インタビュー
2025.12.20
オーケストラの舞台裏 vol.15

日本センチュリー交響楽団ファゴット奏者・児玉桃歌さん「オーケストラや室内楽でファゴットの魅力を伝えていきたい」

日本センチュリー交響楽団のファゴット奏者・児玉桃歌さんは、幼少期からピアノとエレクトーンに打ち込み、自然と音楽がそばにある環境だったそう。13歳のときにファゴットを始め、高校生のときにオーケストラで演奏する楽しさに目覚めて音楽家を目指すようになったといいます。日本センチュリー交響楽団における演奏生活や、オーケストラにおけるファゴットの役割、ファゴットの魅力が活きる作品などのお話を伺いました。

「オーケストラの舞台裏」は、オーケストラで活躍する演奏家たちに、楽器の魅力や演奏への想いを聞く連載です。普段なかなか知ることのできない舞台裏を通じて、演奏家たちのリアルな日常をお届けします。

桒田萌
桒田萌 音楽ライター

1997年大阪生まれの編集者/ライター。 夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オ...

撮影:明石祐昌

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ファゴットはオーケストラの土台を作る楽器

——ファゴットとの出会いを教えてください。

児玉 中学校の吹奏楽部で始めました。小さいころからピアノとエレクトーンを習っていたのですが、その当時からの先輩が吹奏楽部にいて、ファゴットを吹いてました。私も吹いてみたところ音が鳴ったので、先輩が私のことを選んでくれたんです。

——ピアノを習ってらっしゃったんですね。

児玉 そうなんです。私自身は覚えていないんですが、テレビで音楽教室のCMが流れていて、「これをやりたい」とピアノを指差したみたいで。そこから高校を卒業するまで、がっつりピアノに取り組みました。

——ということはピアノとファゴット、どちらも真剣に取り組まれていたんですね。

児玉 はい。高校は音楽科に進学したのですが、受験前にピアノとファゴット、どちらの専攻を目指すのかを迷いました。でも、やはりピアノは演奏人口が多すぎて、自分のレベルでは難しいだろうなと。消去法のような形でファゴットを選びましたね。

——消去法だったとはいえ、そのまま京都市立芸術大学に進学されたと言うことは、ファゴットに向いていたということでは?

児玉 そうかもしれませんが、勉強も苦手だったので、「もうファゴットしかないよね」と(笑)。

滋賀県出身。13歳でファゴットを始め、滋賀県立石山高等学校音楽科と京都市立芸術大学音楽学部管・打楽器専攻を卒業。桐朋オーケストラ・アカデミー研修課程修了。現在、日本センチュリー交響楽団に所属。

——オーケストラにおけるファゴットの役割を教えてください。

児玉 木管楽器の中では最も低い音で、弦楽器の中で言うとチェロやコントラバスと同じ動きをすることが多く、オーケストラの土台を作る楽器の一つです。同時に弦楽器とのつながりを作る架け橋でもあると思います。

——オーケストラの中でも、緻密かつ重要な動きをされる存在なんですね。そうなると、楽団内の信頼関係も大切なのではないでしょうか。

児玉 そうですね。実際、日本センチュリー交響楽団の雰囲気はとても良いですね。1989年の発足当時からいらっしゃる団員さんもいる中で、私のような若手のメンバーものびのびと自由にいられる環境で、皆さん音楽に対して真剣な眼差しを持ってらっしゃる方ばかりで本当に尊敬しています。

——ちょうど今、入団してから2年目なんですね。

児玉 これまで大学などでもオーケストラの経験はしてきましたが、やはりプロとなると自分の出す音に責任が生じます。聴きにきてくださるお客さまに、自信を持って音を出すことの重責を感じながら、日々演奏に励んでいます。

——改めて、日本センチュリー交響楽団の魅力を教えてください。

児玉 やはりアンサンブル力の高さでしょうか。皆さん、自分の演奏だけではなく、周囲の音をきちんと聴いているというか、楽団員同士の信頼関係が強く、私自身も信頼されているような気持ちになれるオーケストラです。音楽的な話だけでなく、楽団の運営のために意見をしっかり出す方も多く、いい意味で“我慢しなくてもいい”環境だと思いますね。

エレクトーンでアンサンブルの基礎を培った

——オフの日はどうやって過ごされていますか?

児玉 ひたすら寝ています(笑)。たくさん眠って、日頃や仕事の疲れをしっかり取っていますね。

——やはり練習や本番は疲れますか。

児玉 本番が終わって「疲れた〜」と思うことは特にないのですが、いざ休みの日になってしまうと動けなくなってしまいますね。どこかプレッシャーを感じている部分もあるのかもしれないです。

ただ、京都市立芸術大学時代の友人とは今でもつながりが深くて、オフの日はよく会ってリフレッシュしています。

やはり音楽業界は関係性も濃くなりがちです。大学時代の友人の中にはこれからも同じ業界で働く人も多く、室内楽の演奏会など共演したり何かを一緒にやる機会は必ずあるので、長く関係が続いていくと思いますし、大事にしたいです。

——いいですね……!

児玉 仕事がある日は、ご飯を食べたり、寝たり、お風呂を入ったりするとき以外はずっと練習をしたりリードを作ったりしているので、生活の8〜9割は音楽を占めている気がします。

——普段、練習はどのくらいされていますか?

