インタビュー
2023.04.27
6月11日(日)サントリーホールでホルン界のスーパースターが大切にしてきた室内楽を若手精鋭とともに

バボラーク 室内楽は夢の職業。ベルリンフィルを辞め独立した音楽家となれて幸せ

ホルン界のスーパースター、ラデク・バボラークが今年もサントリーホールのチェンバーミュージック・ガーデンに登場します。「独立したひとりの音楽家」となるために受けた教育の内容や世界の一流オーケストラでの経験、そして今後の活動で大きな位置を占める室内楽について、現在の心の内を率直に語ってくれました。

取材・文
林田直樹
取材・文
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

©Lucie Cermakova
©池上直哉/Naoya Ikegami SUNTORY HALL

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

世界最高のホルン奏者のひとりであり、近年は指揮者としても活躍中のラデク・バボラーク。チェコ・フィル、ミュンヘン・フィル、ベルリン・フィルなどで首席奏者をつとめ、ソリストとしてもバッハの「無伴奏チェロ組曲」全6曲をすべてホルンの超絶技巧で吹きこなすなど、ホルン界のスーパースターともいうべき存在です。
そんなバボラークが特に大切にしてきたのが室内楽。これまで幾度も参加してきた毎年6月サントリーホールのチェンバーミュージック・ガーデンに今年も登場します。

優れた音楽家を生み出すチェコの秘密

――ご出身のチェコのことをまずお聞かせください。以前プラハに行ったときに、現地の人に「モーツァルトはオーストリアだけじゃなくてチェコの作曲家でもあります。なぜなら当時、彼の音楽を最も理解し愛していたのは我々だったのだから」と聞いたことがあります。

今回のチェンバーミュージック・ガーデンでのコンサート(6月11日)でも、モーツァルトのみならずチェコの作曲家ライヒャ*(ベートーヴェンと同い年)をとりあげますね。「木管五重奏曲ニ長調op.91-3」も本当に素敵です。チェコという国は小さいのに、作曲家も演奏家も昔から素晴らしい人がたくさん出てくる。その秘密は何だと思われますか?

バボラーク(以下、B)「チェコは約400年間にわたって、オーストリア=ハンガリー帝国やドイツの支配下に長くあったわけですが、常にカトリック教会や貴族の強い影響下にありながら、ヨーロッパ全体と文化的に強いつながりを持ってきたのです。

そもそもヨーロッパとは、国境を越えた人の行き来がとても盛んなところです。たとえばヘンデルはドイツに生まれながらも、その活躍の場は常にロンドンにあった。あるいはパリのコンセルヴァトワールの有名な教授たちだって、決してフランス人だけでなくヨーロッパ各国から来ている。

北欧やロシアにおいては、クラシック音楽は主にロマン派から始まりました。でもチェコは、そのロマン派の音楽の流れの元となっているバロックとルネサンスの文化をオーストリア、ハンガリー、ドイツとしっかり共有してきている

プラハに生まれドイツ各地を巡りウィーンを経てパリに行った作曲家ライヒャを、私たちは「木管五重奏の父」と呼んでいます。それまでになかったこの5つのまったく異なる楽器**を組み合わせた五重奏の作品を作曲したからです」

*ライヒャ(レイハ) , アントワーヌ(1770-1836):チェコの作曲家。19世紀初頭にはパリで理論家,教育者としても活躍。ベートーヴェンらに師事して作曲を学ぶ。1818年よりパリ音楽院の対位法とフーガの教授。門弟にベルリオーズ,リストやフランクらがいる。多作家で,作品はオペラからピアノ曲,オルガン曲など多岐にわたっている。

**ホルン、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット

ラデク・バボラーク:18歳でミュンヘン国際コンクール優勝。小澤、バレンボイムをはじめ巨匠たちの信頼も厚く、ソリストとして世界中のオーケストラと、全世界の音楽の殿堂で圧倒的な名演を残し続けている。これまでチェコ・フィル、ミュンヘン・フィル、バンベルク響、ベルリン・フィルのソロ・ホルン奏者を歴任。さらに、サイトウ・キネン・オーケストラ、水戸室内管をはじめとするオーケストラにも参加。また近年は指揮者としての活躍も目覚ましく、水戸室内管などに客演を重ね、山響首席客演指揮者も務めた。2022/23年シーズンより西ボヘミア交響楽団首席指揮者に就任 ©Lucie Cermakova
続きを読む

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