阪田知樹の「天使が弾いているようだ」と評される音色と超絶技巧~音づくりへのこだわりを深堀り
2016年にフランツ・リスト国際ピアノコンクールで優勝し、2021年にエリザベート王妃国際音楽コンクール・ピアノ部門にて第4位入賞した阪田知樹さん。どんな難曲も弾きこなす確かなテクニックに、「天使が弾いているようだ!」とも評される、人の心を一瞬にして捉える音色をもつピアニストだ。そんな彼が“王道”ともいえるプログラムを引っ提げてリサイタルを行なう。名曲ぞろいだが、これらには作・編曲家としても活躍する彼ならではの想いが詰まっている。
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...
J.S.バッハ/阪田知樹:アダージョ BWV564
J.S.バッハ/F.ブゾーニ:シャコンヌ BWV1004
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第23番 へ短調 Op. 57《熱情》
ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ
ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 Op. 58
“ソナタ・マニア”にとってのベートーヴェンとショパンのソナタ
阪田 一見すると有名曲を並べたように見えるかもしれませんが、それぞれに思い入れがあって、“いま”の私だからこそできるものをお聞きいただきたいと思って選曲しています。
ショパンの「ピアノ・ソナタ第3番」は、ロマン派以降のソナタの中でトップ3に入る大好きな曲です。10代の頃から弾くようになり、デビューアルバムにも収録しました。しばらく封印していたのですが、時間が経った今だからこそ見えるものがあると思いますし、今回東京オペラシティコンサートホールの透明感のある豊潤な響きの中で演奏することで、よりそれを味わえるかなと。
ラヴェルの《高雅で感傷的なワルツ》も今回の会場だからこその選曲です。
――前半にはベートーヴェンの《熱情》もありますね。
阪田 ベートーヴェンのソナタは小学生の頃からずっと勉強しており、節目のリサイタルでは必ず入れるようにしています。また、ショパンのソナタをよく見ると、彼がいかにベートーヴェンを研究していたかがわかります。一見相容れないように見える2人ですが、ベートーヴェンが用いた楽曲構成や創作上のアイディアを、ショパンはかなり取り入れているのです。
コロナ禍で編曲したバッハ《アダージョ》
――ロマン派以降の作曲家たちは、ベートーヴェンがソナタで残した偉業のあと、自分たちが何をすべきか模索して、自分の書法を確立していったところがありますよね。そして今回は、そのベートーヴェンが敬愛したバッハの作品も2曲プログラムに入っています。そのどちらも編曲作品というのが興味深いです。
阪田 《アダージョ》(BWV564)の編曲は2020年、コロナ禍の影響であらゆる演奏会が中止になってしまい、“何かしなくては”と思い書いたものです。イ短調の作品ですが、ピアノ編曲にあたり嬰ハ短調にしたことで、印象がかなりかわっています。この曲はブゾーニの編曲があり、そのオマージュの意味も込めています。
それが今回もう一つ演奏するバッハ=ブゾーニの《シャコンヌ》へとつながります。私の《アダージョ》もブゾーニの《シャコンヌ》もかなりロマンティックな仕上がりだと思うのですが、バッハの楽曲というのはあらゆる可能性が開かれた作品ですから、これもアリだと思うのです。
作曲はまずピアノを使わずに行なう
――阪田さんが編曲をする際の選曲や、心がけていることを教えてください。
阪田 大前提として、好きな曲を選んでいます。そのあと、その曲をピアノ曲に落とし込めるか、ピアノで弾くことで新しい可能性を提示できるかどうか、ということを考えます。“やっぱり原曲がいいね”となってしまったら意味がないので……。
――作曲する際はどのように書いていらっしゃるのですか?
阪田 基本的に、オリジナル曲を書くときはまずピアノを使わずに行ないます。弾きながら書いてしまうと、どうしても自分の手の癖などが出てきてしまい、アイディアに制約が出てきてしまいます。頭で鳴っている音をまず楽譜に起こし、ある程度形にしてから、実際に音を鳴らして確かめるようにしていますね。
中・高生の時、“練習曲”と名の付く楽譜を片っ端から集めて弾いていた
――あらゆる作品を自在に弾きこなす阪田さんですが、ご自身の作編曲作品でもかなり高度な技術が散りばめられています。それを実現できるのは、当然阪田さんが超絶技巧をもつピアニストであるからだと思うのですが、その技術はどのようにして磨かれていったのでしょうか。
阪田 中学・高校生の時、“練習曲”と名の付いている作品の楽譜をとにかく集めて弾いていました。ショパンやチェルニーはもちろんですが、クラーマー=ビューロー、モシェレスにアルカン、ゴドフスキーなど、色々ですね。また、楽譜に書いてある解説もよく読んでいて、ある記述にモシュコフスキの練習曲とケスラーの15の練習曲を併用すると効果があるというものがあって、それを実践したり……色々していました。当時ケスラーが絶版になっていたので、必死に探して入手したのも覚えています(笑)。
――いまでも色々なエチュードを日常的に弾いているのですか?
阪田 色々試して実際に指ならしに使うものもありますし、練習曲に限らず、何かの曲の中で日常の練習に使えそうなところを抜きだしたり、ということもしていますね。ピアノで練習するというのは、料理人が包丁を研いでおくような感覚だと思います。怠れば誰だって技術は落ちますし、何か音楽的表現をするにしても、技術がなければ難しい。当たり前のことではありますが、技術を磨くことは常に心がけています。
美しい音色の秘密はさまざまな体験から
――阪田さんの音色の美しさも磨き抜かれた技術があるからこそだと思うのですが、技術的なこと以外に気をつけていることはありますか?
阪田 ピアノ以外の楽器や声楽家の声など、様々な音色を自分の中に蓄積しておくことですね。ピアノはたくさんの可能性をもった楽器ですが、やはり声などに比べると音色の変化の幅は少ないと思うので……。生の演奏会に出かけて感動したり、美しい風景を見ることも大切ですね。やはり内面から湧き出てくるものというのはあると思いますから。
――今回のリサイタルでは、阪田さんがこれまで培ってきたもの、そして“いま”をお聴きいただけるものだと思いますが、今後の目標についてもお聞かせいただけますか。
阪田 今年はいろいろなコンチェルトを弾く機会に恵まれていて、とても充実した日々を過ごしています。演奏ではそれらを大切に弾いていくことが目下の目標ですが、作曲についても、実は今までピアノ・ソロの曲を書いたことがなかったので、どこかのタイミングで挑戦したいと思っています。
日時:2023年1月27日(金) 19:00
会場:東京オペラシティ コンサートホール
曲目:
J.S.バッハ/阪田知樹:アダージョ BWV564
J.S.バッハ/F.ブゾーニ:シャコンヌ BWV1004
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第23番 へ短調 Op. 57《熱情》
ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ
ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 Op. 58
問い合わせ:ジャパン・アーツぴあコールセンター 0570-00-1212
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