飯田有抄と音楽でつながる仕事人たち。

第4回:絵本作家・イラストレーター 本間ちひろさん

インタビュー
2017.10.15

楽譜は中に書かれた音符が一番大切ですが、表紙や挿絵が美しいと、手にとって演奏してみたいという気持ちが上がるものです。樹原涼子さんのピアノ曲集『こころの小箱』が出版されたとき、その表紙や挿絵にも強く印象に残った方が多いのではないでしょうか。続く『夢の中の夢』、そして『やさしいまなざし』の表紙も、弾かないときも譜面台に置いて飾っておきたくなるくらい素敵です。今回は、装画・挿絵を描かれている本間ちひろさんのもとを訪ねました。場所は、本間さんが普段からお付き合いのある「こどもの本専門店 ブックハウスカフェ」。可愛らしい絵本に囲まれながらお話を伺いました。

仕事人
本間ちひろ 絵本作家・イラストレーター
本間ちひろ
仕事人
本間ちひろ 絵本作家・イラストレーター
1978年、神奈川に生まれる。東京学芸大学大学院修了。   2004年、『詩画集いいねこだった』(書肆楽々)で第37回日本児童文学者協会新人賞。  ...
聞き手・文
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター
飯田有抄
聞き手・文
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター
1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。   20...
目次

絵本作家さん、楽譜の表紙を描く

「やさしい気持ち」を絵で届けたい

――樹原涼子さんの一連の楽譜、本当に美しいですね。表紙はもちろん、中の小さな絵も音楽の世界観に合っていて、何度も弾きたくなる楽譜たちです。

本間 ありがとうございます。1冊目は『こころの小箱』。これは2011年7月に出版されました。つまり東日本大震災の4ヶ月後でしたね。

――日本中が大きなショックと悲しみに包まれていた時期でした。樹原さんも「ひとりでも多くの方の心に、やさしく寄り添うことができたら」という思いを込められた曲集です。表紙のイメージは、どんなふうに描こうと思われたのでしょうか。

本間 東京にいても、ものすごくショックを受けていましたから、そんなときに音楽や絵を世に送り出すなら、何ができるだろうかと真剣に考えました。

 私には「悲しみが癒える」という感覚は、よくわからないんです。悲しみは消えない。そこに悲しみがあることを受け止め、受け入れ、慣れていくしかない。でも、いっぱい泣いて、自分の中でそれがいつか、キラキラ光るお星さまのようになったらいいな、という気持ちを込めて表紙の絵を描きました。実際はそんな生易しいものではないと思いますが、ピアノの前にいるときだけでも、心を休めてもらえることがあったら……と思いました。

 

――曲ごとに添えられた小さな絵も、作品の雰囲気に寄り添ってくれる感じですよね。

本間 私は音楽の専門家ではないのですが、樹原さんがよく「譜面(ふづら)」というお話をされているので、私も楽譜の見た目そのものから感じ取れるものを意識しましたし、曲を聴いて、編集者さんともイメージを擦り合わせていきました。

――『やさしいまなざし』の水彩タッチも美しくて可愛らしくて、この世界観、わたし大好きです。

本間 作品にかけた樹原さんの思いを伺い、音源を送っていただき、「ノスタルジー」をテーマに描きました。曲を聴いていたら、子どもの頃を思い出したんです。九州の梅雨時の様子、夏の緑、そういえば雨が降ったら偏頭痛がしたなぁ、なんてことまでも。浮かんだ情景を絵にしたら、樹原さんが「私の実家の庭にそっくり!」と言ってくださって。私、そういう、何か見えちゃう能力があるのも!? なんて思いました(笑)。

――最新作『風 巡る』も出ましたね。

本間 この表紙絵には樹原さんの出身地である熊本の和紙を使っています。熊本でも震災があって、その3ヶ月後に書かれた作品も収められた楽譜です。熊本の木を使い、熊本の風や水をいっぱいに吸い込んだ紙に描きたいと思いました。

――和紙でしたか。こちらも、絵から漂うやさしい風合いがなんとも言えません。

熊本の和紙を使った原画は、大きくゆったりと描かれていた。

本間 「やさしい気持ち」は私にとって大きな柱です。2011年に、新美南吉の『木の祭り』という童話に絵を付ける仕事をしていたのですが、途中で震災があり、その前後で絵を描く気持ちがガラっと変わってしまいました。それまでは、かっこいい作品を作りたいなとか、児童文学で自分にできる新しい表現はないかなと、どの作品も懸命に模索しながら取り組んでいました。

