インタビュー
2018.10.19
ピーター・バラカンのラジオ人生と「LIVE MAGIC!」

音楽の魔法を信じて~クラシックは古楽好き。ピーター・バラカンの音楽遍歴

『Barakan Beat』でお馴染みのラジオDJ、ピーター・バラカンさん。自分の好きな音楽をみんなにも聴かせたい! という情熱で、ラジオやイベントはじめ、さまざまな場所で音楽を紹介しています。
そんなピーターさんが監修するライブイベント『LIVE MAGIC! 2018』が、10月20日・21日に恵比寿ガーデンプレイスで開催されます。イベントの意気込みから、音楽との出逢い方まで、お話を伺いました。

取材・文
野崎洋子
取材・文
野崎洋子 音楽プロデューサー

1966年千葉県生まれ。日本大学文理学部出身。 メーカー勤務を経て96年よりケルト圏や北欧の伝統音楽を紹介する個人事務所THE MUSIC PLANTを設立。 コンサ...

写真:蓮見徹

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

「音楽はみんなで聴くもの」

――ピーターさんのラジオ番組、『Barakan Beat』ってリスナーさんが皆さん友だちみたいで、まるで音楽サークルみたい。聴いていると、サークルの仲間になったような気分になります。

本当の音楽好きみたいな人たちが毎週聴いてくれていますね。でもどうしてもメールでリクエストをよく送ってくれる人を取り上げることが多くなるので、時々そこに入り込めないと思っちゃうリスナーもいるみたいです。それは僕の落ち度かなぁと思っています。もちろん誰でもウェルカムですから、あまり閉ざされた中でやっているという印象は与えたくないんですね。

――そういう番組をやっているピーターさんだから、日本の音楽業界で隙あらば自分のところの音源をかけてもらおうと思っているプロモーターや、レコード会社が行なうプロモーションについては、お考えがあるのではないでしょうか?

レコード会社は大きくなればなるほど、いち押しと決めたものを関係者みんなに配るというプロモーションのやり方になってしまいますね。ただDMで送られてくるだけじゃ「これ知らない」で終わってしまうことが多いし、それでも例えばジャケットを見て、「ちょっとこれは好みかも」と思ったら聴く。中には、僕にならこのアルバムというふうに、わざわざメールくれたり電話くれたりするプロモーターもいますが、そうするとやっぱり聴いてみようという気持ちになりますね。そういうものは丁寧に聴きますよね。
レコード会社の宣伝マン、宣伝ウーマンは、いろんな媒体を知った上で、その媒体に合ったものを売り込むというやり方をすればもっと宣伝の効果があがると思います。

日本に来てもう44年になるんですけど、最初に入社したシンコー・ミュージックで業界誌を見ていると、よく福田一郎さんのコラムが載っていて、レコード会社のプロモーションのこういうところがけしからん的なことを書いていたんです。
ずいぶん後になってグラミー賞の仕事で海外に行ったときに福田さんも来ていて……その日は雨が降ってて午前中どうにもならないから、もう今日はホテルでゆっくりして午後から現場に出かければいいやと思っていたら、ロビーで待ち合わせているときに福田さんが外から帰ってきてね。土砂降りの雨の中でブロードウェイ・ミュージカルだか映画だか見て、レコード店もいくつか回っていろんな調査をしているわけですよ。彼のそういう仕事の姿勢は頭があがらないなーと思いましたね。

――ピーターさんの著書『ラジオのこちら側で』を読んで非常に印象に残った言葉に「音楽はみんなで聴くもの」っていう言葉があって、それがピーターさんの活動において一貫している考え方だなと思ったんです。本に書かれていたエピソードで、ニック・ロウのCDシングルを「これは日本で手に入らない音源だから聴きたい人は連絡ください」と言って会社(シンコー・ミュージック)の電話番号を雑誌に載せてしまった話とか、爆笑しました。

CDじゃないですよ。当時はレコードです(笑)。シンコーの「ジャム」という雑誌になぜか1ページ自分のページを持っていたんですよ。で、聴きたいという読者から本当に電話がかかってきたんです。電話の受話器をステレオにあてて聴かせてたら上司に怒られてね……。お前なにやってるんだ? って(笑)。

