいないレコード会社」。新しい企画を立てるのに苦労していたのです。

そんなある日、スタジオに出入りしていると、映画音楽を録ったテープをたくさん発見しました。自分にとって印象的だった映画音楽は『裸の大将』(1958・東宝)で、珍しいオカリナを用いた楽曲を黛敏郎さんが作曲していました。ふと、「一人の作曲家をテーマに映画音楽を集めたレコードはできないものか」と思ったのです。でも、売れるわけがないと反対されました。

松下 そのころは「サウンドトラック(サントラ)を買う」ということ自体が、現在ほど定着していませんでしたからね。

岩瀬 映画音楽といえば『太陽がいっぱい』や『エデンの東』などが中心で、「邦画のサントラなんて」と誰しもが思っていた。しかし、その第一集『黛敏郎の世界』がヒット、新聞なども取り上げてくれたのです。

伊福部昭の音楽を録音メディアに残し、その魅力をいまに伝え続ける、元・東宝ミュージック代表取締役社長 岩瀬政雄さん(写真左)とキングレコード ディレクター/プロデューサー 松下久昭さん(写真右)。
伊福部昭をめぐる貴重な対談は、ゴジラ・シリーズ録音の聖地、東宝スタジオにて。

松下 続く第二集が林光、第三集が佐藤勝、そして第四集にいよいよ伊福部昭が登場となるわけですね。『ゴジラ』『キングコング対ゴジラ』といった代表作はもとより、『忠臣蔵』『日本誕生』などの大作の音楽も収録されていました。

岩瀬 シリーズのなかでも大ヒットを記録しました。特撮ファンたちが、伊福部先生のサウンドトラックの発売を渇望していたのです。

その打ち合わせを帝国ホテルでしたのが懐かしい。初めてお目にかかった伊福部先生はスーツに蝶ネクタイで、ビシッと決まっていらした。

松下 そのレコードはもちろん聴きました。伊福部作品を録音で聴く、まさに原点ですね。

岩瀬 すると当時円谷プロにいた竹内博さんが、「『ゴジラ』シリーズだけでレコードを作りましょう!」と提案してくれて、LP『ゴジラ』を制作しました。こちらも大ヒットして、味をしめてシリーズ化しました。

けれども、先生はあまりよいお顔をされなかった。やはり純音楽を評価してほしかったのでしょう。「私はゴジラだけじゃないのですがね」とよくおっしゃっていましたから。

松下 映画音楽は絵があって初めて成立する、という考えもお持ちでしたしね。

私も伊福部芸術にはゴジラから入ったくちですが、子どものころに伊福部先生の《交響譚詩》を九州交響楽団の定期演奏会で初めて聴いて、とても感動すると同時に、クラシックの作曲家としての伊福部昭という存在に強いインパクトを受けました。『伊福部昭の芸術』シリーズに取り組みたいと思ったのも、キングレコードという日本のレコード会社として、日本人の作曲家の記念碑的なものを作りたかったからなのです。

岩瀬 プロジェクトをスタートされた1995年といえば、ちょうど平成『ゴジラ』VSシリーズの最終作、『ゴジラVSデストロイア』の製作・上映時期と重なっていましたね。先生にとって最後のゴジラ作品。作曲を依頼した際も、「ゴジラの死に水を取らせていただきます」とすぐに引き受けてくださいました。

松下 それも見越してのリリースだったのです。映画館でももちろん販売しましたし、その会場内で上映前後に録音をたくさん流していただきました。

このシリーズは2003年までは伊福部先生の立ち合いのもとセッション録音が行われまして、その後もライヴ録音などがシリーズに加わり、12作まで続けることができました。

ゴジラとだからこそ昇華できた伊福部芸術

岩瀬 伊福部先生は数多くの映画音楽を作曲されましたが、さまざまなジャンルの依頼があるなかで、子ども向け、あるいはゲテモノと見なされる傾向にあった特撮映画に積極的に取り組まれた。それは異形のものへのシンパシーのようなものがあったのかもしれませんが、ご自身の音楽そのものを特撮映画、とくにゴジラには託せて、「自分以外のもの」を加えずに済んだのでは。

映画製作の現場では、ときに監督が作品の完成度のために作曲家に「非音楽的」なことを要求してしまうこともありますが、ゴジラ・シリーズに関してはそれがなかったように思います。まさに奇跡的な出合いだったのかと。

松下 2024年11月6日にキングレコードからリリースするSACDハイブリッド盤『伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ 実況録音盤』は、《SF交響ファンタジー》全曲の初演(1983年8月5日)を収めたものです。ゴジラ・シリーズやそのほかの特撮映画のために書かれた楽曲が連結された組曲的な内容ですが、違和感なく一つの世界観を有しているように感じます。おっしゃるように、先生にしか書くことのできない巨大なスケールの音楽ですね。

