インタビュー
2025.01.15
2025年5月15日(木)日本初のソロコンサート開催

ハビエル・カマレナ~変化を続ける21世紀の“キング・オブ・ハイC”の現在(いま)

2004年に《連隊の娘》トニオ役でオペラ・デビュー。以来順調にキャリアを重ね、現在、世界でもっとも優れた男性歌手のひとりといわれるハビエル・カマレナ。2024年6月には英国ロイヤルオペラハウスの来日公演、《リゴレット》のマントヴァ公爵役でその歌声を存分に聴かせてくれた。

そんな「21世紀の“キング・オブ・ハイC”」が2025年5月に日本初のソロコンサートを行なう。歌手になったきっかけから、現在のレパートリーまで、カマレナのインタビューをお届けする。

取材・文
室田尚子
取材・文
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

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オペラを通して言語を学べるのが嬉しかった

——カマレナさんはメキシコのベラクルス州生まれですが、歌手になろうと思われたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

カマレナ 音楽は幼いころからずっと大好きでした。歌の勉強を始めたのは19歳の時、生まれ故郷のハラバという街です。最初は作曲家になりたかったのですが先生がおらず、ならばピアノかギターとも思ったのですが、なにしろ19歳では遅すぎる。でも歌ならば大学に入れると考えました。もうひとつ、私は語学がたいへん好きで、当時は英語が話せたのですが、オペラを通してほかの言語を学ぶことができる、というのも声楽を選んだ理由です。

——オペラを歌う際に、言葉がわかるということは大きな武器ですね。

カマレナ 歌において、もっとも大切なのは言葉だと思います。他の楽器の演奏にはない言葉があることで、どんなことを思っているのか、アイデアや感情などをすべて完璧に伝えることができるからです。2005年にメキシコで、團伊玖磨のオペラ《夕鶴》を歌いましたが、その時も、ひとつひとつの単語の意味をたずねて理解するようにしました。だから日本語も少しはわかりますよ(笑)。

ベルカント(美しい声)の難しさ

——カマレナさんといえば、実に力みなく滑らかなハイCが印象的ですが、どうしたらあんな声を出すことができるのでしょう。

カマレナ メキシコのテキーラのおかげかもしれません(笑)。というのは冗談として、ハイCにしてもコロラトゥーラ、ロッシーニのような速いパッセージにしても、これらを澱みなく出すにはとても頭を使います。歌手になって20年経ちますが、デビューで《連隊の娘》※を歌えたのは、若さゆえだった……今となっては簡単なものではない、ということが身に沁みています。ですから毎日が勉強です。

※ドニゼッティのオペラ《連隊の娘》。“キング・オブ・ハイC”パヴァロッティが得意としたトニオのアリアでは、9回のハイCを歌う必要がある。2019年MET歌劇場のカマレナ登場時には、アンコールを含めて18回のハイCを歌い、METの歴史過去75年でいちばん長いアンコールとなった。

——カマレナさんにとって、ベルカント・オペラとはどういうものですか。

カマレナ ベルカントとは、声を通して最大限の表現をする手段です。だからなによりも複雑なものであり、美しくなければならないし、確実なテクニックが必要です。ヴェルディやプッチーニの作品、そしてヴェリズモ・オペラもベルカントがなければ生まれなかったものです。あらゆるオペラの中でもっとも難しく、だからこそ重要な芸術がベルカントなのです。

カマレナの“現在(いま)”

カマレナ 現在、私のレパートリーは変化しつつあります。ヴェルディの初期から中期の作品がレパートリーに入っており、また《ランメルモールのルチア》や《チェネレントラ》などはまだ自分にも可能性があると思って歌っていますが、一方《連隊の娘》はほとんど歌う機会がなくなりました。

年齢とともに声が変化していくのは当然ですし、大切なのは自分の声を成長させていくこと。声は目に見えませんが、テクニックは筋肉が覚えています。その筋肉が「そろそろもうこのテクニックは違うかも」と言い始める。そうしたら新しいテクニックを勉強しなければなりません。それはメンタル的にとても大変なことではありますが、勉強あるのみなのです。

——今回は、まさにベストなタイミングでの来日コンサートということになりますね。ぜひ、心待ちにしている日本のファンにメッセージをお願いします。

カマレナ こんなに早く日本に帰ってこられるなんて、本当に本当に嬉しいです。食べ物も美味しいですし、聴衆の皆さんもとても温かい。私は日本に恋をしています! 今回のプログラムには、わたしを有名にしてくれた曲も、また新しい曲も入っているので、それを日本の皆さんにお届けできるのが楽しみです。

とても知的で、たくさんの言葉を費やして質問に答えてくれたカマレナ。温かく、誠実な人柄が魅力的だった。黄金の歌声を届けてくれる来日コンサートが今から待ち遠しい。

公演情報
ハビエル・カマレナ 21世紀の“キング・オブ・ハイC” 日本初ソロコンサート

日時: 2025年5月15日(木)19:00開演

会場: 東京オペラシティ コンサートホール

チケット料金: S席18,500円 A席15,500円 B席11,000円 C席8,000円(税込・全席指定)

 

園田隆一郎(指揮)東京フィルハーモニー交響楽団

 

予定プログラム

グノー:歌劇《ロミオとジュリエット》より「あぁ、太陽よ昇れ」 
ドニゼッティ:歌劇《ラ・ファヴォリート》より「王の愛妾?・・・あれほど清らかな天使」 
ロッシーニ:歌劇《チェネレントラ》より「必ず彼女を見つけ出す」 
ドニゼッティ:歌劇《連隊の娘》より「ああ!友よ!なんと楽しい日!」 ← ハイC連続9回!!!
ドニゼッティ:歌劇《ランメルモールのルチア》より「わが祖先の墓よ」 
マスネ:歌劇《ウェルテル》より「春風よ、なぜ目覚めさせるのか」 ほか
 
 
取材・文
室田尚子
取材・文
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

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