――そりゃそうですよね。でもそれがピーターさんのラジオの原点ですよね。自分が好きな音楽をみんなに聴かせたい、って。

実は最近、毎週のようにどこかで小さいDJイヴェントをやっているんですよ。最初はそういうイヴェントにお客さんが出かけてくれるっていうことに驚きました。結局ラジオ番組をお客さんの目の前でやるようなものだからね。ライヴ・ハウスみたいなところでやればそこそこ音は大きいし、良い音だし。みんな終わったあと「良かった、良かった」って言ってくれるんです。これはやっぱり人と一緒に良い音で音楽を聴くってことに喜びがあるんだな、って思う。

ダニエル・J・レヴィティンというもともとミュージシャンだった脳科学者がいて、音楽を聴いたときに人の脳がどうなっているかということを研究しているんですが、脳波を計る機械に入れて、同時に5、6人に同じ音楽を同時に聴かせるという実験をしたんですって。そしたら不思議なことにだんだん全員の脳波が同期していくそうです。面白いでしょう? きっとコンサート会場などでは、参加している全員にそのようなことが起きているんだと思います。

だから僕のやっているような小さなDJイヴェントでも、みんながあれだけ喜ぶっていうことは、それだけの一体感を無意識のうちに生み出しているんだな、と。それがすごく面白くて、呼ばれれば積極的にどこへでも出かけていってます。

ダニエル・J・レヴィティンの著書

音楽好きな脳―人はなぜ音楽に夢中になるのか
ダニエル・J・レヴィティン(著)、西田 美緒子 (翻訳)
単行本: 373ページ
出版社: 白揚社 (2010/3/1)

ラジオのリアル体験である「LIVE MAGIC!」

――「みんなで音楽を聴く」というのをリアルなフェスティバルにしたのが「LIVE MAGIC!」(今年は10月20日・21日開催)だと思います。今年で5年目になりますが、最初のきっかけは?

クリエイティブマン・プロダクションズの平野さんと、当時タワーレコードの事業部にいた田中さんという方、この2人に誘われたんですよ。2人とも知り合う前から僕が35年ほど前にやってた『ポッパーズMTV』をそれぞれ毎週見ていてくれていたんです。おそらく彼らは、その頃中学の終わりか高校生くらい。あの番組で洋楽を知ったようなものだって言っていました。その後、2人とも音楽業界で働くようになって、2人が一緒に飲んでいてポッパーズの話になり「今だったら(ピーターさんは)何をかけるんだろうね」という話になったんだって。それで僕が監修するフェスを提案してみようということになって、ある日、当時やっていた朝の番組の放送が終ったあと2人が局にやってきて提案されたんです。

――「LIVE MAGIC!」ってタイトルがいいですよね。音楽が持つ魔法……というか。

このフェスティヴァルをやり始めたのは、僕はインターFMで編成をやっていた時期で、「ラジオにもう一度魔法を取り戻す」というキャンペーンをやっていたんです。それでフェスティヴァルの名前をどうしようかとみんなで話していたとき、ちょうどラヴィン・スプーンフルの《Do You Believe In Magic》を一種のテーマ曲に使っていて、「Live Magic!」と僕が言ったら「それいいかも」ってことで、このタイトルに決まった。

――今年のLIVE MAGIC!のみどころは。

パンチ・ブラザーズでバンジョーを弾くノーム・ピケルニーが来てくれますが、すごく楽しみ。もうむちゃくちゃ名人です。

ほかには、ジョン・クリアリーという人が出るんですが、彼は本当に独特の味わいをもった人です。イギリス人だけど、高校卒業した直後からニュー・オーリンズにいます。そこでピアノを弾き始めて、ニューオリンズの何十年と続くピアノの伝統の継承者としての地位をしっかり築いている人なんですよ。そういうニュー・オーリンズの音楽プラス、ヒットしそうなキャッチーで良い曲を作るんですよ。歌も良し、ピアノも良し、作曲も良し。これはぜひ! ぜひ聴いてほしいですね。

