いま世界で活躍する若手演出家、菅尾 友のオペラ道〜誰もが解放されてときめく舞台づくりを!
大阪府の堺市民芸術文化ホール「フェニーチェ堺」が開館5年目を迎えます。2019年のオープニング公演として小ホールにて上演され大好評を博した、子どものためのオペラ「まほうのふえ」〜パミーナ姫のたんじょうび〜が、この夏には大ホールへと会場を移し、バージョンアップして再演されます!
明日はパミーナの誕生日。ワクワクして眠れないパミーナが、やがて夢の世界へ……個性強めな仲間たちとくり広げる、不思議でゆかいな物語を、モーツァルトの素敵な音楽が彩ります。
本作を手がける演出家の菅尾 友さんに、今回の見どころのほか、オペラ演出についてもお話しいただきました。
1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...
モーツァルト《魔笛》の魅力が凝縮! 新しくて楽しい「まほうのふえ」
——子どものためのオペラ「まほうのふえ」〜パミーナ姫のたんじょうび〜は、どのように生まれた作品ですか?
菅尾 モーツァルトのオペラ《魔笛》をベースに、子どもたちはもちろん大人の方まで楽しめるオペラに仕上げた1時間ほどの作品です。これはオーストリアで行なわれているザルツブルク音楽祭のために2018年に制作しました。2019年のフェニーチェ堺のオープニング公演では、キャストや制作チームみんなでアイディアを出し合いながら、オリジナルの楽しい舞台を作ることができました。
登場人物は《魔笛》とほとんど同じだけれど、ストーリーや設定はちょっぴり違います。このオペラではパミーナという女の子が主人公となって大活躍します。
2019年は小ホールでの上演でしたが、今回は大ホールにお引越しです。オーケストラもモーツァルトが楽譜に書いたとおりの大きな編成となり、堺市の児童合唱団(堺市少年少女合唱団・堺リーブズハーモニー)も加わります。
1979年札幌生まれ。4歳でヴァイオリンを始め、アメリカ・ミシガン州選抜オーケストラでコンサートマスターを務めたほか、山本直純らが指導したジュニア・フィルハーモニック・オーケストラやアジア・ユース・オーケストラのヨーロッパツアーに参加。ニナガワ・カンパニー・ダッシュ、新国立劇場、ベルリン・コーミッシェ・オーパー演出スタッフを経て、フリーの演出家として活動。2019年『トゥーランドット』(ドルトムント歌劇場)、音楽劇『桃太郎』(ルクセンブルク・フィルハーモニー)、『神々の黄昏』(ヴュルツブルク歌劇場)等演出。2022年12月よりドイツ・コトブス州立劇場の首席演出家兼オペラ部門監督代理に就任。
——また一段と豪華で見どころにあふれる公演となりそうですね。 菅尾さんは、日本はもちろんヨーロッパの国々でオペラ演出家として活躍されてきました。今シーズンからはドイツ・コトブス州立劇場のオペラ部門専属にもなられました。そんな本格オペラを手がける菅尾さんが、“子どものため”のオペラを制作する上で、大切に思っていることは何ですか?
菅尾 ヨーロッパでは、子どもたちや若い世代のためのオペラを作ることが盛んですが、僕がそうしたオペラを演出するとき、実は「子ども向け/大人向け」ということをあまり意識してはいません。ただ、子どもたちが楽しめるようにと工夫していると、「オペラはこうあるべき」みたいな“縛り”から解放されるというか、伝統的な演出上のタブーのようなことにも囚われないでいられます。
その意味では、「子ども向け」を作るのは自分でも一番楽しいですし、思い切って新しいアイディアを盛り込んでいけます。そうしたオペラは、大人の方も妙に構えることなく、「オペラって楽しいな」と感じていただけると思っています。
演出のアイディアの源泉は?
——初演の「まほうのふえ」でも、キャストが関西弁をしゃべったり、コミカルでキレキレのダンスをしたりと、笑えるポイントや、今風で親しみのわく場面がたくさんありました。ステージ上もカラフルな空間となっていて、とてもワクワクしました。こうした演出のアイディアはどこから湧くのでしょうか?
