インタビュー
2019.01.06
TVアニメ『ピアノの森』に参加のピアニストの対談が実現

反田恭平&牛牛、今もっとも注目のピアニストがクロストーク!

NHKで2018年4~7月の日曜日深夜に放映され大反響となったTVアニメ『ピアノの森』第2シリーズの13話が、いよいよ2019年1月27日深夜から放映される。一色まこと原作の物語は、ピアニストを描いた物語の中では異色の傑作だ。今回、TVアニメ『ピアノの森』に参加の反田恭平(阿字野壮介担当)と牛牛(ニュウニュウ)(パン・ウェイ担当)の2人の対談が実現した。

対談した人
反田恭平
対談した人
反田恭平 ピアニスト

1994年生まれ。本格的にピアノを始めたのは12歳。桐朋女子高等校音楽科(共学)在学中に第81回日本音楽コンクール第1位・聴衆賞を得(2012年)、2014年モスクワ...

牛牛
牛牛 ピアニスト

1997年中国・福建省厦門(アモイ)生れ。本名・張勝量(Zhang Shengliang)。6歳でデビュー・コンサート、8歳で上海音楽院に史上最年少で入学、陳宏寬Hu...

聞き手・文
小倉多美子
聞き手・文
小倉多美子 音楽学/編集・評論

武蔵野音楽大学音楽学学科卒業、同大大学院修了。現在、武蔵野音楽大学非常勤講師。『音楽芸術』、『ムジカノーヴァ』、NHK交響楽団『フィルハーモニー』の編集に携わる。『最...

©一色まこと・講談社/ピアノの森アニメパートナーズ
Photo:mika

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ストーリーの素晴らしさはもちろん、その演奏面の充実と注目度は類を見ないTVアニメ『ピアノの森』。2018年4月から深夜に放送され、12月19日には『ピアノの森』第1シリーズのDVD&Blu-rayが発売。また、年明けの2019年1月からはアニメ『ピアノの森』の第2シリーズが始まる。そんな大反響の作品に携わったピアニストたちの演奏が一堂に会する夢のサントラ盤「Piano Best Collection I」が、2018年6月にリリースされ、発売後すぐにクラシックアルバムウィークリーランキング(6/19〜6/26)第1位に輝いた。

阿字野壮介のメインピアニストを反田恭平が担当。
牛牛はパン・ウェイのメインピアニストを担当。
雨宮修平の演奏は、グリーグ国際ピアノ・コンクール優勝も記憶に新しい髙木竜馬が担当。
2015年のショパン・コンクール唯一のポーランド人ファイナリストであるシモン・ネーリングがシマノフスキを。
ソフィ・オルメッソンは、美貌と実力で人気沸騰中のジュリエット・ジュルノーが担当。

2018年9月の『ピアノの森』のコンサートに牛牛、反田恭平両氏も来日。いまもっともチケット入手困難な若手ピアニストの2大スターにお話を伺うことができた。

僕が知っている限り、良いプレイヤーで性格の悪い人を知りません(反田)

――お二人は今回初めてお会いになられたのですか?

反田 ほぼ初対面です。

TVアニメ『ピアノの森』では、髙木竜馬さんとも親しくさせていただいているのですが、今日・昨日(9月23日、24日のコンサート)と彼と一緒にいて、ここまで似ている人はちょっと珍しいなと思いました。僕も、こういう演奏があるならそういう演奏の仕方もあるのだと受け止めるタイプなのです。自分とは異なるスタイルで弾く奏者がいると、なぜそういう風に弾くのだという目でしか見られないアーティストって実はたくさんいますが、僕たちは、ああこういう弾き方もあるんだ、ちょっと試してみようと、ポジティヴに考えることのできるタイプです。牛牛さんも、素晴らしいと思います。

彼(牛牛)の演奏を昨日聴いて、頭脳明晰、そして頭の回転の速さにも感銘しました。もともと勉強の仕方が素晴らしいのですが、コンサート中での一瞬の閃きもすごい。牛牛さんは、楽譜をじっくり眺める時間をとるそうですが、僕もたっぷり時間をかける方です。僕は、絵画を見ているように、オーケストラのスコアにしろピアノの楽譜にしろ、ずっと見ています。例えば、クレシェンドとは書かれていないのだけれど、音型が上行して行き左手が下降していく姿など、書かれていないクレシェンドなのです――時と場合によりますが。

牛牛 私も、今回一緒に弾かせていただき、反田さんのppの音の素晴らしさや、ピアノというのはそれほど小さいときから始めなくても素晴らしい音楽家になれるのだということがわかりました。

反田 ありがとう(照)。

リストの《ソナタ》は旅に似ています。(牛牛)

――2018年9月にリリースされたリストの《ソナタ》を核にした新譜が、『レコード芸術』でも特選盤となり話題を呼んでいます。

牛牛 リストの《ソナタ》は、難しい作品です。冒頭に4つのモティーフが出てきますが、急な変化がたくさんあり、そのような細かな箇所がどのモティーフに共通するものなのか常に立ち返って考え、統一感をもたせることに気を付けました。長い曲を弾くことは、旅に似ています。弾いている途中で迷子になりやすいということがあります。眩さや装飾的なところに目を奪われて最初の基本を忘れがちですが、基本のモティーフを通して、そもそも自分が抱いていたパッションを思い出すようにし、それをつなげていくことが、この作品の演奏にとって大切なことでした。

