大井健「クラシック音楽は知れば知るほど面白い」音楽活動を通して楽しみ方を提案
ピアニストの大井健さんにインタビュー! 初のクラシック作品のみで構成される3rdアルバムについて、幼少期の思い出も交えながら、じっくりとお話をうかがいました。ピアノデュオ「鍵盤男子」の勇退と今後の活動についても言及!
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...
2011年に“作曲家とピアニスト”によるピアノデュオ「鍵盤男子」を作曲家・中村匡宏と結成し、メジャー・デビューしたピアニストの大井健。
2015年には、アルバム『Piano Love』をリリースしてソロ・メジャーデビューを果たし、2017年には『Piano Love2』をリリース。デュオ、ソロともに活発な演奏活動を展開してきた大井は、ジャンルにとらわれない幅広いレパートリーと、卓越したセンスを活かしてメディアでも活躍。常に前進を続けてきたが、2020年には新型コロナウィルスの感染拡大によって演奏活動に大きく制限がかかる。音楽を常に多くの人々に届けるため、大井は「鍵盤男子」を勇退し独立。そして今年5月、新たなスタートを切り、サード・アルバム『reBUILD』がリリースされた。
コロナ禍で音楽活動を「再構築」
——『reBUILD』というタイトルは、やはり新しいスタートを切ったいまの大井さんを象徴しているのでしょうか。
大井 はい、これまでとは違ったテイストのものを打ち出したいという強い想いがありました。昨年、エンターテイメント業界はコロナ禍の影響で大きく打撃を受け、私自身も「鍵盤男子」の活動ができなくなってしまうなど、大きな変化の年となりました。そこで、“再構築”、“再建築”の意味をもつ『reBUILD』というタイトルに、コロナ禍で受けた打撃からの“スクラップ・アンド・ビルド”という決意を込めたのです。
——ジャケットのデザインも今までとは大きく変わったように思います。前2作は“鍵盤の貴公子”大井さんの柔らかな微笑みが印象的でしたが、今回はかなりクールな雰囲気ですよね。
大井 はい、今回はオトナなテイストを出したいと思い、色も表情もだいぶ変えました。今回ご一緒したカメラマンさんとスタイリストさんがとてもセンスにあふれた方々で、素敵に仕上げてくださいました。
思い出の曲を集めた念願のオールクラシックアルバム
——収録曲も冒頭のオリジナル曲を除いて全編クラシック曲となりましたね。
大井 これまでは、アルバムの中の“スパイス”のような役割で入れていましたが、何しろ私はクラシック・オタクなので(笑)、ずっと全曲クラシック曲のアルバムを出したいという願いがありました。今回それを実現できたことはとてもうれしいです。
——冒頭に置かれた大井さんの自作曲「Intro」からはクラシックの世界への扉を開くような力強い印象を受けました。
大井 最初にアルバムの世界観を象徴するような作品を作りたかったのです。そうでないと、どこにでもあるコンピレーションアルバムになってしまうかなと。全曲の録音が終わったあとに時間をいただいて、即興で一発録りしました。短調の作品ですが、暗さだけでなく、ジャケットカラーの深い青、水面からしぶきをあげて飛び出したときのような輝き、爽快感をイメージしています。
アルバム『reBUILD』より「Intro」
——印象的なイントロに続くクラシックの名曲はどれも美しい作品ですが、どのように選ばれたものなのでしょうか?