 でも震災が起こってからは、「これから絵を見る人たちは、みんな大きな悲しみを経験した後の人たちなのだ」と思ったら、もう、「やさしい気持ち」がお届けできればそれでいい、それ以上でもそれ以下でもなく、と考えるようになりましたね。

子どもの成長を、表紙で描く

――楽譜の表紙を手がけていらっしゃいますが、実は本間さんのご職業は「絵本作家」さんなんですね。

本間 はい。『いいねこだった』という詩画集で、日本児童文学者協会新人賞をいただいたことは、作家としてのスタートにおいて運がよかったです。その後、絵本の絵と文の両方を手がけたり、名作童話の本に挿絵を描いたり、外国の絵本の訳書を手がけたりしてきました。

――絵本作家さんになるために、ずっと絵の勉強をなさってこられたんですか?

本間 絵を描くのは好きでしたし、子どもの頃に長崎にいて絵の教室に通っていたこともありました。でも、「絵で食っていく」なんてあまりイメージできませんでした。芸大を6浪して受かったというような話を聞いて、まぁそれも珍しくないケースだとは思うのですが、母が「浪人するなら、その間に一つ大学に行って、教員免許とか何か『食っていける』ような資格をとって、それから美大を目指したら?」と言ってくれたんですね。

――なんと堅実なお母様!

本間 じゃあ東京学芸大学の教育学部に行って、あとから絵を勉強しようかな、と。専攻は国語教育の児童文学で、大学院に進んで童謡や詩について研究しました。

児童文学で歴史がある早稲田大学にも、ティーチング・アシスタントの仕事で出入りしていました。そこで早稲田の学生だったクラシック・ギタリストの日渡奈那さんと出会い、そのお知り合いのお知り合い……というような流れで、樹原涼子さんとの出会いがあったのです。

――なるほど! 出版社からの依頼ではなく、樹原さんご自身からのお声がけが最初だったのですね。

本間 そうなんです。あるお食事会で出会ってから何年も経った2011年、お電話をいただき、「ちひろちゃんの『いいねこだった』を見て、これだと思ったの!」と。

――その後2015年には、小さな子ども用のテキスト『ロシア奏法によるピアノ教本 はじめの一歩』シリーズの表紙と挿絵も描かれています。この表紙も私のツボでして、1巻目のリスの可愛いことといったら。キュンときます。

本間 これも「やさしい気持ち」を描きたいな、と。親子かもしれないし、先生と生徒かもしれないけれど、子どもと大人がピアノの前で過ごす「やさしい貴重な時間」を大切に思ってほしいな、と。

 たぶんママたちは、お子さんがピアノに向かっているとき、「可愛いな」だけじゃなく、ときにはイライラっとするかもしれないですよね。でも、まだ上手く弾けない時間も貴重な時間。弾けないのが弾けるようになっていくわけだから。あどけない姿を、やさしい眼差しで見てほしいなと思って。教える時間、見守る時間の大切さ。

 表紙の絵は、4冊を通じてちょっとずつ成長していくんですよ。

――そうなんですか!?

本間 1巻では、まだ自分だけが弾くのを見守ってもらっている子どもですが、2巻では、見つめ合って音楽を楽しむお友だちができました。ピアノの上のハリネズミは、よく見るとトライアングルを持っています。小鳥も一緒に歌っています。

音楽とは叙情的で詩的な世界を表現できるもの。そこで3巻では、三日月さんがやって来てピアノを弾いたら……という詩的なイメージを広げてもらいたいと思って描きました。まぁ、リスの親子がキノコの椅子に座ってるのだって、全然現実的ではないですが(笑)、もっともっと叙情的に。そして4巻では、音楽で誰かを楽しませてあげる姿です。ピアノの周りで成長していく姿なのです。

――なるほど! くぅ~……(悶絶)

本間 一応、リスはリスでも、ロシアの本なので、ロシアにも生息しているリスを調べて描いたりしているんですけどね~。

――1~3巻はピアノがアップライト型ですけど、これは何か意図はあるんですか?

