インタビュー
2018.12.18
12月23日「VOCES8」来日クリスマスコンサート直前インタビュー

英国発ヴォーカル・アンサンブル「VOCES8」が誘うアカペラの世界~国境を超えてメッセージを伝える合唱

英国発ヴォーカル・アンサンブル「VOCES8」は、誰もがもちながらもっとも扱いが難しい楽器「声」を極限まで研ぎ澄まし、世界中のリスナーを魅了している。2011年の初来日以来、日本の合唱・声楽ファンを虜にしてきた彼らが、今年もクリスマスプレゼントを携えてやってくる。
「合唱は教会で発展して生まれてきたものだが、宗教の枠を超えてポジティヴなメッセージを伝えることができる」と考えるスミス兄弟。
クリスマスソングから往年の名曲カバーまで、VOCES8のこれまでの作品を紹介しつつ、クリスマスコンサートの聴きどころを伺った。

取材・文
東端哲也
取材・文
東端哲也 ライター

1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...

写真:弘田充

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英国のウェストミンスター寺院聖歌隊の出身者を中心とした、現在「ソプラノ×2」「アルト」「カウンターテナー」「バス×2」の8人からなるVOCES8(ヴォーチェス・エイト)は世界でもっとも洗練され、かつ刺激的なア・カペラ・グループとして、今や声楽アンサンブル・シーンを代表する存在。2011年の「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」で初来日以来、これまで何度も日本の聴衆を沸かせてきた彼らが、この冬2年ぶりのジャパンツアーを実施。その全国8都市・計10公演のフィナーレを飾るのが12月23日(祝・日)に東京オペラシティで昼と夜に開催されるコンサートだ。特に今回は、夜の部のプレミアム・ライヴ後にスペシャルな「パーティー」(参加費別)もあるとのことで、早くから話題を集めていた。

そんな今年のゴージャスなクリスマス・プログラムについて、初代音楽監督で現在は(教育プログラム等でめざましい成果をあげている)ヴォーチェス・カンタービレ音楽財団(VCM)のCEOであるポール・スミス氏(兄)と、現音楽監督でカウンターテナーを担当しているバーナビー・スミス(弟)のスミス兄弟にお話を伺った。

――『WINTER(ウィンター~冬のア・カペラ)』(2016年録音)というアルバムもありましたが、やはりクリスマス・シーズンに生で聴くVOCES8の澄んだ歌声と、天上の調べを思わせる完璧なハーモニーは最高です。

ポール 来日の度に皆さんの厚いおもてなし、音楽に対する敬意と深い理解に感激しています。この時期を日本で過ごすことができて嬉しい。クリスマス・コンサートは何度やっても楽しいものですし(笑)。

ヴォーチェス・カンタービレ音楽財団(VCM)CEO、ポール・スミスさん

――今年はスペシャルな「パーティー」付き公演(夜)も目玉です。クリスマスには厳かで敬虔な側面もあれば、友達や家族と楽しく祝うアットホームな雰囲気も、恋人と一緒に過ごすロマンティックなイメージもある。クラシカルな宗教曲から讃美歌、キャロル、ポップスやジャズのスタンダードナンバーまで、幅広いレパートリーを持つVOCES8のコンサートは、それぞれのシーンにぴったりの楽曲が満載ですね。

バーナビー 僕らのマネージャーでもあるKAJIMOTOから、アフター・パーティーの企画を提案されたとき、以前からさまざまなタイプの音楽ファンの皆さんと交流を持ちたいと考えていたので、とても良い機会だと思いました。特に若い世代のリスナーにクラシック音楽の魅力などを伝えることができたら、こんな喜ばしいことはないですね!

――チラシ等で公表されている当日のプログラムを拝見すると、昼間のコンサートには〈アヴェ・マリア〉〈永遠の光〉〈エサイの根より〉など、教会音楽を中心とした楽曲が並んでいます。

バーナビー 後半には〈サンタが街にやってくる〉や〈ジングル・ベル〉のような陽気なナンバーも歌いますよ! 確かに歴史的にも合唱は教会で生まれ発展してきたものですが、今や宗教の枠を超えてポジティヴなメッセージを伝えることができるというのが私たちの考えでもあります。

現音楽監督/カウンターテナー、バーナビー・スミスさん

――アルバム『夕べの祈り~奇蹟のア・カペラ』(2013年録音)にも収録されている、20世紀ドイツの作曲家ビーブルの〈アヴェ・マリア〉はもともと消防士の合唱団のために書かれた楽曲だとか?