菅尾 演出家が全部ひとりでアイディアを出すのではなく、歌手、指揮者、美術・衣装、舞台のデザイナーといったチームのメンバーみんなの発想を大事にしています。僕は「こういう雰囲気のものを作りたい」とみんなに共有しますが、具体的なアイディアはキャストの皆さんにもどんどん出してもらいます。出しやすい自由な空気をつくり、それを最終的にまとめるのが演出家の仕事だと僕はとらえていて、このチームでの最高の仕上げを目指すにはどうしたらいいかということを、いつも考えています。
目指す雰囲気を共有するために、チームみんなが共感したり、盛り上がって話せるような素材を出すこともあります。たとえばアニメや漫画を例に出すと、「オペラでその方向もアリなんだ」とみんなが考えるきっかけになったりします。
前回は歌手の若いエネルギーあふれる稽古場だったので、たくさんの新しいアイディアが出ました。今回の稽古場でもまた違った演出が盛り込まれていくと思います。
——「まほうのふえ」は1時間ほどの作品ながら、3時間の《魔笛》に引けをとらないほど、「オペラを観た!」と感じられる充実した舞台でした。
菅尾 子どもにも大人にもオペラの楽しさに出会ってもらい、充実感を味わってもらうには、ただ単に《魔笛》の笑える場面や楽しい曲だけをやればいいわけではありません。オペラは、おもしろい場面と緊張感のある場面との、コントラストが大きいほど楽しいと僕は思います。
パパゲーノのハイテンションでバーッと盛り上がる場面や、夜の女王が高らかに歌うアリアに魅せられるだけでなく、パミーナが歌う少し長めの悲しいアリアも、あえて入れました。しっとりとした場面もきちんと伝えることで、作品全体が色鮮やかになり、結果「楽しかった」と感じてもらえると思っています。
次世代につなげたいオペラの魅力、演出の仕事
——さて、今回の「まほうのふえ」では、キャストにオーディションで選ばれた若い歌手の起用もあります。大阪音楽大学を卒業したばかりの方もいらっしゃいますね。
菅尾 足を運ばれるお客様は地元の方が多いと思うので、これから世に出ていく若いエネルギーを持った方々と出会ってほしいと思っています。そうした皆さんと一緒に舞台を作ることは劇場にとっても良い結果につながると思っています。
——稽古期間中には「演出家養成ワークショップ」を開催する予定とのことですね。
菅尾 僕はわりと若い時点で、演出家としてスタートさせていただいたのですが、それはやはり、劇場の方々が若い人間にチャンスを与えようと考えてくださったからなのだと思います。ただ、日本には演出家を養成する機関というのがあまりありません。どこで学んだらいいのか、僕自身もよくわからない状況でした。自分でプロの現場にお願いをして、見学させてもらったりしたのですが、そこでいろいろな人と出会い、自分なりにプロの仕事から学ぶことがたくさんありました。
今回、フェニーチェ堺さんに、そのような機会を提供したいとご相談したところ共感してくださいました。僕らの制作現場を見たい学生にはぜひ参加してほしいです。これからの若い世代に、オペラの楽しさ、舞台を作る楽しさを伝えていきたいです。
日時:2023年8月5日(土)13:00開演/17:00開演
会場:フェニーチェ堺 大ホール
出演:松原みなみ(パミーナ)、谷川あお(夜の女王)、辻本令菜(辻の字は一点しんにょう)(パパゲーナ)、仲田尋一(パパゲーノ)、福西 仁(タミーノ)、坂東達也(モノスタトス)、湯浅貴斗(ザラストロ)、大阪交響楽団、他
菅尾 友(演出)、瀬山智博(指揮)
料金:子ども(3歳~小学生)1,500円 中高生 2,500円 大人5,000円 大人・子どもペア5,500円(全席指定/税込)
問い合わせ:フェニーチェ堺(公益財団法人堺市文化振興財団)072-223-1000
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