本間 お部屋の中でアップライトだと、ちょっと現実的すぎるので、外に出しちゃいました! グランドピアノをお外に持ち出すのは、ちょっともったいないかな、と思って(笑)。絵が子どもたちの日常から切り離れすぎるのはどうかな、というのもあります。もちろんグランドピアノを弾くのが日常という子もいるとは思うけど。

 今の子たちは、わりとかっこいいデザインのものに慣れていますよね。ピアノのお稽古というと、可愛いフリル系のデザインでも喜ばれるかも? とも思いましたが、可愛いものをもつのが苦手な子もいる。

 子どもたちは、ある日は河原で泥んこになって遊ぶし、ある日はピアノを弾く。そういう彼らの日常を考えると、フリル系に偏りすぎてはいけないかな、と。表紙ではデザイナーさんが絵の上に文字を乗せていますが、可愛すぎない感じになったので、すごくいいと思いました。

『おむすびにんじゃの おむすびぽん』の挿絵(左)と『ロシア奏法によるピアノ教本 はじめの一歩①』の表紙絵の原画。さまざまなタッチで描いていて、まるで別のイラストレーター作品のよう。
お手紙文集『ピッピちゃん、こんにちは!』の表紙絵の原画。
こちらも印象的な世界観に惹きこまれる。

だれでもみんな、「表現」がしたい!

絵本を与える大人たちに伝えたいこと

――絵本の世界って、大人になると「かわいいな」とか、「いい話だな」とか、そういう目線でしか見られなくなったりしますが、本間さんは大学院で児童文学の研究をなさっていたのですよね。「児童文学を研究する」とは、いったいどんなアプローチをするのでしょうか?

本間 たしかに「子どもでもわかるものを、なぜ大学でお金を払って勉強するの?」と一般の人は思うかもしれないですね。

 私の場合、研究テーマは「児童文学の戦中と戦後」でした。「戦意高揚」のために児童文学が利用され、創作を通じて戦争に加担してしまった児童文学者たちがいました。当時彼らは悪気なく、良かれと思って創作をしていたかもしれません。中には戦時中の人々の悲しみが伝わるような作品もあるのですが、知らず知らずのうちに彼らは「戦争協力」することになっていたのです。

 終戦後、彼らは、「少年文学宣言」を掲げる若手の作家たちの間で批判されたり、彼ら自身も罪悪感に苦しんだりすることになりました。調べていくうちに、誰にでも「戦争に加担してしまう」可能性があるのかもしれない、と感じました。戦後70年以上たった今は、当時糾弾された作品を墨塗りするかのように排除・批判するだけでなく、何があったのか、どうすべきだったのかを、落ち着いて考えていくことも大事だと思います。

――「まさか」と思うような場所にも、イデオロギーは潜んでいるのですね……。

本間 絵本は可愛らしいものだけれど、時代や与えようによっては戦争につながる思想も隠れているかもしれないなんて、普通は考えないかもしれません。でも、もし若い人たちがこれから絵本を描きたいと思うなら、自分が母や父になるのなら、意識していてほしい。

 戦争の問題に限らず、子どもの文学は子どもが判断できるわけではないので、大人がしっかりと判断し、何を良きものとするかは、みんなで考えていくことが大切です。「若い人たちにそれを伝えていかなくてはならない。体系的に俯瞰し、落ち着いて判断する目を育てたい」と思い、数年前まで白百合女子大学で授業をしていました。

平和っておいしいね!

――「児童文学の戦中と戦後」についての研究や授業、とても意義深いご活動ですね。

本間 今は大学での授業はしていません。3年前に夫の転勤で大阪に引っ越すことになり、これも一つの転機かなと考えて大学を辞めました。でも、「平和」については、ずっと考え続けています。

 「平和」といっても、政治家の言う「平和」、法律の中に謳われている「平和」、歌や詩の中の「平和」は、同じでしょうか。声の大きい人の言う「平和」と、「私」の「平和」は違うかもしれない。言葉は社会のものであると同時に、自分のものでもあります。

 「戦争反対!」と唱えるのも大事だけど、「私」の中の「平和」を、みんながそれぞれ美しい作品として表現することができたなら、この世から完全に戦争を無くすことはできないかもしれないけれど、何かプラスにはなっていくのではないかと思いました。

 それで、「平和っておいしいね!」という展覧会を始めたのです。

――「平和っておいしいね!」展。明るさがあって、魅力的なネーミングですね。これは本間さんが「平和」を表現した作品の展覧会なのでしょうか。

本間 はい、最初はひとりでポツンとやっていたんです。でも知り合いの喫茶店の方から、「本間さん、これ一人でやりたいの? それとも広めたいの?」と訊かれました。「どちらでもいいんです」と答えたら、その方は知り合いの喫茶店にどんどん声をかけてくれて、次の年からは複数の喫茶店で複数の絵描きさんが加わってくれるようになったんです! もちろん大阪でも継続してやりました。この春、大阪から東京に戻ってきたので、また東京で再開したいと思っています。