バーナビー そうなんです。後に米国の男声アンサンブル、シャンティクリアがこの曲の美しさに惚れ込んでレパートリーに加えてから、広い人気を獲得しました。実はテノールのブレイク・モーガンは元シャンティクリア。彼はVOCES8初のアメリカ人メンバーなのです。私たちは女声を加えた新ヴァージョンで演奏します。

――シャンティクリアが米国の民謡や黒人霊歌を得意としているように、VOCES8も英国の伝統を大切にされていますね。

バーナビー 〈永遠の光〉は英国を代表する作曲家エルガーの《エニグマ変奏曲》から有名な〈ニムロッド〉を編曲したもので、私たちの楽曲の中でもYouTubeの視聴回数が断トツ第1位の人気曲。そのビデオをアップした2016年の11月頃は、米国では大統領選挙が行なわれてトランプ大統領が誕生し、欧州では第一次世界大戦の激しい戦闘から100年目にあたる節目の時期でした。世の中の安寧を求める人々が、この曲に安らぎを見出してくれたのかもしれません。

――日本でも讃美歌96番として知られる〈エサイの根より〉は、ルター派のために多くの作品を書いた中世の作曲家プレトリウスが、古くから伝わるキャロルを編曲したものがオリジナルですね。

バーナビー ドイツでは広く一般的に知られている旋律で、あのJ.S.バッハも自作にこの楽曲のスタイルを取り入れているほどです。続けて演奏する予定の〈きよしこの夜〉と共に、ドイツ的なクリスマスを皆さんにお届けしますよ。

――厳かな雰囲気のクリスマスも素敵ですね。コンサート当日が待ち遠しいです。ちなみにお二人にとって想い出深いクリスマス・ソングといえば?

バーナビー 4歳の頃から歌っているトラディショナルなキャロル〈アウェイ・イン・ア・メインジャー〉ですね。英国の子どもたちは幼稚園などでクリスマス劇をやらされるのが定番ですが、それにはこの曲がつきもの。私も羊飼いの役をやりながら歌いました。

 

アウェイ・イン・ア・メインジャー/The Choir of King’s College

ポール 私はやはり〈きよしこの夜〉かな。第一次世界大戦中のクリスマス休戦で、英国軍の兵士たちとドイツ軍の兵士たちが塹壕から外に出て、お互いにこの曲を歌い合ったという感動的なエピソードも好きです……音楽には国境や言葉の違いを越えて人々の心をひとつにする力があると教えてくれる話だから。

きよしこの夜/ウィーン少年合唱団

――では、いちばん好きなクリスマス・アルバムは? クラシックに限らず、ポップスやジャズ、さまざまなジャンルのアーティストがクリスマスをテーマにした名盤をリリースしています。

バーナビー ロンドン生まれの作曲家/指揮者で、主に合唱の分野で活躍しているジョン・ラターのクリスマス・アルバムが大好きなのですが、マイケル・ブーブレの『Christmas』(※2011年にリリースされて全米アルバムチャートでNo.1を記録、その後も毎年クリスマス・シーズンの度にチャートの上位に入る大ベストセラー・アルバム)も愛聴しています。

ポール まいったな……自分もまったく同じです(笑)、やっぱり兄弟ですね。

クリスマス・アルバム/ジョン・ラター、The Cambridge Singers

 

Christmas/マイケル・ブーブレ

――夜のプログラムはポップス曲のカヴァーやスタンダードナンバーなど、ロマンティックな楽曲が目立ちますね……往年の名曲、サイモン&ガーファンクルの〈サウンド・オブ・サイレンス〉からカーリー・レイ・ジェプセン&ジャンティン・ビーバーのデュエット曲〈ビューティフル〉まで、幅広い時代の。

ポール 〈ビューティフル〉は前回の来日ツアーでも歌いましたが、今回はジャズ・ワルツ風のニュー・アレンジをご披露します。伝統を大切にしつつ、いろんなジャンルに挑戦したい。16~17世紀の聖歌が好きな層にロックやジャズの旋律やハーモニーの美しさを伝えたいし、その逆も。

