五嶋龍、ヴァイオリンの響きで映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)の一部を担う
テレビ出演や企業家としての活動など、音楽に留まらない活躍を見せるヴァイオリニストの五嶋龍さん。東日本大震災時の福島第一原子力発電所を描いた映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)では、演奏で映画に初参加。題材、制作陣を知り、出演を「即決」したという五嶋さん。映画音楽に対する考え、映画の見どころを伺いました。
編集プロダクションで機関誌・広報誌等の企画・編集・ライティングを経てフリーに。 四十の手習いでギターを始め、5 年が経過。七十でのデビュー(?)を目指し猛特訓中。年に...
東京2020オリンピック・パラリンピックに先駆け、聖火リレーがスタートするのは福島。そこには、日本人にとって忘れることのできない東日本大震災と、福島第一原子力発電所の事故からの復興を目指す気持ちが込められています。あの事故の瞬間、命がけで戦った“フクイチ”の作業員たちと、その家族の姿を描いた映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)が、3月6日に公開されます。
本作で心に残るヴァイオリンの音色を響かせるのは、世界を股にかけて活躍する五嶋龍さん。映画音楽に初めて参加した彼に、制作の様子や映画の観どころを伺いました。
お話を伺って「やろう!」と即決しました
――映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)は、五嶋さんが音楽に関わる初の映画となりますね。
映画音楽を演奏する機会はしばしばありましたが、制作に関わらせていただくのは本作が初めてです。実は、お話をいただいたときに、「やろう!」と即決したんです。東日本大震災とそれに続く福島第一原子力発電所の事故を描く作品、しかもエンジニアさんたちのお話だと伺い、非常に重みのある作品だと思いましたし、佐藤浩市さんや渡辺謙さんをはじめキャストの方々も超一流。
加えて、音楽を担当されるのは、数々の名作映画に関わっておられる岩代太郎先生と聞いて、「これはすごい映画になるに違いない」と。そんな作品に自分が参加させていただけるなんて、光栄以外の何物でもありません。だから、まさに即決でした。
――ニューヨークを拠点にされている五嶋さんですが、2011年3月11日、東日本大震災が起きた瞬間はどこにいらっしゃいましたか?
成田空港にいました。乗っていた飛行機が着陸してすぐ、1分もたっていなかったと思います。激しい揺れがやってきました。だから震災を体験したといえばそうなのかもしれませんが、東京、しかも機内ですし、東北で被害に遭われた方々に比べれば、体験のうちに入らないでしょうね。
映像と重なることで音楽が意味を持つ
――劇中に使われる曲を初めて聴いたときの印象を教えてください。
最初はMIDIの状態でいただいたのですが、それを聴いただけで「素晴らしい音楽だ!」と思いました。それぞれの曲が心に響いてくるんです。作曲家ではない僕がこんなこと言うのはおこがましいけれど、「映画の内容に合った、エモーショナルな曲の数々だ」というのが第一印象です。
あと、瞑想するというか、記憶を大切にするような感触があって、その点ではイツァーク・パールマン(イスラエル出身の名ヴァイオリニスト)が弾いた『シンドラーのリスト』と共通したものを感じました。
スティーブン・スピルバーグ監督の映画『シンドラーのリスト』(1994)メインテーマでは、イツァーク・パールマンのヴァイオリン演奏が印象的にフィーチャーされている。
――レコーディングではどのようなことを心がけましたか?
録音時は、まだ映像は完成していなくて、だけど曲が使われる場面の映像を用意していただけたので、それを見ながら演奏していきました。そこで僕が意識したのは、これはあくまでも映像を支えるための音楽であり、自分は一歩引いた存在でいようということです。
例えば、熱く語りかけるようなときに、自分のソロだったらビブラートをかけて印象的にするだろうところを、ここではあえて控えたりしました。だからといって無感情なわけでもない。ニュートラルであることを心がけたんです。先のパールマンもそういうことを考えて弾いたのではないでしょうか。
――完成した映画を観て、ご自身の演奏を聴いた感想は?
