ロビー・ラカトシュ~ロマ音楽とクラシックをベースにいかなる音楽も飲み込むスーパー・ヴァイオリニスト
編集プロダクションで機関誌・広報誌等の企画・編集・ライティングを経てフリーに。 四十の手習いでギターを始め、5 年が経過。七十でのデビュー(?)を目指し猛特訓中。年に...
超絶技巧で変幻自在。どんな音楽も彼の手にかかればオリジナルなサウンドに昇華する。ロマ音楽界の名門を継ぐヴァイオリニスト、ロビー・ラカトシュは、その名に甘えることなく、日々新たなサウンドを追求している。その音楽人生と、11月に予定されている来日公演について話を聞いた。
ロマの名門音楽一族出身のヴァイオリニスト
ロマ音楽を代表する楽器、ヴァイオリン。その歴史において、ひと際大きな存在感を放つのが、18世紀後半から19世紀にかけて活躍したヴァイオリニストであり作曲家でもあったヤーノシュ・ビハリだ。ベートーヴェンやリストにも影響を与えたといわれる彼はジプシー(ロマ)・ヴァイオリン中興の祖と呼ばれている。
ロビー・ラカトシュは彼の直系の子孫のひとりであり、圧倒的なテクニックに加え、ロマ音楽を出発点としつつクラシックやジャズなど多様な要素も盛り込み、独自のスタイルを築きあげた。
「子どもの頃はドラマーに憧れていたのだけど、家が家だから、ヴァイオリンを習わないわけにはいかないよね(笑)。それで6歳のときからクラシックのヴァイオリンを始めたのだけど、家にはさまざまな音楽家が出入りしていたし、実際は1歳ぐらいのときからヴァイオリンに触れていたよ」
9歳になると父親の楽団でロマ音楽を演奏するようになり、19歳でコンクール優勝を果たすと、ベルギーでの演奏活動のオファーがあった。そこで初めて自身の楽団を結成し、演奏の場としてブリュッセルにロシア料理のレストラン(!)をオープンして、演奏と交流の日々を過ごすようになった。
ユーディ・メニューインとの出会いと交流が人生を変えた
中でもとくに深い関係を築いたのが、20世紀を代表する大ヴァイオリニスト、ユーディ・メニューインだ。
「メニューインはブリュッセルにくるたびに私たちの店を訪ねてくれたよ。そしてあるとき、『君はもっと有名になるべきだ』と、彼と私のコンサートをブリュッセルのほかロンドンとパリでも企画してくれたんだ。その公演が話題になり、ドイツ・グラモフォンをはじめ多くのレコード会社からオファーを受けるようになった。そのとき私の人生は大きく変わったといえるね。1990年代の半ばぐらいのことだよ」
ブリュッセルで作りあげた彼のスタイルは、ツィンバロンなどロマならではの楽器のほかにピアノやギターなどモダンな楽器もバンドに加え、インプロビゼーション(即興)にも力を入れた独特なもので、“アンオーソドックス(正統でない、異端の意)・ロマ・フュージョン”と呼ばれるようになった。近年は、若い演奏家たちにも浸透してきているという。
「自分だけでなく、広く受け入れられてこそ“スタイル”として成立するものだと思うから、アンオーソドックス・ロマ・フュージョンもようやく認められてきたと実感しているよ。最近は、レパートリーのオーケストラ版アレンジができたこともあって、オーケストラや室内楽団との共演も増えてきたんだ」
日々進化する“アンオーソドックス・ロマ・フュージョン”
11月に予定されている来日公演では、「子どもの頃から好きだった」という巨匠ステファン・グラッペリが築いたスインギーなジャズや、
▼グラッペリお得意の「マイナー・スウィング」をラカトシュさんが演奏
ブリュッセルを拠点に活躍するピアニスト(でありITエンジニア!)、ダリウス・ブラスバンドと推し進めているメロディアスでシンフォニックなジャズ、
▼ブラスバンド作曲「Tic-Tac」
また南インド古典音楽界のレジェンド、ラクシュミナラヤナ・スブラマニアムと共演したオリエンタルな作品、
スブラマニアムとの共演アルバムから「Bullet Train」
モンティの「チャルダーシュ」やブラームス「ハンガリー舞曲」、リスト「ハンガリー狂詩曲」に代表されるハンガリー的・ロマ的な音楽世界はもちろんのこと、現在も進化と深化を続けるアンオーソドックス・ロマ・フュージョンの世界を堪能できるプログラムが用意された。
▼ラカトシュさんが演奏するブラームス「ハンガリー舞曲」
「過去には津軽三味線の木之下真市さんと共演したアルバムを作ったり、〈だんご3兄弟〉を演奏したりと、日本のみなさんと縁のある活動をしてきたよ。今回の公演でも日本的なサプライズを披露できたらいいな」
ロマ音楽、そしてヨーロッパの伝統であるクラシック音楽。ベースがしっかりしているからこそ手にすることができた、いかなるものをも消化する強靭な音楽的胃袋。この秋には“ワールド・タンゴ”と称して、ヨーロッパ各国で育まれたタンゴの世界をオーケストラや室内楽団ととともに描くアルバムを発表予定だという(2019年の来日公演ではバンドネオン奏者の三浦一馬と共演しピアソラの作品を披露し、今回も「オブリビオン」がラインアップされている)。
一度にあらゆる音楽が楽しめるロビー・ラカトシュのステージ。ロマ音楽やワールド・ミュージックのファンはもちろん、ひとりでも多くの音楽愛好家におすすめしたい。
日時・会場:
2024年11月10日(日)13:00開演(Aプログラム)東京オペラシティ コンサートホール
2024年11月10日(日) 17:30開演(Bプログラム)東京オペラシティ コンサートホール
2024年11月12日(火)19:00開演(Bプログラム)神奈川県立音楽堂
曲目:
(AB共通プログラム)
ティク・タク(ダリウス・ブラスバンド)
2つのギター(ロシア民謡)
ニーナ (ダリウス・ブラスバンド)
チャルダーシュ(ヴィット―リオ・モンティ)
ひばり(グリゴラシュ・ディニク)
(Aプログラムのみ)
愛のイエントル(ミシェル・ルグラン)
弾丸列車(ラクシュミナラヤナ・スブラマニアム、ロビー・ラカトシュ)
熊蜂の飛行(リムスキー=コルサコフ) *ツィンバロン・ソロ
オブリビオン(アストル・ピアソラ)
ブダペスト・ワルツ (アンディ・スミーツ) ほか
(Bプログラムのみ)
屋根の上のヴァイオリン弾き(ジェリー・ボック)
ハンガリー舞曲第1番(ヨハネス・ブラームス)
ハンガリー狂詩曲第2番(フランツ・リスト) *ツィンバロン・ソロ ほか
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