表現のお手伝い~子どもたちへのワークショップ

――いろんな人のいろんな「平和」の表現が展示されていると、見る側も「平和」について考える機会を与えられますね。

本間 見にきてくださった方々も、それぞれに平和のイメージをお持ちだと思います。多くの方から、よくこんなことを言われました。「いいわね、本間さんは。思ったことを絵で表現できて」、「私はうまく表現できないから羨ましい」、「平和が良いことだと思っているけれど、それを表に出す方法がわからない」などなど。

 それで気がつきました。みんな、表現がしたいんだ! と。絵描きさんたちは放っておいても表現します(笑)。だから、私が声をかけるべきは、表現したいけどできていない人であり、その人たちの表現のお手伝いをするべきなんじゃないか、と。表現って、すごく楽しいのに、もったいない!

――表現のお手伝い!

本間 ちょうどそのころ、オランダの絵本作家ミース・ファン・ハウトさんの『どんなきもち?』(西村書店)という絵本の翻訳をやりませんか? というお話をいただきました。「わくわく」とか、「もじもじ」とか、「しょんぼり」とか、「むしゃくしゃ」とか、いろんな気持ちの言葉と、それを魚の絵で表している本です。

オランダ版(奥)と本間さんが翻訳した日本語版。日本語の文字もハウトさんが描いている。

 作者のハウトさんは、この本を題材として、オランダで「気持ちを魚の絵で表現する」というワークショップをやっていたんです。ご本人のホームページでワークショップの様子をご紹介されているのを見て、「これはいいな!」と。日本の担当編集者さんと話し合って、日本のシャイな人たちも参加しやすいワークショップを考えることにしました。

 とはいえ、絵を描いたあと、発表タイムもあります。恥ずかしがる子どもも、やってみると嬉しそうに発表してくれます。いろんな人の、いろんな気持ちザカナに、参加者みんなで感心したり、ニッコリしたり。あぁ、表現って楽しい!

――「平和」も「気持ち」も抽象的なものだけれど、「わくわく」や「しょんぼり」は自分の気持ちだから、絵を描き慣れていなくても、できそうな気がしますね! 楽しそうです。ワークショップ、どうやってやるんですか?

本間 まず『どんなきもち』を子どもたちの前で朗読します。「みんな目をつぶってください。何も見えなくても、自分は今ここにいるってわかりますよね。それは、自分に心があるからです。これから気持ちの海に飛び込んでいろんな気持ちのお魚さんに会いにいきましょう」と言って読み始めます。

 読み終わったら、「今度はみんなで、心の海に飛び込んでもらいます。プールや海に入る前になにをする?」と訊くと、たいてい「準備体操!」って答えてくれます。「みんな、これから絵を描くので緊張しているかもしれないね。体がこわばったまま海に飛び込むとうまく泳げないから、クレヨン準備体操しましょう! 楽しい色のクレヨンを1本選んで持ってください」

――「せんせい、もちました!」

本間 「はい、そうしたら、元気な線をぎゅーっと描いてください。次は恥ずかしいな~、隠れたいな~っていう線。次は迷ってる線、スキップしてる線……」。

 そんなことをやって、子どもたちにストレッチさせます。他にも好きな色を重ねて塗ってもらったりすると、クレヨン1本でみんなの気持ちが変わったりするんです。みんなでやると、すごく楽しいですよ。大事なのは、クレヨン1本と自分の心がつながっているのを感じること。それを大切にすると、どんな人でも上手な絵をかけます。

――なんだろう……これ……思いのほか、楽しいです(笑)

本間 でしょう? じゃあ、自分の気持ちをお魚さんで表現しましょう。

――「せんせい、かけました」。

本間 これはどんな気持ちのお魚さんですか?

――本間さんに会えて嬉しい、ハートウォーミングな気持ちのお魚さん。

本間 (笑)。もう1枚、色画用紙を変えて描いてみましょうね。

――はい……できました。

本間 今度はどんな気持ち?

――がんばるぞ! の気持ちのネコです。(編集部註:飯田さんは取材の次の日、コンサートの出演がありました)

本間 お魚さんだよ、って言ってるのに(笑)。

――あっ! ネコ描いちゃいました!

