
濱田めぐみ「役の真理を言葉で伝えるように歌う」〜3度目の『メリー・ポピンズ』に臨む

注目の舞台人が、ミュージカルの魅力を語る連載。第18回は、ミュージカル『メリー・ポピンズ』再々演で3度目の主役を演じる濱田めぐみさんが登場。劇団四季で数々の伝説のヒロインを演じ、退団後も日本のミュージカル界を牽引する濱田さん。「大人にこそ観てほしい」と語る『メリー・ポピンズ』の魅力や楽曲への思い、「歌」に対する大きな転機について伺いました。

フランス留学後、ファッション誌『エル・ジャポン』編集部に入社。その後『ハーパース バザー』を経て、『エル・ジャポン』に復帰。カルチャー・ディレクターとして、長年、映画...
ミュージカル『メリー・ポピンズ』は、アカデミー賞5部門受賞の同名映画を原作に、ディズニーと『オペラ座の怪人』『レ・ミゼラブル』の巨匠・C. マッキントッシュが生んだ大型エンターティンメント。舞台は1910年のロンドン。わんぱくな子どもたちに手を焼くバンクス家に、風に乗ってメリー・ポピンズが舞い降りてくる。乳母になったメリーは不思議な力で子どもたちを夢中にさせ、バラバラだった家族の絆を取り戻していく——。
名曲「チム・チム・チェリー」はもちろん、客席上空を飛ぶ圧巻のフライング、マシュー・ボーン振付によるダイナミックなダンスなど見どころ満載! 日本では2018年に初演され、3度目の上演となる今回は、メリー・ポピンズ役の濱田めぐみほか豪華キャストが集結。2026年3月21日より、東京・東急シアターオーブで上演される。
メリー・ポピンズとの共通点は「人との距離感」
——2004年にロンドンで初演されて以来、世界中に愛されている本作。「チム・チム・チェリー」などの名曲や魔法、フライングなど、視覚的にも豪華な作品ですね。
濱田 理屈抜きに楽しい作品ですし、視覚的な仕掛けも満載です。メリーの傘がわーっと広がるシーンなどは圧巻ですよ。ただそのぶん、演じる側の段取りは、これまでのキャリアの中でも一番と言えるほど大変です(笑)。だからこそ、稽古場では子どもから大人まで全員で助け合い、とても良いチームワークが生まれています。

1972年、福岡県生まれ。1995年、劇団四季に入団。『美女と野獣』のベル役でデビュー後、『ライオンキング』のナラ役、『アイーダ』のアイーダ役、『ウィキッド』のエルファバ役など、数々の作品で初演キャストやヒロインを務める。2010年の退団後も、『メリー・ポピンズ』『サンセット大通り』『ビリー・エリオット』など話題作に次々に出演。抜群の歌唱力と表現力で、日本ミュージカル界を代表する女優として活躍を続けている。
——舞台版の元となった、ジュリー・アンドリュース主演の映画も有名な作品ですが、そもそも、濱田さんとこの作品との出会いは?
濱田 劇団四季にいた頃、ロンドンでの初演を観たのが最初です。ブロードウェイに行く前で、『ビリー・エリオット』と並んで上演されていました。当時のロンドン版は、原作小説や映画のトーンに忠実で、かなり厳格な雰囲気でしたね。舞台としての完成度は素晴らしかったのですが、あまりにイギリス的な内容で、当時の日本の文化背景では上演が難しいのではないかと感じたのを覚えています。
その後、ブロードウェイ版で大胆なアレンジが加わり、その新版が再びロンドンに戻ったという話を聞いたとき、ようやく時代に合わせた「現代のメリー・ポピンズ」になったんだなと思いました。
ミュージカル『メリー・ポピンズ』2026
——風に乗ってバンクス家にやってきて、不思議な力で子どもたちを夢中にさせるメリー。演じるのは今回で3度目ですが、公演を重ねて新たな発見は?
濱田 特に再演で感じたのですが、メリーとして舞台に立っていると、大人を含めた共演者全員が「子ども」に見えてくるんですよ。自分でも不思議な感覚なのですが、ただ、大人だって元をたどればみんな子どもですよね。だからメリーとしては、相手が大人だろうと子どもだろうと区別せず、同じ目線で接するようにしています。
——ご自身とメリー・ポピンズとの共通点はありますか?
濱田 「人との距離感」が似ています。年齢とか関係なく、どんな人にもリスペクトをもって接して、適度な距離を保つところ。メリーは相手が子どもだからといって、「まだ経験がないんだからこのくらいでいい」と、適当に接したりはしないんですよ。誰であっても一人の人間として認めて、必要なときは厳しく接する。そんな自分の中にもある「規律」のような感覚が似ている気がします。
そもそもメリーは人間ではなくて、妖精や精霊に近い不思議な存在です。よく周囲に「宇宙人っぽい」と言われる私には、すごく合っている役なのかもしれません(笑)。
メリーは今を生きる大人たちの背中を押してくれる
——シャーマン兄弟による名曲やお馴染みの呪文の歌など、一度聴いたら忘れられない楽曲ばかりですが、「音楽」の魅力はどう感じていますか?
濱田 『メリー・ポピンズ』の曲って、ノスタルジックなんです。初めて聴くのにどこか懐かしくて、日本の子守歌にも通じるものを感じます。「ねんねんころりよー」とか「月の砂漠がー」のようなテイストがあるんです。もちろん元気な曲もありますが、全体として心を包み込むような懐かしさが心に響くのだと思います。

