ニューヨーカーのパワーが演出家マイケル・メイヤーの、そしてオペラの世界を前進させる!
アメリカ・ニューヨークにオペラの殿堂として鎮座するメトロポリタン歌劇場(通称:MET=メト)。豪華なキャストや舞台装置、レベルの高い上演でアメリカだけでなく、世界中から注目を集めるオペラハウスです。
日本にいながらにして、そのMETの最新公演を映画館のスクリーンで観られるのが「METライブビューイング」。歌手のアップや舞台裏など、ライブとは違った楽しみがあります。
2019年2月8日(金)~14日(木)〈東劇のみ2月21日(木)まで〉には、METライブビューイングで《椿姫》が上映。演劇やミュージカルでも、ニューヨーカーたちの熱い信頼を得ており、トニー賞受賞も果たしてい気鋭のマイケル・メイヤー氏が演出しています。
この《椿姫》や演出家としての信条を、マイケル・メイヤー氏にインタビュー! 聞き手は、ニューヨークを拠点に活動している音楽ライターの小林伸太郎さん。
なお、ONTOMO読者5組10名様に、東劇(東京・中央区)での上映チケットの招待券プレゼントもあり! 最後までお見逃しなく。
ニューヨークのクラシック音楽エージェント、エンタテインメント会社勤務を経て、クラシック音楽を中心としたパフォーミング・アーツ全般について執筆、日本の戯曲の英訳も手掛け...
2018年12月にメトロポリタン・オペラが新演出制作した《椿姫》の演出家、マイケル・メイヤーは、1983年にニューヨーク大学大学院の演劇科で俳優として修士号を取得後、俳優としての短い活動期間を経て、1990年代に芝居の演出家として知られるようになった。
アーサー・ミラー作品のような米国の古典からミュージカルまで、メイヤーの守備範囲は非常に広い。日本でも2017年にシェークスピアの《お気に召すまま》の演出を手掛けており、昨年は映画監督として取り組んだチェーホフの戯曲《かもめ》の映画化作品が公開された。
しかし彼の名声を決定的にしたのは、何と言っても2006年初演のロック・ミュージカル《春のめざめ》の演出だろう。ドイツ表現主義の先駆者、ヴェデキントの同名戯曲を原作に、19世紀ドイツの少年少女たちの叫びをロックン・ロールでダイナミックに表現した舞台は、「斬新」「先鋭」といった褒め言葉が陳腐に聞こえてしまうほど、とにかくカッコいい舞台だった。メイヤーはこの作品でトニー賞を受賞、そんな活躍がMET総裁のピーター・ゲルブの目に留まり、2012年にMETで新制作された《リゴレット》でオペラ演出デビューを果たした。この時は、ヴェルディの名作を1960年代のラスヴェガスに変えたことで話題を呼んだ。
愛の物語を春夏秋冬になぞらえて......
——今回の《椿姫》の演出コンセプトを教えてください。
メイヤー: まず今回は、2010年からMETで上演されてきたヴィリー・デッカーのプロダクションのあとに続くものになることがわかっていました。厳しく、モダンな演出で、私も大好きなのですが、その素晴らしさを真に理解するには、ヴェルディの作品自体を事前に非常によく知っている必要があるのではないでしょうか。そういう意味では、この作品に初めて触れる人にとっては、デッカーの演出は必ずしもベストではないかもしれないとの思いがありました。
同時に、(デッカー演出につづいて再び)モダニストな解釈の舞台を提供することは、METの観客にとってベストではないとも思いました。《椿姫》のような名作中の名作は、異なる解釈を共存させることによって、フレッシュで生き生きしたものであり続けるのではないでしょうか。
そこで今回は、もっとロマンティックで、ヴィジュアルに豊かなものにしたいと考えました。その美は自然の世界からもたらすことが可能ではないかと考え、ヴィオレッタのアルフレードとの愛の物語を、春夏秋冬の4つの章として捉えることを思いつきました。プロローグと結末はおそらく冬であり、その間にオペラが展開すると捉えれば、前回の(デッカーの)演出よりも、よりリアリスティックに展開させるのにふさわしい、枠組みができると考えたのです。前回はとてもモダンでしたから、今回は過去の時代に設定したい、それならヴェルディが生きていた時代、つまり作曲当時の現代であった19世紀パリに舞台を設定しようと思ったわけです。
——METで初めて演出した《リゴレット》は1960年代のラスヴェガスに時代を移したことで話題を呼びました。古典を演出される際のメイヤーさんのアプローチは通常、どのようなものかお聞かせください。
メイヤー: 芝居であろうと、ミュージカルであろうと、そしてもちろんオペラであろうと、(現代的ステージング、伝統的ステージングに関係なく)なによりも原作者の作品に対するインパルス、衝動と、私が考えるものに忠実であることを心がけています。同時に、今回と同じように、以前にどのような演出によって上演されてきたかも考慮します。《リゴレット》の場合は、それまでの演出が非常に伝統的なイタリアを舞台にした舞台だったので、それとは違ったものにしたいと考えたわけです。もし同じような舞台を提供するのであれば、なぜ新制作する必要があるということになりませんか?