本間 いえ、いいんです、いいんです、必ずいるんですよ、こういう子が(笑)。お魚さんだよ、って言ってるのにタコばっかりたくさん描く子とか。でもそうやって、世の中は楽しく広がっていくんですよね。大好きです。

▼ 本間さんがワークショップを実演! どんな絵が飛び出すでしょう?

――ありがとうございます……。ところで、これはなんという画材なんですか?

本間 オイルパステルです。だれでも使えます。手でこすって、フワフワ感を出したりすることもできます。お絵かきワークショップで大事なのは、失敗したら即、紙を変えることです。紙くらい、いいじゃないですか、ケチケチしないでどんどん描く。

 ときどき、大きな画用紙に小さい絵を描く子もいます。そのとき「もっと大きく描きなさい」とか言ってしまう親御さんがいるんですね。でも、その子には小さいものを描きたいという、その気持ちがあるんですから、それを大事にしてあげたいです。ワークショップでは、大人が余計なことは言わないようにとお願いしています。

――やさしい先生だなぁ。

本間 このワークショップは、書店や出版社さんとの連携で子どもから大人までを対象に行なっていますが、大阪では国語教育の研究会で講演し、学校の先生方にもご紹介しました。

 また『どんなきもち』は、リコーダー奏者のお友だち、織田優子さんと組んで、音楽と一緒に読んだりしています。織田さんは、小学校の縦笛のクラスでゲスト講師などを務めている人。子どもたちにも馴染み深い楽器リコーダーで、たった2~3音で気持ちを表現してくれています。「これなら子どもたちにもできますよ」と音楽の先生たちに提案をされています。リコーダーじゃなくても、机でリズムを叩いたりといったことでもできますよね。

 織田さんに教わったことですが、音符をなぞるために「音符を覚えなさい」、「楽譜を読みなさい」と子どもたちに言うよりも、「自分の気持ちを音で伝えるために音符があるんだよ」というところから入れば、音符の勉強もずっと楽しくなるんじゃないでしょうか。

『ともだちになろう』の翻訳作業のときのメモ。言葉を音符にしながら、各場面に合う言葉のメロディを考えていく。音符にすると、担当編集者にも、その訳語を選ぶ音楽的理由が伝えやすいのだそうだ。

▼『どんなきもち』:子どもたちが真似しやすいように、リコーダーは少ない音数で表現!

▼『ともだちになろう』:織田優子さんのリコーダーのメロディで絵の世界が広がる!

本を真ん中において、楽しいことがしたい

理想を語り、行動していく本間さんの強さ

――本間さんの「表現のお手伝い」は、これからも展開していくのでしょうか。

本間 そうですね、絵本を読んで・お絵かき準備体操・描いた絵の発表というワークショップは、これまでに17回ほど本屋さんで開いてきましたが、「表現のお手伝い」はいろいろな形でやりたいです。

 楽譜の絵を描くことも、ワークショップも、「表現のお手伝い」という意味では、私の中でつながっているんです。私が絵を描いた樹原涼子さんの楽譜や、ロシア奏法のテキストは、プロのピアニストがオーケストラと弾く協奏曲の楽譜とは違います。もちろん樹原さんの作品をプロが演奏するコンサートもありますが、弾く人が家庭で楽しみ、愛するための楽譜、ということを大切に想っています。ピアノを弾くことも自己表現の一つですから、楽譜の絵で弾く人の自己表現のお手伝いができればと思って描いているんです。

――ご自身の作品が高く評価されたらいい、とか、書いた本が売れたらいい、という思いは絵本作家さんにもあるとは思うのですが、お話を伺っていると、本間さんは「人が表現すること」、「児童文学の歴史」、「平和」など、大きな流れを見据えながら、目指しているものに向かって突き動かされているように思えます。

本間 児童文学の読者である子どもたちは、大人よりも、遠い未来を生きます。だから、100年、200年先の子どもたちのことも大切に想いながら、今を考えていたいです。

 戦後から72年が経ちますが、日本の子どもたちがのびのびと本を読める時代が70年以上も続いたというのは、すごいことだと思うんです。日本が平和で、外国と戦争をしていないから、海外からの素晴らしい児童文学も、子どもたちは自由に読むことができました。