大井 思い出の曲や子どもの頃によく弾いていたものが多いですね。特にショパンの「ノクターン第13番ハ短調」は、中学生の頃、ずっと好きで弾いていた曲です。小学校のころにドイツにいたとき、当時の父の部下でピアノが素晴らしく上手な方が自宅で弾いてくれたのが出逢いで、弾きたい! と強く思い、自力で譜読みをしました。
学内の演奏会でも弾いたのですが、そのときちょうどモーツァルトの「ピアノ協奏曲第20番」を弾いていたこともあって、急にこのノクターンにカデンツァ(※演奏者の技巧や音楽性をアピールする部分)を入れたくなって……。本番で突然、曲の終わりのほうにカデンツァを入れて、倍ぐらい長く弾いたりしました(笑)。
アルバム『reBUILD』より「ノクターン第13番」
アレンジで自分のカラーを表現すると同時に、原曲にも興味をもってもらいたい
——中学生のころからアレンジや作曲に目覚めていたのですね。
大井 そうですね、子供の頃は特によく作曲していましたし、今でも作ることは大好きです。これまでの活動では、「鍵盤男子」で中村匡宏さんと“一緒に”作曲することが主な創作活動でしたが、これからは自分なりのカラーを打ち出した即興や、オリジナル作品にもどんどん挑戦していこうと思っています。クラシックのピアニストとして学んできたこと、活動してきたことが活きるような作品づくりができればと。
——レグルス・クァルテットとの共演によるラヴェルの「ピアノ協奏曲」やラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」も印象的な作品ですね。
大井 協奏作品を2曲、しかもオーケストラを弦楽アンサンブルに置き換えたのは新しい試みでしたが、大正解でした。レグルス・クァルテットのみなさんとの共演は刺激的でしたし、アレンジの新たな可能性にも気付くことができました。
この曲を知らなかった方が今回これを聴いて、ぜひ「原曲も聴いてみよう」となってほしいのです。やはり私自身がクラシック・ファンなので、私の演奏や活動を通してたくさんの方がクラシックに興味をもってハマってくださることがとてもうれしい。「鍵盤男子」で編曲したラヴェルの「ボレロ」も、私たちの作品と演奏がきっかけで原曲を聴くようになった、という方がいらっしゃいました。今回もそうなればいいなと思っています。
アルバム『reBUILD』よりラヴェル「ピアノ協奏曲 第2楽章」
アルバム『reBUILD』よりラフマニノフ「パガニーニの主題による狂詩曲 第18変奏」
デュオ「鍵盤男子」で得たものとこれからの展望
——現在のソロの活動の中でも「鍵盤男子」の作品を演奏されたり、今回もインタビューの中でたびたび言及してくださっていますが、やはり「鍵盤男子」はそれだけ大きな存在なのですよね。
大井 もちろんです。一度きりの人生で、中村さんという存在と出会えたことはものすごく幸せなことです。音楽はもちろん、仲間としても最高のパートナーです。彼とは常に音楽を通して真剣に“遊んで”きました。だからこそ、さまざまなことに挑戦してこれたのです。
——本当にお二人の演奏を楽しむ姿、そしてお互いへのリスペクトの強さは印象深いです。
大井 “勇退”はしましたが、それで私たちの関係が変わることは何もありません。そして、またどこかで2人の線が重なるところが出てくるはずです。そのときはきっと、新しい物語が生まれるはずです。
——最後に、ひとりのピアニストとして歩む中での目標について教えてください。
大井 まずはピアノ協奏曲をオーケストラと演奏したいです。今回のピアノ協奏曲を収録して、それをより強く思いました。
また、クラシックのピアニストだからこそ出せる“音”を活かして、さまざまなジャンルの作品を演奏していきたいと思っています。そして、もっとクラシックを好きになってくれる方が増えてくださったらうれしいです。
クラシック音楽は、作品自体はもちろん、作品が生まれた背景、作曲者の当時の心境や状況など、知れば知るほど面白いことがたくさんあるのです。そういうことをお伝えしながら、演奏や作品でたくさんの方にクラシックの楽しみ方を見つけていただければと思っています
日程:
静岡 2021年6月12日(土)富士市文化会館ロゼシアター中ホール
兵庫 2021年7月2日(金)兵庫県立芸術文化センター神戸女学院小ホール
大阪 2021年7月10日(土)南海浪切ホール
東京 2021年7月17日(土)浜離宮朝日ホール
富山 2021年7月22日(木祝)入善コスモホール
愛知 2021年8月22日(日)電気文化会館 サ・コンサートホール
北海道 2021年8月29日(日)釧路市生涯学習センター(まなぼっと幣舞)
北海道 2021年8月30日(月)幕別町百年記念ホール
北海道 2021年8月31日(火)札幌教育文化会館小ホール
北海道 2021年9月2日(木)北斗市総合文化センター(かなで~る)
長崎 2021年9月4日(土)佐世保市民文化ホール
福岡 2021年9月17日(金)福岡市健康づくりサポートセンターあいれふホール
群馬 2021年9月19日(日)高崎シティギャラリーコアホール
プログラム(予定):
バッハ(大井健編曲)/主よ、人の望みの喜びよ
ベートーヴェン/月光ソナタ、交響曲第9番《合唱》より
ショパン/革命のエチュード、別れの曲
リスト/愛の夢
シューマン/ミルテの花〜献呈
ラヴェル(大井健編曲)/ピアノ協奏曲より ほか
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