バーナビー お気に入りの曲をみつけたら、ア・カペラで歌ってみたくなる(笑)。バリトンのジョナサンがトップバッターを務める〈サウンド・オブ・サイレンス〉も(Alexander L’Estrangeによる)アレンジが素晴らしいです。

――〈ザ・ラキエスト〉は日本でも人気を呼んだ英国映画《アバウト・タイム~愛おしい時間について~》(2013年※本国)のサントラにも起用された米国のマルチなロック・アーティスト、ベン・フォールズ作の名バラードです。

ポール リスナーからのリクエストがとても多い楽曲です。ビデオも人気で、撮影の舞台になっている美しい「セント・アン&セント・アグネス教会」はヴォーチェス・カンタービレ音楽財団(VCM)の拠点である「グレシャム・センター」の中心施設。あの教会で子どもたちに歌を教えています。

――〈ロンドン・バイ・ナイト〉はフランク・シナトラの名盤『カム・フライ・ウィズ・ミー』(1958年)収録の有名なご当地ソングですね。

バーナビー こちらも名アレンジ! 米国の4人組ジャズ・コーラス・グループ、シンガーズ・アンリミテット(※1970年代に活躍し、多重録音の技術を用いた美しいア・カペラのコーラスで人気を博した)の伝説的リーダー、ジーン・ピュアリングの手によるもの。彼へのオマージュを込めて歌います。

――この他、とっておきのサプライズ楽曲もあるとか? もちろんアフター・パーティーも凄く楽しみです。

ポール 今回のために特別にアレンジした素敵な曲をご用意しました。ツアー・フィナーレの東京公演に相応しい夢のメドレーです(笑)。そしてパーティーでも参加者の期待を決して裏切りませんよ。とても「英国」らしさに溢れたゴージャスな夜を提供いたします。一緒に最高のクリスマスの想い出を作りましょう!

――VOCES8の皆さんも、日本で素敵なクリスマス・タイムをお過ごし下さい!

バーナビー 実は今回の来日には、初めて僕たちの両親も連れてきたんです。ツアーに同行して京都から沖縄まで各地をずっと一緒に回ります。

ポール 英国と同じように、日本にも豊かな合唱文化があって地域社会に根付いているところが素晴らしいと思う。現在、東京学芸大学と共同プロジェクトを進めていて、合唱の指導者を育成するプログラムを立ち上げたいと思っています。来年以降もまたすぐに戻ってきますよ、きっと。

 

なお、新曲としてツアーでも歌われる〈May it be〉(※映画《ロード・オブ・ザ・リング》の主題歌でオリジナル歌唱はエンヤ)が現在、ストリーミング配信中。

この曲を収録した彼らの最新アルバム『魔法の島』のフィジカル輸入盤は、12月末日本先行発売の予定だ。

公演情報
VOCES8 クリスマス・コンサート

日時 2018年12月23日 (日・祝) 14:00 開演(13:00 開場)
会場 東京オペラシティ コンサートホール
料金 全席自由 3,000円/ジュニアチケット 500円  ※ 4~12歳のお子様が対象となります/ 2公演通し券 全自由席 6,000円  &PARTY 8,000円

プログラム

アヴェ・マリア(ビーブル)
永遠の光 (エルガー)
エッサイの根より (プレトリウス)
聖母讃歌 (ブリテン)
ほか(予定)

 

プレミアム・ライブ&パーティー“ベリーメリーナイト”

日時 2018年12月23日(日・祝) 19 : 00 開演(18 : 00 開場)
会場 東京オペラシティ コンサートホール
料金 全自由席 4,000円/&PARTY 6,000円/U18チケット 2,000円

プログラム
サウンド・オブ・サイレンス(サイモン&ガーファンクル)
Beautiful(カーリー・レイ・ジェプセン&ジャスティン・ビーバー)
この星空の下で(ケイト・ラズビー)
The Luckiest(ベン・フォールズ)
ロンドン・バイ・ナイト(コーツ)

取材・文
東端哲也
取材・文
東端哲也 ライター

1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...

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