僕の演奏がひとつの曲として、あるいは短いモチーフとして、いろんなシーンで流れるわけですが、あるときは一刻を争う緊迫感だったり、あるときは深い追悼の心だったり、役者さんたちの演技と相まって効果的に演出していただいた、という印象を持ちました。
録音に向けて練習しているときはシンプルに「いい曲だな」と思っていたものが、映像と重なって初めて「なるほど! こんな意味もあったのか」と気づくところもたくさんあって。こうしたプロセスは普段の録音にはないものなので非常に面白かったですし、映画音楽の奥深さをまざまざと感じましたね。
――特に印象深い場面があったら教えてください。
これは全部言うとネタバレになってしまうので少しだけ……。映画の最初と最後、注意深く観て、音楽にも耳を傾けてみてください。映画音楽が好きな方だったら「あ!」と気づくことがあると思いますよ。でも、個々の場面も印象的だけど、トータルとして素晴らしい作品だと思います。
本編を観たら、五嶋龍の存在なんて忘れてしまうかもしれない
――改めて、映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)をどう思われますか?
この、日本を変えたといっても過言ではない大きな危機を、現場の勇敢な方たちがどのように乗り越えていったか、記録としても重みのある映画だと思います。
あと、僕がこの作品に惹かれるのは、ノンフィクションなんだけどドキュメンタリーっぽくないところですね。リアリズムとドラマが、とても自然に一体化している。描きたいものがはっきりしているので、もしこの話を知らないという人が観てもわかりやすいと思います。
このような映画って、過去のことをリアルタイムで見せますよね。次に何が起こるのか、最後にどんな結末が待っているのか、わかっているわけです。絶対的なハッピーエンドにはならないことも誰もが知っているけれど、それをまるで予言のように音楽で知らせることができたように感じます。
僕はそういう役目ができるのも音楽の素晴らしさだと思っていて、初めての映画音楽でこのような作品に関われたのは本当に感慨深いです。今後、もしまた映画音楽のお話をいただくことがあったとしても、本作を超えるのは至難の業なんじゃないかな、と思うぐらい。それほど素晴らしい作品ですね。
――最後に、読者にメッセージをお願いします。
僕が関わったのは、全体からしたらほんの小さいパートでしかありませんが、誇りに思える映画です。ぜひ映画館に足を運んでいただきたいですね。
だけど、いざ本編が始まったら、僕の存在なんて忘れてしまうかもしれませんよ。それぐらいパワフルな映画ですから。先ほど申しあげたとおり、音楽は映像を支えるものだし、僕はその役目を果たすことができたと思っています。まずは映画そのものを楽しんでください。
そして、どこかで「あ、音楽は五嶋龍だ!」と気づいていただけたのなら、それはとてもうれしいことですね。
3月6日(金)公開
出演: 佐藤浩市、渡辺謙、吉岡秀隆、安田成美
監督: 若松節朗(『沈まぬ太陽』)
脚本: 前川洋一(「軍師官兵衛」)
音楽: 岩代太郎(『レッドクリフ』『ミュージアム』)
演奏: 五嶋龍(ヴァイオリン)、長谷川陽子(チェロ)、東京フィルハーモニー交響楽団
3月4日発売
詳細はこちらから
九州交響楽団 鹿児島市制130周年記念コンサート
日時: 2020年3月6日(金) 19:00開演
会場: 鹿児島市民文化ホール(第1ホール)広上淳一(指揮)
演奏曲目: コルンゴルト/ヴァイオリン協奏曲ニ長調op.35
詳しくはこちらから
フィンランド放送交響楽団日本ツアー
ハンヌ・リントゥ(指揮)フィンランド放送交響楽団
演奏曲目: シベリウス/ヴァイオリン協奏曲ニ短調op.47
【大阪公演】
日時: 2020年5月23日(土)13:30開演
会場: ザ・シンフォニーホール
【川崎公演】
日時: 2020年5月24日(日)14:00開演
会場: ミューザ川崎シンフォニーホール
【東京公演】
日時: 2020年5月27日(水)19:00開演
会場: サントリーホール
【名古屋公演】
日時: 2020年5月29日(金)18:45開演
会場: 愛知県芸術劇場コンサートホール
デビュー25周年リサイタルツアー
2020年
11月21日(土)函館市芸術ホール(北海道)
11月22日(日)福島市音楽堂(福島県)
11月23日(月・祝)山形テルサ(山形県)
11月25日(水)アイム・ユニバース てだこホール(沖縄県)
11月28日(土)宇部市渡辺翁記念会館(山口県)
11月29日(日)三原市芸術文化センター ポポロ(広島県)
11月30日(月)アクトシティ浜松(静岡県)
12月2日(水)YCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)(山梨県)
12月3日(木)サラマンカホール(岐阜県)
12月6日(日)リンクモア平安閣市民ホール(青森市民ホール)(青森県)
12月7日(月)サントリーホール(東京都)
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