——特にお気に入りの楽曲やシーンは?
濱田 楽曲はどれも魅力的で好きです。シーンで挙げるなら「チム・チム・チェリー」。バートと二人で歌う決して長くない場面なのですが、すごく素敵な状況で歌うんです。私が一番お気に入りの場所。自分もお客様も、一緒になってすごくリラックスできるシーンです。
「チム・チム・チェリー」
——『メリー・ポピンズ』をどんな人に観てほしいと思いますか?
濱田 お子さんや家族連れの方は絶対に楽しめる作品ですが、「メリー・ポピンズ!? 自分には関係ないな」と感じる大人の方に、あえて観てほしいですね。仕事を一生懸命頑張っているおじさま方とか、忙しくてライフワークバランスを壊しがちな人とか。この作品はそんな方たちにも、気づきを与える作品なんです。
私はメリーが言う「どんなことでもできる(Anything can happen)」というセリフが好きなのですが、大人になるとネガティブな経験から自信がなくなり、あと一歩が踏み出せなくなることってありますよね。メリーはそんな私たちに、「人生は自分で全部決めていい」「それはあなたもわかっているでしょ?」って、ドーンと背中を押してくれます。演じる私も含めて、今を生きる大人たちに勇気をくれる作品なんです。
歌うときには歌詞を徹底的に分析して言葉の力を大切に
——ところで、長年、この世界を牽引してきた濱田さんにとって、「ミュージカルの魅力」とは?
濱田 音楽には、聴くだけで人を励ましたり、心を浄化させたりするすごい力があります。それはある意味、「メンタルのお薬」のようなもの。ミュージカルはそこに芝居と踊りが加わりますが、私はやはり劇場で「音楽を浴びる」という体験が、すごく重要で素晴らしいことだと思うんです。
特に日本語には「言霊(ことだま)」という力がありますし、そこにメロディがつくことで、観ている人たちの心にメッセージがダイレクトに届く。神様がメッセージを送るなら、歌こそが最強のツールだなと思いながら演じています。