ノーム・ピケルニー/ステュワート・ダンカン
パンチ・ブラザーズでバンジョーを演奏するノーム・ピケルニーと、フィドル奏者のステュワート・ダンカン
ジョン・クリアリー。今年はトリオとソロの2ステージで出演
2017年の様子。「民謡クルセイダーズ」は今年も登場(Photo: Moto Uehara)
昨年の様子。壇上のピーター・バラカンさん(Photo by Moto Uehara)

フルックもすごく楽しみでね※フルックはインタビュワーが招聘)。ちょうど2017年の「LIVE MAGIC!」が終わったくらいのタイミングでお話をいただいて、時期も合わせてもらえるってことだったので、これはぜひやりたいな、と思って。

あと全部プログラムが決まったと思ったら、アート・リンゼイがなんとブルーノートに出るために来日するので、最後の最後に出てくれることが決まったんですよ。なんと、お客さんが食べたり飲んだりする「ラウンジ」というスペースでミニライヴをやる。

――えっ、あそこでやるんですか! 超豪華!

豪華というか、もったいないくらい(笑)。

あとこの前、宣伝のためにインターネットの配信番組に出てもらって2曲ほど演奏してもらったKyの仲野麻紀さんも面白いです。1曲サックスで、1曲メタル・クラリネット。彼女は、クラシックがベースでフランスの音大で相棒のヤンと出会ったらしい。二人は同じコースを取っていたわけではなかったそうだけど、サックスとウード(撥弦楽器の一種)の組み合わせが面白くて、一緒に活動するようになったそうですね。

――ピーターさんお薦めのお料理とドリンクが味わえるFood Magicとか楽しいですよね。会場にいて1日中楽しめるし。

普通のフェス飯だとだいたい決まっているでしょ? 例えば、コンサートに行くと、だいたいはドリンク・チケットを500円とかで買わされる。そして、決められたメニューの中でしかドリンクを選べない。どうもそれが僕は納得がいかなくてね。「LIVE MAGIC!」では、「何でも好きなものを飲んでもらいましょうよ」ということで、ドリンク・チケットを廃止して自由にしたり、クラフト・ビールやオーガニック・ワインを出してもらったりすることにしています。料理も普通のフェスでは出ない、ちょっと気のきいた美味しいものを用意しています。今年はエチオピアのバンドがいるから、クイーンシーバというエチオピア料理のお店に参加してもらっていたり。

――本当に楽しみですね。

FOOD MAGIC! の会場
料理とお酒もLIVE MAGIC! の楽しみのひとつ。

音楽との出逢い方~キュレーションが自分の仕事

――1つピーターさんにうかがいたいなと思っていたのが、音楽之友社運営のWeb媒体という特徴でクラシック音楽のファンの方がここの読者には多いと思うのですが、ピーターさんはクラシックはあまり好きではないのでしょうか?

好きではない、というのではなくて、あまりよく知らないというのが正しいかな。バロックの音楽は大好きです。バッハは1日中でも聴いていられますね。バッハ以外でもバロックのものだったら、持っているレコードはあまり多くないけれど、流れててもまず違和感はないです。バロック以前の古楽も決して嫌いではない。モーツァルトまでは好きかな。それ以降になると、あんまり僕の好みじゃなくなってきますね。時間を費やしてすごく聴き込めば好きなものも出てくるでしょうけど、いわゆるロマン派の時代や19世紀の音楽にはあまり魅力を感じません。

――好きなものと、そうではないものの違いってなんでしょうね。

ポピュラー音楽でも、僕はあまりエモーショナルなものとかセンチメンタルなものって苦手ですね。あと、オペラは全然ダメなんです。オペラはクラシック界のヘヴィ・メタルだって言ってた人がいて、これは言い得て妙だと思いましたね。僕、ヘヴィ・メタルも苦手ですから。圧倒されるようなものはダメなんです。交響楽団ってのもぼくにとって人が多すぎて、ジャズもビッグバンドは聴かないんですよ。コンボが好き。だからクラシックでも室内楽がいいですね。演奏しているミュージシャンの対話が楽しめるものが好きです。

