インタビュー
2024.03.24
特集「家族と音楽」

音楽で結びついた夫婦・成田達輝×萩原麻未対談〜日々の営みが音楽につながる

ヴァイオリニストの成田達輝さん、ピアニストの萩原麻未さんご夫婦にインタビュー! お二人の馴れ初めや初めて二人で弾いた曲、お子さんが生まれて変化したことなどをお話しいただきました。演奏家夫婦ならではの話題も。一緒に演奏して揉めることもあるのでしょうか……?

取材・文
室田尚子
取材・文
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

写真:各務あゆみ

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私たち聴き手からみると、人前で華麗な音楽を奏でる演奏家はある意味、スター。そんなスター同士が結婚したら、どんな家族になるのでしょうか。演奏家同士のカップルって結構多いのですが、その生活ぶりはあまり知られていません。1日中ずっと練習しているの? ご飯を食べるときにも音楽の話ばかりなの? 今回はそんな素朴な疑問を、ヴァイオリニストの成田達輝さんとピアニストの萩原麻未さんご夫妻にぶつけてみました。そこからは、音楽で結びついた素敵な家族のすがたが見えてきました。

生活の中で自然に音楽の話を

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——お二人はデュオコンサートもなさっていますが、家で音楽の話はされるんでしょうか。

成田 僕は子どもが生まれる前は、ああしてほしい、こうしてほしい、という要求が多かったんですが、今はほとんどなくなりました。一緒に弾いている時間が長いので、お互いに何を考えているのかわかる、というのもありますし、相手に求めるよりは一緒にこうしようというやり方に変わってきたんです。

萩原 初めて共演したのは2013年。それ以前、成田さんはピアニストに要求が多い人だと聞いていました。でも実際にはそんなことはなくて、お互いに自由でいられるという感覚を持ちました。

成田 麻未さんに出会う前、それこそ20代前半ぐらいまでは共演者に対して「自分はこう思う」という主張をかなりしていたと思います。でも、それが必ずしも音楽を高める手段ではないということに気づき、特に子どもが生まれてからは、より人の意見を受け入れることができるようになりました。今は麻未さんと生活を共にしているので、例えば夕食後にお皿を洗っているときに「そういえば、さっきのあの部分だけど……」と話したりします。もはや、公私混同ですね(笑)。

萩原 生活の中に自然に音楽の話が出てくるんです。料理もすれば皿洗いもすれば子どもの世話もすれば音楽の話もする、という感じです。

成田達輝(なりた・たつき)
ロン=ティボー国際コンクール(2010)で第2位およびSACEM著作権協会賞受賞、エリザベート王妃国際音楽コンクール(2012)にて第2位およびイザイ賞受賞、仙台国際音楽コンクール(2013)で第2位受賞。
著名指揮者および国内外のオーケストラと多数共演し高い評価を得るとともに、リサイタルや室内楽においても圧倒的なテクニックと多彩な表現力を披露している。現代作曲家とのコラボレーションも積極的に行っている。
海外での演奏活動も積極的に行っており、2018年、2019年には韓国平昌で行われた音楽祭に参加し、ソン・ヨルム、スヴェトリン・ルセフらと共演。2018年はミンスクで行われたユーリ・バシュメット音楽祭にも参加している。
使用楽器は、ストラディヴァリウス“Tartini”(宗次コレクションより貸与)。

萩原麻未(はぎわら・まみ)
2010年第65回ジュネーヴ国際コンクール〈ピアノ部門〉において、日本人として初めて優勝。第27回パルマドーロ国際コンクールにて史上最年少の13歳で第1位。
文化庁海外新進芸術家派遣員としてフランスに留学。
現在、日本、フランスを中心に、スイス、ドイツ、イタリア、ベネズエラ、ベトナムなどでソリスト、室内楽奏者として演奏活動を続けている。これまでに、国内主要オーケストラのほか、スイス・ロマンド管、フランス国立ロワール管、南西ドイツ放送響などとも共演を重ねているほか、フランスのラ・ロック・ダンテロン等の様々な音楽祭にも招かれている。
広島市民賞、第22回新日鉄音楽賞フレッシュアーティスト賞、第22回出光音楽賞、第46回東燃ゼネラル音楽賞(奨励賞)など多数受賞。

——音楽上で意見がぶつかりケンカになった、ということはないのでしょうか。

萩原 解釈の違いでぶつかった記憶はないですが、前に私が出演した演奏会を夫が聴きにきて、終演後に楽屋に来てあれこれ言われてムっとしたことはあります。アドバイスをもらえるのはありがたいんですが、そのときはまだ翌日にも演奏会が控えていたし、言い方と言うタイミングがあるでしょう、と(笑)。

成田 僕は聴いていると自分も一緒に弾いている気になって、自分だったらこうするのにと思ってしまうんです。

萩原 私も夫の演奏会に行って感想を言うことはありますが、例えば10思っても、翌日本番なら3か4に留めておく。そして、演奏会が一段落したら改めて言う、というふうにしていました。