児玉 少なくとも1日のうち2時間、多いときで5時間ですね。

——練習前や本番前のルーティーンなどはありますか?

児玉 練習前は基本的に基礎練習をしているのですが、本番前は何も考えないようにしていますね。緊張することもありますが、日頃と違うことをするほうがよくない気がしていて、あくまでも日頃の延長で吹けるようにしたいなと思っています。

——ファゴット以外にやってみたかった楽器はありますか?

児玉 ホルンでしょうか。楽器同士をつないだり、フォローしたり、といった役回りがファゴットと似ている気がします。

——ピアノとエレクトーンを習っていたとおっしゃっていましたね。エレクトーンはさまざまな音色を操る楽器なので、オーケストラの仕事の土台にもなっているのでは?

児玉 そうですね。やはりオーケストレーションの練習にもなりましたし、グループレッスンで習っていたため、そこでアンサンブル力の基礎が培われたような気がします。

ファゴットは余白や無の中でこそ活きる

——クラシックの作品の中で、愛聴曲や思い出の作品はありますか?

児玉 モーツァルトの交響曲第41番《ジュピター》です。高校の頃に通っていたジュニアオーケストラで、初めて演奏したオーケストラ作品でした。それまで私はダブルタンギングなど、まだ習得できていない技術があったのですが、この作品に真剣に取り組むことでグッと成長することができました。

これを機に、もっと音楽をがんばりたい、もっとオーケストラがしたいと思うようになりましたね。「自分の進みたい道はこれや!」と確信したというか。

モーツァルト/交響曲第41番《ジュピター》(ヘンヒェン指揮、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ室内管弦楽団)

——思い出の曲なんですね。ちなみに、ファゴットの魅力を堪能するために聴きたい作品も教えていただけますでしょうか? 一般的にはデュカスの《魔法使いの弟子》などが思い浮かびますが……。

児玉 チャイコフスキーの交響曲第4番をお勧めしたいですね。これは、私が桐朋学園のオーケストラアカデミーに通っていたときに取り組んだ作品です。

第2楽章の最後のほうに、ファゴットのソロが登場するのですが、だんだんと消え入るように演奏する必要があり、こうした余白や「無」の中にこそファゴットの音色が活きるのではないかと思える作品ですね。

チャイコフスキー/交響曲第4番(カラヤン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団)

——最後に、児玉さんの目標をお聞かせください。

児玉 今、日本センチュリー交響楽団は久石譲さんが音楽監督をされています。それに伴い楽団の注目度も上がっているので、より日本中に楽団の存在が知られたらいいなと思っています。

また、個人的にはオーケストラはもちろんのこと、室内楽やソロの活動を通してファゴットの魅力を伝えていきたいと思っています。ファゴットはどうしても認知度が他の楽器に比べて高くはないので、「こんな音も出せるんだよ」と伝えていきたいですね。いろんなスタイルで、それぞれのファゴットの魅力に光を当てていきたいです。

出演情報
日本センチュリー交響楽団公演

久石譲 × 日本センチュリー交響楽団 特別演奏会「第九」
日時:2025年12月26日(金)19:00開演、12月27日(土)14:00開演
会場:フェスティバルホール
曲目:
久石 譲 : Orbis ~混声合唱、オルガンとオーケストラのための~ 
ベートーヴェン : 交響曲 第9番 ニ短調 Op. 125 「合唱付き
出演:
指揮:久石 譲
ソプラノ:森 麻季
アルト:山下 裕賀
テノール:山本 耕平
バリトン:山下 浩司
合唱:日本センチュリー合唱団
オルガン:室住 素子

 

第295回 定期演奏会 
日時:2026年01月17日(土) 14:00開演
会場:ザ・シンフォニーホール
曲目:
久石 譲:Encounter for String Orchestra
久石 譲:ハープ協奏曲
ベートーヴェン:交響曲 第3番 変ホ長調 作品55 「英雄」
出演:
指揮:久石 譲
ハープ:エマニュエル・セイソン

 

篠崎 “MARO” 史紀 × 日本センチュリー交響楽団 ニューイヤーコンサート2026
日時:2026年1月31日(土) 14:00開演
会場:吹田市文化会館 メイシアター 大ホール
曲目:
F.レハール: 喜歌劇『メリー・ウィドウ』より「バルシレーネン・ワルツ」 (ワルツ「舞踏会の妖精たち」) 
J.ランナー:モーツァルト党 
F.クライスラー:『ウィーン古典舞曲集』より「美しきロスマリン」「愛の悲しみ」「愛の喜び」
F.スッペ:喜歌劇「詩人と農夫」より 序曲 
J.シュトラウス:鍛冶屋のポルカ、 ワルツ「うわごと」 
J.シュトラウスⅡ世:ポルカ「観光列車」、ワルツ「南国のバラ」、トリッチ・トラッチ・ポルカ、ワルツ「美しく青きドナウ」 
出演:
ヴァイオリン・指揮・トーク:篠崎 史紀

 

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桒田萌
桒田萌 音楽ライター

1997年大阪生まれの編集者/ライター。 夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オ...

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