 その中の一冊に、スウェーデンの児童文学者アストリッド・リンドグレーンの『長くつ下のピッピ』(岩波書店)があります。世界一強い女の子の物語です。日本が終戦70年を迎えた2015年、ちょうど「ピッピ」の物語も70周年を迎えました。70年が重なるなんて、おめでたい、祝福すべきことですよね。それでこの年にはお祝いのイベント「ピッピと平和の70年! 平和ってステキ」をやりました。大人も子どもも一緒になって、みんなで「ピッピちゃんにお手紙を書こう!」という取り組みです。西村書店さんから、お手紙文集『ピッピちゃん、こんにちは!』も出版されました。

イベント「ピッピと平和の70年! 平和ってステキ」でピッピちゃんにお手紙を書いたものを綴じたものと、お手紙につける自作の切手(手前)。イベント用に、アストリッド・リンドグレーンの紹介をビッグサイズの本に(左奥)。

――楽しそうですね! いろんな人が参加されたんですね。5歳の女の子、小学校3年生の子、翻訳家、哲学者、図書館員、93歳の児童文学者……!

本間 戦後71年、72年にも、お手紙イベントを続けていて、書いたお手紙に手作りの切手を貼ってもらったり、わたしがピッピになりかわって、子どもたちにお返事を書いたりしています(岩波書店さんにも許可をいただいて)。

 リンドグレーンの『暴力は絶対だめ!』(岩波書店)という本もピッピと一緒に紹介しています。みんなで楽しみながら、平和と文学の素敵さについて考えることができました。書いたお手紙は、参加者だけにお配りする手作り文集にしたり、書店に展示したりしています。

 「長くつ下のピッピちゃん」は9歳です。9歳の子どもに向けて言葉を綴るとき、大人も自然とやさしい気持ちになるような気がします。それは、「児童文学」という表現分野の魅力を体験していただけることなのかも! と思っています。

――次々と行動に移されて、本間さん、すごいです!

本間 本を真ん中にして、何をどうやったら楽しいか、いつも新しいアイディアを練っているんです。何か実行しようと思ったとき、「たとえ、だれも来てくれなくても、心を折らないぞ!」って決めています(笑)。始めちゃうと、応援してくださる方も出てきます。

――本間さんの「やさしい気持ち」「平和への思い」に共感する人たち、ですよね。

本間 やさしい気持ちと平和への願い、とか言っていると、「じゃあおまえはそれだけ優しい人間なのか」と言われそうですが、はたからのツッコミを考えると動けなくなってしまうので、そこは考えないことにします。理想は語っていかないと。

――本間さん、強いです。ピッピみたいですね。

これから取り入れたいことの一つ~手話

――ところで、本間さんに影響を与えている絵本作家や児童文学者はいますか?

本間 影響というか、刺激を与えてくれるのは、ワークショップで出会う子どもたちの絵ですね。すごいですよ。「サンバな気持ち」とか「ねばねばな気持ち」のお魚の絵とか、おしゃれで。絵は、下手も上手もない。気持ちが表現できていたら、それが、最高にいい絵。

――これからやってみたいことはありますか?

本間 手話を覚えたり、手話の絵を描きたいなと思っています。震災のときに、児童文学や昔話の朗読音源を被災地の臨時災害FM局にお届けする活動をしました。そのとき、NHKのラジオ番組に出演したりして、いろんな人に知られるきっかけとなり、「手話で何かお手伝いできることがありませんか?」と声をかけてくださった手話通訳士の方がいました。でもそのとき、私は手話をうまく活動に取り入れることができなかったんです。

 「災害弱者」という言葉がありますよね。サポートを必要とされる方が、災害時に困ることがあると聞きます。せっかく手話での協力を提案いただいたのに、自分はそれを活かすことができなかった。それがずっと心残りだったんです。

 それで、絵本を読むイベントのときに手話通訳をお願いしたり、手話の絵で個展をしたりしました。震災のときに出会った手話通訳士さんは、その後お友だちになって、今こちらのブックハウスカフェで手話講座を一緒に開いているんですよ。『どんなきもち』と『ともだちになろう』の絵本は、手話で表現するのも楽しいし、手話のテキストとしてもすごくいいんです。

 ちなみに、今後の手話講座で、先生の手話をその場で私が絵にしていく「手話講座ライブスケッチ」をします。はじめての試みなので、まずは、これをみなさんに楽しんでいただけるものにするのが、今の目標です!

喫茶店でコーヒーを飲むとき、手話を使う友人が「ス(ストレートで)」とサインを出したのがかっこよくって描いた、猫の絵。バーでウィスキーを注文するときにも使えそう!
イラスト:飯田有抄

撮影協力:子どもの本専門店 ブックハウスカフェhttps://www.bookhousecafe.jp

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