インタビュー
2024.08.28
世界のオーケストラ楽屋通信 Vol.9 岩木保道(スロヴェニア放送交響楽団ヴィオラ奏者)

主張はしっかりするけど仲良く和気藹々!ゆとりある生活ができるスロヴェニアのお国柄

世界各国のオーケストラで活躍する日本人奏者へのインタビュー連載。オーケストラの内側から、さまざまな国の文化をのぞいてみましょう!
第9回は、スロヴェニア放送交響楽団ヴィオラ奏者の岩木保道さんに、スロヴェニアのことを教えてもらいました! 指揮者アントン・ナヌートが数多くの録音を残し、定期演奏会や国内外ツアー、テレビの収録などもこなすオーケストラ。1番のカルチャーショックは、主張ははっきり伝えるのに直後にも仲良くしていること!? ほかにもいろいろなスロヴェニアらしさが見えてきます。

ONTOMO編集部
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

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結婚してスロヴェニアに! 格変化の多いスロヴェニア語でオーケストラの多様な活動に参加

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——所属されているオーケストラについて教えてください。

岩木 スロヴェニア放送交響楽団は、スロヴェニア共和国の首都リュブリアナに本拠を置いています。演奏活動は、定期演奏会を始めとする演奏会や、スロヴェニア国内外の演奏ツアーもこなします。またクロスオーバープロジェクトと言われる、クラシック以外のジャンル、例えばジャズや有名なロックバンドとの演奏会もあります。演奏活動のほかには、放送局のアーカイヴのための録音やテレビ放映のための収録もあります。

余談ですが、この楽団はできてから来年で70年になり、アントン・ナヌートが首席指揮者を務めた時代に大量の録音を残し、日本でも広く知られたオーケストラとして、多数の愛好家に認知されてきた経緯があります。

楽団の雰囲気は楽団同士が仲良く和気あいあいとしています。

岩木保道(いわき・やすみち)
1998年、桐朋学園大学付属高等学校音楽科入学。群馬県知事賞受賞。
2001年、桐朋学園大学付属高校音楽科卒業後、スイス、チューリッヒ音楽院に留学。クリストフ・シラー氏に師事。在学中、カルミナカルテットのメンバーと共演、シューマン、メンデルスゾーンなどの作品を演奏。また、2003年にはアンサンブル「トリオ・ラヴェルタ」を結成。スイス、ドイツにて約2年間に20回以上のコンサートを開催、スイス、地元紙にも絶賛された。
2005年、同音楽院を卒業後、同年23歳でスロヴェニア国立放送交響楽団、副首席奏者に就任。同年夏、ドイツ シュレスヴィッヒホルスタイン音楽祭にアンサンブル「時の庭」のメンバーとともに招聘される。
2006年、スイスのチューリッヒで行われたコッカルトヴィオラコンクールにて第2位入賞。現代作品最優秀賞もあわせて受賞した。
2008年5月にはスロヴェニアの首都リュブリアナにて、同アンサンブルのメンバーと詩人谷川俊太郎氏と「詩と音楽のコラボレーション」にて共演。
2013年、秋篠宮殿下がスロヴェニアにご訪問の際、スロヴェニアフィルハーモニーホールにて演奏する。
現在、オーケストラの傍ら、ソロ活動や室内楽など内外で活躍している。

——なぜこのオーケストラに入ろうと思ったのですか?

岩木 チューリッヒ音大で勉強していたのですが、そこで妻と出会いました。妻がスロヴェニア出身で、1年早く学校を卒業してスロヴェニア放送交響楽団に入団し、私はその1年後に試験を受け入団しました。

——楽団員とのコミュニケーションは何語でされていますか?

岩木 楽団員とはスロヴェニア語でコミュニケーションを取ります。周辺の大国に支配されてきた歴史の跳ね返りから、自国の言語を守ろうとする意識が強い方々が多く、外国人団員がスロヴェニア語を学ぶのを肯定的にとらえる傾向があります。スロヴェニア語はスロヴェニアに来てから学びました。とても格変化が多く、未だに苦労しております。

リュブリアナのクリスマスのイルミネーション

指揮者にも言い返す!? 考えをしっかり述べる楽団員

——お国柄を感じたエピソードや日本とは違うなぁと感じる点を教えてください。

岩木 やはりゆとりのある生活ができるのはお国柄かと思います。

練習が9時に始まり、遅くとも13時には終わるので、その後は別の演奏の仕事や音楽教室や音大での教育活動ができます。例えば私は、午後からは歌劇場のオーケストラでオペラやバレエのエキストラの仕事もこなしています。多いときには月12コマほど歌劇場で仕事をします。

夏休みは1か月。もちろんその間遊んで暮らしているわけではなく、音楽学校で教えたり別の演奏会の仕事をしたりしているので、決して怠惰ではなく、むしろ勤勉なお国柄だとは思います。それでも生活にあくせくしない人々ではあるのかなと思います。

——これまでに一番カルチャーショックだったことはなんですか?

岩木 考えをしっかり述べるところだと思います。自分が間違っていないと思えば、指揮者の注文にも言い返したり、団員同士でもたまに衝突があります。しかし、それでも根に持つこともなくその後も普通に関係が続くのは、なかなかカルチャーショックです。

若い頃、ボウイングを何度も変えて年配の楽団員から怒られて「これは嫌われたな」と思っていたら、パーティーや飲み会では普通に話してくれて、その後また普通の関係が続いたり……拍子抜けするようなことばかりです。

ユリアンアルプスというスロヴェニアにあるアルプス

指揮者アントン・ナヌートとの出会いや数々のソリストとの共演

——「この国に来てよかった!」と感じるのはどんなときですか?

岩木  この国に来てよかったのは、やはりスロヴェニアの指揮者、アントン・ナヌートに出会えたことだと思っています。彼と出会えたことで、彼を日本に紹介でき、彼の最晩年に紀尾井シンフォニエッタで振る日本デビューを手助けできたのは、私にとってたいへん光栄なことでした。

あとはさまざまな国のソリストと共演できるのも、来て良かったと思うことの一つです。例えば、アルド・チッコリーニという天才ピアニストとの最晩年のラフマニノフの「ピアノ協奏曲第4番」、ポゴレリチやラドゥ・ルプーとの共演。歌手ではドミンゴやカレーラス、バルツァやフローレス、カウフマンやガランチャなど。素晴らしいアーティストとの演奏会の思い出はどれも宝物で、この国(とオーケストラ)に感謝しています。

アントン・ナヌートとの思い出の1枚

——今のオーケストラで一番思い出に残っている演奏会や曲目を教えてください。

岩木 アントン・ナヌートの指揮で演奏したチャイコフスキーの「交響曲4番」は心に強く刻まれています。

——おすすめのローカルフードがあれば教えてください。

岩木  ソーセージやクラヴァヴィツァという血のソーセージ、生ハムやサラミ、そしてワインは最高です。とても質が高いです。

クラヴァヴィツェという豚の血のソーセージ
サラミ、ソーセージ、チーズの詰め合わせ。同僚の誕生日のときに食べたものです
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