——「歌」についてもお聞かせください。抜群の歌唱力で多くのヒロインを演じられていますが、歌う上での転機はありましたか?
濱田 劇団四季時代の中盤、『アイーダ』や『ウィキッド』の頃ですね。「ただメロディをなぞって歌うだけじゃダメだ」と痛感しました。何を伝えたいのか、その想いを言葉に乗せなければいけない。「言葉」というものをすごく意識するようになったのが、その時期です。
——具体的には、どのような変化があったのでしょうか?
濱田 たとえば「私の夢」と歌う場合、ただ、楽譜通りに「わ・た・し・の・ゆ・め」と言うだけなら、単なる言葉の羅列にすぎませんよね。舞台ではその一言を聴いたお客様の脳裏に、パッーと情景が浮かぶように命を吹き込む必要があります。それが「言霊(ことだま)」、言葉の魂です。
そんな思いが乗った歌はお客様の魂を震わせて、心に響く。舞台と客席との、そんなエネルギーの交流が大切です。そのために、毎回、歌詞を徹底的に分析して、このメロディは何を伝えようとしているのか、聴いている人はどう受け取るべきなのかを考えて、役の真理を言葉で伝えるように心がけています。
——「言葉」の大切さでいうと、海外発ミュージカルで「翻訳された歌詞」を歌う場合は、特有の難しさがありそうですね。
濱田 そうですね。特に『ウィキッド』などは難しかったです。でも、どんな言葉であっても、そこに思いをのせて「伝える」という本質は変わりません。
私の場合は英語で聴いたときの印象を日本語で再現したいので、まずは原語で歌ってみて音の流れや響きを分析し、日本語に落とし込んでいきます。でも、英語を日本語に直訳すると、情報量が3分の1くらいに減ってしまうんですよね。そこをどうすれば原曲と同じ印象になるのか、役をいただくたびに楽譜と向き合い、地道な作業を重ねています。
今後は作品を俯瞰して全体を底上げしていきたい
——お仕事では常に音楽と言葉に向き合われている濱田さんですが、オフでお好きな曲は?
濱田 実は、プライベートでは一切音楽を聴かないんです。仕事で常に音と言葉に向き合い、本番以外でもずっと脳内で歌ったり台詞をさらったりしているので、耳を休ませないとパンクしてしまうんです(笑)。休日は無音ですごすか、アメリカンポップスのようなラジオを、BGMとしてごく小さく流しているくらい。それも「聴く」というよりは「流しているだけ」で、自分と波長が合わない曲が流れたらすぐに消してしまいます。
——デビューしてから30年を迎えた今、現在の心境と抱負を教えていただけますか?
濱田 ここ数年は、年齢的にもギアチェンジの時期だと感じています。母親役や先生役など、物語を支える側の役が増えてきました。主演を務める場合でも、稽古場で若いキャストをフォローする役割が自然と多くなっています。
だからこそ今後は、自分のパフォーマンスだけでなく、作品全体を俯瞰して捉えていきたいですね。自分がそのシーンに出ることでどう空気を動かすべきか、若い人たちを見守りながら、作品全体のクオリティを底上げするには何が必要か。広い視点で貢献していきたいと思っています。

——本日はいろいろなお話をありがとうございます。最後に改めて、『メリー・ポピンズ』をご覧になる方へのメッセージをお願いします。
濱田 この作品には、個性豊かなキャラクターがたくさん登場するので、きっと誰もが自分と重なるキャラクターを見つけることができるはずです。「こんな場面で感動するなんて」「自分はこんなふうに感じていたんだ」と、観劇を通して新たな自分に出会える瞬間が必ずあります。ぜひ、まっさらな気持ちで劇場にいらしてください!
【プレビュー公演】
日時: 2026年3月21日(土)~3月27日(金)
会場: 東急シアターオーブ
【東京公演】
日時: 2026年3月28日(土)~5月9日(土)
会場: 東急シアターオーブ
【大阪公演】
日時: 2026年5月21日(木)~6月6日(土)
会場: 梅田芸術劇場メインホール
出演:
メリー・ポピンズ/濱田めぐみ 、笹本玲奈、朝夏まなと
バート/大貫勇輔、小野田龍之介、上川一哉
ジョージ・バンクス/小西遼生、福士誠治
ウィニフレッド・バンクス/木村花代、知念里奈
バードウーマン、ミス・アンドリュー/島田歌穂、樹里咲穂
ブーム提督、頭取/コング桑田、安崎求
ミセス・ブリル/浦嶋りんこ、久保田磨希
ロバートソン・アイ/石川新太、DION
ほか
詳しくはこちら





関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
新着記事Latest















