インタビュー
2023.12.18
ミュージック・アドバイザーに篠崎史紀が就任する新体制

九州交響楽団の首席指揮者に就く29歳 太田弦がひらく「あたらしい九響」の時代

2023年に創立70周年を迎えた九州交響楽団が、2024年に新たな一歩を踏み出します。首席指揮者に太田弦、ミュージック・アドバイザーに篠崎史紀を迎える新体制に刷新。太田弦さんは29歳という若さでの抜擢ですが、ご本人はいたって自然体の頼もしさ。2018年の初共演から九響と相性の良さを感じてきたという太田さんに、オーケストラとの関係性や新シーズンへの抱負を伺いました。

取材・文
西田紘子
取材・文
西田紘子 音楽学

東京藝術大学大学院音楽研究科博士後期課程修了(音楽学博士)。専門は欧米の音楽理論や音楽美学。著書に『ハイリンヒ・シェンカーの音楽思想―楽曲分析を超えて』(九州大学出版...

左から、2024年度より九州交響楽団の首席指揮者に就任する太田弦と、ミュージック・アドバイザーに就任する篠崎史紀

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九響の魅力を大事にしながら自分がやりたいことを実践していきたい

――就任にあたり抱負をお聞かせください。

太田 2023年に九響は70周年を迎えました。新しいスタートを切る次の10年を一緒に踏み出せることは、とてもうれしいです。現在の九響が伝統的にもっている明るいサウンドやクリエイティヴな雰囲気を大事にしながら、自分がやりたいと思っていることについて、福岡や九州全体との結びつきを強めていきながら実践していきたいです。

 ――九響から首席指揮者のお話が来たときは、どのように感じましたか?

太田 最初に連絡をいただいたときは、てっきりセカンド・ポジションかと思いました。「小泉先生の下でできるのだな」と思ったら、「そうではなく後任です」といわれてびっくりしたのを覚えていますし、責任も感じます。

――九響に対してどのような方向性をイメージしていますか?

太田 九響のポジティヴな機動力がとても好きです。コミュニケーションもとりやすく、レスポンスも速くて正確です。だから、自分が就任したからといって、それをいじりたいとはとくに思いません。よく指揮者がオーケストラに就任すると「家族」や「結婚」にたとえる人がいますが、「いいな」と思って結婚したので、小泉先生が作ってくださった方向性を大きく逸脱することなく、いま言ったような特徴をより深めていきたいです。

研究家肌。サッカーや「スター・ウォーズ」が好きな一面も

――楽譜の研究が好きだとうかがっていますが。

太田 オタクっぽい研究が好きで、家には図書館みたいに楽譜がたくさんあります。たとえば先日、京都市交響楽団の第683回定期演奏会で尾高忠明先生のお父さんである尾高尚忠さんの「交響曲第1番」を振ったのですが、楽譜に疑問点がたくさん出てきたので、全音楽譜出版社の協力を得てパート譜をみせてもらいながら、自分の校訂版みたいなものを作りました。尾高先生にも確認しながら進めたのですが、先生からは「ちょっと勉強しすぎじゃない?」といわれました。(笑)

 コロナ禍のときで時間があったということもあります。高関健先生とは家が近かったので、荒川のほとりで先生に偶然会って、ブルックナーの「交響曲第8番」の楽譜について相談し、先生の勧めでブルックナーの研究者にメールしたこともあります。半分は趣味です。

サッカーも趣味で、この前、仙台フィルのメンバーとプレイしました。ほかに「スター・ウォーズ」シリーズも好きで、2歳の子どもにスター・ウォーズ教育をしています。(笑)

――九響では史上最年少での首席指揮者就任となります。オスロ・フィルにクラウス・マケラなど、若い指揮者が起用される傾向を感じますが。

太田 国内でも京響に沖澤のどかさん、名古屋フィルに川瀬賢太郎さんなど、そういう動きはあるかもしれません。小泉先生や尾高先生も20代で就いたと思うので、それほど珍しいことではないのかもしれません。そろそろファースト・ポジションを経験することは大事だとも思うので、不安もありますが、楽しみでもあります。長い目でみていただければ幸いです。九響をよろしくお願いします。

シーズンプログラム発表記者会見から(2023年10月26日)
左:太田 弦(指揮) 
Gen Ohta, conductor
1994年生まれ。幼少の頃よりチェロ、ピアノを学ぶ。東京藝術大学音楽学部指揮科を首席で卒業。学内にて安宅賞、同声会賞、若杉弘メモリアル基金賞を受賞。同大学院音楽研究科指揮専攻修士課程を卒業。
2015年、第17回東京国際音楽コンクール〈指揮〉で2位ならびに聴衆賞を受賞。指揮を尾高忠明、高関健の両氏、作曲を二橋潤一氏に師事。山田和樹、パーヴォ・ヤルヴィなどの各氏のレッスンを受講する。これまでに国内各地のオーケストラを指揮、今後さらなる活躍が期待される若手指揮者筆頭。2023年4月より仙台フィルハーモニー管弦楽団指揮者に、2024年4月より九州交響楽団首席指揮者に就任

