インタビュー
2025.09.18
2025年11月15日・16日公演 NISSAY OPERA 2025

幕が上がる!さあ、夢の中へ~マスネのオペラ『サンドリヨン』の煌めく世界を体感しよう

シャルル・ペローのおとぎ話『シンデレラ』を原作に、フランスの作曲家ジュール・マスネが美しい音楽で心と時間の尊さを紡いだ、オペラ『サンドリヨン』。
2025年11月15日・16日の日生劇場での上演を前に、指揮を担う柴田真郁さんとサンドリヨン(リュセット)を歌う盛田麻央さんに、作品の魅力を伺いました。

取材・文
加藤浩子
取材・文
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

写真=堀田力丸

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秋のオペラファンのお楽しみ、充実の内容で大好評の日生劇場のオペラ。

今年はジュール・マスネの《サンドリヨン(シンデレラ)》が舞台にかかる。昨年のドニゼッティ《連隊の娘》に続くフランスオペラで、ハッピーエンドであることも共通するが、ペローのおとぎ話に基づく《サンドリヨン》は、よりメランコリックで幻想的な作品だ。

指揮を執る柴田真郁さんは、ヨーロッパの歌劇場での経験も豊富で、「声」の理解に定評のあるマエストロ。ヒロインのリュセットを歌う盛田麻央さんは、フランスもののスペシャリストである。

フランスオペラの魅力を熟知した、柴田真郁と盛田麻央が紡ぐ物語

——オペラの指揮に興味を持たれたきっかけを教えてください。

柴田 もともと舞台に立つのが好きで、高校(関東国際高校)では演劇科でした。でも小学生の時から指揮者になりたくて、いろいろな楽器に取り組んでいました。

お小遣いをもらって初めて買ったオペラのDVDが、ドミンゴが出ていた映画版の《カルメン》、思えばフランスオペラですね。それがきっかけで、オペラの魅力にすっかり心を奪われました。

国立音楽大学では声楽を専攻しましたが、卒業後に渡欧して、ドイツのハノーファーを振り出しにさまざまな劇場に出入りするなかで、バルセロナのリセウ大歌劇場でアシスタント指揮者に採用されたんです。その時の音楽監督が、今の読売日本交響楽団常任指揮者のセバスティアン・ヴァイグレさんでした。彼はホルン奏者でもあるので、指揮でも管楽器でも声楽でもとにかく呼吸を操ること、つまりフレージングがいちばん大事な要素だと強調していました。真郁も声楽をやっていたから呼吸はよく知っているだろう、とおっしゃっていましたよ。脇役にもルネ・コロさんのようなドイツオペラ界を代表する歌手が出演されていて、超一流の方々のすばらしさに接することができたのも貴重な経験ですね。

柴田真郁(指揮)
国立音楽大学声楽科を卒業後、合唱指揮やアシスタント指揮者として藤原歌劇団、東京室内歌劇場等で研鑽を積む。2003年に渡欧、ドイツ各地の劇場、オーケストラで研鑽を積みながら、04年にウィーン国立音楽大学マスターコースでディプロムを取得。同年末には、ハノーファー・ジルベスター・コンサート(ドイツ)に客演し、プラハ室内管弦楽団を指揮。翌年末のベルリン室内管弦楽団にも客演、2年連続でジルベスターコンサートを指揮して大成功を収める。2005年、リセウ大歌劇場(スペイン・バルセロナ)のアシスタント指揮者オーディションに合格し、セバスティアン・ヴァイグレ、アントーニ・ロス=マルバ、レナート・パルンボ、ジョセップ・ヴィセント氏等のアシスタントとして、様々な演出家や歌手と携わり上演で大きな信頼を得た経験は、オペラ指揮者としての礎となっている。

——盛田さんはパリで学ばれていますが、フランス音楽のどこに魅せられたのですか?

盛田 国立音楽大学で師事した先生が、フランス歌曲がご専門の中山早智恵先生だったんです。フランスものをやるとなると最初にフォーレの歌曲を勉強するのですが、これが調性の変化なども含めてとても難しくて。大学院に行きたかったこともあって必死で勉強しているうちに、和音の中にこの音が入ることで、きれいなところにいけるということがわかってきて、その美しさに熱中しました。そして、やはり空気から文化からすべてを浴びたくなって、留学を決めました。

パリではエコール・ノルマル音楽院と国立高等音楽院をかけもちしていたのですが、声楽の先生は同じペギー・ブーヴレ先生でした。エコール・ノルマルではヴァカンスの時期に日本では学べない舞台の授業があって、舞台でどう演じるかを具体的に学べたのがすごくよかったです。高等音楽院では、同じクラスに今をときめくザビーヌ・ドゥヴィエルさんをはじめすばらしい方がたくさんいらして、多くの刺激を受けました。