イラン人のチェンバロだけを弾くマハン・エスファハニっていう人がいて、今度12月にすみだトリフォニーホールでスティーヴ・ライヒとバッハをやるんです、これはすごく面白そう。チェンバロが大好きだし、久々のクラシック・コンサートに行こうと今からとても楽しみにしてる。

クラシックのコアのリスナーに他のジャンルを聴いてもらうための説得はなかなか難しいと思うなぁ。既成概念を持っている人は難しいですね。もうちょっと、なんだろう、クラシックは好きだけど、オープン・マインドの人にアプローチするとか。

――クラシックに限らず、音楽に興味はあるけど入っていくきっかけがない人に対するメッセージってありますかね? どうやって音楽と出会うのか……。

上手にラジオを聴くこと……と言いたいところですけど、まぁ、ラジオ局はいっぱいあるし、僕の好みがすべての人の好みというわけではないですからね。いろんな番組を聴いてみたらいいと思う。少なくともラジオは無料ですから。
また今はストリーミングの時代になってきて、SpotifyにしてもApple MusicにしてもGoogle Playにしても、みんなそれぞれ何を聴いていいかわからない人のためのプレイリストを作っています。とりあえずいろんな音楽を聴くには入り口にはなると思うな。

――リスナーにとっては、こんなに恵まれている時代はないですよね。

ある意味ね。ある程度どんな音楽を聴きたいかわかっている人には本当に最高の時代だと思う。昔のほうが選択肢が少ないから、その中から選ぶという人が多かった。そうすると大ヒットが出やすいですよ。80年代のマイケル・ジャクスンやプリンス、マドンナとか……。

僕はイヴェントとラジオの良さって一緒だと思うんですよ。さっきいった脳波を計る実験もそうですけど、いってみればラジオ状態なんですよ。だから同じ番組を聴いているというだけで、仲間意識が芽生えやすいということなんだと思います。

レヴィティンさんの実験でわかったことなんですが、同じ音楽を聴いてた人たち同士って、何年も付き合っている友達みたいな感覚をもつんですって。同じ音楽が好きだということで仲間意識が芽生えやすい、という。それってすごく素敵なことですよね。

――それこそポッパーズをまったく別の場所で見ていた2人が意気投合して「LIVE MAGIC!」を立ち上げたり。ラジオはコンサートとは違うけど、電波に乗って知らない誰かが聴いて自分と同じ気持ちでいるっていう一体感ですよね。それも音楽の魔法ですね。

僕は、洋楽の中でもヒットしたものというよりは、本当に自分の好きなものを「こういうのもありますよ、聴いてね」みたいな感じでかなりパーソナルな選曲をしているんですよね。

インターネットが普及してから、圧倒的に音楽の情報が増えちゃった。良いことでもあるけど情報が多すぎてお手上げになってしまった人も多いです。だから気の利いたキュレイションが必要なんだと思いますね、どの分野でも。自分の仕事はそこだと思っていますね。

イベント情報
​Peter Barakan's LIVE MAGIC! 2018

開催日:  2018年10月20日(土)開場 12:00 / 21:30 終演予定
      2018年10月21日(日)開場 12:00 / 20:00 終演予定
会場: ​恵比寿ガーデンプレイス ザ・ガーデンホール / ザ・ガーデンルーム
チケット料金: 1日券    12,000円/2日通し券    21,000円  *SOLD OUT!!
学割1日券 9,000円/学割2日通し券 15,000円
すべて税込・オールスタンディング、小学生以下無料 (要保護者同伴)
公式サイト: https://www.livemagic.jp/

取材・文
野崎洋子
取材・文
野崎洋子 音楽プロデューサー

1966年千葉県生まれ。日本大学文理学部出身。 メーカー勤務を経て96年よりケルト圏や北欧の伝統音楽を紹介する個人事務所THE MUSIC PLANTを設立。 コンサ...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