京都市交響楽団ソロ・コンサートマスター会田莉凡さん「オーケストラで弾くことはずっと続けていきたい」
京都市交響楽団でソロ・コンサートマスターを務める会田莉凡さん。京響はコンマスから見て、どんなオーケストラなのでしょうか。また、子どもの頃から一貫して仲間と一緒に演奏するのが好きだという会田さんに、オーケストラ愛やコンサートマスターとして大切にしていることなどを語ってもらいました。
「オーケストラの舞台裏」は、オーケストラで活躍する演奏家たちに、楽器の魅力や演奏への想いを聞く連載です。普段なかなか知ることのできない舞台裏を通じて、演奏家たちのリアルな日常をお届けします。
フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...
子どもの頃も今も、仲間と演奏するのがとにかく楽しい!
——楽器との出会いを教えてください?
会田莉凡さん(以下、会田) 5歳のときです。私が生まれた1990年の7月5日は、諏訪内晶子さんがチャイコフスキー国際コンクールで1位になったまさにその日。父は生まれる前からヴァイオリンを習わせたいと言っていたそうですが、諏訪内さんのニュースがとびこんできて、やっぱりやらせようと確信したそうです。
3歳から桐朋の子どものための音楽教室に入り、ソルフェージュを始めました。5歳でピアノかヴァイオリンを選ぶときに、両親に勧められてヴァイオリンを選びました。
——ヴァイオリンの道に進みたいと思われたのはいつでしたか?
会田 桐朋の音楽教室がとにかく楽しくて、いい仲間といい先生に恵まれました。8歳から毎週日曜日に弦アンサンブルのクラスが始まって、それがとくに楽しくて今につながるんです。
そうして続けていくうちに、自然と桐朋の高校・大学に進学しました。そこでもいい仲間と出会い、室内楽やオーケストラがとても楽しかったです。ソロは全然やっていなくて、卒業後はすぐにオーケストラに入りたいと思っていました。だから、大学4年生のときに日本音楽コンクールを受けて1位になっちゃったのは、逆に人生が狂ったなと感じるくらい(笑)。
1990年生まれ。桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコース在学中に第81回日本音楽コンクール第1位、併せて全部門で最も印象に残った演奏に贈られる増沢賞、レウカディア賞、黒柳賞、鷲見賞を受賞。第6回ルーマニア国際音楽コンクール全部門最優秀賞。ルーマニア国内4都市にてリサイタルツアーを行う。秋吉台音楽コンクール室内楽部門(2014年)、弦楽器部門(2018年)ともに第1位。ほか多数優勝、入賞。ソリストとしてルーマニア国立ラジオオーケストラ、東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団などと共演を重ねる。宮崎国際音楽祭、サイトウ・キネンオーケストラに毎年参加。CHANEL Pygmalion Days 2014アーティスト。
2010年より11年連続で小澤国際室内楽アカデミー奥志賀に参加し、弦楽合奏では小澤征爾指揮のもとソリストやコンサートマスターを務める。NHK-BS「クラシック倶楽部」、NHK-FM「ベスト・オブ・クラシック」などに出演。これまでに岩澤麻子、鷲見健彰、徳永二男の各氏に、室内楽を小澤征爾、原田禎夫、川本嘉子、ジュリアン・ズルマンの各氏に師事。現在、京都市交響楽団ソロコンサートマスター、札幌交響楽団コンサートマスターを兼任。
使用楽器は文化事業プロジェクト「虎に翼」より貸与されているサント・セラフィン(1735年製)。
——中高生の頃はどれくらい練習していましたか?
会田 1日1時間です(笑)。しかも、母親いわく、ヴァイオリンを持ってきて、ケースを開けて、調弦して、練習して、しまうまでが1時間。弾いている時間は正味40分くらい(笑)。
——オーケストラに入りたいという気持ちはずっと変わらなかった?
会田 はい。日本音楽コンクールのドキュメンタリー番組で、「私はオーケストラに入りたい」って公言しちゃって、学校のオケでコンマスをやる姿が全国放送に映ったんです。それまで1位を取るような人は当然のようにソリストを目指していたから、「この子はなんかおかしい」みたいな感じで、全国のオーケストラがざわついたらしいです(笑)。いまだに「
コンサートマスターとして大切なのは多様な器と引き出しを備えること
——京都市交響楽団はどんなオーケストラですか?