右:篠崎史紀(ヴァイオリン)
Fuminori Maro Shinozaki, violinist
北九州市出身。愛称 “まろ”。3歳より父母の手ほどきを受け、1981年ウィーン市立音楽院に入学。翌年コンツェルト・ハウスでコンサート・デビューを飾り、各メディア紙から称賛される。その後ヨーロッパの主要なコンクールで数々の受賞を果たしヨーロッパを中心にソロ、室内楽と幅広く活動。1988年帰国後、群馬交響楽団、読売日本交響楽団のコンサートマスターを経て、1997年NHK交響楽団のコンサートマスターに就任。2000年より第1コンサートマスターとして活躍。2023年4月より特別コンサートマスター。
演奏会やオーケストラの企画も自ら行ない、銀座・王子ホールとの共同企画『MAROワールド』が「第33回ミュージック・ペンクラブ音楽賞」のクラシック室内楽・合唱部門賞を受賞。第34回NHK交響楽団「有馬賞」受賞。
北九州文化大使、昭和音楽大学特任教授、昭和音楽大学附属ストリングスアカデミー主任教授、桐朋学園大学非常勤講師。WHO国際医学アカデミー・ライフハーモニーサイエンス評議会議員。
著書に『MAROの“偏愛”名曲案内~フォースと共に』(音楽之友社)、他。使用楽器は1727年製ストラディヴァリウス
ミュージック・アドバイザー篠崎史紀「太田さんと一緒にアクセルを踏みたい」

「私は太田さんの倍の年齢で、それなりの経験やノウハウもあり、『こうやればうまくいく』『失敗する』という確率を知っています。でも実際は、若いということ自体が才能なのです。たとえ可能性が1%でも、それが成功したときのビック・バンは計り知れません。私の周りには、どうすれば1%の可能性を引き出せるかのヒントをくれる大人が多かった。それと同じことを太田さんにしたいです。『ミットグリーダー(仲間)』、ともに成長することがテーマです。ブレーキをかけるのではなく、一緒にアクセルを踏みたいです」(篠崎史紀)

 

公演情報

#76  2024年5月18日(土)15:00・北九州芸術劇場大ホール
篠崎史紀/ミットグリーダー
モーツァルト/交響曲 第39番 変ホ長調 K.543
  交響曲 第40番 ト短調 K.550
  交響曲 第41番 ハ長調《ジュピター》 K.551

九州交響楽団2024.4 ▶ 2025.3シーズン 太田弦出演公演

2024年

No.420  4月11日(木)19:0012日(金)14:00・アクロス福岡シンフォニーホール
太田弦 首席指揮者就任記念
太田弦/指揮
亀井聖矢/ピアノ
ショスタコーヴィチ/祝典序曲 イ長調 Op.96
ショスタコーヴィチ/交響曲 第5番 ニ短調 Op.47
ショパン/ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 Op.11

7月21日(日)15:00・FFGホール
太田 弦/指揮
ドヴォルザーク/弦楽セレナード ホ長調 Op.22
バーバー/弦楽のためのアダージョ Op.11
オネゲル/交響曲 第2番 H.153

8月24日(土)14:00・なみきホール(福岡市立東市民センター)
九響サマーコンサート2024
太田 弦/指揮
久石譲/となりのトトロ
ジョン・ウィリアムズ/インディ・ジョーンズ レイダースマーチ、ジュラシックパークのテーマ
アラン・シルヴェストリ/バック・トゥ・ザ ・フューチャー
エンニオ・モリコーネ/ニュー・シネマ・パラダイス、他
11月7日(木)19:00・アクロス福岡シンフォニーホール
太田 弦/指揮 
大槻 孝志/テノール
与那城 敬/バリトン
林英哲と英哲風雲の会/太鼓
九響合唱団/合唱 
プッチーニ/4声のミサ曲
小出 稚子/博多ラプソディ(2020)
石井 眞木/日本太鼓とオーケストラのための「モノプリズム」 Op.29

 

2025年
1月11日(土)15:00・アクロス福岡シンフォニーホール/1月12日(日)15:00・北九州芸術劇場大ホール

ニューイヤーコンサート2025(福岡)/(北九州)
太田 弦/指揮
小川 栞奈/ソプラノ
J.シュトラウスⅡ/ポルカ「雷鳴と電光」 Op.324、ワルツ「南国のバラ」Op.388、「ピチカート・ポルカ」、「ペルシャ行進曲」 Op.289
ヨーゼフ・シュトラウス/「鍛冶屋のポルカ」Op.269
レハール/「金と銀」 Op.79  他

No.40  2月22日(土)14:00・アクロス福岡シンフォニーホール
太田 弦/指揮 
ブラームス/ハイドンの主題による変奏曲 Op.56a
ジョン・ウィリアムズ/ 「スター・ウォーズ」より

3月23日(日)14:00・アクロス福岡シンフォニーホール
オーケストラforキッズ
太田 弦/指揮 
エルガー/行進曲「威風堂々」 Op.39、他

 

問合せ:九響チケットサービス 092-823-0101

 

 

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取材・文
西田紘子
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西田紘子 音楽学

東京藝術大学大学院音楽研究科博士後期課程修了(音楽学博士)。専門は欧米の音楽理論や音楽美学。著書に『ハイリンヒ・シェンカーの音楽思想―楽曲分析を超えて』(九州大学出版...

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