岩瀬 『メカゴジラの逆襲』(1975・東宝)以降、久々の復活となった1984年の『ゴジラ』は小六禮二郎さんが音楽を担当。翌年の『ゴジラVSビオランテ』ではすぎやまこういちさんが担当されましたが、テーマ曲だけは伊福部先生のものが用いられました。すると、やはりその音楽のインパクトは絶大で、次作『ゴジラVSキングギドラ』では伊福部先生に全曲オファーをすることになったのです。

松下 それから『VSモスラ』『VSメカゴジラ』と続き、最終作『VSデストロイア』となるわけですね。

岩瀬 何度もご自宅にうかがってお願いしましたら、「“三顧の礼”という言葉がありますから、お引き受けしましょう」と。ただし、「大きなスタジオでフル・オーケストラによる映像に合わせての録音」を条件として出されました。これは大変なことになった、と青くなりましたよ。

松下 その録音が行われたのが、まさにこの東宝スタジオというわけですね!

東宝スタジオ ポストプロダクションセンター2 ダビングステージ2。まさにここで「フル・オーケストラによる映像に合わせての録音」が行なわれた!

岩瀬 もはや一大イヴェントでしたし、その音楽にも圧倒されました。伊福部先生は深夜まで編集作業にお付き合いくださいました。

映像と音声をミックスして、スタジオ内でテストを観ていると、機材の下から伊福部先生がまさにゴジラのようにぬっと現われて、「そこの音楽のアタマだけをちょっと突いていただけますか?」と。最初だけでもしっかり音が聴こえれば、続く音楽の形は見えてくるとおっしゃっていました。

松下 なるほど。『芸術』シリーズの録音でも、実演では聴こえづらい楽器へのバランス感覚など、とてもこだわっていらっしゃいました。また、オーケストラへの敬意を深く持っていらして、雰囲気を和ませるのも得意とされていましたね。

岩瀬 ジョークの名人でしたよね。激昂するのも見たことがない。

松下 お話をされるのもお好きでした。いつも俯瞰で物事を捉えられていて、本質的なことへの一貫した眼差しを持ち続けていらっしゃる。そんなおかたでしたね。

伊福部昭さんの思い出の品をご持参いただいた。岩瀬さんは当時大ヒットしたLP「ゴジラ」、松下さんは伊福部昭さん直筆の座右の銘「大楽必易」色紙。
「キング伊福部まつり」開催決定!
ゴジラ生誕70年&伊福部昭生誕110年記念企画「キング伊福部まつり」

アニバーサリー・イヤーを記念して、映画『ゴジラ』初公開から70年にあたる2024 年11月3日から、伊福部昭生誕111年の誕生日にあたる2025年5月31日まで、伊福部昭の音楽世界を堪能できる作品を連続リリース。関連商品の発売やオリジナル特典も予定。

伊福部 昭(作曲家)

北海道出身。北海道帝国大学農学部卒業。在学中から独学で作曲し、パリで開催されたチェレプニン賞優勝を機に注目される。以後、作曲家としてさまざまな作品を書き、戦後は東京藝術大学作曲科の講師も務め、芥川也寸志、黛敏郎など、日本の音楽界を担う作曲家たちを育てる。大著「管弦楽法」執筆。映画音楽も多数手がける。

 

【第1弾】

◎ 2024年11月3日(日・祝)発売

「ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック(数量限定重量盤LP) KIJS-90043 定価5,500円

2014年に東宝ミュージック社長(当時)岩瀬政雄氏が管理していた6ミリ磁気マスターテープを原音に近い状態で丁寧にリマスタリングしたもの。

 

「キングコング対ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック(数量限定重量盤LP) KIJS-90044 定価5,500円

6ミリ磁気テープの音に近い状態で丁寧にリマスタリングしたもので、LPとして発売したものを再発売。ステレオ録音。

 

◎ 2024年11月6日(水)発売

「ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック(CD) KICS-4171 定価3,300円

配信:NOPA-6725

6ミリ磁気テープの音に近い状態で丁寧にリマスタリング。LP用にマスタリングした音源を使用した初CD化商品。

 

「キングコング対ゴジラ」オリジナル・サウンドトラック(ステレオ盤CD) KICS-4172 定価3,300円

配信:NOPA-6726

LPで発売されている音源の初CD化。他社盤とは違い、ステレオで聴くことができる。

 

「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤(SACDハイブリッド盤)KIGC-37 定価4,400円

通常配信:NOPA-6373 ハイレゾ配信:NOHR-860

「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」実況録音盤は、伝説のLPとして、伊福部昭が再注目された先駆けとなる作品であった。この実況録音は、当時キングレコードの録音部の総力を結集して行われた。当時のLPは、デジタルテープを採用したが、今回は、アナログテープを採用してSACD用に新たにマスタリングを施している。また、アートワークは、当時のLP盤を完全に復刻しており、会場の様子、マイクアレンジ配置図、ステージ写真が豊富に封入されている。

 

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岩永昇三
岩永昇三

北海道出身。早稲田大学を経て、2006年音楽之友社入社。『レコード芸術』『音楽の友』各編集部を経て、現在『音楽の友』編集長。一方でヴィオラ弾きとして、オーケストラから...

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