務川慧悟×田所光之マルセル〈後編〉日欧から得るインスピレーション
日仏を拠点として活躍するピアニスト、務川慧悟と田所光之マルセルは、10年来の親友同士。そんな二人の夢の対談〈後編〉では、日本とヨーロッパ、それぞれの聴衆から受ける刺激、そして、グローバルな視点から見たクラシック音楽の未来が語られました。
岡山市出身。京都市立堀川音楽高校卒業後渡仏。リヨン国立高等音楽院卒。長年日本とヨーロッパで演奏活動を行ない、現在は「音楽の友」「ムジカノーヴァ」等に定期的に寄稿。多く...
日本とヨーロッパの聴衆が求めることの違い
——ヨーロッパでは、ウクライナやイスラエルの戦争も現実として身近に感じる昨今です。それでもあえてフランスを活動の拠点とするのは、覚悟がいることなのではと思うのですが。
田所 最近は日本にいる時期も多くなってきたけれど、高校卒業後こちらにきて以来、あまり日本に帰っていなかったんです。でも僕は母がフランス人なので、渡仏もパリで生活するのも比較的スムーズでしたね。
務川 うらやましいな。いろいろ悩んだけれど、僕はフランスに住みたいと思っているんです。滞在年数もかなり長くなりましたし、日本の次にほっとする場所だと感じるようになりました。でもヨーロッパが本場でない仕事をしていたなら、僕は絶対日本に住むと思う。生活するという意味では、とにかく圧倒的に日本の方が好きですね。
田所 僕も同感。日本は素晴らしいよね。
務川 日本は自分の国だから落ち着くけれど、フランスでは解放され自由になれる気がします。フランスに住みたい理由は単純で、ヨーロッパでなければ得られないインスピレーションがあるからです。練習一つとっても、響きが一切ない防音室で練習していると、正確に弾くことが優先になってしまう。石造りの建物の中では、耳を優先した練習ができますね。
田所 ヨーロッパの方々は、コンサートでも少しざわめいていたり、咳をしたり、あまり耳をそばだてているという風ではないんですね。その点、日本の聴衆の方々は、たとえレアな選曲でも静かに聴いてくださっている。その静けさが、より細部まで完成度を極めたいと思わせ、自分の音楽作りにとても多くを与えてくれるのです。
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