成田 僕は逆にそれがもどかしい。そのときに全部言ってほしいんです。

萩原 それでお互い歩み寄って、夫は思うことがたくさんあってもマイルドに伝えるようになってきて、逆に私は思ったときすぐに言うようになりました。

成田 歩み寄りがとにかく大事ですね。

最初に一緒に弾いた曲はフランク

——またまたベタですが(笑)、お二人の馴れ初めを教えてください。

萩原 最初に出会ったのは2011年、パリの日本大使館で開かれた晩餐会の席でした。私は社交の場があまり得意ではなかったのですが、そのとき夫もあまり喋っていなくて、「私と同じような人がいる」と思ったのが第一印象です。その後2013年に、宇都宮文化会館の企画でデュオコンサートを開くことになり、そこから連絡を取り合って会うようになりました。

最初に二人で弾いたのはフランクのヴァイオリン・ソナタ。ヴァイオリンの弦が切れてしまい、二人で買いに行ったのを覚えています。

その後、友人を交えて4人でご飯を食べることになったんですが、急遽友人が来られなくなり二人で行くことに。もし初めから「二人で食べに行こう」と言われていたら断ったかもしれないですが、事情が事情なのでOKしたんです。そうしたら翌日から、けっこうな頻度でご飯に誘われるようになって、「一緒にご飯を食べる友達がいなくてすごく寂しいんだな」と思っていました(笑)。

成田 たしかにパリは寒いし、学生で一人暮らしでしたから寂しかったけれど、そんな風に思われていたとは……。僕、けっこうがんばって知っている限りのお店を紹介したりしたんですけど(笑)。

子どもが生まれて変わったこと

——先ほど成田さんから、子どもができて変わった、というお話がありましたが、ご自身の音楽について明確に変わったということはありますか。

成田 僕は音楽を演奏することを生業としていますが、それはただの生業ではなく、人生そのものだということ。それに気づくことができたのは、ひとえに娘の存在のおかげだと思っています。

それまでは、ただ音楽を演奏することばかりを考えていましたが、よりよく演奏しようとしたとき、何に思いをはせるかというと、それは生活なんですね。子どもがいて、自分たちの生活があって、毎日を生きていること。そうした日々の営みから音楽が生まれてくる。僕はできるだけ多くの人、特に若い人たちにそのことを伝えたいと思っています。

例えば中学生の生徒に「君は皿洗いをしたことがあるか」とたずねたことがあります。その子はポカンとしていましたが、生活を通して音楽について学ぶ、ということをできるだけ若いうちから認識してほしいと思うんですよね。

萩原 私は、産後2か月のときに1公演、コンチェルトを弾いたのですが、出産前後の数か月はピアノを弾くどころではなく、自分が舞台に戻るということがどうしても想像できないでいました。ある意味、舞台というものが自分の今いる日常とはかけ離れた世界になっていたんですね。

でも実際に本番を迎えてみて、そのときに多少のことでは動じなくなっている自分がいることに気づいたんです。出産という、音楽以外の人生の出来事の中でそれまでにないすごい経験をしたことで、メンタル面が大きく変わった。同時に、音楽は日常と地続きなんだという感覚が大事だと気づきました。

特に私たち夫婦の場合、日常の中に音楽があるということがとても大切だと感じています。

——お嬢さんは現在、2歳とのことですが、将来音楽を習わせようと思いますか。

成田 僕たちが練習室で演奏しているのをじっと聴いていることがよくあります。まだ1才になるかならないかの頃、数秒の沈黙のあとに無言で頷いたので、「この子、曲の終わりがわかるんだ」と思ったことがあります(笑)。

萩原 音楽は好きになってほしいですが、私から楽器をやってほしいとは思っていません。娘が自分自身で選んだ道に進んでくれるのがいちばんです。

成田 娘が音楽をやりたいって言い出したら、そのときはやってみたらいいと思います。でも今でも僕たちの演奏を聴いているし、音楽をやっているようなものかもしれません。

「おうちにいるときみたいに」というリクエストに、リラックスした表情を見せてくれたお二人。仲睦まじく素敵な音楽家ご夫妻で、終始笑いに包まれた取材でした。
公演情報
広島交響楽団 第27回廿日市定期演奏会

日時: 2024年4月20日(土)15:00開演

会場: ウッドワンさくらぴあ 大ホール

出演: クリスティアン・アルミンク(指揮)、萩原麻未(ピアノ)

曲目: モーツァルト/ピアノ協奏曲第27番変ロ長調 K.595、ほか

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ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024 精密な音は愛と共に自らのルーツへ

日時: 2024年5月3日(金祝)18:15開演

会場: 東京国際フォーラム ホールA

出演: 齋藤友香理(指揮)、萩原麻未(ピアノ)、神奈川フィルハーモニー管弦楽団

曲目: ラヴェル/ピアノ協奏曲 ト長調、ほか

詳しくはこちら

ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024 バロックの“定番”を照らす新しい光

日時: 2024年5月3日(金祝)10:00開演

会場: 東京国際フォーラム ホールC

出演: 成田達輝(ヴァイオリン)、横浜シンフォニエッタ 

曲目: ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集《四季》

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TRINITYISM(トリニティイズム)

日時: 2024年4月27日(土)14:00開演

会場: 浜離宮朝日ホール

出演: 三浦一馬(バンドネオン)、成田達輝(ヴァイオリン)、ロー磨秀(ピアノ)

曲目: ドビュッシー/月の光、プーランク/城への招待、ピアソラ/ブエノスアイレスの冬、アディオス・ノニーノ

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取材・文
室田尚子
取材・文
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

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