――牛牛さんをして「迷わないように」と言わしめたことが、とても不思議に感じましたが。

反田 リストのソナタは演奏に約30分を要する大作です。簡単にまとめられるようなものではなく、彼も旅をするような感じと仰っていたことに、僕もとても共感しますし、その点も大変似ていると感じました。この《ソナタ》はリストの哲学、彼の人生そのものです。冒頭は作曲家が生まれる瞬間で、なぜユニゾンから始まるのか、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第3番」もそうですが、過去の自分と現在の自分が重ねられているのだと思います。

――早くから神童として注目され活躍されてきた牛牛さんこそ、既に長い旅をされてきた感をファンは抱いていることでしょう。ご自分が変わったなと感じられたことはありますか?

牛牛 今はまだ自分が成長する段階にあり、作品の解釈はこうであるとか、ピアノ演奏はこうあるべきだ、と決めつけたくないと思っています。どんなことができるかを、もっと広く、考えています。

僕にとってピアノは友だちで、ピアノには魂があると思っています。自分の解釈を押し付けたりすると、ピアノは良い音を出してくれません。自分が間違っているのに押し付けたりすればなおのこと、ピアノから「そのように弾きたくない」というメッセージが送られてきます。ピアノが自分に何をさせようとしているかを考え、感じながら弾いています。そして、ある時間は鍵盤に触れるのではなく、楽譜をじっと見つめ、インスピレーションを得るための時間をもったりします。

そのように、音楽をより特別な域へと高めるための演奏とは何かを考える段階にいると思っています。

――ロマン派が好きな時代だと仰っていますが、ほかに興味のある時代やジャンルはありますか?

牛牛 クラシックに限らず、ポップスやジャズ、ブルース、ロックなど、あらゆるジャンルの音楽を聴きます。アメリカにいるとジャズがよく聴こえてきます。ジャズの演奏家は本当に素晴らしく、瞬時に作り出されるハーモニーや旋律をアドリブで演奏しているなんて、我々にはできないことなので、とてもインスパイアされます。僕もジャズを聴くことによって、ショパンの音楽を別の見方や聴き方ができるようになりました。

反田 ポップスやジャズを聴かれることも、僕と似ているなと思いました。僕は指揮者になろうと音楽を始め、いまピアニストとして活動していますが、ゆくゆくはオーケストラの音をもっと体感したりし、そうすることによって相乗効果でピアノの音も良くなると思うのです。

僕の想うpは、先生に言わせればmfであり、ppはmpぐらいだと。(反田)

――反田さんは現在ポーランドのショパン音楽大学に学ばれていますが、新たにどのような点を学ばれていますか?

 反田 ロシアではffの幅を主に、そしてソナタ形式についても勉強しました。僕は12歳からピアノを始めたのですが、ポーランドでは、弱音について研究している最中です。というのは、とても難しくて、初めてレッスンに行ったとき、ショパンの作品を弾いたりしたわけですが、僕の想うpは、先生に言わせればmfでありppmpぐらいだと。ワンレヴェル上なのです。pppを出してみなさいと言われ、先生の言う感覚で頑張って出そうと思うと、音にならない――核のない音、演奏会では使えない音にしかならないのです。本当に大変ですが、新しいことにチャレンジしている感じで、しかも自分が想像していた、常識を超えてのレッスンで、楽しいです。やはり、ffppの差を勉強している最中です。

――デュナーミクのグラデーション、pppまで拡げたグラデーションが出せるように指と頭を繋げていると、以前インタヴューに応えられていらっしゃいましたが。

反田 それは高3から続けていて、一生かけてするべきことだと思います。紙を持つにしても、どの指で持っているのかを意識するのとしないのとでは、まったく違います。目を閉じて指を動かします、2の指を第1関節だけ動かそうとしても、ほとんどみんなできません。大抵第2関節から動いてしまう。できるようになるまで僕も3年かかりました。少し怠るとできなくなってしまいます。鍵盤には第1関節しか触れていないわけで、基本的には50%ここで決まる。あとは、体の使い方であったりしますが、その50%をいかに上手くコントロールできるか、それがその人の顔――音色――になるのです。それを求めて80歳90歳になるまで演奏し続けていくわけです。脳と指先はリンクさせなければ。どうやって息をしていますかと言って、答えられますかという話です。どうやって指を動かしますかって、我々は無意識に指を動かしていますが、僕は、AがあるからBだということを明確に把握したい性格なので、ずっと追究しています。

僕は両利きなのですが、鉛筆やお箸は右手で持つようにしています。左はピュアなので、左手から始めると自然に右手もできるようになりますが、意識して使っている右のほうは憶えが悪いのです。いま、脳科学者の茂木健一郎さんなどのいるソニーコンピュータサイエンス研究所といろいろ関わらせて頂いていて、NHK BSプレミアムの『ボディミュージアム:“手”~美しく繊細な道具~』(2017/9/13)で研究所の技術協力のもと測定したところ、僕は1秒間に18.5回音符が弾けるようで、世界の色々なピアニストで調べたところギネス記録だそうです。でも牛牛さんは多分20回いけます(笑)。いかに体と脳を使って音楽を作るかということも、考えています。

2020年のショパン国際コンクール

――2020年のショパン国際コンクールには出場されますか?

