阪田知樹×上野耕平 作曲者と演奏者が語り合う~想定外の演奏で新曲の深みが増していく
編曲集『ヴォカリーズ』『夢のあとに』など、作編曲家としての顔も持つ実力派ピアニスト・阪田知樹による、「アルト・サクソフォーンとピアノのためのソナチネ」がこの11月、音楽之友社より出版されました。この曲は2018年にサクソフォーン奏者・上野耕平と阪田知樹のデュオ・リサイタルで初演されて好評を博し、以来再演を重ねています。出版を記念し、二人の対談が実現しました!
専門は学校音楽教育(音楽科授業、音楽系部活動など)。月刊誌『教育音楽』『バンドジャーナル』などで取材・執筆多数。近著に『音楽の授業で大切なこと』(共著・東洋館出版社)...
「阪田くんはもう、サックス吹きよりサックスに詳しくなっちゃった」
阪田 そもそも僕らは藝大で1年違いだったのですが、僕がピアニストとして「上野くんと共演する」という企画(2018年1月の演奏会)を最初にいただいた時、「それならサックスの新曲を書いて、一緒にやれたら楽しいな」とふと思いついて。でも、大学時代は学校の中で1回すれ違っただけなんだよね。
上野 そう、もちろん互いに名前は知っていたけど、学生時代はすごく関わりがあったわけではなくて。だから共演の話が出た時も、僕はそれまで阪田くんをピアニストとしてしか知らなかったから「へー、曲も書くんだ」って。
阪田 ねえ。でも僕はサックスの曲を書くのは初めてだったから、まず勉強をしましたね。サックスの音源を聴きまくって、サックスの楽譜もたくさん読んで。
上野 阪田くんはもう、サックス吹きよりサックスに詳しくなっちゃった。話していると「なんでそんなことまで知ってるの?」と驚くことばかりなんですよ。でもサックス吹きからしたら、楽器に興味を持ってもらえるってやっぱり嬉しいですよね。
しかも出来上がった曲を吹いてみたら本当にいい曲で。技巧に走って楽器の限界を試そうとするサックスの作品はよくあるけど、この曲は「音楽として何を語りたいのか」が明確にある。
阪田 やっぱり「サクソフォンという楽器が、聴き手が思っている以上にいろいろな要素を内包しているということを表現したい」ということと、それを音楽とうまくリンクさせるということを大事にして作った曲なので。
サックスという楽器について勉強を始めると、すごくたくさんの可能性があるんです。クラシカルな作品がある一方でジャズのイメージも強いし、フランス語圏で生まれた楽器だからフランス系の作品が多い。そういった、サックスという楽器の来歴を感じられるような楽曲が作れたら面白いな……というのが最初のアイデアでしたね。
「弾き手も聴き手も楽しめる曲にしたかった」
阪田 弾き手も聴き手も楽しめる曲にしたかったので、音楽のスタイルもバラエティ豊かにしようと。第1楽章はプーランクのようなフランス近代風で、第2楽章はジャズっぽく、第3楽章はバロック的に。
それと、全曲で「昼~夜~朝」という1日の時間軸を。昼のイメージの第1楽章から始まって、第2楽章では夜になり、バーに入ってジャズが聞こえてくる。そして夜が明けて第3楽章は朝。第3楽章では第1楽章に出てきた旋律や第2楽章の旋律の変型も入ってきて、それまでの時間も思い返しながら曲全体を締め括ります。
阪田知樹「アルト・サクソフォーンとピアノのためのソナチネ」第1楽章冒頭
上野 決して超絶技巧を誇るための曲ではないけれど、演奏家に必要なすべての要素が試される曲だなと。特に、第3楽章は場面ごとに必ず音色を変えないといけない。でも「音色を変える」ということを深く考えている管楽器奏者って、実はあまり多くないと思うんですよ。常に「良い音で吹こう」と考えて、艶やかで煌びやかな音ばかりを目指しがちで。だけど、それをあえて曇らせたり掠れさせたりすることが、この曲には絶対に必要なんです。
だから、聴き手に楽しんで味わってもらえる曲であるだけでなく、吹き手としてもこの曲に挑戦してとことん向き合ってみると、成長できることが本当にたくさんある。あっ、いつか音大入試の課題曲になるかも。深く学びながらたくさんの技術を得られる曲だから。
阪田 あはははは! それも面白いね。その時には「上野教授」が試験官をやるんでしょ?「時間になりました、チーン」って。
「自分の引き出しをフルに使う曲だから、毎回いかに中身をパンパンにできるかが勝負」
上野 この曲は今までに阪田くんと3回、コンサートで演奏しているけど、その時々に自分が経験してきたものが音楽にもろに表れるんだよね。そもそも音楽というのはそういうものだけど、この曲は表現や技巧のいろいろな引き出しをフルに使わなければいけないからこそ、その引き出しの中身が詰まっていないとダメなわけで。自分の引き出しの中身をいかにパンパンに詰めて阪田くんと共演できるかが毎回、僕の勝負ですね。
阪田 僕もこの曲は、演奏するたびにすごく変わっていくように感じる。この曲を上野くんと最初に合わせた、リハーサル1日目のことをすごく覚えているんです。
僕自身は自分が作った曲だから「ここはこういう音楽になるな」というイメージが当然あったわけだけど、やっぱり上野くんの演奏には「おっ、そう来るか!」という驚きが各所にあって、それがすごく素敵で。だから僕はあえて「そこはそうじゃない」とは言わず「そのパターン、いいね!」と積極的に受け入れていったんです。
阪田 そういう発見は演奏者やピアニストごとにあるだろうし、この曲も今はまだ僕と上野くんしか演奏していないけど、他の人が演奏してくれることでさらに変わっていくだろうし、そういうことが「音楽の深み」の一つだと思うんですよね。楽譜が出版されて、これからそんな喜びに出会えるだろうことも、作者としてはすごく楽しみです。
上野 そうだね。僕もいろいろな人がこの曲を演奏するのを聴ける日を、ワクワクして待ってます!
「アルト・サクソフォーンとピアノのためのソナチネ」
阪田知樹 作曲
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