会田 京響の雰囲気は、まず明るくてオープン。これは本当に素晴らしいことだと思っています。ほかのオケにもいかせていただくことがありますが、真面目なところが多い印象。京響が真面目じゃないって言ってるわけじゃないんですけど(笑)、やっぱり地は関西だなぁと感じます。
たとえば、指揮者がちょっと面白いことを言うと、みんなが一斉にツッコミを入れるんですよ。「あ、そうやな」みたいな感じもあるし、「じゃ、なんとかちゃう?」みたいな。沖澤のどかさんは語彙力が豊富な方で、面白いことをおっしゃるんですけど、最初に京響にいらしたリハーサルで「ここはこういうイメージです」みたいなことをおっしゃったら、「ああ、あれやな」「そうやな」と口々にすごい盛り上がっちゃって。そしたら沖澤さんが「しー」ってされて。「え、プロオケだけど私たちしーって言われてる!」って思ったのが忘れられないですね(笑)。
音楽にもその表現の意欲が表れていると思います。京響は、自分の音や自分の感情、自分の音楽的な要素というものを一人ひとりが大事にしていて。それをみんながうまく出せたときに、ものすごく爆発的な音楽の大きさが生まれるんです。
——個々が強烈だとコンサートマスターとしてまとめるのは難しいのでしょうか?
会田 全然まとめようとは思っていなくて、私がいちばんできるようになりたいなと思うのは、器や引き出しを多く備えておくことです。
指揮者が真ん中にいて、どうしてもそこから音楽が生まれていくから、物理的に離れていると音楽的にも距離が生まれてくると思います。だからこそ、奏者一人ひとりが「自分はこう思ってる」「自分がいい音を出せている」というのを引き出せるように、実際に演奏しているコンサートマスターが器を作ってあげる必要があると思っています。
タイミングが早い人、遅い人がいて当然で、「ここに合わせて」と言うと縦の線ばかりにとらわれてしまう。でも、縦線がすべてではない。いろいろな器を用意しておくことで、それぞれの音を活かせるんじゃないかと思っています。
コンサートマスターに引き出しがたくさんないと、みんなが困る。指揮者も困るし、オーケストラ全体も困る。だからこそ、それを意識してやっています。
——器や引き出しを多く持つとは、具体的にはどういう対応力や感覚を指すのでしょうか?
会田 まず指揮者の音楽が棒から汲み取れます。棒を上げただけで、どういう音色が欲しいかわかるときもあります。自分が弾きたい音楽もあるので、それを出しつつ、棒から汲み取ったものを出します。それが京響に合っているかどうかも大体わかってきました。それで、あっこうなのね、こうらしいけどどうかな、と音でやりとりします。
アインザッツという言葉はあんまり好きじゃないんですけど、合図でどういう音色が欲しいかわかるコンサートマスターは本当に素晴らしいなと思います。あとは、技術的な話だと、ボウイングのテクニックですね。
コンチェルトでは、やっぱりソリストには気持ちよく弾いてもらいたいと思っています。室内楽的な感覚の優れたソリストが多いので、コンマスだけでなくオーケストラ全体で「こうしよう」と音楽をつくっていく感覚が大事です。
なかでも昨年共演したチェリストのクニャーゼフとのショスタコーヴィチ「チェロ協奏曲第1番」は印象的でした。とくに、ゆっくりした楽章で彼が奏でたメロディの音色があまりに美しくて、そのあと同じ旋律を弾くヴァイオリンパートをどう導くか、コンマスとしての責任を強く感じました。
正直、自分にこの音色が出せるだろうかと不安になるほどでしたが、京響のメンバーは私の思いを察してくれて、「莉凡ちゃんがこう
本番前は楽屋から大爆笑が聞こえてくる!?
——緊張はされますか?
会田 します。緊張してるように見えないらしいですが、めっちゃしています。
3月に《英雄の生涯》を弾いたときも、本当に緊張しました。コンチェルトを弾くほうが暗譜だし、大変そうに見えるかもしれないですが、何かあっても自分の責任だと思えます。でも《英雄の生涯》とか《シェエラザード》といったオケのソロは、みなさんの素晴らしい演奏のなかにあるから、たとえば立派な絵画にボールペンで落書きしてしまうような恐怖があるんです。
——ソロがないときはけっこうリラックスされていますか?