牛牛 『ピアノの森』ではコンクールがとてもリアルに描かれていると思います。コンクールでは自分が正義をもっていること、それが大切なのだと感じています。

反田 僕は日本生まれで活動の場として日本を大事にしたい想いとともに、ヨーロッパでも活動したいと思っています。クラシック音楽はヨーロッパで生まれたものですので、僕の場合には、コンクールに出て賞を得るという目的よりも、出るとするならば、何百万人何千万人が見るライヴ配信の場として出たいです。「なんだこいつって」ってなって注目されるかもしれないし(笑)。

TVアニメ『ピアノの森』第12話「fff(フォルティッシッシモ)」は全編、第1次予選最終日のカイの演奏だった。エテュードOp.10-1をはじめノクターン、《子犬のワルツ》や《雨だれ》の演奏に、生活が困窮しているカイの状況や阿字野に連れて行ってもらった海のシーンが重ねられていく。そして《24の前奏曲》Op.28-24ニ短調、拳で弾かれた最後のD音3つが鳴り響いて終わった第12話。その衝撃とともに、多くのファンが待ち侘びることになった第2シリーズがいよいよ、2019年1月最後の日曜日の深夜に始まる。果たしてカイは2次予選に進めるのか? なぜ、カイがショパン・コンクールでの優勝にこだわるのか。そしてなぜ阿字野を反田恭平が担い、最後にどのような演奏が繰り広げられるのか、見逃せない物語が待っている!

反田恭平
1994年生れ。本格的にピアノを始めたのは12歳。桐朋女子高等校音楽科(共学)在学中に第81回日本音楽コンクール第1位・聴衆賞を得(2012年)、2014年モスクワ音楽院に首席で入学。完売した2016年サントリーホールでのデビュー・リサイタルは高い評価を得た。2017年初のリサイタル・ツアーも全公演完売。「題名のない音楽会」「情熱大陸」等メディアへの出演も多い。出光音楽賞(2017)。現在、ショパン音楽大学在学中。最新CDに「悲愴/月光/熱情~リサイタル・ピース第2集」(2018年7月 日本コロムビア)。
牛牛(ニュウニュウ)
1997年中国・福建省厦門(アモイ)生れ。本名・張勝量(Zhang Shengliang)。6歳でデビューし、史上最年少8歳で上海音楽院入学。その後、ニューイングランド音楽院を経て、2018年5月にジュリアード音楽院卒業。2007年EMIクラシックスと最年少で専属契約を締結、2017年にはデッカと専属契約を結び、2018年9月第1弾となる「リスト:ピアノ・ソナタ~ヴィルトゥオーゾ&ロマンティック・ピアノ作品集」をリリース。日本では2009年12歳でサントリーホール等でデビュー。

アルバム
『ピアノの森』Piano Best Collection I

日本コロムビア COCQ-85420

3000円+税/配信あり(一部を除く)

Blu ray & DVD
TVアニメ『ピアノの森』第1シリーズ

Blu-ray】ピアノの森 BOXⅠ品番:VPXY-75945
価格:¥30,000+税

【DVD】ピアノの森 BOXⅠ品番:VPBY-15856
価格:¥25,000+税

発売元:LDH pictures  販売元:バップ

アニメ
『ピアノの森』第2シリーズ

主人公のカイ(一之瀬海)が、森に捨てられたピアノに出会う。壊れかけたピアノと、そして、かつて“天才”の名をほしいままにしながら交通事故で左手を損傷してしまった阿字野壮介との出会いが密かにゆっくりと時間をかけて、天才カイの才能を開花。やがて、世界最高峰のショパン・コンクールを目指す俊英へと育っていく……。

2019年1月27日(日)24時10分より放送予定

※関西地方は同日24時50分からとなります

 

対談した人
反田恭平
対談した人
反田恭平 ピアニスト

1994年生まれ。本格的にピアノを始めたのは12歳。桐朋女子高等校音楽科(共学)在学中に第81回日本音楽コンクール第1位・聴衆賞を得(2012年)、2014年モスクワ...

牛牛
牛牛 ピアニスト

1997年中国・福建省厦門(アモイ)生れ。本名・張勝量(Zhang Shengliang)。6歳でデビュー・コンサート、8歳で上海音楽院に史上最年少で入学、陳宏寬Hu...

聞き手・文
小倉多美子
聞き手・文
小倉多美子 音楽学/編集・評論

武蔵野音楽大学音楽学学科卒業、同大大学院修了。現在、武蔵野音楽大学非常勤講師。『音楽芸術』、『ムジカノーヴァ』、NHK交響楽団『フィルハーモニー』の編集に携わる。『最...

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