METの観客はMETに非常に忠実で、一つ一つの演出に深い思い入れがあります。そのような観客に、似ているけれどまったく同じではない演出を提供すると、やっぱり変えないほうがよかったと、結局古いものを懐かしがらせるだけになるのではないでしょうか。
スター歌手2人を迎えた《椿姫》
――今回の出演者について、お聞かせください。
メイヤー: 《椿姫》のヒロイン、高級娼婦のヴィオレッタ役を演じるディアナ・ダムラウは、私の最初の《リゴレット》のジルダ役でした。彼女の演技はとても素晴らしいため、歌が演技の自然な延長のように感じられます。デッカー演出のディアナのヴィオレッタは、死にあくまでも立ち向かう絶望的なまでに強い姿勢が感動的でしたが、今回は自らの運命により意識的なヴィオレッタであるところに心を動かされます。今やヴィオレッタ役は、彼女のシグネチャー役の一つになったと言えるでしょう。
ヴィオレッタに恋する青年貴族、アルフレード役のフアン・ディエゴ・フローレスは、今までの彼のレパートリーとは違う作品にMETの大舞台で挑戦するという勇気に、まず脱帽します。アルフレード役には通常、よりドラマティックな声をもつテノールがキャストされますが、フアン・ディエゴはベルカント歌唱(ロッシーニ、ベッリーニ、ドニゼッティなどのレパートリー)で知られる歌手です。もっとも指揮のヤニック(・ネゼ=セガン)が言うように、ヴェルディはこの作品のほとんどをベルカントの伝統に基づいて書いていると論ずることもできます。フアン・ディエゴの優れた音楽性、スタークオリティの素晴らしさは、言うまでもありません。
指揮のヤニックは、まずプロダクション全体に素晴らしいエネルギーをもたらしてくれます。知識も豊富で、歌手との信頼関係も素晴らしい。そしてストーリーに理解と関心があるので、特定の音楽が、ストーリーに何をもたらしているかといったことを、真の意味で討議することができます。ユーモアのセンスも、なかなかいいんですよ。
殺しあうのではなく、夢を共有すること
——これまでMETでは、この秋にMET初演されたニコ・ミューリー作曲の新作オペラ《マーニー》を除いて、手掛けられてきた作品はすべて、ヴェルディ作品ですね。
メイヤー: 私はとてもラッキーと言うことですね。ヴェルディは私が思うに、やっぱりベストではないでしょうか。《オテロ》もいつか演出したいです。20世紀作品も好きで、ベルクの《ヴォツェック》や《ルル》も手掛けてみたいと思います。それから、ブリテン作曲のオペラもいいですね。もっともブリテン作品と言っても、《ビリー・バッド》に関しては、METの演出は完璧なので、私が敢えて手がける必要はないかもしれませんが(笑)。
——演出家として、日々どのようなことにインスパイアされますか?
メイヤー: 人々の中にある勇気、創造性、真実、美です。日々の生活の中で見かける人々、すでに知っている人々、新たに出会う人々、そしてその人々の行ないからインスピレーションを得ます。ニューヨークの通りで彼らが毎日のように生み出す奇跡が、私を前進させてくれるのです。
現在のアメリカの政治状況は、かつてなく悪い状況にあります。これほどまでに失望させられることは、かつてありませんでした。人間として、私たちには2つの選択肢があります。お互いの夢を共有しあうか、お互いを殺しあうかです。私は、夢を共有しあうことを全面的に支持します。
2020年にはMETで、音楽監督のヤニック・ネゼ=セガン指揮、世界を代表するロシア出身のソプラノ歌手アンナ・ネトレプコ主演で新制作される《アイーダ》の演出を手がけるというメイヤー。オペラハウスのレパートリーの核とも言える、ヴェルディの名作が続く。そんなMETの信頼に、これからのメイヤーはどのような形で応えてくれるのだろうか。大いに注目したい。
抽選で5組10名様に東劇限定招待券をプレゼント!
東劇上映期間: 2019年2月8日(金)~2月21日(木)
開映: 連日 14時30分~/18時30分~
会場: 東劇(東京都中央区 築地4丁目1−1)
上映時間: 3時間30分(休憩2回)
指揮: ヤニック・ネゼ=セガン
演出: マイケル・メイヤー
出演: ディアナ・ダムラウ、フアン・ディエゴ・フローレス、クイン・ケルシー
【全国19の映画館で上映】
上映期間: 2019年2月8日(金)~2月14日(木)※東劇のみ2月21日(木)までの2週上映
詳しくは公式サイトへ
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