盛田麻央(ソプラノ)
国立音楽大学卒業、同大学院フランス歌曲コース修了。二期会オペラ研修所修了時に優秀賞及び奨励賞受賞。明治安田クオリティオブライフの奨学金を受け渡仏。パリ・エコール・ノルマル音楽院、パリ国立高等音楽院修士課程を最優秀の成績で修了。パリ国立音楽院『魔笛』侍女Ⅰで出演。国内のオペラでは、東京二期会『魔笛』パミーナ、『ドン・ジョヴァンニ』ツェルリーナ、『メリー・ウィドゥ』ヴァランシェンヌ、日生劇場『ルサルカ』『魔笛』、小澤征爾音楽塾『子どもと魔法』、調布市民オペラ『椿姫』ヴィオレッタ、首都オペラ『トゥーランドット』リュー、成人の日コンサート『カルメン』ミカエラ、23年には新国立劇場『子供と魔法』に出演し、いずれも好評を博す。国立音楽大学非常勤講師、二期会会員。

——日本ではイタリアオペラが主流でフランスオペラは上演の機会が少ないと感じますが、お二人から見たイタリアオペラとフランスオペラの違いはどこにありますか?

柴田 イタリアものは韻律で作られているんですよね。リズムを取ってしまえば言葉が勝手についてくる。それがフランスものだと、あまりディクションを考えずにリズムを作っている気がします。

盛田 確かにイタリアのベルカントものだと、リズムの上に気持ちを乗せていくところがあります。フランスものはそうではない。和音の中に美しさがあるんです。それから《サンドリヨン》もそうですが、語る部分とメロディックに引き込んでいく部分があるんですね。語る部分はおしゃべりを勉強すると身についてくる感じがあります。

サンドリヨンの輝きの秘密

——《サンドリヨン》についてはいかがですか。ストーリーもわかりやすいし、音楽も宮廷風の音楽からメランコリックな歌、コミカルな場面までとても多彩で魅力的なオペラですよね。オーケストレーションも充実しています。

柴田 オーケストレーションは厚いです。ピットに入りきらないくらい。これは、フランスの劇場の根幹が華やかに演じられるバレエで、作曲家はまずそこを書く、そこに文化の泉があるということが関係していると思います。

マスネのオーケストレーションは、宝石箱のように美しい。マスネは若い頃ティンパニをやっていて、打楽器のこともよく勉強しており、楽器の使い方もファンタジーに沿った魅力的な使い方をしています。「声」の活かし方もうまいです。各人物をちゃんと輝かせるような書き方をしているんですね。

マスネの音楽には「匂い」があると思うんです。少し前の《ナヴァラの娘》は人間の業の生々しい匂い。《サンドリヨン》は懐かしい匂いがするんですね。

それから、マスネの音楽によくある自然の匂い。第3幕で、お父さんがサンドリヨンと田舎へ、森の奥の農園へ帰ろうと歌う時、オーボエがダブルリードでソロを聴かせるのですが、オーボエのリードって葦ですよね。そこからも「自然」を感じるように作られているような気がします。

盛田 《サンドリヨン》ではまずヒロインのリュセットが魅力的ですよね。優しくて純粋で愛があって、ブレない。優しさも、お父さんのことを考えて自分一人で出ていこうというような、常に他人のことを考えている優しさです。それでいていつも夢を持っていて、希望を捨てないんですよね。だから舞踏会で出会った時に、衣装のせいだけでなく内面からもキラキラしているのではないでしょうか。ああいう女性を目指したいと思ってしまいます。

歌うとなると音域も広いし、コロラトゥーラ的なところも、旋律をたっぷり歌うところもある難しい役ではあるのですが、私はずっとフランス歌曲をやってきたので、マスネの五線の中の扱いはけっこう好きなんです。目標は、和音の中での音の変化を表現できるようになることでしょうか。

《サンドリヨン》は、幕が開いた瞬間に夢の中に連れていってくれるオペラです。サンドリヨンだけでなく、一人ひとりの人物の印象がお客様の中に残ってくれるといいですね。

公演情報
NISSAY OPERA 2025『サンドリヨン』

全4幕 フランス語上演 日本語字幕付【新制作】

日時:2025年11月15日(土)/16日(日)各日14:00開演

会場:日生劇場

原作:シャルル・ペロー『シンデレラ』

作曲:ジュール・マスネ

指揮:柴田真郁

演出・振付:広崎うらん

出演:

サンドリヨン(リュセット):盛田麻央(11/15)、金子紗弓(11/16)

シャルマン王子:杉山由紀(11/15)、山下裕賀(11/16)

妖精:鈴木玲奈(11/15)、横山和美(11/16)

ド・ラ・アルティエール夫人:齊藤純子(11/15)、星由佳子(11/16)

パンドルフ:北川辰彦(11/15)、河野鉄平(11/16)

ノエミ:市川りさ(11/15)、別府美沙子(11/16)

ドロテ:藤井麻美(11/15)、北薗彩佳(11/16)

読売日本交響楽団

C.ヴィレッジシンガーズ

料金:

S席:12,000円

A席:10,000円

B席:8,000円

学生席:3,000円

問い合わせ:日生劇場 03-3503-3111

チケット購入方法Webページ

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加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

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