会田 いや、初めて演奏する曲は緊張します。アンサンブルなので、
——1日に何時間くらい練習しますか?
会田 最近は、家だとダラダラしてしまうので、家から近いスタジオを予約して、3時間くらい予約して集中して練習します。京都や札幌ではホテル暮らしなので、弾けないんですよ。楽屋や練習場を使わせてもらっています。
——本番前の過ごし方を教えてください。
会田 ソロがある場合はギリギリまでさらっていますが、みんなで話しているときもあります。
——どんなお話をされるんですか?
会田 どんな話をしてるかわからないくらい他愛のない話をしています(笑)。
——コンサートで弾く曲の話はあんまりしない?
会田 うん、5パーセントぐらいかな(笑)。ほんとに京響の方たちはよくしゃべるので、話題が尽きることがないです。楽屋にいると、外からすごい大爆笑が聞こえてきたりします。
バボラークに「ベルアップちゃん」と呼ばれる
——楽器以外の趣味は?
会田 水泳をずっとやっていたので泳ぐのは好きです。あと、カフェ巡りが好きです。紅茶のアールグレイが大好きで、アールグレイのものは絶対に買っちゃう。アールグレイのものがあると、みんな「見つけたよ」ってくれるんです。
インスタで食べ物専用のアカウントを作っていて、最近はあんまり更新してないけど、食べることは好きです。お酒も飲みます。数年前に祇園のバー巡りをしたこともあって、面白かったです。
——ご自身の性格を一言で表すと?
会田 うーん、一言で表すと……明るいかな(笑)。暗くはない。
団員に「莉凡ちゃん、いつ見ても精神的に安定してる」
——今後、音楽家としてチャレンジしたいことはありますか?
会田 なんでしょうね……この間も「夢ありますか?」って聞かれて、今が充実しすぎているくらいだと感じていたので、「ないです」って答えちゃったんですけど(笑)。やっぱり「あの曲を一度はやってみたい」っていうのはありますね。オーケストラじゃないと弾けない曲がたくさんあって、それをやるために私はオーケストラに入りたいと思ったので。だから、オーケストラは続けていきたい。
——具体的にやってみたい曲は?
会田 好きな作曲家は、マーラーとブルックナーとワーグナーとリヒャルト・シュトラウスです。だから、その辺の曲はやりたいですね。血が騒ぐんですよ。
ブルックナーは、セカンドヴァイオリンも楽しくて楽しくてたまらないです! 「刻みがやだ」って言う人の気が知れない!(笑)自分の音が聞こえるというよりは、「自分が音楽の一部になってる」感じが本当に楽しくて。
サイトウ・キネン・オーケストラで、マーラーの「交響曲第9番」をファーストヴァイオリンのいちばん後ろで弾いたのですが、ほんとうに楽しくて音楽に没頭して弾きまくってて。そしたら、ホルンのラデク・バボラークさんにパーティーで「君が楽器をあげて弾いている姿がホルンのベルアップみたいだから、これからベルアップちゃんって呼ぶよ」って言われました(笑)。ハープ越しに私が見えていたらしくて。(註:ベルアップとは、曲中の盛り上がる箇所などで管楽器を持ち上げる動作のこと。90度以上の角度をつける)
今でも「ベルアップちゃん元気?」みたいに言ってもらっているそうで、マネージャーの方から「ベルアップちゃんって言ってましたけど、会田さんのことですよね?」って連絡が来たこともありました(笑)。
日時: 2025年8月8日(金)18:30開演
会場: 飛騨市文化交流センター スピリットガーデンホール
出演: 金木博幸、川田知子、須田祥子、黒木岩寿、会田莉凡、ほか
曲目: ブラームス/クラリネット五重奏曲第1楽章、喜歌劇《こうもり》序曲、ほか
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日時: 2025年8月18日(月)19:00開演
会場: プリモ芸術工房
出演: 会田莉凡、平塚佳子(ヴァイオリン)、須田祥子(ヴィオラ)、清水詩織(チェロ)
曲目: ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第3番、第13番
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